紅翼○○作戦
壱ノ宮夏朗×紅翼


「夏朗……ッ夏朗……っ」

「紅翼、何して……、あ……」

MBI本社ビルにある部屋。
灰翅が部屋を空けると、そこには自慰行為にふける紅翼の姿があった。スポーツブラにパンツという上下姿で、半裸状態になっている。

「邪魔……した。気まず……。じゃ……」
「ちょっ、ちょっと灰翅!待ちなさいよ!」
「夏朗はガチでホモだし、寂しい……のは……分かる」

部屋を出てこうとした灰翅を呼び止めると、紅翼は同情されてしまった。腹立つやら恥ずかしいやら、状況が状況なだけに、紅翼の顔が真っ赤になっていた。

「夏朗は仕事だし!忙しいだけだしっ!っつかあんた何してんの!?」
「八つ当たり……よくない。夏朗、振り向かせるの……協力する?」
「そりゃ……振り向かせたいけどさ。協力って、どうすんの?」

灰翅は真面目な顔で、極めて無表情なまま口を開いた。

「紅翼、お色気……作戦……」

「お色気ってあんた、ボクのこと馬鹿にしてんの?」
「紅翼の……胸は、知ってる。ぺったん……」

ドカッ!と灰翅の足元に椅子が転がった。
しかし灰翅は表情を崩すことなく、真っ直ぐに紅翼を見ている。

「……大丈夫、夏朗、そんなところ見てない」
「さっきから何か言い方引っかかるんだけど……まぁいいや、それで具体的に何するわけ?」

「紅翼……夏朗、押し倒す」

「は!? 何言ってんのあんた? そ、そぉんなこと出来るわけないし!」

灰翅の横にもう一つ壊れた椅子が転がった。

「夏朗、自分からは絶対来ない…… だから紅翼、がんばる……!」
「ちょ……勝手に話進めないでよ。言ってることは分かるけどさ……ぁ」

モジモジし始めた紅翼。
灰翅はそれを見て、確信するように頷いた。

「夏朗、そろそろ帰ってくる……がんばれ、紅翼……」
「は!? ちょ、聞いてないし!急すぎるし!無理、無理!」

灰翅は、ぐいぐいと無言で紅翼の背中を押し始めた。
心の準備も出来ぬまま、紅翼は夏朗が帰る部屋へと押されていった。

「灰翅っ服!服着てないし!これじゃ恥ずかしいってば!」

「服……脱いでないと、意味ない……」

下着状態の紅翼を部屋から押し出すと、廊下の向こうから夏朗が歩いてくるのが見えた。運が良いのか、そのまま行けば丁度すれ違えるところに紅翼たちはいた。

「あ……ッ!!」

夏朗に気付き、途端に暴れだした紅翼を押さえながら、灰翅は夏朗がこちらに来るのをじっと待っている。

「灰翅……!あんた……後で覚えときなさいよ……!」

手に持った書類を読むのに夢中だったのか、夏朗は目の前まで来て、ようやく紅翼たちの姿に気付いた。

「あれ、紅翼と灰翅。こんな時間に何してるの?」

「夏朗……紅翼が、話……ある……そう」

「言ってない!言ってないよ!灰翅何言ってんの!?」

涼しい顔の夏朗とは対照的に、紅翼は顔が真っ赤でテンションもおかしかった。
灰翅は精一杯の後押しをしたつもりだったが、

「紅翼も、そんなカッコしてると風邪ひくよ? じゃあ、おやすみ……」

それだけ言うと、夏朗はスタスタとその前を通り過ぎていった。
そして、ポカンとした、何とも言えない顔をした紅翼が見送っていた。

「……紅翼お色気作戦、失敗……。ク……クク」

「あんた……今笑ったでしょ。 ボクのこと、やっぱり馬鹿にしてたんだ!?」

「夏朗、紅翼の身体すら見なかった……。乳の魅力……残念」

灰翅は小刻みに震えていた。どうやら笑っているようだ。

「夏朗が……そういうのに興味がないこと知ってたけど、あんた何がしたかったの!? ボクの身体、夏朗に見られて……何にも思われなくてぇ……!」

涙目になりながら、紅翼は拳に力を溜めていく。

「落ち着け、紅翼…… まだ第一段階、失敗……なだけ」

「終わってんじゃん! 最初っからこうなるって分かってたっつの! もう、むかつくから粉☆砕!!」

MBI本社ビルの廊下が爆発した。

「まぁ……次はもう少し、考えとく……かも」
「絶対考えときなさいよ。このままじゃボクの身体、見られただけなんだから」

身体を見られただけ。自分で言ってて紅翼は泣けてきた。
男ならば、いきなり襲い掛かることはなくても、女性の身体を見たらもう少し反応があるんじゃないかと思っていた。

紅翼は他に男を知らないため、夏朗の性癖をどうやって直せばいいのか分からなかった。
灰翅はというと、特に関心がないのか、紅翼を見ている方が面白いのか、ニヤニヤした顔で紅翼を眺めている。

「第二段階……楽しみに……してるといい」

「ふん……」

やっと落ち着いた、紅翼。灰翅は子を見守る親のような目で、やはりニヤニヤと笑っていた。






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