一応、誘ってるんすけど
瀬文焚流×当麻紗綾


「当麻…」
「なんすか、私、いいと思ってるんすけど」
「何がだ、いいから出て行け」
「一応、誘ってるんすけど」
「お前な…」

もっと、自分を大事にしろよ、と言いたいのを堪えた。
瀬文は、警察病院のベットに横たわっていた。
隣にいるのは当麻だ。当麻は、とんでもない事に瀬文のベットに潜り込んできたのだ。



地居との事件の後、瀬文の肩はやはり折れていたため、入院生活は免れなかった。
痛みも酷かったが、両手を使えぬ不自由さの方が辛かった。
しかし、先に右手が回復してきた当麻と、無事だった美鈴が頻繁に瀬文を訪ねてきては、いろいろ世話を焼いてくれた。

瀬文は特に、美鈴には申し訳ないという想いから、何回も丁寧に見舞いを断ったのだが、来てくれる者は拒めなかった。
一番困ったのは食事だ。
一度、看護師に頼んだらしい美鈴が、食べさせてくれたことがあり、瀬文は困ってしまった。
凄く照れながらも、結局美鈴の説得に負け、食べさせてもらってしまった。
当麻はそれを見ていたらしいのだが…

「てか。美鈴ちゃん。どういうつもりっすかね。」
「なにがだ。」
「瀬文さん、惚れられてるんじゃないかってコトっすよ。」

両手がなんとか回復してきた瀬文が、やっと自分の手で食事をとった、初日の事だった。

ブッ

「ちょ。瀬文さんきたねえっすな」
「おまえ。何考えてんだ。」

手が痛いので殴るのもめんどうだ。

「いや、これはガチですよ、恋されてますよ、瀬文さん。」
「んなわけねえ」

瀬文は一喝した。
だいたい、美鈴に惚れられることをした記憶は無い。惚れらるわけが無いし、何より志村の妹だ。こちらからも惚れていい相手ではない。

「なんだか…妬けますなあ」
「はあ?」

当麻がおかしい。頭がおかしいと前から思っていたが、今日はなおさらおかしい。
正面から、睨むように瀬文を見つめている。

「落ち着くんすよね、ここ。」
「…。」

当麻の記憶のことを想った。ニノマエが弟だったということ。
ニノマエと当麻は地居に人形のようにコントロールされ、兄弟は敵対した。

…辛い。
思い出せば辛いに決まっている。
瀬文は、辛いであろうに違いない当麻に、少しでも辛くない環境にいてほしかった。
口には、もちろん出さない。

「知らん。勝手にしろ。」

瀬文は、目を背けて横になった。治りかけた肩が痛んだ。

「…あい。」

それからだ。
当麻は、毎晩訪れるようになった。
そして今日、なんと潜り込んできたのだ。

「あのな…こういう状況だと、男は欲情すんだぞ。わかっててやってんのか」

感情を押し殺した声で瀬文は言った。
実際、性欲がないわけではない。なにしろ入院が長引いているのだ。
欲情を抑える自信ならあったが、身体が反応しているところを当麻に悟られるのは嫌だった。

「…犯されたくなかったらこういう真似すんじゃねえ、男をおちょくるな」

当麻の答えは意外なものだった。

「私、瀬文さんとしたいんす」



思わず振り返った。何を言った?この馬鹿は。

「当麻…」
「なんすか、私、いいと思ってるんすけど」
「何がだ、いいから出て行け」
「一応、誘ってるんすけど」
「お前な…」

瀬文はまずい、と思った。これでも男だ。こんな状況は、さすがにまずい。

「女に。恥、かかせるんすか。」

当麻を抱きたくないと言ったら嘘になる。
一連の事件で、絆もより深まったが、夜にいちいち訪れる当麻のせいで、余計な感情も生まれていた。
しかし当麻にそんな感情を抱くのはかわいそうな気がしていた。
なによりも、傷ついたであろう当麻の心を第一に救ってやりたかった。

「無理だ。…言っとくが、ここは病院だぞ。」

そんなことより、実際、こいつは俺を好きなのか?

「…病院。いいと思いますけど。シチュエーションとしては、完璧すよ」

何いってんだ。馬鹿か。

「でてけ。言っとくが、ここにいたら犯すぞ」

実際、自分をかろうじて抑えているのだ。もっと寄り添われたら。
我慢できる自信は、消えていた。

当麻は、背中に寄り添った。
小さなふくらみがふたつ、柔らかく、背中にふれた。

「瀬文さん……きです。」

瀬文はたまらず、振り返った。

「すきなんです、瀬文さんが」

瀬文が何か言おうとすると、柔らかな唇にふさがれた。
当麻がいとおしくなる、甘い、キスだった。
長いキスをしていた。ぴちゃ、くちゅと静かな病室にしばらくキスの音だけが響いていた。

瀬文は覚悟を決めた。痛む手で当麻の乳房に触れると、当麻は身体をビクッと震わせ、瀬文の首にしがみつく。息が、熱かった。
瀬文は当麻の乳房を片手で揉みながら首筋や乳房を優しく愛撫し、当麻はそのたびに身体をよじらせ、息を荒くした。

…大切そうに。愛しむように。
けっして傷つけたくはなかった。大切に。記憶に刻むように。
十分に愛撫したあと、ショーツに手を滑る込ませる。…凄く濡れている。

「…ぶみさん…」

息が荒くなる。
感じているらしく、早く、というかのように身をよじる。

「…当麻…」

もうすこし。瀬文は、当麻の下半身に顔をうずめると、優しく舌を這わせた。

「あ…ぁんッ」

当麻が身を悶え、快感に酔いしれている。

「もぅ…げ、限界…っす、ん、…ぶみさん…っん、じらさないで…ん、くださ…い…アッ」

当麻が喘ぎながら言った。

瀬文はたまらなくなり、夢中で柔らかな乳房を揉んだ。熱い当麻の息がかかる。

「ぁ…ん、んっ」

静かな病院で声が響いてしまわぬよう、声を殺しているらしい。

興奮を抑えて、指を当麻の中心に差し入れる。湿り具合を再び確認した。当麻がビクッと反応する。
…凄い。相当に感じているのは間違いない。これなら大丈夫。痛くはないだろう。



「当麻…入れるからな。」

「瀬文さん…はやく………ぁッ」

瀬文は当麻に折り重なり、当麻の手首を優しくつかんだ。…縫い目が、生々しくリアルだった。
瀬文の肩も腕もまだ痛いのだが、そんなことは忘れるほど興奮していた。
当麻を押さえつけるように仰向けにすると、激しく腰を動かした。
ベッドがきしみ、荒い息使いとギシギシというベッドの音が、静寂の中に響く。それが、更に興奮を掻き立てた。





結局、二人はその夜だけで3回もしてしまった。



行為が終わると、当麻はあの信じられないくらいの熱っぽい目が、びっくりするほど普通に戻った。

「てか、戻ります。」

覚めたしゃべりかたは、全くのいつもの当麻だ。
瀬文はちょっと戸惑って、真面目に聞いてしまった。

「お前、大丈夫か。」

当麻は口角をにっとあげてから、

「だぁいじょうぶっす」

と言い、ふざけた言い方で

「お疲れやましい事しました」

と言った。

やましい事。
瀬文は急に冷静になった。こいつ。まさか、からかったんじゃねえだろうな。
腕は、回復状態にあったというのに平静になってみるとかなり痛い。当麻を気使い、かなり酷使したせいだろう。
着衣を整えると、当麻はやおら変な事をしだした。

キャリーバックから習字道具をだし、広げはじめたのだ。

「…おい」

いぶかしげに瀬文がいう。

「今。集中してるんで。だまっててください。」
「おまえ、ふざけんな」

おかまいなしに、当麻は書き始めた。
筆持った手を上にあげ、閃いたように目をカッと開ける。いつもの書の行為だ。

「病室」「二人のケガ」「人目を忍ぶ」「ライバル美鈴」「餃子食べたい」「引き締まった身体」「どSの癖に優しい瀬文」なんだそりゃ。

それらを束ね…まさか。
やはり。
びり、びり、と破きそれらをバッと空中へ放り投げる。瀬文は冷たく「ぜっっったい片してからいけよ」と睨みつけた。

「いただきました。」

小さい声で

「瀬文さんを。プッ」

と肩をすくめたのを見て、瀬文はイラッとした。

こいつ。

「ぶっころす。」

空手チョップが当麻に直撃した。



当麻が推理したのは「萌ポイント」だったらしい。……



翌日、美鈴がたずねてきた。






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