ウソでもいいから
-3-
上田次郎×山田奈緒子


「あの、上田さん…全部聞こえてますけど」

突然の奈緒子の台詞に仰天して、振り返る。

「…ど、どこから聞いてた?」
「『ばんなそかな!!!』から」

俺は混乱のあまりつい口に出していたらしい。
メガネを机に置き、奈緒子の待つベッドに腰掛ける。

…終わったな。

俺は必死に涙を堪えながら、最悪の結論を口にした。

「……そういうわけだ。残念だが、今日は……」
「大丈夫ですよ」

奈緒子の返事を受け、俺はもの凄い勢いで奈緒子を見た。
その様子に奈緒子が少し驚きながらも話を続ける。

「その、だから…ちゃんと今日が『安全日』というやつだと、確認して来ましたから」
「…本当か?」

奈緒子が頷く。

「ここ何ヶ月も、ちゃんと朝一で体温計ってたんだ!……だから、えっと、安心して下さい」

絶望の淵から天国まで一気に移動し、安堵のあまり、体の力が抜けていく。

奈緒子がそんな俺を見てクスリと笑う。

「でも、ありがとうございました。上田さんの心遣い、嬉し…かったです」
「……ま、まぁ男として当然だよ」

俺は照れ隠しに、そっけなく答えた。

とにかく、これで心おきなく奈緒子と結ばれる。
改めて奈緒子の頬に手を添え口づける。
心なしか、奈緒子は先程の緊張が少し解けているように感じた。
そのまま押し倒し、奈緒子の足を開かせ、体を割り込ませる。

…ついに、この時が。

俺はペニスに手を添え、まだ先程の愛撫で潤沢な奈緒子の膣に先端をピタリと当てた。

…頑張れよ、お前。長く保てよ。

心の中で分身を励まし、挿入のねらいを定める。
だが、愛液でヌルヌルと滑り、なかなかうまくいかない。

「んっ!やっ…上田さ…!」

自然と先端が奈緒子の秘部を刺激する形になり、奈緒子が堪らず嬌声をあげる。
愛液がチュプチュプと音を立て、奈緒子の息がしだいに荒くなっていく。
しかし、焦れば焦るほど、うまく挿入の目安がつけずにいた。

「あっ…んんっ!やだっ…そこ!!」

いつの間にかクリトリスのあたりまで移動していたペニスは、グリグリと突起を刺激していた。

「んあっ!な…に、あんっ…してる、ん、ふぁっ…です、か?」

まさかうまく入らないというわけにもいかず、返答に困る。
すると事情を察したのか、奈緒子が頬を赤らめながら俺のペニスに手を伸ばした。

そのまま膣口までペニスの先端を誘導する。

「はぁ…はぁ…たぶ、ん…ここだと思います」
「あ、あぁ…分かった」

奈緒子の教えは正しかった。うまい具合にペニスと膣穴が重なる。
俺は奈緒子と目を合わせた。

「じゃあ…入れるぞ。痛いかもしれないが…」

かもではなく、絶対に痛いとお互いに分かっていた。
だが奈緒子はあくまで平気そうに、微笑んだ。
そんな奈緒子を胸が苦しくなるほど愛しく思う。

「優しくするから」

俺のその言葉で、緊張していた奈緒子の肩の力がぬける。
それと同時に、きつく閉じられていた膣穴が俺を受け入れるように開いた。
グッと重心を下半身に掛け、ペニスを進行させる。

「くっ…きついな」

奈緒子の中は、あまりに狭く、俺の侵入を拒否しているかのようだった。

「んんっ!…はぁ、ふあっ!」

奈緒子は大きく息を吐きながら、両手を俺の背中に回し、これから訪れる痛みに構えている。
熱く、きつく、蠢く膣内に、ペニスの先端が完全に収まる。
とりあえず、入口の時点で挿入不可になることがなく、軽く安心した。

だが、これからだ。

そのまま体重を掛けていくと、とうとう奈緒子の処女膜に先端が触れた。
奈緒子が背中に回した手に力をこめる。
これから受ける奈緒子の痛みを思うと、申し訳なく、変わってやりたい気持ちで一杯になる。

せめてもの負担を減らしてやりたい。
俺は精一杯の愛情を込めて、奈緒子に囁いた。

「好きだ…、ずっと、ずっと好きだった」

奈緒子が俺を抱きしめる手に力を込める。

「奈緒子」

名前を呼ぶと、俺の胸に埋めていた顔を離し、奈緒子は火照った表情で俺を見上げた。
その瞳が潤っているのは、痛みのせいだけではないと思うのは、俺の自惚れだろうか。

「奈緒子…俺の、奈緒子」

今まで気恥ずかしくて呼べなかった奈緒子の名を、俺は何度も口にする。
奈緒子も何か口にしようとしたが、後一歩の所で言葉がでないようだった。
パクパクと必死に言葉を紡ごうとする唇に口づけ、腰に力を入れた。

「あうっ!いっ……たあぁっ!」

奈緒子から悲痛な声があがり、躰がビクリと跳ね、爪が俺の肩にくい込み、
口づけていた俺の唇を噛みしめる。
処女膜を通過した俺のペニスは、その後はいとも簡単に最奥まで突き当たった。
根本まで、とはいかないが、俺のペニスの大部分は奈緒子の中に埋め込まれた。
それと同時になんとも言えない満足感がふつふつと沸き上がってくる。

「っ!うっ…!」

その上、あまりの締め付けにそれだけで達してしまいそうになる。
一刻も早く腰を動かしたい衝動に駆られるが、拳に力を込め、息を大きく吐いてその衝動を抑えた。

奈緒子はビクビクと躰を揺らし、痛みのあまり呼吸もまばらのようだ。
涙を流し、必死にその痛みに耐えている。

「うっ…痛っ…痛いよぉ」

泣きじゃくりながら、俺に訴えてくる。
その姿があまりに痛々しくて、何もしてやれない自分が不甲斐なくて、一人だけ悦楽に興じているのが
申し訳なくて、俺まで泣きそうになる。

ふと頬に手の感触を感じ、奈緒子を見る。
奈緒子は額や頬に冷や汗を一杯浮かばせ、それでも俺に微笑んでいた。

「上…田、さん?」
「どうした?辛いか?」

奈緒子は小さな呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと応える。

「つ…らいに、決まってん…だろ!……この、ぼけ、が!!はぁ、はぁ…」

奈緒子のいつも通りの憎まれ口が、逆に今奈緒子が味わっている痛みの凄まじさを露呈する。

「すまない、君が楽になるまでこうしてるから」

俺は精一杯の笑顔を奈緒子に向ける。
奈緒子は辛そうに、切なそうに顔を歪めながら、俺に抱きつき、小さく呟いた。

「痛い…けど、すごく、幸せです」

俺は抱きしめ返すことで奈緒子に答えた。



どのくらい時間が経っただろうか。
ギュウギュウとペニスが締め付けられる快感で、俺の意識は朦朧としていた。
もう、突き上げたい衝動を抑えるのも、限界かもしれない。
そう思ったその時だった。

「もぉ…大丈夫です」

奈緒子が小さな声で俺に言った。

「本当か?痛く、ないのか?」

心配が拭いきれず、奈緒子の表情を伺う。
奈緒子はそんな俺にうっすらと微笑んだ。

「まだ、ちょっと痛いですけど…さっきよりは全然。…それに…」

奈緒子が言葉を途中で止め、代わりに身を小さく震わせる。

「私も、なんだか…」

切なそうに俺を見る目に、その台詞の先を察し、抑えていた欲望が一気に押し寄せてくる。

頭の中で何かが弾け飛び、俺は思いきり腰を引いた。
一見抜けてしまったかと思われるまでペニスを引き抜いた所で、力強く最奥まで突き上げた。

「あうっ!!」

瞬間、奈緒子の躰が跳ねる。
やわやわとペニスを締めあげる膣壁が、さらにその力を強め、熱を持つのが伝わる。
奈緒子の頭の両端に手をつき、俺は枷が外れたかのように、激しく奈緒子を突き始めた。

「あんっ!あっ、あっ、あっ!」

俺の突き上げに合わせ、奈緒子が淫猥な声をあげる。
奈緒子に俺の思いをぶつけるかのように、俺は突きまくる。

「やあっ!!上田さ…!んっ、んっ、あぁんっ!!」

限界までズルリと引き抜くと、奈緒子の膣壁は逃すまいとペニスに吸い付いてくる。

「んんんっ!!あっ、はうっ!」

奈緒子が切なそうに喘ぐと同時に、最奥まで激しく打ち付ける。
するとその衝撃で痙攣したかのように、膣壁は震え、俺のペニスを締め付ける。

「きゃぁっ!!やんっ…奥に、あたって…はぁんっ」

その行為を激しく何度も繰り返す。
奈緒子は子犬のように鳴きつづけ、愛液を次から次へと溢れさせる。

──グチュッ、パチュッ、ジュクッ

室内に俺達の行為を物語る水音が、盛大に響きわたる。
奈緒子を見ると、顔中汗まみれで、喘ぎの止まらない口からは涎を垂れ流し、今まで見た中で、
一番厭らしい表情をしていた。
熱い目で奈緒子に見つめられ、背中をゾクリとした感触が襲う。
快感に溺れる奈緒子の表情は、別人のように、大人びて、美しかった。

…俺以外の誰も、奈緒子のこんな顔見たことないんだよな。

そう思うと満足感と、独占欲と、もっと見たいという慟哭に駆られる。

長い間突き続けたため少し腰が疲れ、限界を遠のけるためにも、少し動きを緩やかなものにする。

「あっ、あっ、あっ」

奈緒子は依然切なげな嬌声をあげ、俺を見上げてくる。
この程度の運動なら、片手でも自分の体重を支えられると判断した俺は、空いた方の手で、
奈緒子の胸を揉み上げた。

「はうっ…んんっ!!」

固く勃起している乳首を強くつまみ上げてみる。

「あぁんっ…やっ、だめぇ」

相変わらず奈緒子の反応は可愛らしい。
その表情を見ているだけで達してしまいそうになる。
上下運動ばかりでは芸がないと思った俺は、すこし腰を回してみる。
すると奈緒子は躰をビクビクと痙攣させ、思った以上の反応を返してきた。
膣と、その周りに溜まった愛液が、俺のペニスにかき混ぜられ、パチュンパチュンと厭らしく跳ねる。
奈緒子は赤い顔で、首を激しく横に振った。

「やだ…んっ!この、音…ふあっ、恥ずかし…」

奈緒子は自分の愛液が奏でる音がお気に召さないらしい。
俺はほくそ笑んで奈緒子に問いかける。

「音って、これか?」

──プチュっ、グチュッ

わざと水音が響くように腰を動かす。
恥ずかしさのあまり涙を流し抵抗する奈緒子。

「やぁっ!!やだっ、やだぁ!!」
「でも、君が、たてて、るん、だろ」

腰を回しながら問いかける。
奈緒子は俺の言葉に更に顔を赤らめる。

それと同時にきつく俺を締め上げてきた。
今までの反応から察するに、膣の締まりが良くなるときは、奈緒子が感じているときと一致するらしい。
つまり奈緒子は俺に言葉で攻められ感じている、ということだ。
本人は隠しているつもりだろうから、まさか結合部から伝わる感触で、俺にまるっとお見通されている
とは思うまい。
そう思うと必死に抗う奈緒子が小さく見えて可愛かった。

さっき一度達した甲斐あり、奈緒子のきつい締め付けにも、俺のペニスはもう少し保ちそうだ。

…あれがなかったら、もうとうにイッてるかもな。

そう考えると先程の、自分的には情けない射精も、役にたっているのかもしれない。

それはそもそも、俺はあることを実践に移そうかどうか思案していた。
折角奈緒子と結ばれたんだ。出来うる限りの事をしてみたい。
いろんな角度から奈緒子を味わい、俺に貫かている様を見たい。
やはり、俺はそれを実行することにした。

腰の動きを休め、片手を奈緒子の左の太股に添える。

「はぁ…はぁ…」

息もまばらの奈緒子を暫し見つめた後、奈緒子の片足を大きく上に掲げた。

「んんんっ!やっ!なに…して…」

奈緒子は抵抗しようとするが全くの徒労に終わる。
何せ快感で恍惚とした奈緒子には、まったくと言っていいほど、抗う力は残っていなかった。
掲げた左足を俺の右肩に乗せ、交差したように交わる体勢になる。
限界かと思われていた挿入深度も、まだ余裕があったらしく、奈緒子の膣内に、ペニスが深く突き刺さった。

「ふぁっ!きつっ…んんっ!」
「っ!!…うっ」

ゆっくりとピストンを再開する。
そのまま俺は奈緒子の左足の下をかいくぐり、今度はその足を俺の左肩に乗せる。
すると丁度奈緒子だけ先程の体勢、つまり正常位だが、から横向きになる形となる。
奈緒子の色っぽい横顔を見ながら、俺は激しく突き上げた。

「うぅんっ!!んっ…ふあっ!!」

奈緒子が快感の涙を流す様がよく見える。
しかし、この体位だとどうやら挿入が浅いらしい。
俺も奈緒子も先程の深い挿入による快感を貪った分、微妙に満足できず焦燥感が募る。

……なら、こうしてみるか。

俺は代わりにさっきの挿入ではしなかったことをしてみた。

「ああぁんっ!!きゃうっ…やぁあっ!!」

効果覿面だ。
愛液でヌルヌルと滑るクリトリスをこね回すと、奈緒子は高い嬌声をあげ、ペニスをきつく締め付けた。

「だめっ…うえだ、さ…それ、だめぇ!!」
「それ…って?なんだよ」

奈緒子の反応を見下ろしながら意地悪くほくそ笑む。
もちろん手も、腰も、動きを休めたりはしない。

「そ、そこぉ…んんっ、触、られるとっ!あんっ…おか、しく…なっちゃ…きゃあんっ!!」

俺は荒々しく奈緒子の躰を回転させた。
奈緒子を四つん這いにさせ、尻を突き出させる。

「!!!?!…やぁあっ!!」

その屈辱的な体勢に、奈緒子が必死に抵抗する。

俺の想像以上に、もう殆ど残っていないはずの力が奈緒子から発揮されたことが、
奈緒子がどんなにこの体勢を厭がっているかを、俺に印象づける。
だが、奈緒子が抵抗すればするほど、俺は欲情し、暴れる奈緒子の尻を押さえつけた。

「いやっ…いやぁっ!!」

結局敵わないことを悟り、奈緒子はシーツに顔を埋める。
俺はそのまま奈緒子の腰に手を回し、凄まじい速さで奈緒子を突き始めた。

「んんーっ!!んっ、んっ」

奈緒子が喘ぐが、シーツに顔を埋めているため、口を封じられているかのような声になる。
俺はその声に興奮しながら、奈緒子との結合部に目を遣った。

……本当に入れてるんだな

今、自分が奈緒子の膣に、ペニスを挿入していることをはっきりと思い知る。
俺の目線からは、激しく出し入れされるペニスと、その度にめくりあがる奈緒子の肉壁が、
はっきりと見てとれた。

ブチュブチュと溢れ出る愛液が奈緒子の秘部どころか、尻全体を濡らし、俺のペニスもその恩恵で
濡れて光っている。
ふだん見慣れている自分のペニスがなんだか突然卑猥な物体に変化したように思え、不思議な感覚がした。
今まではっきりとは見えなかった奈緒子の菊穴も、綺麗な色をしていて、くぼんだそこは、
愛液のたまり場になっている。

「やあぁっ!!この…かっこ、やだぁ!!」

顔を横にずらし、やっと鮮明に聞き取れた奈緒子の声で、ハッと我に返る。
俺はかなり長い間自分と奈緒子の結合部に見とれていたらしい。
高まりが治まりきらないところまで来ていることを、本能で感じ取る。

奈緒子の腰を掴む手に力を込め、思いきり腰を引き、打ち付けた。

「はうぅっ!」

奈緒子が痙攣し、部屋にパァンと、肉のぶつかり合う激しい音が響く。

「やっ…やぁっ…」

よほど恥ずかしいのか、奈緒子の躰は小刻みに震えていた。
もう一度、腰を引き…

「んっ…んんーっ!!」

打ち付ける。

「あああぁっ!!」

再び奈緒子の絶叫をかき消すほどの打ち付け音がこだまする。
次第に突く速さを速めていくと、打ち付け音はパンパンパンッとリズミカルな音に変わり、
それに合わせて奈緒子の喘ぎも一際感極まったものになった。

「…っ!!くっ…うっあっ!!」

ペニスを膣壁で擦りあげられる快感に、俺も思わず声を漏らす。
かき混ぜられた愛液は泡立ち、四方に飛び散る。

限界はそう遠くない。
俺は奈緒子の腰にある手を、片方はクリトリスに、片方は乳房へと移動させる。
奈緒子の喘ぎ声を近くで聞きたいという理由も兼ねて、若干前屈みになる。
汗で背中や首筋に貼りついた、奈緒子の美しい髪の毛が、何とも艶めかしかった。

「あうっ!!ああぁんっ!!はんっ、はっ…ふあっ!!」

狂ったように喘ぐ奈緒子。
もっと乱れさせたい。まだ足りない。
クリトリスをこね回し、乳首をつまみ上げる。
瞬間、膣が痙攣し、ジュッと愛液が噴き出す。

実は奈緒子はもう何回か達しているのかもしれない。
そう思わざるを得ないほどの愛液の量。
奈緒子の太股を伝うこともなく、ボタボタとシーツに落ちていく。
顔や体が火傷したように熱いが、結合部の熱はその比ではなかった。
奈緒子に負けじと、俺も狂ったように腰を振る。
奈緒子も俺の動きに応えるように腰を上下させていた。

ふと、奈緒子がなにか訴えていることに気付く。

「あぁっ……だ、…さんっ……こっ…?はあぁんっ!」

このままでは喘ぎでうまく喋れないらしい。
射精しないよう丹田に力を込めながら、動きを緩める。

「はぁ、はぁ、…you?…何か、言ったか?」

俺の汗が奈緒子の背中にポタポタと落ちる。
行為に夢中で気が付かなかったが、奈緒子はいつの間にか快感以外の理由で涙を流していた。
嗚咽まじりに奈緒子が叫んだ。

「…ふっ、うっ…上田さんっ…どこ…?!…ふぅっ…私、怖っ…上田さんっ!」

それは奈緒子からの恐怖の訴えだった。
慌てて、奈緒子の躰を回転させ、向き合う形にする。
奈緒子の顔は涙と汗でグシャグシャだった。

「you、ここだ!俺はここにいるぞ!!」

目の前の奈緒子に、必死に自分の存在を訴える。
おそらく奈緒子は、あまりに激しく後ろから犯され、快感のあまり自分のおかれた状況が分からなくなった
のだろう。
誰に犯されているのかも分からなくなり、咄嗟に助けを求めたのが俺だった、と。

欲情のあまり自分を見失い、そして奈緒子までも錯乱させてしまった自分を心の中で強く叱咤する。

…くそっ!最低だな、俺は。

「はぁ…ごめんなさい…私…混乱して…」

こんな時まで奈緒子は自分を責める。
せめてもの償いに、奈緒子の汗と涙を手で拭いながら、俺は首を横に振った。

「君は悪くない、俺が……っ!!」

俺の言葉を奈緒子の唇が遮った。
初めての奈緒子からの口づけ。
奈緒子が唇を離し、恥ずかしそうな表情で、ゆっくりした口調で、俺に言った。

「上田さん、好き…です」

やっと、本当にやっと、奈緒子が自分の気持ちを口にした。
言われなくとも分かってはいたが、やはりはっきりと奈緒子の口からそれを聞くと、
思わず感動で泣きそうになってしまった。
そんな俺を可笑しそうに見る奈緒子。

「んっ…上田さん、動いて…いいですよ」

まだ繋がっていたため、限界が近いペニスの動きが奈緒子にも伝わっていたらしい。
結合部から相手の感度を感じ取っていたのはどうやら俺だけではなかったようだ。
奈緒子にも俺が感じていることはどこまでもお見通しだったというわけか。

…やはり、こいつには敵わないな。

一人苦笑し、最後の突き上げを開始した。

「んっ、あんっ…あぁっ!!」

もう二度と奈緒子に俺の存在を忘れさせたりなどしない。
そんな思いを込め、奈緒子をきつく抱きしめる。

「うえださっ…あぁんっ!うえださんっ!!」

何度も俺の名を呼ぶ奈緒子が愛しくて抱きしめる力が強くなる。
グチュグチュと厭らしく音を立てながら秘部を突き上げる。
奈緒子も先程より積極的に腰を押しつけてくる。
一秒でも長く、奈緒子とこうしていたいという思いだけで射精を抑えてきたが、
もうとうにその限界を越えていた。
まだ達していないのが自分でも不思議なくらいだ。
だが、もう少し、できれば、奈緒子と一緒に…。
パンパンッと激しく腰を打ちつけ合い、お互いを貪る。

「あぁあんっ!!もっ…だめっ…はうっ、わ、たし…!!」

思いが通じたのか、奈緒子も絶頂が近いらしい。

「奈緒子、一緒に……っ!!」

名前を呼んだ瞬間、奈緒子の膣が格段に締まりを強める。

──グチャッ、ヌチュッ、クプッ

お互いの腰回りに飛び散った奈緒子の愛液が、潤滑剤となり俺達の高まりを助長する。

「あっ!あっ!上田、さっ…も、私…イッちゃ…!!!」

奈緒子から限界の申し出が上がり、いよいよ最後だと俺はピストンを強める。

「ああぁんっ!うえ、ださんっ!…すきっ!だい、すきぃっ!!……んあんっ!!」
「あぁ、はぁ、はぁ…俺も、好きだ…っ、奈緒子っ!」

奈緒子が俺の首に両手を回し、お互い熱で視界が定かでないまま、感覚だけで相手の唇を貪る。
汗や唾液で口の周りをお互いベトベトにさせながら、それでも俺達は限界まで口づけ合った。
今まで素直になれず、伝えられなかった思いも、理性の飛んだ今ならいくらだって口に出来る。伝えられる。

「っ!奈緒、子っ!奈緒子っ!」
「はあんっ!だめっ、もぉっ…イっちゃ、わた…し、だめっ、イくっ…!!あぁああんっ!!」

奈緒子が絶叫し、四肢を痙攣させ、膣がもの凄い勢いで伸縮を繰り返す。
結合部からパァンッ!というけたたましい肉のぶつかる音が発せられる。
急いで抜こうとする俺のペニスに、奈緒子の膣は逃がすまいと吸い付いてくる。
それでもなんとか俺は腰を引き、膣内に射精するのだけは避けようとした。
途端、奈緒子の足が、どう考えてもわざと、俺の腰を押さえつけた。

「っっ!!奈緒、子っ…うっ、あぁっ!!」

──ドクンッ!!

射精の瀬戸際だったペニスが、まだ伸縮を繰り返す膣内で保つ筈もなく、大量の精液が奈緒子の膣内に
注がれる。

「っく!……あっ!」

長い、長い射精が続き、俺は奈緒子の上に倒れ込まないよう、体勢を維持するだけで精一杯だった。

射精が終わり、それでもまだ少し勢いを残すペニスを膣から抜き取る。
同時に、ゴポッと音を立てて、奈緒子の膣から、俺の精液と奈緒子の愛液の混ざった液体が溢れ出る。
その卑猥な光景を、俺は朦朧とした意識のまま見つめた。
ゴポゴポと溢れ続けるそれに、先程の全てを放出しきるような射精が思い出される。
俺は奈緒子が苦しくないようにゆっくりと体を倒した。
二人の荒い息づかいだけが部屋にこだまする。


初めに言葉を発したのは俺だった。

「はぁ、はぁ…you、どうして?」

疲れ切った体を奮い立たせ、奈緒子の顔をのぞき込む。

「何の…ことですか?」

奈緒子もまだ、先の快感を色濃く残した表情で俺を見た。

「何って…どうして中で出させたんだ」

俺は奈緒子の先程の行動が理解できなかった。
奈緒子は顔を赤らめ、自嘲のような笑みを浮かべる。

「自分でも分からないんです。安全日でも中で…その、出すのは危険だって分かってはいたんですけど、
なんか上田さんの切なそうな顔見てたら、まだ離れたくない…って思って、気が付いたら…」

抱き合っている時、俺が奈緒子のことを愛しく思ったように、奈緒子も俺のことを…。
そう思うと奈緒子への気持ちが堰をきったように溢れ、俺は奈緒子をきつく抱きしめた。

「ちょっ…上田さん、痛いですよっ!」

奈緒子が照れたように笑う。

もっと早く抱き合えば良かった。
今までの奈緒子との関係があまりに心地よくて、それを失うのが怖くて、ずっと好きだと思っていたのに、
自分の気持ちをはっきりと伝えきれずにいた。
だが、事実奈緒子を抱いた今、奈緒子への想いが今までとは比べものにならないほど膨れ上がってるのを
強く実感する。

「…これからはもっと素直にならないとな」
「え?何か言いました?」
「いや、何でもない」

俺は宝物に触れる想いで、奈緒子にそっと口づけた。



「それは、そうとお互い体中ベタベタだな」

俺はいつも通りの明るい口調で奈緒子に話しかけた。
奈緒子がさっきまでの行為を思い出したのか赤面する。

「う…そうですね」
「どうだ?一緒にシャワーでも…」
「結構です」

俺の言葉を奈緒子は冷たく遮った。
一人、シーツで躰を隠したままベッドから降りる。

「ふっ、何を今更恥ずかしがってんだか…」

呆れたように吹きだし、奈緒子をからかう。

「う、うるさい!先にシャワー使うぞ」

俺をあしらい、風呂にいこうとする奈緒子。

…おもしろくないな。

ふと、机の上にあったあるものが俺の目に留まった。

「おおう?そうか、その手があったか……ちょっと待て、you」

奈緒子がうんざりとした表情で振り返る。

「何ですか?一緒にシャワーなら嫌ですよ」
「まぁ、いいから。youの横にある机に黄色の封筒があるだろう?」

奈緒子が机に目を遣り、封筒を手にする。

「これですか?」
「中を見てみろ」

ほくそ笑みながら、奈緒子の一挙一動を見守る。
奈緒子は中に入っていた紙切れに書かれた文字を読み上げた。

「なになに?…麻布十番高級焼肉店焼肉食い放題券?!?これ前にも見たことあるぞ…
ん?期限期日…今日まで?!?!」

奈緒子がゴクリと喉をならす。

「こ、これが何か?」
「また知人から手に入れてね。昨日まですっかり忘れていたんだ。でな、その券は二名限定なんだよ。
多くの友人に尋ねてみたんだが、残念なことに今日都合のつく奴がいなくて…」

奈緒子は顔をしかめて俺を見る。

「嘘つけ!友達いないだろ!」
「うるさい!いいから聞け!まあ、とにかくだ。しょうがないからその券のことは諦めようと
思っていたんだよ。とまぁ、それだけの話だ。……あぁ、引き留めて悪かったな。シャワーだろ?
行って来いよ」

奈緒子から券を取り上げようと手を伸ばすが、奈緒子は素早く俺の手から逃げる。

「……しかたないから、行ってあげてもいいですよ?」

…かかったな。

俺は心の中でにやけながら、表面では至って普通の振りをする。

「行くって?どこにだよ」
「だから、その、焼肉ですよ!タダ券無駄にするなんてもったいないだろ!」

奈緒子の言葉を聞き、俺は大げさにため息を吐いてみせる。

「you、それが人にものを頼む態度か?」
「…う、…お願いします。連れてってください」

奈緒子が頭を下げたあと俺を見る。
俺は計画の成功にほくそ笑みながら、奈緒子に言った。

「いいぞ。ただし、こっちにも条件がある」








「ふーっ!!」

俺は、風呂で火照った体を一杯の牛乳で冷ましていた。
冷蔵庫に牛乳を戻し、時計を見ると既に午後1時を廻っていた。

「まずい!もう『哲、この部屋』の始まる時間じゃないか!」

髪を拭いていたタオルをソファーに投げ、俺は寝室に戻りテレビをつけた。
ブラウン管の中では、ちょうど渡辺哲氏が番組の初めの挨拶を始めるところだった。

「はぁー、何とか間に合ったか」

安堵し、ベッドに腰を下ろす。
そこには疲れ切った奈緒子が眠っていた。

その横顔をみながらひとりごちる。

「疲れただろうな。結局、しゃぶしゃぶと骨付きカルビをつけることを条件に、風呂場でもう一回…」

奈緒子の寝顔を見て、先程の行為とその時の奈緒子の様子を思い出し、自然とにやける。

「あぁ、そうだ。番組の途中だったな」

にやけ顔を引き締め、意識をテレビに戻す。
何事もなく番組は進み、俺は日課である快適な一時を終えた。

ここでやっと、俺はある違和感を覚えた。何か、変だ。
横で奈緒子が寝ているのに快適にテレビ視聴ができるなどありえない。
何だ?何がたりない?

答えが解らないまま奈緒子を見る。
奈緒子はスヤスヤと寝息もたてずに眠りこけていた。

寝息もたてず…?
そうか!寝言だ。
いつもの奈緒子なら『お侍さ〜ん』だの『お代官さま〜』だの、とにかく眠っていてもやたらうるさい。
それが、今日に限ってなぜ?……もしや。


「こいつ、SEXの後だと疲れて熟睡するのか?………そうか、ふっ、ふっふっふっ」

俺は声をあげて笑い出した。

もう、こいつの寝言に苦しむことはなさそうだ。


《おまけ》

麻布十番の高級焼肉店、そこに俺と奈緒子はいた。
奈緒子は次々と皿を空にし、店員を青ざめさせている。

「you、もうその辺にしとけよ」

奈緒子は口に肉を含んだまま答える。

「ふぁんでですふぁ?…こほんっ、食い放題なんだから食べられるだけ食べますよ!
まだまだ、腹六部ってとこだな!」

そう言って腹をさする様を、俺は呆れたように見る。

…しかし、本当に焼肉が好きだな、こいつは。…ん?焼き肉と言えば…。

「なぁyou、こんな話を知ってるか?」

俺は嬉々として奈緒子に話しかけた。

「何ですかぁ?また、変な霊能力者の話とかなら…」

奈緒子が面倒くさそうに答える。

「いや、そんなんじゃない。君は焼肉屋にいる男女の定義をしっているか?」
「肉食ってる」
「当たり前だ!!…違うんだよ、そういうことじゃないんだ、聞いて驚くな?
焼肉屋にいる男女は間違いなく恋人同士、そして必ず肉体関係がある」
「ゴホッ!!」

奈緒子が盛大に吹き出した。苦しそうに喉を押さえているので水を差し出す。

「どうだ、当たってるだろ?」

水を飲み終え、奈緒子は赤い顔で俺に応える。

「な、なに言ってんだ!だいたい、私と上田さんが焼肉屋でご飯食べるの、今日が初めてじゃない
でしょう?!そりゃあ、今日は、当…たっ…て、るかも…し、れない…けど」

奈緒子の声はどんどん小さくなり、それに反比例して顔は赤くなっていく。

「僕なりに検証してみたんだが、要はスタミナだよ。これからあんなに激しい運動をしようとするんだから、
焼肉食ってスタミナつけようってわけだよ。はっはっはっはっ」

思わず笑いがこみ上げる。
奈緒子は真っ赤な顔で俯いている。

「上田!声でかい!!」
「youもそう思うだろう?いやぁ、俺もあんなに疲れるものだとは…」

話を止めない俺を引きずり店を飛び出した奈緒子は、結局腹六部しか焼肉を食べることができなかった。






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