成り行き
瀬文焚流×当麻紗綾


瀬文と当麻の2人はラブホテル内の一室に入った。
当麻が物珍し気に早速部屋内を調べ始める。

「おー、ラブホテル内てこうなってるんですね」

全体をぐるりと見回した後、設備してある物に、手当たり次第手をつけては確認し始める。

「典型的なピンクのライト。中央にあるダブルベッド。冷蔵庫。飲み物が入ってるな。テレビ…にマイク。カラオケ機器。電源を入れると、おお!アダルトビデオ!」

テレビの大画面に女性の性行為中の姿が写し出され、同時に喘ぐ声が部屋全体に、大音量で響きわたる。
入り口のドア付近に立ったまま、当麻の様子を眺めていた瀬文は、その音にあからさまに顔をしかめた。
当麻はアダルトビデオを流したまま、確認行為を続行する。

「引き出しの中には、コンドーム、ローション…種類沢山あるな。そして外側から相手の様子が分かるガラス張りのシャワー室。
成る程、相手を待ちながら自分も気分を高ぶらせて準備出来るようにしてあるんだ。
いやあ、至れり尽くせり正に男女が性行為をするために特化した場所ですなぁ!」
「当麻!!」

当麻が高らかに声を上げた所で、痺れを切らした瀬文が、
アダルトビデオの音量より大きく一喝した。
ダブルベッドに肩膝を乗せたまま、体を捻って、
その声の方に向き、当麻が平然と返事をする。

「何すか」
「ぐたぐだ言ってねえで、さっさと体洗ってこい。臭くて堪らん」

瀬文は足早に部屋の中央まで進むと、当麻を横切り、その隣に腰掛けた。
ダブルベッドが少し軋む。

「え、あたしどっか匂います?」

当麻が自分の体をくんくんと嗅ぎだしている様を、
瀬文は下から鬱陶しそうに見上げ、また視線を真っ直ぐ元に戻した。
目の前には大画面のテレビにアダルトビデオが流れているが、その映像を視界に入れたところで感情は全く乱されない。

「お前は年中餃子臭えだろうが。時間かけてでも全部綺麗に落としてこい。ついでに歯も磨け。ニンニク臭えから」

その言葉に当麻が苛立ち、瀬文を見下ろしながら睨む。
元から風呂に入る気ではいたが、そう言われると思わず反抗心が生まれた。

「あー、あたしぃ、別にこのままでもいいかなぁて思うんですけどぉ。」

腕を胸の前に持ってきて、可愛くしなを作りながら、
嫌味を込めて瀬文から視線を外し受け答える。

「ふざけんな。てめえが良くても俺はごめんだ。気分が萎える」
「瀬文さんにも気分とかあるんだ」

若干驚き瀬文を見ると、瀬文も当麻を見ていたため、2人の視線が合った。

「うるせえよ。いいから早く行け。」

瀬文が当麻から視線を外してリモコンを手にした。
テレビの電源が落ちる。
先程までの音が無くなったせいで、部屋には静寂さが際立った。
2人に僅かな間が生まれる。

「へーへー」

当麻は大人しく言うことを聞き入れ、近くにあったカートを手にし、
瀬文を横切って壁付近に置くと、また引き戻りシャワー室へと向かう。
その当麻に瀬文は一瞥もしない。
シャワー室に入ろうとしたところで、当麻はドアから顔を出し、瀬文に注意を促した。

「あ、そこからじっと様子見るとかしないで下さいね。気持ち悪いんで」
「誰がするか」

バタンとドアが閉まった。

水音が流れ出したのが聞こえると、一瞬だけガラス張りのシャワー室を瀬文は見た。
シャワー室に入った後も、備え付けの物を一つ一つ確認しては声を上げていた当麻の、裸体のシルエットが目に映る。
視線を直ぐ様外し、そのまま体をドサッとダブルベッドに倒した。
真っ白いシーツの乾いた感触がする。
天井を眺めながら、華奢な体だと率直に思う。
あの体に自分がこれから触れる事が、違和感なく容易く想像できる。

ここに2人でいて性行為を行おうとしている事は、とても自然な成り行きだった。
お互い同じ気持ちだった

相手と体を重ねるのが必要で、自分達にとって自然だと感じたからだ。

当麻は片腕で髪を力強くがしがしと洗う。花の香りだ。
悔しさから瀬文に言われた通り、いやそれ以上に綺麗にして、身体中石鹸やシャンプーの香りにしてやると思っていた。
泡が目に入りそうになり、左腕で顔を拭う。
手の付け根と腕の繋ぎめが目に入り、改めて確認してぼんやりとしながら、髪の泡をシャワーのお湯で洗い流す。
自分の胸を見て、小さいなと思う。
足も腕も細く、脂肪が全体的にあまり無い薄い体だ。
頭上から降り注ぐ細かな大量の滴の暖かさを感じながら、この腕に、体に瀬文はどう触れるんだろうと、
今同じ部屋のダブルベッドに腰掛けているであろう瀬文の姿を姿を思い起こした。
先程上から見た瀬文の綺麗に整えられた坊主頭、大きな耳、長い首、真っ直ぐと自分を見つめてくる目。
体はスーツ姿だ。スーツの下はどうなっているんだろうと思い、
触れられる事よりも、自分が瀬文の体を早く確認したいのだとか気づいた。

シャワー室のドアが開く音が聞こえ、座る体勢に戻していた瀬文はそちらに顔を向ける。

「お先ーす」

真っ白いガウン一枚だけを着た当麻が姿を現した。
ガウンから露出した体は火照りで赤くなっている。

瀬文は当麻をじっと見つめながら、直ぐ様文句をぶつける。

「長い」

その一言で当麻は否応なしに臨戦態勢に入った。
お互い譲ること無い、不毛な、子供じみた口喧嘩の応酬を繰り広げながら、
当麻は瀬文のもとへと歩みを進める。

「あんたが綺麗に落としてこいって言ったんだろうが!!」
「予想より長い」
「予想より長いからって何ですか?何罪ですか?想定外シャワー室独占水道水光熱備品多量浪費罪ですか?
大体瀬文さんに言われたから、こんなに時間かけて磨いてきてやったのに、
感謝されど文句言われる筋合い無いわ!」
「うるせえブス」
「ブスじゃねーよ!この筋肉バカ!」

瀬文が座っている目の前に当麻が立ち、15pも離れていない距離で、上から顔を近づけて叫ぶ。

「唾飛ばすんじゃねーよ餃子女」

そのまま距離を縮めて、唇を触れさせる。
一瞬離れ、また合わせる。
繰り返し繰り返し触れ合わせながら、徐々に口付けを深くして、相手の舌を欲しあう。
感触の気持ち良さと息苦しさと欲求で、当麻は瀬文の顔を手のひらで包み込む。
動かない左手は瀬文の肩の上でだらりと垂れている。
瀬文も同じ思いで、当麻の背中と細い腰に腕を回しぎゅっと体を抱きかかえる。
音をたてながら唇が離れた。当麻の目が水の膜でゆらゆらと揺れ、それを瀬文は熱っぽく見つめる。

「お前、歯磨き忘れてきただろ。口の中にんにく臭えぞ」

ぎょっと当麻の目が見開かれた。

「大丈夫です。想定内です」

と呟きながら顔を背けようとする当麻を離す事なく、
瀬文は体を反転させダブルベッドに沈めた。

「別にもういい」

そう言うと瀬文は当麻に話す隙も与えずまた口づけ始める。
餃子臭いのは確かに嫌だったが、実際には些細な事だった。
大事なのは当麻の体を確認する事で、餃子の匂いもその一部ならば許容できる。
瀬文がガウンの紐をほどき、前を開けると、当麻の体は袖を通していない腕以外の全てが露出された。
露になった肌が外気に触れて少し寒い。
さらけ出した事による心細さと羞恥心と瀬文を感じる唇の気持ち良さで、
いつもはクリアな頭の中がどんどん熱を帯び乱される。
はっと息が漏れた。
瀬文の唇は当麻の唇を離れ、顎から首、鎖骨、胸へと下がっていく。
当麻は触れられて上がりそうになる声を、反射で左腕によって抑える。
愛撫を行っていた瀬文が、当麻の様子を察して顔を上げた。

「声、抑えんな」

そう言うと瀬文は当麻の細い左腕を手に取り、そこにも口付けていく。
腕と手の繋ぎめまでくると、そこを舐り、手の甲へと口付け、指をくわえる。
何度も何度も優しく左手に触れてくる瀬文を見てると、
あるはずの無い神経が感じているかのように思えて、当麻は息がつまった。
左手を愛撫する瀬文の姿が胸にくる。

「へん…たい…っすね」
「うるせえ」

瀬文を見つめる当麻の性器は湿り気を帯びていた。
左手から離れると瀬文は真っ直ぐ当麻の裸体を見下ろす。

「あれだけ食っててこんなに細いとか、お前異常だな」

瀬文は手の平で当麻の乳房を下から触れ、そのまま指で腹をなぞり臍の近くまでくると、ぐっと押した。

「やわらけえ」

当麻を確認する声だった。

「瀬文さん」

瀬文は当麻の顔へと視線を移し、目を合わせた。
当麻が真っ直ぐ瀬文を見ている。

「瀬文さんも脱いでください」

意思のある強い声で当麻は言った。
目の前のスーツを早く脱いでもらいたかった。
瀬文の体を見たかった。
瀬文は頷くでもなく無言でスーツを脱ぎ始めた。
ボタンを外しネクタイに指を掛けワイシャツを脱ぐ。
当麻の目の前には上半身裸の瀬文がいた。
じっと見つめていると瀬文が当麻のもとへ降りてくる。
唇を合わせ舌を絡ませあう。
重ね合わせた手の平を瀬文がぎゅっと握ってくる。
お互いの胸の感触が熱くて気持ち良かった。
そういえば瀬文さんシャワー浴びてないなと当麻は気付いた。
人にはあれだけ言っておいてと思ったが、瀬文の汗臭さや体臭も嫌いでは無いなと思い返した。
以前瀬文は体が覚えていると言った。
その感覚がこの行為で理解出来るだろうかと当麻は思い、
自分の中心にそっと指を入れてくる瀬文を五感全てで感じながら、目を閉じた。






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