ぬくもり(非エロ)
佐橋皆人×草野


春の暖かな日差しが降り注ぐ、出雲荘の縁側。
この季節では最も心地よいに違いない場所で、佐橋皆人と草野は談笑していた。
縁側は草野にとって気の落ち着く、お気に入りの場所である。
此処に座っていれば、気持ちよく昼寝することができるし、何より、此処に居る時だけ、大好きなお兄ちゃんを独占できるから。

「あのね、それでね、くーはね・・・」
「ははっ、そうなんだ。」

皆人がにこりと微笑む。
草野は、彼のこの笑顔が大好きだ。
彼の本当に綺麗な笑顔を見ると、心の底から温かな、優しい気持ちが流れてくるからだ。
けれども、偶に、そんな正の感情とは真逆の、負の感情が生じることもある。
この笑顔は、自分だけに向けられるものではない。そう思うと、言葉ではうまく説明できないけれど、なにかドロドロとしたものが生じてくる。
この両対極の感情は胸でぶつかり合い、対流を起こし、草野を混乱させる。

どうやら今回は、対流が起こったらしい。
草野は、どうしていいか分からなくなった。この感情に対し何と表現していいか、どう行動していいか、彼女の幼さでは全く分かっていない。

「どうしたの?」

急に黙りこくった草野を気にかけ、皆人が声をかける。
彼女の顔を覗き込む彼の顔は、心から心配そうなものだった。

「ううん、なんでもないも。」

さらに激しく対流を起こす心を抑え、草野は答える。

「そう?」

なおも心配そうに見つめる皆人。
草野は一生懸命考えた。この気持ちを抑えるにはどうすればいいか。
ふと、あることを思いついた。もっとお兄ちゃんを独占すれば、この気持ちは収まるんではないか。
きっと、ちょっとした我がままなんて、お兄ちゃんは、笑って許してくれるだろう。

「お兄ちゃん」
「ん?」
「抱っこしてほしいも」
「いいよ。くーちゃんは甘えんぼさんだなあ」

ほら、やっぱり。

決してたくましいとはいえない腕に抱きあげられ、胸に収められる。
日差しなんてくらべものにならないくらいあたたかなお兄ちゃんの体温で、ドロドロとしたものが溶けていくのを感じた。
対流も収まった。優しい正の感情が心を満たしていく。
同時に眠気を感じる。あの心の葛藤は、二桁の年齢に達しているかもあやしいくらいに幼い彼女には、少し疲れるものだった。
徐々に瞼が落ちていく。
草野は只、この幸せなあたたかさが永遠に続くことを望んで、眠りに就いた。

「くーちゃん?・・・寝ちゃったか。」

すーすーと、可愛い寝息が胸から聞こえる。

「ふふっ・・・かわいいなあ」

彼自身をめぐって争いを繰り広げる彼のセキレイの争いは、楽しいものではあるものの、やはり精神的に疲れるものだ。
そんな中、子供らしく彼を慕う草野は、彼にとって、癒しになっていた。(偶に彼女の女の側面が見えるのには目をつぶる皆人だった。)
胸に感じる確かなぬくもり、彼女の本当に幸せそうな寝顔。それらは、彼を本当に和ませた。
また、その和みは、彼に眠気をもたらした。勉強、バイト、セキレイ・・・。それらに体力を削られていた彼が常に疲れているのは、当然のことであろう。
大家さんに怒られるかもな〜と思いながら、皆人は慎重に体を倒す。どう言い訳しようか考えているうちに、意識を手放していた。

――――――――――――――――――――

「ただいまかえりました〜・・・あら?」

縁側のほうで、折り重なって眠っている二人の影が目に入る。
体の大きさで、誰が寝ているのかは大体想像がつく。
注意しなければならないわねと、刀を持って近寄っていく。

「佐橋さん?不純異性・・・」

そこまで言って、やめた。
皆人の気持ちよさそうな寝顔が目に入ったのもあるが、なにより、草野があまりにも幸せそうな寝顔をしてたから。
起こすには忍びない。そう判断したのだ。

「今回だけですからね?ふふっ」

余りに平和なその光景に、私は自分の口角が上がるのを感じた。






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