そういう女
瀬文焚流×当麻紗綾


赤いアルファロメオの回収を終え、自分たちの車に乗り込み現場を後にした。

「このあとどうするんだ」
「そうっすねー、とりあえず明るくなってからにします。動くのは」
「そうだな…本当にいるかは分からんが、目星はついた」

瀬文の運転する助手席で、当麻はぼんやりと流れる景色を見ていた。
手の中には冷泉の書いたメモがある。同じように瀬文のポケットにも。お互いしりたかった者の居場所を手にすることができた充実感と不安…

日が昇ればきっと明日はお互いに修羅場に赴くことになる。

事件解決のためにフル稼働した脳が重かった。ハンドルを握る瀬文からも先程の緊張感は消え、疲労の色が見られた。

「サトリじゃないけど、眠くなっちゃったっす」
「たしかに」
「どっかで休んでいきません?」
「そうだな…」

ふと目に留まるネオン群が空室を示している。

「あ、あそこでいいっすよ」
「ばか、あれはラブホテルだぞ」
「べつにいいじゃないすかー、休むだけだし」
「まだ勤務中みたいなもんだろうが、この車でそんな所に入れるか」
「あー!もう面倒くさいこと言わないで入って下さいよ!!眠いんすよっ!」
「そんなに眠いんならここで寝ろ!」
「やだぁ!ベッドで寝たいー、羽枕ーぁ、お布団ー」
「あー!うるせぇ!」

足をばたつかせて騒ぐ当麻に面倒になり、瀬文はハンドルをきった。

部屋に入ると安っぽい壁紙に染み込んだタバコの匂いが鼻をつく。
間接照明が多く嫌に暗い。
広い部屋なのに大きなベッドのせいでやけに狭く感じた。
まさしくラブホテルという風情。

「わーい!お布団〜」

走り出した当麻が勢いよくジャンプしてベッドにダイブする。
ボフッと沈み込むとそのままゴロゴロとし出した。

「止めろ、ガキか」
「ラブホテルってこんなんなってんですねぇ」
「は?」
「あたしぃ初めてなんすよぉ〜」
「俺だってこんな所は初めてだよ」
「マジすか?わー、何かオトナの社会科見学って感じっじゃないすか〜、高まるぅ☆」

「勝手に高まってろ、俺は風呂に入る」

スーツを脱ぎハンガーに掛けていると、当麻が照明パネルをいじりだしたので部屋が明るくなったり暗くなったりした。

「へぇ、ここで操作できるんだー…おもしろっ」

ピコピコと遊ぶ当麻を尻目に風呂に向かった。

部屋同様にだだっ広く異様にでかい浴槽とよく分からないものがあちこちに置いてある。
考えるのも面倒だ…今は早くサッパリして休みたかった。
風呂に湯を張りながら体を洗う。頭の中で先程までの情景が駆け巡り、勢いよく頭を洗った。

『冷泉はうまく逃げることができたんだろうか…』

ふと手が止まる。
SPECを持った者の運命、末路…

「ちくしょう…」

そんなことは考えていられない、今は志村を治す奴を探し出すことが先決だ。
体を流し湯を止めるとそのまま脱衣所に出た。

浴衣を羽織り部屋に戻ると、ベッドに寝ころんだままの当麻が真顔でテレビを見ていた。
大音量でAVを。

「クソ女、音量下げろ」
「あ、早いっすね」
「風呂溜めといたから入れ、俺は浸かってねぇから。寝る」
「寝ちゃうんすか!ゲームしません?プレステ借りれますよ?」

当麻の周りにはラミレートされたホテルのパンフレットが散らかっていた。

「しねぇよ、つうか寝ねえのかよ。てめえが寝たいっつったから入ったんだろうが」
「なんかココ面白いから目覚めちゃった☆」

いらっとしたが、風呂上がりの脱力感と若干の眠気に怒る気も失せため息をついた。

当麻がベッドを占領しているのであきらめてソファーに腰をかける。横になれるくらいの大きさはありそうだか、起きたら確実に体が痛くなりそうだと思った。

「てか、あたし手こんなじゃないすかぁ、風呂入れないんすよね」

ギプスを巻いた左手でボフボフと布団を叩きながら当麻が声をかけてくる。

「瀬文さん、頭洗うの手伝って下さいよ」
「丁重にお断りする、ていうか俺は寝る。あとは勝手にしろ」

肘掛けに頭を乗せながら横になる。思っていたより狭い…そして眠い。

「あと、テレビ消せ!」

苛立ちを背中を向けぶつけた。

「なーんだ、つまんないの」

テレビを消すと当麻はドタドタと足音をたて風呂に向かった。

浴室ではシャワーの音と共にまたテレビのついている音がした。
やたら乾燥する室内と寝心地の悪いソファーに苦戦しながらうつらうつらしていると、ようやく眠りに落ちることができた。

『瀬文さん』

夢うつつに名前を呼ばれた気がして目を閉じたまま寝返りをうった。
まだすぐにでも眠りに落ちることができる状態で、目を開けるのは悔しい。
どうせ当麻のくだらないお喋りだろう…付き合ってられるか。
フウッと大きく一息ついてまた眠りに落ちようとした瞬間、下腹部に違和感を覚えて目を開いた。

首をもち上げて見ると目を疑う光景が飛び込んできた。

「なにしてんだてめえ…」

浴衣の前がはだけはみ出した瀬文のモノを、当麻がくわえていた。

「あ、起きた」
「起きた、じゃねえよ変態」
「だってー、上がってきたら瀬文さんが準備万端で待ってたんじゃないですか」

口から出して唾液にまみれたモノを握りながら当麻がいつもの無表情で答える。

うかつだった。
下着も履かずに浴衣を着たまま前がはだけていたのだろう。男の生理現象だからしかたない…それにしたってこの女は。

「いいから手ぇ離せ」
「嫌です、こんな中途半端な状態でやめられるわけないじゃないですか。それに…あたしだってさっき見たAVのせいでスイッチ入っちゃいましたもん」

濡れ髪に同じ浴衣姿の当麻がにやりとする。
風呂上がりだからだろう、いつものニンニク臭の代わりに柔らかい石鹸の香りがした。

「ま、事故だと思って諦めなっせ」
「そういう問題かよ」

にっこり笑うと改めてモノを口に含みくちゅくちゅと音をたてて吸い上げる。

「…っ」

なんなんだこいつは…やけに慣れてやがるじゃねえか。

「…なんかムカつく」
「ふぇ?」

大きな手が濡れ髪を掴む。

「!?」

そのまま当麻の頭を上下させた。

「ンフッ!ンーーーッ!!」

一気に血が昇り感度が増す。と同時にさっきまでの寝ぼけた状態から目が覚めてくる。
髪を離すと当麻は苦しそうにむせながら口を拭った。

「瀬文さん、そういう趣味すか?」
「お前がその気ならやられっぱなしはしょうに合わないんでね」

そう言いながらソファーから起き上がり当麻の右腕を掴んだ。

「ちょっ痛!」

勢いをつけて当麻をベッドへ放り投げた。

「――やっ!」

スプリングで跳ね返るほど叩きつけられ怯んだ当麻に、浴衣を脱ぎ捨てた瀬文が覆い被さる。

「…野獣っぽい、さすが筋肉バカ」
「変態に言われたくないね」

当麻の両腕を掴み頭の上で固定させる。浴衣の帯を引き抜くと暗目にも白い肌があらわになった。
下着はつけていなかった。もじもじと脚を閉じて隠そうとするが、細い脚はいくら合わせても見られたくない場所を隠しきれなかった。
さっき刺激されたせいか嫌に息が上がった。こいつを見て興奮していると思いたくなかった。

「いつまで見てるんすか…早くしてください」

強がっているが形勢は明らかに瀬文にある。それを分かっていて挑発しているのか…

「それとも怖じ気付いたんすか」

握りしめた腕に力を込める。

「痛っ…」

顔を近づけると石鹸の匂いが強くなった。耳元で呟く。


「優しくなんかしねえからな」

瀬文の唇が吸い付いた跡を次々と当麻の体に残していく。
吸われる度に痛みを伴って当麻が苦痛の声を上げる。

「っ…痛っい…」

唇とは裏腹に右手はしなやかに体をなぞった。痛みと快感…両極端な感覚に頭がおかしくなりそうだ。
腕を掴んでいた力が緩み両腕が自由になると、ごつごつした手は今度は胸の膨らみを捉えた。

「あ…ぃた」

大して大きくもないがそんなに強く掴まれれば痛い。
力任せにやっているのかは分からないがどれだけ筋肉バカなんだろう。
舌をうねらせ乳首を愛撫される。また快感と苦痛…どちらかに集中したいのに、どっちつかずの感覚に翻弄される。
苦悶の表情をした当麻を瀬文の舌がさらに攻め立てた。

「ん…ぁ」

快感が増し声色が変わった所で瀬文が離れる。

「…?」
「脚開け」

そういうと太股を分け入るようにその部分に瀬文の顔が近づいた。

「や…」
「やじゃねえだろ」

瀬文の吐息がかかる。

「もうしっかり濡らしてんじゃねえかよ」

そう言って指をあてがってくる。次に来るだろう感覚に当麻は身構えた。
抵抗なく、瀬文の指が入ってくるのを感じた。

「ん…っ」

思わず口を押さえた。多分、声を抑える自信はない。

さっきまでの感覚とは全く違う快感がこみ上げる。
瀬文がのぞき込むように顔を見てくる。

「なにみてんすか」
「お前も、一応女なんだと思ってな」
「なにそれ、失礼な」
「ここだろ?」

瀬文の指がぐるりと回転し内壁を押しあげた。

「あっ」

当麻の声が一気に甘くなる。
グッグッと指の腹で刺激する度に声を上げて腰を仰け反らせる。

「ぁあっ、あ、こん…なのっ」

感じたことのない快感に抑制できない声が口から溢れた。
動きに合わせて卑猥な音をたてる瀬文の手。

―――この男に。

「ぁあああっ!!」

痙攣しながら達した。ぬるりと瀬文の手が放れていく。
心臓が耳で鳴っているように鼓動が大きく聞こえた。
甘い渦が体の中心で熱を放っている。

「当麻、潮吹いたぞ」
「っ…嘘?」
「嘘言ってどうすんだ、入れるぞ」

間髪入れずに太股を掴まれると入り口にあてがわれた。

「え、ちょっ…まだ」
「優しくはしねえと言ったはずだ」

まだ疼くそこに今度は瀬文自身が入ってくる。

「…あっ」

さっき戯れで口に含んだ時とは比べものにならないくらいに硬く大きくなっていた。
瀬文も、熱く充血した当麻の粘膜を感じていた。指でほぐした分潤んですんなりと受け入れる。

「んっ…瀬文さん、の」
「あ?」
「…入ってる」

完璧に女の顔になった当麻が腕のしたで笑った。

「あたしたち…セックスしてるんだ」
「ばぁか」

一瞬自分の中に湧き上がった感情を振り払うように、当麻に強く突き入れた。

「あ!あぁっ」

達して間もない当麻はまたすぐに体を硬くして駆け上がろうとする。

「まだだ…」

わざと良い部分を避けるように動きを変えると、当麻は苦しそうな甘い声を上げてシーツを握りしめた。
ギプスの手が胸の上に置かれ、何がしたいのかうろうろとしている。

「痛いのか?」

当麻は首を振った。

「なんだよ」

さらに激しく首を振る。顔は、髪に覆われて見えなかった。

「…何でも、ないから…早くっ」

髪で隠れた口元を抑える。
それに答えるように瀬文は腰を振った。

「んっあっ、あ…っ!あん」

乞うていた快感を与えられ悲鳴に近い声で当麻が喘ぐ。
スピードを上げて瀬文も快感に溺れていった。

「ああ…っだめ、また…またいっ」

当麻の腕が瀬文の腕にすがりついてくる。

「と…ぅまっ」

二人で同じリズムを刻みながら高まっていく。

同じ所へ―――

「ぐっ!」
「あああっ!」

頭が真っ白になる程の快感の後、大きく肩で息をしながら瀬文は当麻の隣に重い体を横たえた。

体を起こして時計を確認すると4時を回っていた。
もうそろそろ空が白んでくる頃だろう。

当麻はもう心地よい寝息をたてていた。

すべてをひっくるめて、いろいろなことがあったな、なんて思い返してみる。
志村のことやSPECや、未詳のこと…そして、今スーツのポケットには冷泉のメモが入ってる。
自分に架せられた指名を改めて実感する。
今日も長く厳しい1日になりそうだ…目を閉じて目覚めた時にはまた辛い現実が待っている―――

大きく息をついてまた横になる。

未詳に来て出会った変な女が横に寝ていた。



そういえば…

当麻に顔を寄せると、唇を重ねた。


「…ニンニク臭っ」


そうだ。
こいつはそういう女だったと思い出し、キスしたことだけは後悔しようと思った。






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