重大な証拠(非エロ)
番外編


ドアが閉じられる音が耳を通じて脳の内側に入ってきた気分だ。脳内で反射し脳みそを容赦なく揺さぶる。ものすごく体がだるい。
その時別の音が耳にはいって来た。コツコツとコンクリートの地面を革靴が叩く。その音が頭の横で止まった。

「もう目を覚ましてしまったんですか」

男の声だ。

「まだ、動いてもらっては困るんですがね。向こうの少女はまだぐっすり眠ってるんですよ」

少女…そうだ。三郎丸さんの焼死事件の真相を探すために、メグと地下に入ったんだ。そこで…

「いてっ」

頭の痛みを思い出した。


「キュウ早く行くよ」

急かすように、メグが言う。初対面の時から受ける印象はかなり変わっている。

「だって〜、暗いし、他の人呼んでこようよ」

そう、明かりはキュウの照らすライトの光だけ、コンクリートで出来た無機質な壁は冷たく、二人を圧迫する。

「だめ、早く真相を確かめなきゃ」

そう言ってキュウの手を引っ張り、軽く握ってきた。

「ちょ、ちょっと待って」

強い力で引っ張られ、奥へ奥へ進んで…というか連れてかれて行く。
確かに怖い。でもメグと繋がって二人でいるのはちょっと、いやかなりうれしい。
こうやって女の子と二人きりっていうのは、たぶん初めてかも。口元が緩んでいるそんな気がする。
こんな表情を見られたら、ドン引きされる。でもお互いの表情は伺うことはできない。もしかしたらメグもそんな顔をしてるのかな。

「ねぇキュウ!キュウ!」

睨み付けるような視線を感じる。もちろん第6感で。

「えっ」

咄嗟に出た言葉がこれだ。ニヤけてた自分が情けない。

「もう、聞いてた!?」

もう最低だよ、キュウ。自分に言い聞かせてみる。

「だからこの扉、鍵穴がないの、でも鍵がかかっているみたい」

そう目の前にあるのは扉。造りは金属かなにかだろう、かなりの重厚感を感じさせる。
そして真ん中には10頭の龍が天に向かっている絵が施されている。

「もしかしたら、これってトリックドアじゃないかな」

そうこれは昔見た事がある。確か真ん中に切れ目のような物があったはずだ。

「ここに切れ目があるよ。たぶんこれを左側にずれしてみれば…」

重い。力が足りない。ここで扉が開けばかっこよかったのだろうに。

「ちょっとどいて」

そういって、メグは龍の絵に手を当て力を込める。その時にドアが開く音がした。

「かんたんに開いたじゃない!」

謎を解き明かしたまではいいが、最後にライバルに持っていかれた。そんなドジな探偵みたい。
メグが足を踏み出そうとした時、何かが空を引き裂く音を聞いた。何かが振り下ろされる音。
衝撃を覚えた瞬間別の音を聞いた。硬いもので頭を殴られる音。初めて聞いたこの音はひどく鈍く、そして頭に焼きつく。
キュウの意識は深い闇の中に落ちていった。


「たいして強く打ってはないから大丈夫だ、そこの少女は薬で眠らせているだけだ」

僕の不安に気づいたのか男はそういった。穏やかといえば穏やかなのだが、強く頭の中に働きかける声だ。
単に頭の痛みのせいかもしれない。

「君たちは真相に近づきすぎてしまったんだよ。まぁ他の奴らより有能と言う事なんだがね」

そういって再びコツコツと足音が聞こえ始めた。その音がだんだん小さくなっていく。
暗闇の中その背中を見ることはできない。顔をゆっくり上げようとした時再びあの声が聞こえた。

「もう少しそこで静かにしておく事だよ。それ以上は危害を加える気はないんだからね」

そういい残し男は扉の閉まる音と共に消えていった。
やり場のない悔しさが涙となり頬を伝った。

追いかけて「あんたは誰だ!」と問い詰めてやりたかった。
でもそれが出来なかった。メグを助けてやれなかった。
じゃあ今の僕に何が出来る…

「…この事件の謎を解いてみせる。そしてあいつの…」

ポツリと呟く、自分に言い聞かせるように。

壁に向かって一筋の光が伸びている。たぶん落として転がったんだろう。僕が持ってきたライトの光だ。
伸びている向きを頼りに光源に向かう。ざらつくコンクリートの地面に右手を付け這う。
揺れていないはずの脳みそは大きく波打って、それが痛みとなり襲いかかる。
その痛みの波に耐えながら今度は左手を地面につける。左手に力を加え前進する。

「はぁ…はぁ…」

右手でライトを握り締める。光に映る暗く冷たい壁。
そして映る横たわったメグ。光を頼りにメグの隣へ、もう絶対怖い目にはあわせない。そう心で呟く。
声に出して言ったら顔が真っ赤になるから。そんなセリフをさらっといえるほど僕は大人じゃない。

静かな時間が流れた。頭の痛みが楽になったのか、状況が飲み込めてくる。

「君たちは真相に近づきすぎてしまったんだよ。まぁ他の奴らより有能と言う事なんだがね」

だから僕たちを気絶させて閉じ込めたのか。いや違う。ただ単に閉じ込めたいなら気絶させる必要はなかったからだ。
後ろからつけていたなら、僕たちがこの中に入っていったのは予想がつくはずだから、では何故。

「答えはひとつ」

そうこの部屋の中に何か重大な証拠があったはずだ。もしくはこの部屋ので三郎丸さん殺しのなんらかの出来事があったのではないか。
そして重力以外に何かの力が加わっているとさえ思える重い体を起こした。

その時無機質のこの空間の中に、生物の証を告げる声が響いた。それは小さくか弱く、そして甘い声。






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