やっぱりちゃんと大事にしたい
瀬文焚流×当麻紗綾


きっかけは忘れた。が、自宅にそれが入り浸るようになって久しい。
今日も今日とて冷蔵庫に堂々と専用のスペースを陣取っている多種多様な調味料をふんだんに使って食材をいたぶっていた。

当麻は平均週2日ペースで家に押しかけてくる。
大量の食材を食い散らかすことも、わけのわからない論文を部屋中にばらまくことも、いつしか慣れた。
ただ、悪趣味な学者か何かの抱きまくらを持ち込まれた時はさすがに蹴りだしたが。

恋人でもない男の部屋に押しかけてくる当麻の考えていることはさっぱりわからない。

ただ、自分と当麻がどうこうなるのは到底想像がつかなかったし、ほんの1ミクロンくらいは居心地は悪くはないと思わなくはなかったのである意味容認してしまったと言える。

今日の当麻は、食材を虐待した以外は比較的大人しく、床に座りこんで何かの雑誌を黙々と読んでいた。
詳しくない瀬文にはよくわからないが、普通の女性向けの雑誌のように見える。そういうのも読むのか、と意外に思った。
しかし、雑誌を読むにしてはいささか当麻は真剣すぎた。

「何読んでるんだ」

背後から声をかけると、瀬文が近づいたことにすら全く気づいてなかったのか、当麻があからさまに肩をびくりと震わせた。

「び、っくりさせないで下さいよ。」

珍しくどこかうろたえた当麻はサッと雑誌を隠した。
がしかし、その手は瀬文によって遮られた。

「何故隠す」

強引に奪った雑誌は閉じられていたが、型がついていたそのページはたやすく開いた。
そして内容を理解すると同時に、その意外さに瀬文は思わず噴き出しそうになった。

瀬文の家もなかなか使い勝手が良くなってきた。
冷蔵庫に調味料専用スペースを設けたのは正解だ。

職場からの距離は自宅より近いし、徒歩2分圏内にコンビニがある。
物が少ないため広い床は論文を読むのに最適だし、なんだかんだで食事つきというのが良い。
1マイクロメートル程度くらいは落ち着く、といった要素を入れてやらなくもない。

が、しかし迂闊だった。
あたしとしたことがつい後ろに瀬文がいることも気づかなかった。
てか、影も毛も薄いんだよハゲ。
当麻はチッと舌打ちした。そもそもここが瀬文の家だという認識はもはやなかった。

「おまえ、気にしてんのか。」

珍しくも笑いをこらえきれない、といった顔で瀬文が口を開く。

「別に気にしてねーし!返せ!」
「おまえ残念だもんな。ウケる」

フンッと瀬文が嫌味たらしく笑う。
もちろん雑誌は返されない。

瀬文の持つその女性誌の開かれたページには、
『バストアップ特集』という見出しが大きく書かれていた。

コンビニのアイスコーナーの近くに偶然雑誌コーナーがあり、そしてこれもまた偶然表紙に書かれていた特集が気になってしまった数時間前の自分の不運を呪った。
ハゲに弱み握られるとかありえねー!

ハゲはここぞとばかりに普段の仕返しをしようとしているのかやけに楽しそうだ。

「なんだと!?それセクハラっすよ!セクハラ!」

反論してみるがどうも分が悪い。

『彼氏に揉んでもらうと大きくなるって本当ですか?』(Aさん東京都22歳)
それに対して専門家はこう回答している。

『本当です。胸は揉まれることによって脳下垂体が刺激され、女性ホルモンの分泌が促進され乳腺が発達し、脂肪がつきます。』

「本当かよ」
「あーあーほんとデリカシーのカケラもないっすね!」
「デリカシーについておまえにだけは言われたくねーよ!」
「どうせ瀬文さんみたいなむっつりタイプは巨乳のお姉さんが好きなんでしょうよ!この変態!」

床に座っている当麻は、反撃とばかりにフンッとイラついた顔で瀬文を見上げた。

こんなことで怒る当麻はちょっと面白い。

「おまえ俺の何を知っているんだ。まぁ確かにおまえみたいなまな板に興味ねーな」
「カッチーン!あんたこそあたしの何を知ってんだ。あたし意外と凄いっすよ!試してみます?」
「………」
「……?」

!?
いきなり両腕を後ろに引かれた当麻は当然引力に逆らえずに瀬文のほうへ背中から倒れこんだ。

「ちょ、何するんですか…っ!」


「……試してやろうか、本当に大きくなるかどうか」

瀬文はそう言ってニヤリと笑い当麻の腕を掴んでいないほうの手で当麻の首筋を背後から撫でた。

そのまま瀬文の手は当麻の背中を辿り、腰のラインを摩る。
前に回った瀬文の手が腹部を通り、そっと胸元に触れる。

その瞬間当麻がはっと息を飲むのが分かった。

そのまま下から弱く持ち上げると、当麻から予想外に高くか細い声が漏れたので瀬文は驚いた。

思わず声が出てしまったことを死ぬほど後悔した。
そう思っている間に、瀬文の大きな手が胸元を緩く撫でる。
瀬文の奴調子に乗りやがって。
心の中で悪態をつく。

しかし、筋肉バカらしかぬひどく優しい触れ方に心とは裏腹に体は反応してしまう。

抵抗を試みるが腕を捕まれ固定されているので不可能だ。

着ていたブラウスの上から触っていた瀬文はいつの間にか、中に手を入れようとしていた。

「な…にしてるんですか、ほ、んと変態…!っ、ぁ…」
「…何だよ?おまえ、気にしてるんだろ?」

そうだ、これは単なる実験で、仮説を検証しているだけの行為だ。
感じるわけには行かない。
当麻はギュッと目をつむった。

やばい、と思った。
当麻の細い体は予想以上に柔らかい。
確かに胸にはり脂肪がついていないが、触れると意外なほど柔くふにふにと形を変える感触は悪くない。

そしてまさか当麻からこんな反応が返ってくるとは思いもよらなかった。

まるで別人のように、少し触れるだけで肩をびくんと揺らす。
声を出すまいとしているが乱れてくる息遣いがエロかった。
顔を覗きこめば耐えるように目をギュッとつむり、頬は紅潮していた。

たまらなくなって、当麻のブラウスを捲り上げ、中に手を入れ、下着をずり上げた。
捲り上げたブラウスの隙間から覗く、あらわになった当麻の胸を見て瀬文は言いようのない興奮を覚えた。

未発達なそこは、透き通るように真っ白で、ぷくりと立ち上がったまるで少女のような桜色の先端に目を奪われた。
その回りを指でなぞると当麻はまた熱っぽい吐息を吐く。

なんだかとてつもなくイケナイコトをしている気分に襲われた。
だいたい自分はいわゆるそういう趣向では全くないし、第一相手は当麻だ。
だがそんな思いとは裏腹に、瀬文のソコはすでに熱く硬くいきり立っていた。

「…はっ…ぅ…」

瀬文のくせに慣れた手つきだ。
体に力が入らず、完全にされるがままだ。
腕はいまだに拘束されているが、例え今離されたとしても抵抗は不可能だろう。
当麻の脳機能はふやけて麻痺していた。

瀬文は片手でゆっくりとした手つきで緩急をつけながら当麻の胸を撫でまわす。

しかしどういうつもりかあえて敏感な先端には触れず、まわりをゆるゆると揉む。

当麻は焦れていた。

「…せぶ、みさ…ん」
「なんだ」
「……も、…っ、…なんでもないです」
もっと触ってほしい、だなんて言えるはずがない。

瀬文が背後でニヤリと笑った気がした。

「あぁ…っ…!」

何の前触れもなくツンと立ったそこを弾かれ、当麻は自分でも予想外に高い声をあげてしまった。

「っあん…ぁ、…あっ…」

瀬文はあれ程触れなかった乳首を、今度は執拗に責めだした。

「ゃん…、っはぁ…やだ…」
「何が嫌なんだ?」

――触ってほしかったくせに。

耳元でそう囁かれ、自分でも顔が真っ赤になったのが分かった。

後ろを振り向くと、熱っぽい欲情を宿した瀬文の目と目が合った。

当麻はこんなにも可愛い女だったのか。

いつも減らず口ばかりたたく口からは、我慢しきれなくなったのか当麻からとはにわかに信じがたい艶っぽい声が漏れ出る。

「んぁっ…や、ぁあ、っ!」

瀬文は当麻の可愛らしい乳首をつまんだり、こね回す。

その度に、いちいち返ってくる反応が瀬文の理性を溶かす。

横顔から覗く、意外にふっくらとしたその唇にキスしたい。
このまま押し倒して、全身にむしゃぶりついて、それから…。

そこまで考えて、ふと我にかえる。

俺とこいつは別にそんなんじゃないし、だいたいこれは揉むことの効果を検証しているんだ。
ちょっとからかってやるだけのハズだった。
このままでは、まずい。

当麻から手を離そうとした瞬間、何故か振り向いた彼女と目が合った。

今にも涙がこぼれ落ちそうなほど潤んだ瞳を見た瞬間、瀬文の理性はいとも簡単に崩れ落ちた。

紅く色づき濡れる、半開きの当麻の唇に吸い寄せられる。
今まで燻っていた火が一気に燃え上がって爆発でもしたかのようだった。

柔らかく甘いそれに眩暈がしそうだ。もっと深く探りたくて当麻をこちらに向かせ、やや強引に舌を捩込む。

舌の動きに必死にこたえようとする当麻が可愛い。こんな当麻は絶対に誰にも見せたくない。何よりも当麻も自分を拒否していないことが嬉しかった。愛しさと欲情が溢れかえり、もう歯止めがきかなかった。

ピンポーン


ピンポンピンポーン



「………」
「………」

こんな時間の訪問者に心当たりはない。
距離が殆どゼロに等しい当麻を見遣ると、目を逸らされた。

「…当麻」
「……そういやピザ頼んでたの忘れてました」

やはり当麻は当麻だった。
ただ、ピザ屋のおかげで勢いで抱いてしまわずに済んだ、ともいう。
二人だけの世界から強制的に引き戻され急速に理性を取り戻した頭で思った。


こんな奴でもやっぱりちゃんと大事にしたい、とか思ってしまった自分を笑い、とりあえず殴ってピザを受け取りに玄関先へと向かった。






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