メリークリスマス(非エロ)
瀬文焚流×当麻紗綾


12月24日のクリスマスイブの日、瀬文と当麻は窓もない未詳の部屋で、黙々と仕事を続けていた。
他の部署から、「未詳は暇だろうから」と言われて雑用を大量に押しつけられたのである。
それは、過去に起こった事件書面の記録をパソコンに移し替えるという恐ろしく退屈な作業だった。
まったく、なんでよりによってクリスマスイブに残業なんだと、瀬文は心の中で悪態をついた。
しかし、別にクリスマスイブだからと言って特に用事もないので、別段困りはしないのだが。
野々村は「雅ちゃんとデートだから、後ヨロシク」と言って、早々に帰ってしまっていた。
当麻はこの作業にまったく興味がないのか、さっきからパソコンの画面をぼーっと見ているだけで書類の山が一向に減っていない。
時刻はもう夜の10時を回っていた。

「…それにしても、暇ですねぇ。」

と、当麻がつぶやいた。

「暇じゃねぇよ、仕事しろ」

瀬文は当麻をにらみながら言った。

「ねぇ、瀬文さん、せっかくのクリスマスイブですし、ケーキでも食べません?」
「何だと?」

と瀬文が聞き返すと、当麻は椅子からガバッと立ち上がって、いそいそと冷蔵庫に向かいながら、

「あたし実はこっそり買ってきてたんですよ。」

と言い、冷蔵庫から大きな白い箱を取り出し、さらに箱から馬鹿でかいケーキを出して机においた。
ケーキにはフルーツが豪華に盛り付けられ、生クリームがふんだんに使ってあり、「Merry Christmas!」と書いてあるチョコが乗っていた。

「今は勤務中だ。それにそんなもの、俺はいらん」
「えー、せっかく瀬文さんと食べようと思って買ってきたのに。
駅前のデパートで2時間も並んだんですよ?」
「お前…仕事中に何やってんだ」

当麻の「瀬文さんと食べようと思って」の言葉に反応しているのを悟られないようにしながら、
瀬文は当麻に言った。

「まぁまぁ、そー言わずに」

と、当麻は瀬文の言葉を無視してケーキを切り分け、

「はい、これが瀬文さんの分。」

と、瀬文にケーキを乗せた皿を渡した。

「…なんでこんなに少ないんだ。」

と、瀬文は自分と当麻のケーキを見比べて言った。

「あれ?瀬文さんケーキいらないって言ってませんでした?」
「うるさい。つか、残り全部お前が食べるつもりか」
「もちろん☆」

そう言って当麻は、ほとんどホールの形で残っているケーキにハチミツとふりかけをかけて食べ始めた。

「うっま〜。バカうま」
「黙れ大食い。あと、当たり前のようにハチミツとふりかけかけんな味バカ。
見てるこっちが気持ち悪い」

瀬文は当麻を横目で睨みながら一通り悪態をつき、自分もケーキを食べた。
フルーツの程よい酸味とクリームの甘みが口に広がり、「なかなかうまいな」と瀬文は思った。
それだけに当麻の奇行が瀬文にはまったく理解できない。

「うっせー、筋肉バカ」

と、当麻はいつも通りの返事をした。
そして二人は黙ってケーキを食べた。

ケーキを食べ終わり、瀬文はまた仕事にとりかかる。しかし、作業のスピードは一向に上がらず、さすがに疲れてきた。
すると、当麻が

「ねー瀬文さん、今日のところはもう終わりにしません?」

と言いだした。

「てめぇ、何言い出す…」
「だってこれ、どう見ても今日中に終わりませんよ。
朝からずーっとやってるのに…あたしもう疲れちゃって、全然仕事がはかどりません」
「お前は最初からはかどってないだろ」

そう突っ込んではみたものの、確かに当麻の言う通りだと瀬文も思った。

「…仕方ない。今日はこれで終わりだ」

と瀬文がしぶしぶ言うと、
当麻は「やったー!」と叫んで小躍りしながら自分の荷物をキャリーに詰め込み始めた。

外に出ると冷たい風が吹いていた。吐く息が白い。思わず身震いする。
当麻は「さっぶ」と言いながら体を縮めていた。
二人はなんとなくその場に立っていたが、やがて瀬文が

「…じゃあな」

と言って歩き出した。すると数歩も行かないうちに、

「あー、瀬文さん?」

と当麻に呼び止められた。

「…何だ」

瀬文がくるっと振り返って当麻をみると、当麻はまったく別の方向に目をやって、

「あたし、この後寄りたい所があるんですよね」

と、空中を見つめながら言った。

「だから何だ」
「だから、瀬文さんちょっと付き合ってくれません?」
「…知るか。勝手にしろ」
「いーじゃないですか。別に。どーせこのあと何もないんでしょ?」
「うっせぇ。」

と、答えてみたものの、その通りだったのでそれ以上は言い返せなかった。

「ねぇねぇ、いいでしょ、ちょっとくらいー、ねーねー、せーぶーみーさーん!」

瀬文が黙っていると、当麻が瀬文の周りをうろちょろしながらしゃべりだした。

「…」
「ねぇねぇせーぶーみーん!」
「あーッ、うるさい!仕方ないから付き合ってやる。あとせぶみんはやめろ」
「うわっ、まじっすか。やった。」

当麻に「こっちです」と言われて後をついていくと、街中の大きなショッピング街に着いた。
もうすぐ12時を回ろうかと言うのに、ほぼ全ての店が開店しており、人(主にカップル)が大勢いた。
どこもかしこもイルミネーションで飾りつけられ、クリスマスムード一色だった。

「…これです」

と、当麻はショッピング街の真ん中にある大きなクリスマス・ツリーを指さして言った。
そのクリスマス・ツリーは他のどの飾りよりもひときわ大きく目立っており、豪華だった。
金や銀のボールが吊り下げてあり、全体に雪をふらせたような装飾が施してあって、一番上には大きな星の飾りが光っていた。
瀬文は一瞬ツリーに目を奪われ、それを眺めた。

「お前…寄りたいところってこれのことだったのか」
「えへへ、一回見てみたかったんですよ。なんでも、世界で何本の指に入るかってくらい
大きなツリーなんですって。まぁ、一人で見てもむなしいだけなんで、瀬文さんに付き合ってもらいました。」
「お前、そんなくだらないことの為に俺を連れてきたのか」
「ムッ、くだらないってひどいですね。…でも、綺麗でしょ?」

そう言って当麻はツリーを見上げた。つられて瀬文も見上げる。

「あぁ、そうだな」

しばらく二人は黙ってツリーを見上げていた。
そして瀬文はふと我に返って思った。これじゃまるで…

「恋人みたいですね、私たち。」

と、当麻が言った。瀬文を見て微笑んでいる。

「…うっせぇ、バカ」

瀬文はとっさに顔を背けた。今、自分が当麻とまったく同じことを考えていたなんて、
ましてや今の当麻の言葉で顔が赤くなっているなんて、絶対に悟られたくなかった。

「あれー、瀬文さん、どうしたんですか?
さっきのあたしのセリフに惚れちゃいました?」

そう言って当麻が瀬文の顔を覗き込もうとする。

「黙れ撃つぞ」
「あれ、図星?ねぇ図星?」

と、当麻がニヤニヤしながらしつこく付きまとう。

瀬文はイラっとし、当麻に殴りかかろうとしたが、その瞬間当麻が「ッハックしょーん!」と盛大なくしゃみをしたので飛びのいた。

「おま…」

と、言い返す間もなく、当麻はまた立て続けにくしゃみをし、鼻をグスッとすすりあげた。

「汚ぇな」

と、瀬文が言うと、

「汚くないです。―あー、なんだか寒くなってきましたねぇ。そろそろ帰りますか。」

と、当麻が震えながら言った。瀬文が当麻を見ると鼻の頭が赤かった。キャリーを持つ手先も、かじかんでいる。

「当麻、そこで待ってろ」

と瀬文は一言だけ言うと、キョトンとしている当麻を置いて一軒の店に入り、しばらくすると戻ってきた。手に何かを持っている。

「…やる。」

そうぶっきらぼうにつぶやいて、瀬文は当麻の方を見ずに紙袋を押しつけた。
赤い紙で包んでリボンが掛けてあり、「Merry Christmas」と書いた金色のシールが貼ってあった。

「…瀬文さん、あの、これ―?」
「別に、さっきのケーキの礼とか、日ごろ感謝してるからとかではまったくない。
お前が風邪をひいたら明日の俺の仕事が増えるから―」

瀬文が早口でしゃべるのを聞きながら当麻が包みを開くと、中にはマフラーと手袋、そして耳あてが入っていた。当麻はしばらくそれを見つめて、
「…ありがとうございます」とつぶやいた。
「大切に使え。」

と、瀬文は言った。
その時、周りでワーッと歓声が上がった。どうやらカウントダウンで日付が変わったらしい。クリスマスツリーの上にあった電子時計が、「0:00」を指していた。
それと同時に、周りのライトがよりいっそう豪華に輝いた。二人はその光景を眺めていたが、当麻がゆっくりと瀬文を見て、

「メリークリスマス、瀬文さん」

と言った。

「…ああ、そうだな」

と瀬文も当麻を見て言った。






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