瀬文焚流×当麻紗綾
「……ぷ」 「あ?」 そうして、どれくらいの時間が経ったことだろう。 「くくくくくく」 不意に当麻が気味悪く笑い、ぽすんと髪の毛を瀬文の胸に擦り寄せてきた。 一体、どこに面白いことがあるのか。 こっちは素直に謝ったというのに、やはりこいつは人を馬鹿にしている。 ぎょっとして見ていると、当麻がぎゅっと抱きついてきた。 「瀬文さん。いやー、あたし結構こういうの、憧れだったんす」 「は?何だそりゃ」 瀬文には何がどうすれば憧れなどという言葉が飛び出すのか まるでわからなかったが、それでも当麻の機嫌は直ったらしい。 さっきまで瀬文の胸で縮こめていた腕を伸ばしながら、瀬文のまねをしたいのか 背中を愉快そうに撫で、耳に胸を押し当てている。 匂いでも嗅いでいるのか、呼吸が小刻みに動いている。 「もし腕が治ったら何しようって。たまにそういうこと考えてました。前は……」 「何だ」 「……なんでもないっす」 瀬文はそのまましばらく黙って続きを待っていたが、 結局当麻は言葉を止めたようだった。 それでも続きは、聞かなくてもわかる。 当麻は、地居とこうしようとしていたのではないか。 偽りの記憶を信じ、地居をいつか帰る場所と思っていたのではないか。 死んでも尚、人の心を踏みにじり続ける人間がいる。 憎悪は瞬く間に全身を駆け抜け、瀬文の中には 再び地居への怒りがこみ上げたが、すでにもう 動かしようのないことを蒸し返すのはもはや誰のためにもなるまい。 その代わりに、しがみついてくる当麻のことを、強く抱いてやった。 こうすることが当麻の憧れなら、もう、 とうにわかりきっていることがあった。 「好きなだけ、すればいいだろ」 「え、」 「死ぬときはどうせいっしょだ。だからそれまで好きにしてろ」 「……せぶみさん」 瀬文の言葉を受け、当麻は驚いたように暫く呆然としていたが、 やがて顔を上げて大げさに口を縦に広げ、ぱちぱちと目をしばたかせると、 弾かれたようにがばっと身を起こし、ニヤニヤと瀬文を見下ろしてきた。 「瀬文さん。すごい。あたし惚れました。瀬文さん、今ので」 ひらひら動くせいで、髪の毛が当たって邪魔なことこの上ない。 手のひらで適当に払うと、瀬文にのしかかるような姿勢で 当麻は、薄気味悪く目を輝かせていた。 「んふふふ」 それを見て瀬文は言うんじゃなかった、と思ったが、 言っておくべきだ、と思っていたのも事実だった。 ずっと考えていたことだ。 あんなモノと戦い、生き延び、逃がされた今だ。 どうせそのうちまた狙われるだろうし、次の命の危険は、おそらくそう遠くない。 他の誰かと生きる余裕などもない。 それなら、せめて一緒にいてやるくらいはしてやろうと思った。 そうしたところで何が変わる保証もないが、 そうすることが、最も自然に感じられたのだ。 「……『今ので?』じゃあ今までは何だったんだ」 「そりゃあやっぱ成り行きと興味本位っすかね。……痛てっ。 せぶみさん、いたぁい。ひどぉい、せぶみさんがいじめるう」 「うるせぇ」 振り降ろした拳骨は、当麻の頭に思い切り当たった。 それはとても久しぶりのことに思えて、何故か瀬文は懐かしくなる。 薄闇の中で当麻が再び瀬文にのしかかり、頭に触れ、髪をごそごそと撫でてくる。 その手がまともに機能していることが、今は嬉しい。 「……ハゲがじょりじょりする」 「てめえ。わかっててやってんだろ」 瀬文の身体にぴったりと重なったまま、当麻は、にたり、と得意げに笑った。 そうやって笑っていれば悪くない、と瀬文は思ったが、 放っておいてもいつもこういう不気味な顔だな、 とも思ったので結局言わなかった。 そうするうちに、ごく自然に、瀬文の頭にあった手が降りてきて 頬に触れ瀬文を優しく撫でて、瀬文は当麻が来る直前に見た夢を思い出す。 そのままキスをしたのは、ひどく自然なことだったように思える。 額が重なって、唇が降りてくる。 はぁ、と息を吸う音が聞こえて、そのすぐ後に、ぴちゃ、と粘膜の音がした。 「ん、」 引き寄せようとして見つけた首は、とても暖かかった。 付け根にある膨らんだ骨を撫でると、当麻が気持ちよさそうに震えて、 瀬文は今当麻がどんな顔をしているのか見たくなった。 故に薄目を開けたのはほとんど同時で、思わず笑いそうになる。 舌を出して唇を舐めてくるので、強めに吸ってやった。 それだけで驚いてまるで対処しきれなくなり、震えている 当麻のことを、瀬文は急激にいとおしく思った。 「……瀬文さん。好きです。マジです」 降ってくる自らの髪を耳にかけながら、当麻が言った。 「はぁ?明日になったら忘れるマジだろ」 「いいえガチです、あたし本気です」 「ぜってぇ信じねえ……」 言いながら、瀬文と当麻はもう一度唇を重ねた。 「ん、く、」 厚めの当麻の唇は、本当は柔らかくて気持ちがいい。 上下にはんでやれば驚いて動きが止まるのが面白いし、 最中に目を開けて肩を震わせるのはもっと気に入った。 瀬文は降りかかってくる髪の毛の束を握って引き寄せ、 髪の中へ手を突っ込むようにして、うつぶせの身体を自分に押し付けさせた。 力任せにやっても、どうせ大した力は出ない。 「……ぁ」 やめることの方がよほど億劫かのように行為はいつまでも続いて、 当麻と瀬文は、お互いの唇をいつまでも貪りあった。 当麻はくちゃっ、と粘液が音を立てるたびに力を失ってゆき、 少しずつ、ふらつくように瀬文にしなだれかかってくる。 瀬文の頬にすがるように触れてくるのは単純に可愛く、 気に入ったので、瀬文は途中から息をつかせる暇も与えなかった。 そうやって長い間楽しんで、ようやく離してやると、 遠ざかる唇から、糸を引くように唾液がこぼれた。 「……ぁ、……ふ、」 当麻は四つん這いで起き上がるせいでその入院着が開き、 隙間から下着をつけていない胸が、はっきり見えている。 乳首がすっかり硬くなっているのまで見えて、瀬文はたまらなくなった。 そこから目をそらすよう、肩を抱くようにして首の下に押しやり、 抱きしめて、瀬文は当麻が落ち着くのを待った。 それを切り出すのには、少し迷った。 「……当麻」 「あい」 「……どうせまた痛ぇだけだが、いいのか」 先ほど当麻と重なっているうちに、自分のモノがその先を望んで大きくなり、 当麻もまた、それに気づいているのは明白だった。 故に、瀬文は前もって当麻に言ってやることにした。 当麻のいる状態で、一晩中これを放っておくのは無理だ。 それでも自分の下で必死に痛みをこらえていた あの日の当麻を思い出すと、今も胸が痛くなる。 これだから処女は嫌だ、と思うことはないが、あんなにも痛がられたせいで、 自分がとても悪いものになった気がして落ち込んだのは事実だ。 できれば軽減してやりたいが、それにも限界がある。 こういったところに、準備不足は響くものなのだ。 「まぁ確かに、十中八九よくなることはないでしょうね。でも、 早く馴らして快感を得てみたいってのも事実です」 「……お前、ぜってえ興味本位だろ」 「まあそうとも言います」 瀬文は、ぐい、と起き上がって当麻の上半身を抱え、 膝に乗せてやるようにすると、またその服の中が見える。 目のやり場に困るので瀬文は襟元を正してやったが、当麻はそれを不思議そうにする。 胸の小さいやつに限って、見えている自覚がない。 見られたと知ったら怒り出すくせに、どうしたら見えるかはよくわかっていないのだ。 「……持ってんのか」 「はい。ここに」 何の話をしているのかは、言わなくても伝わった。 当麻は斜め下を向くと、前と同じポケットを探って、前と同じコンドームを取り出す。 やっぱり持って来てんのか、と思ったが、瀬文はそれ以上に、 女に避妊具を用意させていることに情けなくなる。 この言い方では期待しているようだ、と負けた気分にもなったが、 それもまた、はっきりしておかなくてはいけないことだ。 「……次は、こっちで用意する」 「別にいいっすよ。まだたくさんあるんで。つうか一個しか使ってないんで」 「そういう問題じゃねえ」 銀のビニールの正方形に包まれたコンドームを手渡されると、途端に実感が沸く。 当麻はけろりとしているが、この存在は重い。 自分たちのやり取りはカップルそのもので、事実そういった間柄になったのだと思った。 不透明な『ただならぬ関係』ではなく、自分たちは恋人同士なのだ。 認めるだけでげんなりする気もしたが、 否定する方がよほど不自然な気もした。 「だいすきです。瀬文さん、あたしとやりましょう」 「てめえ、もっとましな言い方できねえのか」 「あたしと、せっくす、しましょう」 「同じだろうが」 「チッ」 舌打ちしてんじゃねえ、と軽くコツンと頭を打ってやると、なぜか当麻が笑った。 これが好きならお前はマゾだな、と思ったが、 心を許された証のような気もして、瀬文は黙って額に口付け、 入院着の前をほどいて、素肌の肩を撫でてやった。 長い髪の毛に覆われているので払って、裸の上半身を直に見つめる。 その溝に水がたまりそうなほど浮き上がった鎖骨だと思った。 「……瀬文さん、今日もぎんぎんっすね。 ちょっといやかなりヒきます、キモイっす」 「んだと」 肩甲骨を撫で、その窪みの深さを確かめていると、膝の上にいる当麻が 股間を意識するのか、また腹の立つことを言ってきた。 「マジむっつりっすよね。やらしい。変態っすよね変態」 「てめえ……」 「ひゃぁっ」 自分は抱かれる立場だというのに、当麻はまるで緊張感がない。 怯えられるよりはずっといいと思うが、雰囲気には欠ける。 当麻に情緒を求めること自体間違いなのはわかっているが、 一般的に、こういうのは女が気にすることではないのか。 「あ、」 そもそも、『なぜ』自分は当麻なのか。 『なぜ』当麻を選んだのか。 「……ぁぅっ」 前をはだけ、下着をつけていない当麻の胸は、すでに露わになっている。 「相変わらずしょぼい乳だな」 それは相変わらずあるのかないのかわからないほど小さく、 当麻という人間にも慎ましい部分があったのだなと感心するが、 持ち上げるように触れると、きちんとそれなりに女らしい柔らかさを持っている。 「……ん。ぁ、急におっきくなったら、そっちのが、キモイっすよ。 ……っ、あ、瀬文さん、じゃ、ないんすから」 「お前、自分の立場わかって言ってんのか」 「立場ってなんすか。……ん、うっ」 「もういい」 胸の中心の赤らんだ乳首を親指でなぞると、当麻は、はっとしたように息を吸う。 さらけ出した乳首をくりくりと転がしてやれば、もう力が抜けている。 「少し、静かにしてろ」 呼吸を荒くした当麻は、とろんした目線でこちらを見上げていて、 普段は決して見ることのない表情に瀬文は刺激される。 女の身体は不思議だ。弱いところを愛撫するだけで、 簡単に力が抜けていく。 大事にしなくては、と思わせる。 「……あ。んぅ、」 小さな胸を押し上げて軽く揉むと、当麻は首を揺らし、上半身をそらした。 両手で揉みしだけば、手を後ろにつき、逃げるように 身体ごと弓なりにして刺激に耐えている。 柔らかな感覚は瞬く間に瀬文のものとなり、 乱れた髪の隙間から見えるきゅっと閉じられた瞳に、瀬文の喉は鳴った。 手の中には簡単に包める程度の大きさの胸が震えていて、 それは自分の好みとはとても似つかなかったが、 今は、これはこれで可愛らしいものに思えた。 「……う」 左手で胸をいじりながら、瀬文はその頭を捕まえて、 ほんのり熱くなったその耳を舐めてやった。 当然当麻はびくりと跳ね、瀬文の服の裾を握って抵抗しようとしてきたが、 慣れない行為に調子が出ないのか、すぐにしがみついて瀬文の腕の中に収まった。 「あぁっ」 これだけ小憎たらしくて生意気な性格をしているというのに、 こうしていると、当麻はまるで少女だ。耳を吸うと感じてしまって身体が弛緩し、 頭を撫でると不満そうになり、抱きしめてやると満足そうにする。 「ひゃ、」 乳首をひねり、耳の縁を舐めながら、 ふっ、と息を吹きかけてやるだけでその身体は思い通りになる。 ほぼされたことがないのだから、当たり前か。 ただそれだけのことが瀬文の支配欲を、ひどく満たしてゆく。 別に珍しくない当たり前のことだ。それでも、ただそれだけのことに、 とても喜んでいる自分がいたのだ。 「感じてんのか」 「や、」 耳元で言ってやれば、まともに反論することすらできず、当麻はただふるふると首を振る。 「じゃあ、何でこんなになってるんだよ」 「あぁっ、」 瀬文は反対側の耳に指を突っ込みながら抱きしめると、 胸に顔を埋め、とうに期待して勃起している乳首を舐めた。 当麻は声でこそ反発するが、身体はまるで逃げられておらず、 それどころか困ったように全身を預けてくる。 「あ、ぁ。やぁっ」 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、瀬文は当麻の乳を吸った。 「あぁ、ぁ、」 吸っていない方はつまんで刺激し、揉みしだいてやる。 引っ張ると指に柔らかく馴染んでくるそれは物欲しげで、 ひどく可愛らしく、瀬文は同時に吸えないことを惜しく思った。 素直に喜んでいる当麻は可愛かった。絶対に他の誰にも見せるものかと思ったし、 事実他の誰も見たことがないのが誇らしかった。 「せぶみさんも、ぬいで、ください」 「……あぁ」 しつこく袖を引っ張る当麻に懇願され、瀬文はその手に任せて同じように上半身裸になった。 触れるのに夢中になってすっかり忘れていたが、 直に肌が触れ合うと、ぎゅっと手を握られるような安堵感があり瀬文はそのまま当麻を抱きしめてやった。 当麻はにんまりと満足そうにし、ぺたぺたと瀬文の胸を触っている。 「へへ」 男の身体が珍しいようで、当麻はいくつか訳のわからないことを言っていたが、 追求するとろくなことがないので聞き流した。 触らせるにも飽きてきた頃に、瀬文は背中を抱えて 当麻を枕とは反対方向に倒し、今度は下を脱がせる。 また何の抵抗もできずにシーツの上に落ちた当麻を、瀬文はいとおしく思った。 「あ……、やー」 「こら、暴れんな。脱がせられねえだろ」 当麻の脚は、本当は割と気に入っている。 他はただ細くてガキみたいな作りのくせに、 足はそれなりの筋肉があるおかげでただの痩せっぽちにはならず、 妙に女らしくて性的なところがあるからだ。 太ももをつかみ、持ち上げて開かせ、当麻が自ら腰を上げるのを見計らって くい、と引っ張る。 靴下を履いていない足首はひんやりとしていて、 冷えた爪先を当てられると思わず肩が震えた。 密着しているから冬なのを忘れそうになる。 挿れるときは毛布にくるんでやろう、と思った。 「ばかせぶみ……」 たやすく下を奪われて、とうとうショーツ一枚になった当麻は、 納得がいかないのか、瀬文のズボンを握ってくる。 後ろから抱きかかえるようにして脱がすのが不可能になっても尚 引っ張りたがるものだから、鬱陶しくなって前を向かせた。 抱きすくめると、ぴたっと動きが止まるから面白い。 骨の浮き上がった腹を撫でて、臍の窪みに触れ、ショーツに手を入れて下腹部に手を伸ばすと、当麻の喉から ごくん、と唾を飲み込む音がした。 別におかしなことはしない、と思ったが、おかしなことではないというと それはそれで嘘なので、髪を撫でて少しでも落ち着けるようにしてやった。 「あっ……」 ゆっくりと侵入していった当麻のそこはぬるぬるでひどく熱く、 こんなになるのか、と驚くほどだった。 「は、」 撫でただけで思った以上に滑ってしまって、馴らすつもりがないのに ずっくりと奥に入ってしまう。 その度に当麻は足をびくびくと震わせたが、どうやら痛いわけではなく それなりに感じているようで、瀬文は安心する。 下から両手を通して固定し、熱くなった芯をなぶってみる。 楕円状に膨らんだ芽は明らかにそれを望んでいて、瀬文は小さな達成感を感じていた。 「あぁ、……ぁ、んぅっ、あ、」 「これがいいのか」 嫌味ったらしい言い方をしても、当麻はもう否定しなかった。 観念したように小さく頷くと、振り向いて瀬文の首の正面をなぞり、 喉仏が面白いのか出っ張りを不思議そうに撫でてから、顎に触れてきた。 望むまま瀬文は唇を重ねてやった。首が不自然に下を向くせいで 少し無理のある姿勢だったが、そうするのは気持ちが良かった。 「……あ、ぅ、あっ。せぶみさ……」 なぜ、自分は当麻なのか。 自分の腕の中で、次第に愛撫に馴染んでゆく当麻を見つめながら、瀬文は思った。 世の中にはもっと性格も良くて、見た目も好みで話も合う、 セックスの時だって可愛らしい言い方をして、もっと男を喜ばせる、 理想的な抱かれ方をしてくれる女はいくらでもいるだろう。 当麻だってそうだ。愛を単純な受容だと考えるなら、 お互い、もっとふさわしい相手が他にきっと居るのだろう。 「あぁ……あ!や、せぶみさ、だめ……いれちゃやだ……」 「ほぐさねえと痛てえって言ってるだろ。 ……大丈夫だ、前より楽に入ってる」 それなのになぜ、寄りにもよって『この』当麻なのか。 答は簡単だ。ここにいるからだ。 当麻がいないと自分はここにいないし、自分がいなくても当麻はここにいない。 結局それがすべてなのだと、瀬文はすでに思い知った。 哀れで滑稽な消去法なのだ、最初から最後までお互いしかいない。 残念なことに、他の選択肢があったこともない。 しかしそれを瀬文は不幸だとは思わない。むしろ、そんなに悪くないことのように思えた。 「そろそろ……挿れるぞ」 「……あい」 ショーツを下ろして、当麻を枕の上に寝かせた頃には、 シーツの愛液の染みた部分は冷たくなり始めていた。 すでに瀬文の指を受け入れ、軽い出し挿れに耐えた当麻はぐったりしていたが、 前よりはずっと負担が少ないようで、瀬文は安心した。 瀬文はズボンを下ろすと、脇に置いていたコンドームの袋を破る。 その間、当麻はいつの間に元気を取り戻したのか むき出しになった瀬文のモノをじろじろ見ながら 下品な質問を投げかけてくるので、いっそ生でしてやろうか、と思ったが 当麻にそっくりな顔の生意気なガキの顔が浮かんで身震いしてやめた。 そんなものを作る予定は、今のところ、ない。 「あ、」 瀬文は太ももの付け根を軽く押すようにして足を上げ、 ゴムをつけたばかりの自らのモノを、できるだけそっとその入り口に押し当てる。 傷ついた身体に、一度奪われた腕。 当麻の身体には脆いところがいくつもあり、 それが瀬文の大切にしなければという注意を持続させる。 大きな負担がかかれば、それらはまた壊れてしまうかもしれない。 戯れにぶつことはあっても、無理な姿勢は決してさせられない。 当麻の身体を気遣う気持ちはそのまま うまく表現しきれない当麻への感情となり 結果的に、ひどくいたわるものとなった。 にわかには信じがたい話だが、自分は相当当麻が大事らしい。 似合わない怯えた顔をしていると大丈夫だと髪を撫でてやりたくなるし、 憎まれ口で返されると腹が立つ反面、ホッとする。 傍から見れば、自分はおそらく、当麻を好きで好きで仕方ない男に見えるのだろう。 こうすることが、とても自然なことに思える。 「痛かったら言え。何とかする」 「……あい」 当てただけで当麻の愛液でぬるぬるになる自らを握って、少しだけ押し進めると、 当麻がびくっと顔を上げて、これからすることに、小さく身構える。 先ほど持ち上げた脚はやはり冗談のように軽く、思い出すだけで、 壊さないようにしなくては、と気が引き締まるのを感じる。 そうして鳴った、くぽ、と粘膜に沈む音がひどく卑猥で、セックスをする実感が改めて沸いた。 「やっぱり瀬文さんの、でかくて、あついです。ビビります」 「……そんなにでかくねえ」 「あ、小さいんすか」 「……小さくはねえ」 はずだ。 「だっ、て瀬文さんのしか、見たことないですし。 見せ、てって言って、見せ、……ぁ、て、もらえるもんじゃないですし」 「言っておくが、それやったらお前が変態だからな」 こんなときまでしょうのない話題を持ち出す当麻を瀬文は殴りたくなったが、 どのみちもうおとなしくなる、と顔の脇に左手をつき、右手で握ったまま その先端を当麻に沈めた。 その瞬間当麻が顔をしかめるとともにとろけるような快感が ぞくぞくと襲ってきて、う、と声が出そうになるのを瀬文はどうにか堪えた。 「あぁっ……」 「痛てぇか」 「前よりは、だいぶ、楽です」 今すぐその膣内を貫いて、好きなようにしたくなる気持ちを抑えて聞くと、 当麻は、健気に首を振ってみせる。 口ではそう言うが痩せ我慢の得意なこいつのことだ、どうせまだ痛いのだろう。 充分すぎるほど濡らしても、行為に慣れない当麻の身体はまだ軋む。 それでも瀬文は、当麻の言う通り、前よりも ずいぶんたやすく挿入ったことに驚いた。 幾分は前よりも良かったのだろうかとつい楽観して、 暖かいような気持ちに囚われそうになる。 それでも動かし始めると、当麻のきつい内部は、思うようには進めなかった。 「……ぁ、やっぱいたいです……。ぁ、あつい……あ、ちぎ、れ、そうです」 「……ゆっくり息しろ。大丈夫だ」 力を抜けと言っても、当麻にはそれがわからず、うまくいかないのは 前の経験から理解している。 だから瀬文は代わりにゆっくり呼吸をするように促すと、 当麻のそれに合わせるようにして自分も呼吸し、動かした。 当麻が、はあ、と息をついて、その力が抜けるたびに 瀬文のモノは当麻の奥へ馴染み、 当麻の表情も、心なしか少しずつ落ち着いたものに変わってゆく。 「あぁっ、あ、……ぁ!……あ、んっ、はぁっ……」 シーツの上に両手をつき、 自分しか受け入れたことのないその襞にぎちぎちと締め付けられながら、 瀬文は、当麻が自分のためだけに痛みを受け入れ、 身勝手な瀬文自身をも受け止めようとしてくれていることを、 たまらなく嬉しく思った。 それを意外に思う次の瞬間に、昔からこいつはこうだった、 人の神経をまるで理解しない言葉を平気で投げつけながらも、 いつも自分を心配して、守ろうとしてくれるやつだったことを思い出した。 程なくして、瀬文のすべてが、その中へ挿入る。 そのとき瀬文は、失意のまま志村家から出たとき、 当麻が待っていたことを思い出した。 当麻は、いつも自分を待っていてくれたのかもしれないと思った。 「ふふふ」 最深まで挿し込んだことで身体中のすべてが密着し、足と足が、 腹と腹が、そして胸がぴったりと重なり合った状態で、 そこでまた、当麻が気味悪く笑った。 「何、だ」 「なんか……あたしのものにした気分です」 額に汗をにじませながら、当麻は手を伸ばし、親指で瀬文の唇をなぞった。 「はぁ……?普通、逆だろ」 「いいえ違います。瀬文さんはあたしのものです」 おそらく、当麻は結ばれたことで、 瀬文を自分のものにしたと言いたいのだろう。 男の発想としてはよくあるものだが、女も同じことを考えるとは思わなかった。 予想だにしないことを言われたせいで瀬文はしばし困惑したが、 ややあって、ふと、その手をしっかり握ってやることにした。 それを望むのなら、少しでもつながりを感じるようにしてやってもいいと思った。 「あっ、ぁ、……あ!あぁ、ぁ、ん、せぶみ、さ、」 上から重ねるのではなく、指同士を絡ませることで、 瀬文は性器だけでなく、自らのすべてが、当麻の中へ沈んでいくような気がした。 「とうま……」 当麻は爪の先が白くなるほど、指が赤く染まるほど、 瀬文の手を握り締め、貫く度に甘い声を漏らす。 動かすたびに快感は勢いを増し飲み込まれるようで、 身体を反らして必死に自らを受け入れる当麻を、瀬文は強く支えた。 離したくないと思った。明日何か起きるとして、 自分の言ったとおり、当麻がいつ自分の元から去るとしても、 それまでは傍にいようと思った。 おそらくこれからも弱音のひとつも吐かず、 何もかもをひとりで耐えようとする当麻が疲れたとき、 そっと避難する場所になりたいと思った。 「あぁ……うぁ、あ、あぁんっ」 「当麻……っ」 脳髄を吹き飛ばされそうな快楽の中、瀬文はあることをつぶやき、ほどなくして達する。 当麻はそれに、ゆっくりと頷いた。 目が覚めたのは例によって数時間後だった。 ひどく喉の乾く感覚で引きずられるように身を起こして、 空の冷蔵庫に落胆してまたベッドの上に戻る。 「……、ばかうま……」 当麻はまた前脈を想像するのもおぞましい寝言を立てて眠っていて、 夢で今日は何をかけて食っているのか、ふりかけか、マヨネーズか、 蜂蜜かと考えるだけで瀬文は吐き気を催しそうになったが、 悪食としか言いようのない女を二度も抱いて、 恋人同士になってしまった事実はもはや揺るぎようもなかった。 布団に入れば、当麻は裸の太ももを摺り寄せてくる。 汚れた下着を着けるのを嫌がったせいで、下半身が裸なのだ。 風邪を引くからやめろと言ったが聞かないので、結局そのままにしてしまった。 瀬文が完全に体をベッドにうずめたのを確認してすぐに 当麻は無言で寄り添ってくる。 最近になった知った人肌がよっぽど心地いいのだろう。人肌は 想像しているよりもずっと暖かく、合わせるとすぐ馴染んで、 あっという間に離れるのが億劫になる。 さらに服を着て抱き合うのと裸で抱き合うのはまるで違うから、 おそらくそれを気に入ったに違いなかった。 ベッドに入るときに一度点した明かりが消え、再び暗くなった部屋の中で、 当麻は瀬文がこちらを向いているのをいいことに、ぽすんと胸に飛び込んできた。 少し隙を見せたらすぐにこれだ。抜け目のない女はまるで自分の領地かのように 瀬文の腕を占領して、もはや動く気はないかのようだった。 あまりの狭さに瀬文は苛立ち、引き剥がそうとしたが、 半分裸のこいつをほうっておいたら確実に風邪を引くだろうと思い、 もしやそれすら策略か、と気づいて、とうとううんざりした。 それにどうせ、こいつは起きている。 眠ったふりをして、その間の瀬文が何をするのか、 確かめたがっているに違いないのだ。 瀬文は抱きしめ合って眠るなんて相思相愛にもほどがある、勘弁してくれ と思ったが、事実そうなってしまったのでもう抗いようがなかった。 それに無理矢理引きはがせば突然起きてまた暴れ出すだろうし、 そのほうがよっぽど面倒な気がする。 自分ですら、そうやってこのままでいる言い訳を探している。 後五分もすれば嫌になって、うんざりするとわかっているのに。 もう、好きにしろ。 瀬文は毛布を掛け直し、瞬間当麻がぱちぱちと目をしばたかせたことに 気づかないふりをして、ゆっくりと目を閉じた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |