番外編
![]() 二月上旬。まだ春と言うには早く寒空の下には鉛色の雲が広がり、まだ冬だという事を物語っていた。 その空の下を一人歩く青年、佐橋皆人。彼は六人ものセキレイを羽化させた葦牙であった。ついでに二浪でもあった。 「寒…ていうか大分待ったな、もういいかな…でも早すぎても怒るか…」 彼が今わざわざ寒空の下をほっつき歩いている理由。それは昨日の夕食での席の事だった。 「あ、そうそうみなたん、みなたんは明日出雲荘への出入りは夕方まで禁止です」 「え、何で?何かあったっけ…ていうか出入り禁止って何!?」 「皆人さーん?空気を読んで下さいね?女の子の気持ちも解らないようじゃ葦牙失格ですよ」 「すみません皆人さんっ、という事なので明日一日は我慢してください!」 「そうじゃ!首を長くして楽しみにまっ…ふごっ、は、はひほふふはへはな! 「危ない危ない、ネタばらしは禁止よ?パンツ丸見えちゃーん」 「ふごーー!!」 「ばいばい、おにーちゃん♪」 くーちゃんにまで追い出される俺って…結ちゃんも月海も結局理由教えてくれなかったし…俺は溜め息をついた。もしかして俺、いらない子って奴だったり… ピーンポーンパーポー…5時に…なりました…お外で遊んでる…… そこで夕焼けチャイムらしきものがなった。何とか暇潰ししていたが、やっと出雲荘に帰れる。疲労感と安心感に身を任せ、俺は足早に出雲荘へと足取りを進めた。 「やっとついた…全く、結ちゃん達一体何をしてたんだろう…ハァ。ただいまー!帰りましたよー!あれー?皆さー…うわっ!? いきなり俺は後ろから誰かに目を隠された。 「うわっ…!?だ、誰だ…!?」 「しーっ!みなたん、ちょっと落ち着くですよー!松です!松ですから!」 「うわっ松さんかよ!ちょ、なんですかいきなり!只でさえ今日は家追い出されたり…一体なんなんですか!?何かの記念日でしたっけ…それにしては記憶がない…」 「ふぅ〜。全くみなたん、どこまでも鈍い葦牙様…だがそれがいいッ!」 「松さーん?あの、そろそろ手を」 「駄目ですよみなたん。ちょっとついてきてくれますか?あぁ、このままこのまま」 「なんなんですかもう…でもなんかもう慣れてきた…」 「はいっどーぞ!目、開けて良いですよー」 松さんに言われて、俺は目を開けた。すると、そこにはー… 「む…結ちゃん、それに月海も…どうしたの、このチョコフォンデュやらケーキやら豪華なチョコの数々は…あ!」 「やっと気付いたですか〜みなたん鈍感にも程があるです」 「うむ。全くじゃな。皆人!吾等が皆人の為に真心込めて作ったのじゃ、心して味わうがいい!」 「結も作りましたー!」 「くーもくーも!おにーちゃんに喜んで貰いたくて、頑張って作ったも!」 「くーちゃんは頑張ったんですよ〜?他の皆さんもとても張り切って作ってらっしゃって。幸せ者ですね、佐橋さんは」 「私だって頑張ったのよー?」 「あんたはウイスキーボンボンしか作ってなかったじゃないですか…」 「違うわよ、専門分野、専門分野!」 すっかり忘れていた。結達が来てからの日々の忙しさに目が回りそうで、日付感覚さえ鈍りそうな毎日だった。バレンタインさえ忘れてしまうなんて、確かに自分はなんて鈍いのだろうか。 「皆人さん」 結の一言で我に帰った。 「私たち、皆人さんの事が大好きです。だから、これからもずっと、幾久しく願います!」 「結ちゃ…」 「あーいいないいなー結たんだけっ!松もみなたんのこと、おした…お慕いしてるですよ!」 「吾もじゃ…皆人、あっ…あ、あい…愛して…ぉ「くーもおにーちゃんのお嫁さんになるも! 「く…草野ぉ…!」 「まーまーまー皆とにかく食べましょ!皆お腹空いてるでしょ!ほら!宮、お皿用意しましょお皿!」 「そう言われると思って、夕食もちゃんと並べてありますよ」 「じゃあ皆、頂きましょうかー」 「うぅむ…今一納得いかないが…まぁ、せっかくのチョコが冷めない内に早く頂くとするか!」 「皆人さんのお隣は私ですっ!」 「くーだもっ!」 「今日こそ私が貰うわよー?」 「正妻は吾ぞ!夫の隣は正妻の場所じゃ!」 「くふふふ…みなたんモテモテですねぇ」 こうして…出雲荘では、葦牙とセキレイの賑やかな一時が過ぎていくのであった…。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |