ツキモノオトシ
瀬文焚流×当麻紗綾


「あんたはんのお名前、瀬文さんどしたなあ?」

当麻紗綾の口から不自然な京言葉が出てきたのは、林実を逮捕して未詳部屋に戻った時だった。

「なんだ気持ち悪い」

またいつもの悪ふざけなのだろうか。事件解決の直後だけになんとも不謹慎甚だしい。
一発殴っておいた方がいいだろうかと考えていると、当麻は大げさによろけた。

「嫌やわあ。気持ちが悪いなんて傷つくわあ」

シナを作る当麻を見て、瀬文焚流はようやく気が付いた。

「……お前、当麻じゃないな」
「気が付いてもらえて嬉しいわあ。林実どすえー」

にっこり笑って当麻が言う。
瀬文はため息をついた。先ほど当麻が何処かへ行っていたが林の所だったのか。
あのトンマは油断して隙を見せ、林に憑依されたに違いない。
どうせ本体もこの近くに拘束されているだろう。
拳銃を取り出し、さっさと部屋を出て行こうとゴンドラを呼んだところで、

「ちょちょちょちょ、瀬文さん瀬文さん!」

背後から物凄く焦った声が聞こえた。

「本体もう一発撃ってやるからな。さっきのとこに寸分たがわず撃ちこんでやる」

嫌味を込めてそう振り返る。

……当麻が、咽喉に割り箸の先端を当てていた。
目を見開いた瀬文に当麻は小首を傾げてにっこり笑う。

「やっとこっち向いてくれたわあ。瀬文さんせっかちどす」

「てめえ―――」
「おっと、拳銃はなしですえ。まあ当麻さん撃っても傷つくのは当麻さんの身体さかい。
うちは自分の身体に戻ってしまえば痛くもかゆくもおましまへん」

瀬文は舌打ちして銃口を下げた。
林の言う通り、本体を攻撃しない限り当麻の身体を傷つけても意味は無い。
それを見た当麻はへらりと笑って、割り箸の先を咽喉にめり込ませた。

「止めろ」
「瀬文さん刑事やからまあ知ってると思いますけどなあ、
こんなもんでも人は死にまっせ。ほうらこの細っこい首に思いっきり突き立てるだけで」
「それを、下せ」
「瀬文さんどうしましたのん?さっきより余裕ないんと違います?
そんなに当麻さんが大切なんでっしゃろか?」
「そんなんじゃない。割り箸下げろ」
「するとなんですの?もしかして同僚の方が死ぬのが怖いんですのん?」
「……黙れ」

瀬文が呻いた瞬間、当麻の形をした林がはじけたように笑った。

「面白いわあ。瀬文さん鉄面皮なのに感情ダダ漏れですやん」
「さっさと当麻から離れろ」

唇をかみしめて一歩近づくと当麻が小さい手を翳した。

「それ以上来たら刺しますて。……そう、そこにおっておくれやす。
瀬文さんなんでそんなにせっかちですの?一生憑依するなんてゆうてないですのに。
話を聞いてくれたらさっさと出ていこ思うてますのに、
聞く気すらもってくれへんから、嫌々強硬手段に出てますんどす」

そういうことか。瀬文はため息をついた。逮捕された身は不自由が多い。大方目こぼしの要求だろう。

「要求は何だ」

受け入れる予定は全くなかったがとりあえず問うてみる。交渉の基本である。これで解決の糸口を探るのだ。
瀬文の態度が少し軟化したせいか、当麻は満面の笑みを作る。

「瀬文さん、抱いておくれやす」
「は?」

瀬文焚流史上、最大級に間抜けな声が出た。

「ふざけんな」
「ふざけてませんて。うち、憑依出来るようになってからそりゃもう色々楽しいことしましてなあ。
女の子に入って女子トイレ堂々と入ってみたり女子風呂入ってみたりもしましてん。
けど、ソレだけはしそびれましてなあ。ほら、男より女の方が気持ちええとか言いまっしゃろ?
いつかは試してみたい思うてましたけど、ほら囚われの身ぃになってしもうたさかい。
残念やわーっと思うてたとこに当麻さんが来はってな」
「―――とりあえず殴る。当麻の身体とかもう知るか」

瀬文がすたすたと近づくと当麻は慌てて後ずさりした。

「ま、待ってて。ちょ、ちょ瀬文さん、ほら刺しますよ?この細っこい咽喉に穴あきますよ?
止まらないとほら。……も、もしかしてうちが割り箸突き刺すより早く止められる自信がありますの?」
「警察舐めんな」
「ももももしかして瀬文さん格闘のプロですの?嫌やわー」

当麻が大仰に嘆いている間に瀬文は目の前に立つ。割り箸をもぎ取ってへし折ると投げ捨て、胸倉を掴んだ。
とりあえず一発殴っておけば当麻の身体は気絶するだろう。そうすれば林は離れるはずだ。

「次に誰かに憑依する時にはその変な京言葉止めるんだな。人の神経逆撫でしやがって」

殴る前に一言言ってやる。そもそも林実は関西弁ではなかったはずだ。

「この方が瀬文さんその気になってくれはると思うて頑張ってるのに悲しいわあ。
―――じゃあ瀬文さんに憑依する時には京言葉止めときましょ」

にたりと。
当麻が歪んだ笑みを浮かべた。

「ああ?」
「鍛えてはるみたいやから、瀬文さんの身体なら当麻さんの首くらい簡単にへし折れますやろ?
瀬文さんが言うことを聞いてくれへんから絞め殺されるなんて当麻さん可哀想やわ。
同僚に殺されるってどんな気分なんですやろ?辛いんやないやろか。悲しいんやないやろか。
―――瀬文さんどう思います?」

自分の呼吸が荒くなっているのも、それに相手が気が付いているのも瀬文には分かった。

「……お前の本体はここにはない。俺には憑依出来ないはずだ」
「確かに憑依は制限がありますわ。万能じゃあおまへん。
けど、何処までが可能で何処からが不可能か瀬文さんに分かりますのん?なんなら試してみます?
瀬文さんが我に返った時には首の折れた当麻さんが転がってますけど?」

(こいつは―――)

これは、復讐だ。
林の、完璧なはずのトリックを見抜いた当麻と。
林の、完璧なはずの能力の弱点を見抜いた瀬文と。
林は頭脳と能力の両面のプライドを打ち砕かれたのだ。天才を自負する林にそれはどれだけの屈辱だったろう。
だからきっと、当麻と瀬文にも屈辱を味あわせようと思ったのだ。
ならばこいつは目的を果たすまで絶対に当麻から離れない。
瀬文に憑依して当麻を殺すというのも本気だろう。もしかしたらそちらの方が望みかもしれない。
当麻の細首をあの教授のように楽しみながら絞めるつもりなのだ。

……瀬文の、この手で。

「瀬文さんええ表情してはるわー。うちそういう顔が見たかったんやわ」

当麻は嬉しそうに瀬文の顔を覗き込む。瀬文は一瞬瞠目すると当麻の顔を睨みつけた。

「後で、絶対本体見つけて頭蓋骨を変形させてやる」

言うなり、掴んだままだった当麻の胸倉を引き寄せた。
一瞬よろけた身体を抱きとめると唇を合わせ、そのまま床に傾れ込む。
思ったより華奢だな、というどうでもいいことが頭をよぎった。

「ようやっとその気になってくれて嬉しいわあ。それより床でええんですの?」
「黙れ。さっさと終わらせる」
「んもう、いけずやわあ。女ゴコロ分かってないわあ」
「うるさい林」

うだうだ言っているのを無視して当麻の首筋に唇を落とす。意外と白い。
と、急に当麻がくすくすと笑い始め瀬文は顔を上げた。

「しかしこんな時でもちゅーから始めるなんて瀬文さん律儀すぎですわー。
するコトだけしてまえばええのに、生真面目にもほどがあるわあ」
「……それ以上何か言ったら鼻の骨を折る」
「怖いわー女の子の顔の骨折るとか鬼やわー可哀想に当麻さんお嫁に行けんようになるわ」
「当麻を貰うような奴は元から変人だからそんなことは気にしない」

勝手に決め付けるなんて鬼だ悪魔だと煩いので目の前で拳を作って見せた。

「わ、分かりましたて。もう言いませんて。ほんまに怖いわー。……ところで」

大仰に怖がって見せていた当麻がころりと表情を変える。

「さっきから手ぇが全く進んでないですけど、もしかして今だに躊躇ってます?
瀬文さん愛する女としかしたくないとかいう主義ですの?
せめて合意の上でないと嫌だとか?それとも当麻さんが可哀想とか思うてますの?
一体どれでっしゃろ」
「勝手に考えろ」
「……まさか、まだ当麻さんの身体気を失わせよとか思うてます?
うちが瀬文さん乗っ取るのとどっちが早いか比べてみましょか?
うちが勝ったら当麻さんの首が折られるいうのに瀬文さん勇気あるわ流石やわあ」

当麻のくりくりした目が瀬文の顔を覗き込む。

「あ、そやそや、当麻さんがコト切れる瞬間に瀬文さんに身体返してあげましょ。
瀬文さんもその眼で当麻さんが死ぬの見たいんちゃいますぅ?」

そもそも林の能力の限界が把握できない以上、瀬文への憑依が有りえないとは言い切れない。
もしそれが可能だった場合、確実に林は宣言を実行するだろう。
一人目の殺人よりも二人目の方が躊躇いは少ないものなのだ。
そしてそのリスクを冒してまで事実を確かめる勇気は、特に今の瀬文には、ない。
瀬文の完敗だった。
完全に心拍数と呼吸数が増加しているのを、つまりは瀬文の弱点を悟られていた。

「全臓器を内臓破裂にしてやるから覚えてろ本体」

瀬文は吐き捨てると当麻のシャツの裾から左手を入れた。
またなんだかんだと言いかけて煩かったので唇を合わせて口を塞いでおく。
左手に肌の滑らかさが伝わってきたがあまり考えないことにした。

どのくらい時間が経っただろう。
口を開いて何か言いそうになるたびに唇で塞いで黙らせる、を繰り返したからか当麻は今は大人しい。
静かだった。
衣擦れと。
呼吸音と。
僅かな、水音。
ただそれだけが未詳部屋に響いている。

「ん……」

ふと、大人しかったはずの当麻の口から声が漏れた。また黙らせようかと瀬文は顔を近づける。

「ん、んん……あ、や―――んッ」

それは明らかに艶っぽい声だった。
手を止め愕然と固まった瀬文に当麻がにっこりと笑う。

「どうですどうです?当麻さん本人やと思いました?ビビりました?結構ええでしょ?
瀬文さん凄く丁寧やから当麻さんもええ感じになって来たるし、ちょっとサービスをぐえ」

とりあえず右手のチョップを脳天へかましておいた。

「今度そういうことをしたら本体の骨を全部粉にしてやる。それとその口調いい加減やめろ」
「痛いわあ、コブ出来たわ。ほんのサービスやないの。
この京言葉かて瀬文さんが盛り上がるようにと思うてたのに酷いわー。
瀬文さんかて相手が男や思うより京女やと思った方が燃えるん違います?」
「うだうだ言うなら今度はデコにチョップする」
「ちょ、なんですの?瀬文さんチョップなら女の子の顔にしてええと思うてますの?ホント鬼やわ。
それより瀬文さん、当麻さんがこんなにええ感じやのに瀬文さんがまだなんは何でですの?
当麻さんがそんなに対象外ですのん?それとももしかしてわざと抑えてます?
なんならお手伝いしましょか?当麻さん左手怪我みたいやけど右手使えるし」

瀬文は少し目をそらす。
そこを超えてしまったら終わりの様な気がして、自分で押さえつけているのは確かだ。

「触んな」

当麻の右手が下半身に伸びてきたので押さえつける。

「そうでっかー?そんならお望み通り口調を変えましょか?
『瀬文さん、遠慮しなくて良いですよ?あたし、結構上手いんじゃないかと思うんすよね。
手と口、どっちが好きっすか?あたしは別にどっちでも―――』」

がつッと。

拳法師範代レベルの本気の正拳突きが当麻の顔の真横五センチの床に直撃した。

ひッと小さく当麻が悲鳴を上げる。
手の皮が破れたがそんなことはどうでも良かった。

「今度当麻の口調にしたら顔面に当てる」
「そ―――そこまで本気で怒らんでもええやないの。キレるポイントわからんわ。
当麻さんよく見たら実は綺麗な顔してはるし、こんな綺麗な子にしてもらえる機会なんてありまへんよ?
どうせ当麻さん覚えてないんやから使えるもんは使えばええのに」
「さっさと黙れ」

やはり自由に喋らせるとロクなことを言わない。黙らせるために再び唇を押し付けることにした。
味噌味の餃子もそんなに悪くは無いな―――と馬鹿げたことを思った瞬間、瀬文の中で何かが弾けた。

再び部屋が静かになる。
違いと言えばそれぞれの微かな音がその速度を増していることくらいか。
いつの間にやら当麻の白かったはずの肌が上気している。
当麻は目を閉じている。頬の桜色が綺麗だと思った瞬間、瀬文は限界を自覚した。
あとはすることは一つしかない。
当麻の身体に突き入れなければ林は許さず終わりは来ないだろう。
瀬文は腹を括る。荒い息を整えながら自らの体勢を整え、当麻の片足を持ち上げた。

「…………あれ?瀬文さん?なにやってんすか?」

急に当麻が目を開け、不思議そうにぱちくりさせた。

―――これは当麻紗綾本人だ、と確信するのと、
とっさにその鳩尾に掌底を叩きこむのと、
うげ、と変な声を出して当麻が気絶するのと、ほぼ同時の出来事だった。

「あ、危ねえ……」

つまりこれこそが林の復讐だったのだ。
瀬文をどうしようもないところまで追い込んで、その直前に当麻に身体を返す。
そうすれば状況のさっぱり掴めていない当麻を、瀬文が自分の意志で凌辱したことになる。
瀬文の自尊心は粉微塵だろうし、一応は女性である当麻へのダメージは計り知れない。
きっと林は今頃自分の体で大笑いをしているはずだ。
しかし林の誤算は瀬文の自制心が林の想像を超えていたと言うことだろう。

(お前と一緒にすんな)

特殊部隊において自制心は最も重要なものの一つと言える。
どんな状況下でも自分を抑えることが出来ずに隊長などが務まるわけがない。

……それでも。
ほんの一瞬、あと僅か気が付くのが遅れたら多分止まらなかっただろう事も確かだろうと思った。

瀬文は完全に伸びている当麻に目をやる。
多分しばらくは目を覚まさないだろうし、
また林の所へ行くこともないだろうから放置して帰っても問題は無いだろう。
起きた時に不信を抱かぬように着衣を整え、うつ伏せに転がして、
机に置いたままだった割り箸を握らせて目の前にずんだもちのパックを置いてみる。
これで、ずんだもちを食べながら寝てしまったように見え…………ないような気もするが、
よくわからないところのある当麻なら大丈夫な気もするのでそのまま放置することにする。
完全に臨戦態勢の整ってしまった自分自身をどうするかという現実的な問題があったが、
とりあえず一旦棚上げにして帰ることにした。情けないことに少しよろよろした。

翌朝。

「おはよーございやす」

寝ぼけた声で当麻が出勤してきた。

「おはよう当麻君、そこの床がへこんでる理由知らない?昨日までは無かったんだけど。
……あれ、お腹押さえてどうしたの?」

野々村が心配そうに言う。当麻は鳩尾に手をやっていた。

「いや、昨日ずんだもち食べててここで寝ちゃったんすけど……
寝ている間にお腹ぶつけたみたいで。頭もぶつけたらしくて痛いんですよね」

当麻は顔をしかめて頭のてっぺんをさする。瀬文はやり取りを無視してパソコンを見ていた。

「そりゃあ大変だ。当麻君刑事なんだから怪我には気をつけないとね」
「ふあい。……あれ、瀬文さんその手どうしたんですか?」

当麻は瀬文の右手を見ていた。昨日何箇所か擦り剥いたところには絆創膏を貼ってある。
相変わらず妙なとこで鋭いと思いながら右手を当麻の視界から隠した。
そんな瀬文を見て、当麻はにまっと笑う。

「ははあん。知られたくないというと―――女に冷たくされて壁殴ったとかそんなとこでしょー」

当麻の机の上に大事そうにおいてあったわらびもちパックを全力で部屋の隅に投げ飛ばしておいた。

「ひどッ食べ物を粗末にすると禿げますよ!?」

悲鳴を上げてわらびもちに駆け寄る当麻を無視して瀬文はコーヒーを啜った。
パックが引っくり返っただけで中身は出ていないので別に粗末にはしていないというのが瀬文の見解である。

「あ、そうだ」

ぶつぶつ文句を言っていた当麻は何を思い出したのか急に瀬文に顔を向ける。

「昨日瀬文さんとやってる夢を見ました」

瀬文は啜ったコーヒーをそのまま目の前のディスプレイ画面に吹き出した。

「ちょっと当麻君、若い女の子がそんなことを」

野々村が動揺した声を出す。そりゃそうだ。

「そんなに喜ばないで下さいよ瀬文さん」
「喜んでねえ。…………変な夢を見るな」
「そう!そうなんすよ、変なんすよ!」

適当に話を流したつもりが異様な食いつきを見せた当麻は、わざわざ机を廻り込んで瀬文の近くへ来た。

「確かに変なんですよね。まあ最初と最後は覚えてなくて途中のちょっとしか記憶にないんですけど。
どこが変なのか聞きたい?ねえねえ」

当麻はずい、と身を乗り出して瀬文の顔の覗き込む。
ふわりと漂う餃子の香りに、それを昨日何度も味わったことを思い出して瀬文はつと目を逸らした。

「寄るな、餃子臭せえ」

当麻は膨れた顔をして少し離れ、それでも目を輝かせて推理を披露する。

「大体、前提からおかしいと思うんすよ。まあ瀬文さんとやってるのはともかくとして」

そこはいいのかよ。
危うくツッコミを入れそうになったが瀬文は自重した。
この変な女にいちいちツッコミを入れていたらキリがない。

「やってるってことは切っ掛けがあったってことですよね?
恋人同士だったらなんとなくお互いにそういう雰囲気になることも有ると思うんですけど、
あたしと瀬文さんは違うわけじゃないっすか。
それなのにやってるんだからどっちかが誘ったんだと思うんすよ。
でも、あたしからだとは考えにくいんですよねー。
百歩譲ってこの間の華道家みたいな良い匂いの良い男ならあり得るかもしれませんけど、
瀬文さんそういうタイプじゃないし。だからあたしからとは思えないんですよね。
というわけで、瀬文さんからじゃないかと思うんすけど。
……その辺どうっすか?」
「どうっすか?じゃねえッ」

手首のスナップを利かせて投擲したティッシュボックスは狙い通り額のど真ん中にヒットした。
瀬文焚流は変な悲鳴を上げて抗議してくる当麻紗綾を完全に無視して、
濡らしてしまったディスプレイ画面を拭き取る作業に没頭することにした。


林実死亡の一報が入るのは、その日の午後のことである。






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