上田次郎×山田奈緒子
![]() 「じゃ・・・いいな」 心なしか色の白い山田の顔がさらに白く (この場合青いといったほうがいいのかもしれない) なって俺を見上げている。 「・・・おう」 俺は山田を組み敷いて、全裸で布団をかぶり、 彼女は覚悟を決めたように返事をした。 ―――ええと、なんでこんなことになったんだっけ。 簡単にいえば、山田が池田荘に ここ数ヶ月、家賃を払っていなかったからだ。 珍しく、彼女が俺の部屋を訪ねてきた。 なんとも、言いにくそうに、 「・・・今夜泊めてください」 と、さすがに冷静な俺も固まった。 「・・・それは、あれか?交際している男女が しばらくの期間を経て、遂にことに及ぶ・・・」 「んなわけないじゃないですか!・・・池田荘から、その・・・」 「・・・追い出されたのか」 ぐっ、と山田が妙に固まったのがわかった。 はぁ、とわざと大きくため息をついて、 「入れ。今日だけだぞ」 と、山田を招きいれた。 くれぐれも言っておくがこの時点で俺に下心は無い。 神妙にしていたのも最初だけで、 山田はソファーでテレビを見るのに熱中している。 まったく、山田には女性として何かかけている気がする。 「おい、何を見ているんだ」 「水戸黄門の再放送です。 やはり助さん角さんはあの二人に限りますね」 「俺はな、時代劇に興味は無いんだ。大体これは 俺のテレビだ。変えるぞ」 山田が抗議の声をあげる前にすばやくリモコンを取り上げて ほかのチャンネルに回した。 何年か前のトレンディードラマにチャンネルがあった。 「・・・趣味が乙女だぞ、上田」 「水戸黄門よりはましだ」 なんだかんだ言いながらも、 二人して集中しトレンディードラマを凝視していた。 お互い思いあっているのに、すれ違っている男女。 そいつらの行動がもどかしくて、つい山田と盛り上がってしまう。 「なんなんですかね、さっさと告白しちゃえばいいじゃないですか。 大体、一回お互い思いが通じ合ったのに、 なんではぐらかしちゃうんですか」 「それはそうだがな、you、男女の仲はそう簡単じゃないんだよ。 次の段階に進むのにはそれなりに難しいんだ」 「そんなことないでしょ。一旦告白したんですから」 きっぱりと言い切る山田に、俺は少々カチンときた。 「・・・いやにはっきり言うじゃないか。なら俺たちはどうなんだよ」 「え・・・」 やっぱり反応が返ってくるのは楽しい。 ドラマの中の男と女。 告白したのは男。返事をしない女。 それは今の俺たちによく似ている。 「俺は自分が思ってることは言ったつもりだ。 youはどうなんだよ」 「・・・それは・・・」 「それは?」 「それはっ・・・げ、現実とドラマは違うだろ!」 「一旦思いが通じ合えば 簡単だと言い切ったのはyouだぞ」 「・・・・・・」 言い過ぎたという思いはまったくもって無い。 だが、山田ははぶてた様だ。 「ほ〜ら、言ってみろよ」 間違っていないだけに上田の言っていることは性質が悪い。 くそ、なにか反論を・・・そうだ。 「・・・ふーん、あれ、告白だったんですか」 「何?」 上田が怪訝そうな顔をする。 畳み掛けるチャンスだ。ふん、と威張ったように笑う。 「あんな、じゅ、なんとかじゃわかりませんでしたね。 私、上田さんが本気かも知りませんもん 返事なんてできるわけが」 「ほー、じゃ本気ならいいのか」 「へ」 上田がじっと私の顔を見る。 「・・・俺は君が好きだ」 あまりのことに硬直する。 言った後で、自分でもかなりくさいことを言ったと思った。 俺たちの間に、男女の関係になるために邪魔なものは 意地の張り合いの他はあまりない気がする。 今、どっちが先に折れるかで この先の主導権が決まる、気がする。 負けてたまるか。 「返事。どうなんだよ」 声にわずかにからかうような調子が入るのは どうにも抑えられない。 山田の口がぱくぱくと、言葉にならない声を出している 滑稽な様子を思い浮かべていただけばいいだろう。 後は、目線を外さず、じっと見るのだ。 告白の後はそうすればいい、と どこかで読んだ気がする。 こういう時には記憶力のいい頭はすこぶる 役に立つものだ。 人間、じっと見られるとなかなかそいつと 目線を外せないと思う。 だー、上田め、なんてじっと見るんだよ。 気のせいか、顔が熱い。 「・・・どうせまた冗談」 「本気だ」 茶化すのを許さない、すかさずのツッコミ。 くそ、なにか言うことは・・・。 と、考えていたら不意に上田を見上げる形になった。 ソファーに倒れこんだようなものだ。 自分でも知らず知らずに体が後ろに傾いていたらしい。 上田が私の頭の両隣に手をついてじっと私を見下ろす。 「返事」 声が明らかに笑っている。 腹が立つのに口が動くだけで言葉にならない。 こういう体制で山田を見るのは初めての気がする。 白状すると、この辺りから下心が出てきた。 組み敷いた(という表現がここで正しいか判断しかねるが) 山田が妙におかしいというか、かわいい・・・?というか。 「・・・退いてくださいよ」 「返事したら退いてやる」 普段の山田なら俺を蹴っ飛ばして起き上がるのだろうが、 どうやら頭の中で軽くパニックを起こしていたらしい。 あたふたとして、顔が真っ赤だった。 込みあがってくる笑いを何とか押しとどめる。 もう一押しで落ちそうだ。 「・・・返事しないんならこっちからしようか」 「な、何を」 脅かすようにずいと顔を近づける。 驚いた山田の顔を見てから、一旦間をおいて、 口付けた。 え。今・・・。 上田の顔がすごく近い。 唇に何か触れて・・・。 ・・・・・・これは、世にいう、キス、というやつか? ・・・・・・私の記憶が確かなら、今までキスしたことは無い。 ・・・・・・。 えええええ、ファーストキスが上田ぁ!? 頭の中は爆発したみたいにいろいろ考えがめぐっているのに 体がぴくりとも動かせない。 っていうか何で返事しなきゃキスするんだとか 言いたいことは山ほどあるのに、 上田が妙なことを言うから、息をまともにできてなかったせいかもしれない。 指先まで麻痺したみたいにしびれてしまっている。 抵抗が無いのを意外に思いながら、唇を離した。 山田の顔を見る。 艶っぽい息。目が潤んで、色白の頬が微妙に薄紅に染まって。 思わず背筋がゾクリとする。 山田はこんなに色っぽかったか? と、いきなり腹に膝蹴りが入った。 ソファーから落ちる。 「おま・・・!痛いだ」 言いかけて、山田がいつもの表情に戻っているのに気がついた。 しまった・・・失敗した。 心の中で激しく後悔して、ふと見ると 山田の目からぼろぽろと涙が落ちていて、ぎくりとする。 「あ・・・そ、その、なんだ・・・す、すまん!」 反射的に謝ってしまった。 今までやってきたことが水の泡となったわけだが、 女性の涙に俺はめっぽう弱い。 今度は俺が動揺する番だった。 「よくあるだろ、その場の雰囲気に流されて、 ついやってしま・・・ってこれじゃフォローにならない・・・。 そうだよな、いきなり俺にキスされるのは 俺が女でも・・・ってこれじゃあ俺のキスは明らかに嫌なことに・・・」 「・・・このバカ上田!」 山田が握りこぶしで、一人でぶつくさ言っていた俺の胸に一撃食らわせた。 皆様は承知だと思うが、この女、外見に似合わず 腕っ節も足っ節も強い。(さっきの膝蹴りでもお分かりだろうが。) だが、今叩かれた胸は、あまり痛くなかった。 泣いていて力が入っていなかったのだろうと最初は思った。 けれども、どうも様子がおかしい。 泣いているのか、怒っているのか、叩いたまま 胸に置かれた手が微妙に震えている。 「・・・・・・あの、もしもし?山田奈緒子さん?」 「・・・・・・あー、そうだよ」 泣き顔で、きっと俺をにらみつけて、 一気にまくし立てた。 「わかりましたよ、男と女は例え思いが通じ合って一旦告白しても なかなか先には進まないんですよ!だけど、それは 心の準備ってものが要るからなんですよ、相手が いきなり自分を押し倒しでもしたら恋人だって驚くでしょうが! それまでの付き合いが長くて心地よかったら 崩したくないって思うのが人間でしょ!? だから今まではっきり言えなかったんだよ、 今までの関係崩したくなかったから!!」 激しい運動の後のように、山田はぜいぜいと空気を吸って、 落ち着いたというように大きく息を吐いた。 呆然として、俺は、 「・・・・・・え、それは、つまり」 山田はこの分からず屋!とでも言うように泣き顔で俺を睨んで、 「嫌じゃないって言ってるんです!!」 と、顔に手を当てて泣き始めた。 これは、つまり、・・・落ちたということか? そう分かって、拍子抜けした、というよりは安心した、というか だんだんうれしさが込みあがってきた。 ソファーの上で泣いている山田の背に手を回し、 こわごわ、できるだけやさしく抱きしめる。 「わかった・・・悪かったな。な?」 山田も、俺の首の後ろに手を回して抱きしめ返す。 それを感じて俺は、一応恋人になれたのかな、などと バカなことを考えていた。 私は仲間嬢ではなく奈緒子に萌えていて、 阿部氏は上田でも主夫でも刑事でもテロ犯でも燃え(萌え)ることが 最近分かってきた。 気まずくなったのが、夜になって 俺が風呂に入ってからだ。 ご存知かもしれないが、一人暮らしもあって 俺は風呂上りはパンツ一丁のことが多い。 いつもの調子で鼻歌交じりに風呂場から出てきて、 すっかり普段の様子に戻った山田と目が合ってしまった。 照れ、というよりはどっちも「しまった」という 顔をしたのは、言うまでも無い。 そうだ、今晩こいつはうちに泊まるのだ。 しまった。 私は今晩こいつのうちに泊まるんだった。 出された晩御飯をありがたく全部頂いて油断していた。 上田はその手のことに関して完全にアホなので、 この為に告白をさせようとしたとか (危うくそれより先の行為に至りそうだったとか)、 油断させるために晩御飯を出したとは思っていないが、 完璧に夜、ここで寝ることを忘れていた。 どうしよう・・・昼間の感じで行くと、 間違いなく今夜・・・以下省略。 「・・・今夜は、俺のベット使って寝ろ」 完璧に固まって、どうにもならなくなったので 俺はしょうがなく先に口を開いた。 「ちょ、いやですよそんな、告白したその日にいきなり」 瞬時に山田の顔が真っ赤になる。 「そうじゃない!俺がソファーで寝るって言ってるんだ!」 「あ、そういうことか・・・」 あからさまにほっとしている。 ふん、その手のことに関してはホントにお子ちゃまだ。 「君みたいなお子ちゃまにすぐに手を出すほど 僕は腐っていないんでね」 上田が小ばかにしたように言ったので、 さすがの私も少々ムカッと来た。 「な、私だってもう二十代後半なんだ、 十分大人の女ですよ」 「はっ、大人の女だ?一緒に寝ると誤解して 真っ赤になる大人の女がどこにいるんだよ」 からかっている。明らかにからかって楽しんでいる。 ・・・ほおぉ。ふーん!私の魅力がそんなにわからないか。 ひさびさにかなり頭に来た。 「そこまで言うんだったら試せばいいじゃないですか」 「は?」 完璧に予想外というように、上田が間抜けに返事をした。 売り言葉に買い言葉、というんだっけ。こういうのは。 私は湯船に浸かってぼんやりと考えていた。 この二、三年、こういう事がよくある気がする。 そうだ、インチキ霊能力者たちと勝負するときだ。 ただし、あいつらの時はただトリックを暴けば良いが、 今からのことには、トリックも何も無い。 ・・・私、馬鹿だ。 自分の愚かさを呪っていると、上田の声がした。 「のぼせてるのか?」 「いいえ!」 声が上ずってしまった。 風呂場にいる山田に聞こえないようにドアを離れて、 俺は台所で腹を抱えて笑いをこらえた。 ・・・笑ってはいけない。山田にとっては貞操の危機だ。 しかし・・・。 本当に抱くのか? 俺にも多少戸惑いがあった。 山田はあの調子だし、何より俺のモノが・・・じゃない、 今まで俺たちはへんてこな関係で、 これからもそれが続くものと思っていた。 もし手を出すのだとしたら・・・そうなるのなら あいつも俺も真面目にならなければ。 ・・・遅い。 さっき声をかけてからゆうに三十分は経っている。 風呂に入ったのがそれより二十分前だから もう五十分だ。 ・・・のぼせてるんじゃないだろうな。 風呂場のドアをノックする。 「おい、山田。聞こえなかったら返事しろ」 返事は無い。聞こえてない。 「・・・入るぞ?殴るなよ?」 注意しておく。俺の風呂場のドアには鍵がついていない。 そっと開けると、かなり蒸気がこもっていてむんとする。 曇った眼鏡をぬぐって浴槽を見てみると、 案の定のぼせて顔を赤くした山田が寝ていた。 色白の全裸に分身が少なからず反応したことは隠さないが、 いきなり襲うほど俺は野獣ではない。 「・・・アホか」 聞こえていないことをいいことに大きくため息をついて、 浴槽から山田を抱き上げた。 バスタオルでくるんでベットまで運ぶ。 くれぐれも言っておく。俺は野獣ではない。 例えモノが反応しているとしても。 横たわらせて、団扇を持ってきて扇ぐ。 顔にかかっていた髪をよけてやる。 ふと、手が止まる。 上気した頬、聞こえてくる息。 ・・・・・・。 だめだ。そんなことは断じて駄目だ。 手をどけようとしたとき、山田が目を開けた。 知らず知らず冷や汗が出てくる。 どうする。 あからさまに俺が 山田を襲おうとしているとしか思えない光景だ。 言い訳をしようと口を開きかけたとき、 山田がまた目をつぶった。 「へ」 ・・・こいつ、また寝やがった。 のぼせて頭が朦朧としているのだろう。とはいえ バスタオル一枚しかかかっていない状況で、 男を前にしてよくもまぁ・・・。 不意に笑いがこみ上げてきた。 「・・・だめかこりゃ」 暑くないように薄い布団を一枚体にかけてやって、 俺はソファーで寝ることにした。 目が覚めると、見慣れない天井があった。 ・・・なんだろ、体がスースーする・・・。 自分が裸だということがわかって、 慌ててベッドから飛び起きた。 バスタオルと布団をかき寄せて考える。 え、な、何で裸!?たしか 風呂に入っていたまでの記憶はある。 ふと横を見ると、団扇が転がっていた。 ということは、私はのぼせたということか・・・。 ・・・ちょっと待て?ならなぜ私はベッドで寝ていた? ・・・・・・。 突然、とてつもなく恥ずかしいことが起きたのだと分かった。 上田に裸を見られた!?なんて事をしたんだ私は! いや、裸を見たのは上田だから私はなにもしてな・・・そうじゃなくて!! 寝てる間に変なことをされたんじゃ・・・。 うわああああ、今日はなんだか調子が変だぞ奈緒子! あれ、そういえば上田はどこだ? とりあえず風呂場で服に着替えようと居間を通り抜けようとしたとき、 「起きたのか」 といきなり上田の声がして 危うく布団とバスタオルを落としかけてしまった。 見ると、ソファーに呑気にも寝転がっている。 「ちょ、人がお風呂に入ってるときに何勝手やってるんですか!?」 「君がのぼせてたから出してやったんじゃないか!」 「にしても裸・・・!」 「なにもしてないんだ、見たって減るもんじゃないだろ!」 「そういう問題じゃ・・・」 え?なにもしてない? ふん、あからさまに安心している。 「・・・ほんとに?」 「ああそうとも」 茶化してやろうと思ったが、やめた。 薄い布団とバスタオルだけの山田は、 言っちゃあなんだが、結構そそるものがある。 だが、山田はまだそんな心の準備できてやしない。 「・・・ほれ、さっさと寝ろ。 とっとと服着てな」 そう言った上田の顔が、妙に寂しそうに見えて、 なんとなく心に引っかかる。 「・・・なんでそんな顔するんですか」 「ん?どんな顔だ?」 自分の顔が見えないって、 こういうとき説明するのに不便だ。 私にはさっきの上田の表情に見覚えがある。 死んだ父。或いは母がする顔だ。 大人が子供を見るときの目。 「・・・まるで子ども扱いじゃないですか」 少し驚いた様だったが、すぐにいつもみたいに 鼻で笑う。 「もう寝ろ」 まったく、男心が分からない奴だ。 せっかく人が抑えてやってるってのに。 山田はそんなことを露知らず、 俺の目の前まであの格好でのこのこ歩いてきた。 子ども扱いされたのを怒っているのだ。 「さっきはキスしたくせに」 「まるで手を出してほしかったみたいな口調だな」 山田はむっとして言葉に詰まったようだが、 小さくつぶやいた。 「・・・だって好きなら触るくらいしたいでしょ普通」 「さっき泣いたじゃないか」 気まずい空気だ。 ・・・無理なことを言えば大人しくなるか。 「じゃあ抱きついてみろよ」 俺は無理だろうと思っていた。 何より山田は今、間にいくつか布があるだけの裸だ。 外見が大人の女でも、中身は まだまだ色気のいの字も知らない奴だ。 妙な気分だ。 からかわれている。 だが嫌な気分はしない。 多分大人として試されているからだろう。 私は布団とバスタオルをずり落ちないように抑えながら、 上田に抱きついてみた。 肌が触れ合うのが妙にこそばゆい。 気がつけば、俺はベッドに山田を組み敷いていた。 ・・・もしや私は迂闊なことをしたんだろうか。 明かりはベッドスタンドだけなのに、 (あの音がするとつくやつだ。どこかで見た気がする) 上田の顔は妙にはっきりと見えた。 いつもと変わらない・・・はずなのに、 すぐに返事ができない。 こんなに上田の顔をずっと見ているのは 初めてなんじゃないだろうか。 「・・・昼間の返事、真面目に考えちゃだめか」 「どういうことですか」 「俺に触られるのが嫌じゃないって言ったよな」 「言いましたね」 「触っちゃだめか・・・いや、その・・・なんだ、 セ・・・」 「リーグ。合併問題にゆれてますね」 「じゃない!おまけにパリーグだ!・・・ああ、だからこうだ!!」 上田の腕が私を抱きしめる。 俺たちはいつだってそうだ。 本音を隠して、はぐらかして、 素直になったかと思ったらまたひねくれて。 両方素直にならなきゃ始まらない。 「君と・・・セックスしたい」 いまさら隠してもどうにもならない。 抱きしめた山田の肌が心地いい。 情けないが、理性が煩悩に根負けした。 だが、山田が妙に愛しいのは煩悩だけのせいじゃない。 ・・・こういうことを言うのは、やはり気恥ずかしいものだ。 そうつぶやいた上田が妙に小さく (体が小さく見えたのではない。態度のことだ) 思えて、なんだかこっちが恥ずかしくなる。 抱きしめられているので 見えるのはベッドスタンドに照らされた天井ばかりだ。 だが様子から察すれば、きっと上田の顔は耳まで真っ赤なのだろう。 「俺は正直に言ったぞ。・・・youも正直に言えよ」 はぐらかせない。顔が熱い。 心臓の音が上田に聞こえそうなぐらいうるさい。 「俺は・・・いつまでも我慢できるほど 大人じゃないんだよ」 何をいっていいかわからない。ただ、上田が妙に愛しい。 ・・・こういうことを書くのは、ちょっと気恥ずかしい気がするけど。 さっきみたいに、上田に抱きついてつぶやいた。 「嫌じゃないって言ったじゃないですか」 以上が、今現在までの回想だ。 首筋にキスをして、 山田が心なしか青くなっていたのは 気のせいかもしれないと思った。 さっき抱きしめた時だって暖かかった。 心地いい体温と肌。女の匂い。今までずっと触れたことのなかった裸。 ともすればずっとなでていたいと思ってしまう。 くすぐったいのか、頭を抱きしめかけたり、 俺の背中に手を回す山田が面白い。 触るたびに、体がぴくりと反応する。 声も色を帯びてくる。 くすぐったいのか、体の心が疼くというのかわからない。 徐々に頭の中が霧に覆われるみたいだと思った。 ぼんやりと、ただ真っ白になって、 触れ合う肌からの刺激だけが鮮明だ。 最初のうちはそんな感覚だけで十分だったのに、 なんだか核心をえない、というか。 上田はただ肌を撫で回して、それに口付けているだけなのだ。 「・・・上田さん」 「何だ」 「その・・・まだなんですか」 「何がだ」 何がって、そんなこと決まっている。 私が口に出せないでしかめ面をすると、 ふっと笑って言った。 「もう少し待ってくれ。いい匂いがするもんだと思ってな」 そういってまた首筋に口付けた。 「・・・上田さん、いいかげ」 言いかけて、唇がふさがれる。 口の中に舌が入ってきて、私の舌に触れる。 こんなキス、やったことがないから、息をどうしていいか分からない。 頭がぼおっとする。体の心がしびれてくる。 口を離してやると、艶っぽい息をする。 当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、 こいつは女なのだなぁ、などとあほなことを考えた。 直ぐにまた深く口付けて、唇を吸い上げる。 苦しいのか、息をしたそうにもがくが、 そんなことはお構いなしだ。 ・・・趣味がサディスティックだって? こっちだって長い間お預けを食らってきたのだ、 それくらい許されてもいいだろう。 突然、あそこに何かが触れた。 驚いて手で退けようとしたが上田が腕を上手に押さえ込んで びくともしない。 それが指だと分かって、顔に火がつきそうなほど恥ずかしかったが キスしているし、腕も自由が利かないからどうにもできない。 ・・・これって、完全に上田のペースに 飲まれてるんじゃないだろうか。 抵抗する山田を押さえつけ、 指で花弁をいじる。 本当は間近で見たいところだったが さっきの膝蹴り然り、足技が怖い。 手を離すと殴られそうなのでそれも怖い。 ・・・山田が怖いというのはここら辺にしておこう。 すでにそこは濡れ始めていた。 秘部のさらに奥に指を伸ばす。 初めて入ってきた異物を、そこはしっかりと締め付ける。 指一本だけなのにこれだけ締め付けて、 規格外の俺のモノが入ったらどうなるのだろう。 まだ入れるには早い。 敏感なそこに何度も指を出し入れする。 その度に山田の身体はびくびくと跳ねて、 自然に俺のモノも持ち上がってくる。 キスでふさいでいた口を離してやった。 「・・・あっ!」 出てきた声が驚くほど女っぽくて、 背筋がぞくりとする。 頭が、ヘンになる。 上田が撫でるたび、まるで 頭まで直通で電流が走るみたいだ。 息ができていないんだろうか、 ひどく苦しい。 訳もなく涙が出そうになる。 何も考えられない。 次の瞬間、今までの比じゃない刺激で、 私は悲鳴に近い声を出した。 山田の身体が大きく跳ねた。 上げた声も今までより艶めいている。 指に小さな丸い感触。 (・・・これが世にいう、クリトリスというやつか) 執拗なまでにそこを擦る。 腕と足を俺が押さえつけているから、 山田は身もだえするしかない。 キスをしてももう何がなんだかわかっていないようだ。 もう秘所も大分潤ってきている。 モノも限界だ。 俺は山田に欲情を突き立てた。 何かが、身体の中に入ってきた。 その感覚で我に返ったが、 キスされている上に手も足も動かせず何の抵抗も出来ない。 ただ、上田がそれを私の中に入れるのを じっと待っているだけ。 さすがに自慢の巨根だけあって、見えはしないが 感覚で馬鹿にでかいことはわかる。 中が擦れるとさっきと同じ、電流が走るような感じがして 気がおかしくなりそうだ。 その上入ってくるのに時間が掛かるからたまらない。 先端に何かが当たった。 多分そこが最奥なのだろう。 俺は腰を進めるのを止めた。 きついぐらいの締め付け。 直ぐにでも出してしまいたいぐらいだ。 ・・・ん?だが何かおかしくないか。 なんだ、なにか変な感じが・・・。 ・・・そうだ、山田は処女のはずじゃないか、 何で痛がらないんだ? 唇が離れた。 下からの妙な圧迫感と舌を入れるキスとで 息苦しさを感じながら私は空気を吸った。 「おい」 ぼおっとした頭で上田を見上げる。 「お前、今までに誰かとセックスしたことがあるのか?」 一気にぼんやりしたものが無くなった。 「・・・はい?」 上田は少しいらついているようだ。 「だからしたことはあるのかと聞いているんだ」 よりにもよって、している最中に聞くことだろうか。 上田の態度がいやにでかいのが気に触って 思わず答えてしまった。 「・・・ええありますよ。残念でしたね」 ・・・・・・私はこう言ってしまった事を後で後悔するわけだが。 きた。久々に心底頭にきた。 うまく言葉にできないが、とにかくきた。 こいつ、笑って言いやがった。 「・・・そういう生意気なことをいうのかyouは」 油断していた山田を激しく突きたてる。 「え?あっ、やっ、あっ!!」 感じているのか、膣が急激にモノを締め上げる。 出てきた愛液が激しすぎる行為で泡立つ。 「う、えだ、あっ!ああっ、やっ、め!あっ!」 締め付けが一段ときつくなった。 俺は動くのを止める。 「あっ・・・えっ?」 息も絶え絶えに、山田が驚いたように俺を見る。 それはそうだろう。もう少しでいく所だったのに いきなり何もしなくなるのだから。 汗でしっとりとした肌がなんとも艶かしい。 ・・・山田のこういう姿を知っている野郎が他にいる。 「誰としたんだよ」 声が苛立っているのが自分でもわかる。 山田がむっとしたような顔をした。 「別に誰でもいいじゃないですか」 いいわけないじゃないか。処女だぞ。 初めての相手だ。俺だってしたこと無かったのに 何で山田がやったことがあるんだ。 ・・・いや、そうじゃない。 どんなやつがこいつとやったか知っておかねば。 いきなりなんだって言うんだ。 誰とやったかだって? 別にいいじゃないかそんなの。 今す・・・好きなのは上田なんだから。 ・・・ん?あれ、なんていうんだっけこういうの。 ちょっと考えた私は直ぐにピンと来て、にやりと笑った。 「何だその気味の悪い顔は」 上田は眉間にしわを寄せて、 何か嫌なものでも見たような顔をした。 「・・・上田さん、やきもちやいてます?」 やきもちだぁ? 何を馬鹿なことを言っているんだこいつは。 「はっ、俺がそんなものをやくわけ無いじゃないか」 思わず鼻で笑う。 「じゃあなんでそんなこと聞くんですか」 「それは、もしかしたら結婚するかもしれない相手が、 今までどういう男と付き合ってきたか気になるだろ」 「上田・・・そういうのをやきもちっていうんだ」 山田が少しあきれたように言う。 やっぱりやきもちじゃないか。 プライドも高いんだな、身長も高いだけあって。 「上田さん、私のこと信じられないんですか?」 「いや、そういうわけじゃない。断じて…」 眉間に皺を寄せて口端を下げている。なんだかもう泣きそうな表情だ。 バカみたいに強がっちゃってる。 もう…上田さんったらしょうがないんだから…。 言いたくはなかったけど、仕方ないや。 私は上田さんを押し倒して、騎乗位になる。 「いいですか?私は過去に一度だけセックスをしました。誰とどういう形でってのは言いたくないし思い出したくないことです。察してください」 いきなり俺を倒してきたかと思いきや、察しろだと? 山田は俺をバカにしてる。 「寝言なんか納得できるかよ!」 「こんの…上田のバカっ!」 怒鳴られたかと思えば、右頬がじんじんと痛かった。 そして山田は俺に泣き崩れた。 って、俺何かしたか? 上田のバカ!いくらなんでも追求していいこととないこともわからないのか? わからずや!鈍感!!最低!!!巨根!!!! 「出来るのであれば…上田さんに初めてをあげたかった…のに」 あはは、なんか涙が出てきた。なんていうか… ───上田さんの気持ちに答えられなくてくやしい…。 「でもキスは…上田さんが初めてですよ。それに…んっ…にゃぁ…ああっ!」 私は腰を自分で振った。慣れないことでゆっくりと、慎重に。 「自分でこう…動くのはぁあっ、初めて…あぅっ!はぁ」 上田のが奥に当たって気持ち良い。腰を振る速さが気付かないうちに速くなった。 恥じらいも、自然と消えた。 「山田…?」 目の前で、泣きながら腰を振っているのは山田なのか? 彼女を傷つけた。罪悪感が俺に重くのし掛かる。 山田は俺を好きだと言っている。でも相手の名前をはっきり言わないのは嫌だ。 しかし、話を聞けばこうして気持ちが通いあってのセックスは初めてだという。 ──俺が欲張りなのか。 キスだけでも初めてならそれだけでも嬉しい。 「YOU、すまない…」 体を起こして彼女を抱き締めた。 宙を舞う蝶を捕まえるように、優しく。 逃がさないように。 その小さな身体を包み込む。 「おい、泣くな…奈緒子。だから女性の涙は苦手なんだよ…。もうYOUを責めたりなんかしないから、な?な?」 耳元で甘く低い声で発す言葉が、私の思考回路や体を痺れさせる。 名字でなく名前で呼ばれて、背筋がゾクッとした。 声だけでも感じてしまう。 本来のセックスがこんなに気持ち良いのかと考えただけで、私は上田さんの存在を改めて大きなものだと感じた。 「上田さん…気持ちよかったですか?」 「ああ。でもまだ足りないぞ?」 上田さんはニヤリと怪しい笑みを溢しては、両手で私の足を抱えて腰を振り始めた。 「あ!あっ!あ…あうっ!!」 あまりの激しさに呼吸ができない。息が苦しくなり天を仰いで空気を求めた。 私は今どんな姿を上田さんに見せているのだろう? 俺の目の前にいる山田は淫らな姿だった。 膣はモノを再びきゅうきゅうと美味しそうに締め付け、 だらしがなく空いた口からは、甲高く掠れるような喘ぎ声と、唾液が漏れていた。 おまけに俺の動きにあわせて、腰を振ってくる。 「っあ…くふぅ!…ンン!うえだッ…ひぁ!!」 きっと山田がこんな姿を見せたのは俺以外居ないのだろう。 ずっとこいつと一緒に居たわけだが、ちっとも色っぽくなんてなかったんだからな。 「やめっ!あ…ああっ!」 「っく…奈緒子…」 考えているうちに興奮が高まり、たまらず押し倒して自分の勢いに山田を突いた。 動く度に汗が山田の胸にぽたぽたと飛びかかりながら、 打ち付け合う肌の音が、部屋に響いた。 私を揺さぶる激しさにもう頭の思考回路がショートしそうだ。 「や…まだ…、好きだ。好きなんだ…っ」 上田の表情が辛そうだ。 そんな切ない顔をしながら好きだと言われると私も辛い。 私も好きです、上田さん。 ああ…今上田に抱かれてる。そう改めて感じる。 上田のモノが私を突くと気持ちよくて声が出てしまう。 目の前が霞む…下半身が痙攣するかのように震え始めた。 なんだろう…早くこの感覚から抜け出したくって、上田を求めたくなる。 「うえださ…、も…とっ!ああぁ…もっ…とぉ!!」 もう、上田さん以外何も見えなくなった。 でもなんだか上田さんも消えちゃいそうで、恐くなった。 限界が近いのだろうか。 膣の締め付けが頻繁になってきた。 それと同時に山田が俺を求めてきた。 ……可愛い。いつもの態度とは大違いすぎて気持ち悪いくらいだ。 とはいえ、俺ももう射精してしまいそうだ。 あまりにも女性の中は気持ち良い。想像を超えていた。計算外だった。 俺としたことが。 もう少しこの快楽に酔いしれたかったが…たぶんこれが最後になることは無いのだから諦めよう。 あまり激しくしても山田が辛いだろうしな。 「あ…あッ──!!!」 俺は限界だと気を緩めた。 その瞬間、山田の中に勢いよく精液を注いだ… 山田…いや奈緒子、遅くて悪かった。はっきり好きだと言えたら、もっと早くこの時を迎えられただろうか──── いきなり上田さんが私の上に覆い被さってきたかと思いきや、私の中に何か熱いものが流れ込んだ。 それに私は気を捕らわれた。そして目の前が真っ白になった。 何か、抑えていた何かが弾けたような感覚だった。 「ぇ?ふぁ…あ!あぅ…やぁ…あつぃ…んぁあああーっっ!!!」 解き放たれた感覚に全身から力が抜けた。 体にまとわりつく空気が、やけに冷たく感じて気持ち良い。 ピクピクと身を小刻みに震わせ余韻に浸りながら、私はそのまま意識を失った。 上田さん、こんな私を抱いてくれてありがとう。 感じたってこのことですか? こんな気持ちは初めてです──── 「にゃ……、お腹空いたぁ…でも…カメ喰うなぁ!……っ!?」 私は変な夢を見て、はっと目が覚めた。 目の前にペットである二匹の亀が出てきて、思わず食べそうになる夢だった。 友達を食べるなんて冷や汗物だ。 「…!」 青いシーツの海にぽつんと裸の私。 ああ…この部屋上田さんの部屋だったっけ(一度しか来たこと無いからうろ覚えだけど)。 今何時かと見れば夕方だった。昨日の今日で私はぐっすり寝てしまっていたらしい。 となると、今頃上田さんは大学から出る頃かな? 「おかえりって言ってあげなきゃな。えへへへ!」 あと、上田さんが帰ってきたら住まわせてって頼んでみようっと! 強引的におしまい。かも。 以下、勝手にやむ落ち 「膣は処女でないなら、こっちならどうなんだ?まだ処女だろ」 「こら上田!お前ちゃっかりドコ触ってるんだ!」 「YOU、こっちも気持ち良いらしいぞ?」 「まぁ確かに経験は無いですが。…っておい!触るなっ!」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |