上田次郎×山田奈緒子
![]() 初めて出会ったあの日から… 季節は変わり、夏は何度も訪れた。 「俺たちの関係は、いつまでこう続くと思う?」 暑い真夏の午後。 マンションで机に向かい合って座り、冷房の効いた部屋だというのに うちわを片手にした上田が聞いた。 「…上田さんは、私のことどう思ってるんですか」 昼食であるざるそばをすすりながら、興味なさそうに奈緒子が聞き返す。 「ふっ…くだらん。どうもこうも思うも、僕たちはただ単に…」 「それじゃあずっとこの先もそうですよ、きっと」 「………」 いつから二人の関係は変わっていったのだろう。 年も離れた、お互い意地っ張りな兄妹のような存在だったのに。 「…まさか僕の記事が発端で、貧乏奇術師と 何年もつき合っていくとは思わなかったよ」 「そりゃこっちのセリフですね」 「…youが売れない奇術師でなければ俺たちは一生会えなかったんだろうな…」 「…え?」 いやみのない言い方をする上田に、奈緒子はきょとんとする。 「僕が物理学会の超エリートホープになるのは当然のことだ。 しかし、君ほど売れない奇術師も希有だろう。 結局、君がクビにされて団長に僕の記事を紹介されてなかったら 今頃は…って話だ」 相変わらず自信過剰で無神経なセリフだと思ったが、 彼がいつもより穏やかで優しい目をしていたため奈緒子は反論もしなかった。 食べていたざるそばを綺麗にたいらげると、奈緒子は 机に身を乗り出して上田の方を見た。 「…だいたい、上田さんは一度私に…プ、プロ…」 「プロテイン?」 「違うだろ!」 「…わかってるよ。忘れるわけないだろう。僕は君に、プロポーズをした」 不意を付かれた優しい言葉に、奈緒子は思わず頬を赤らめ口ごもってしまう。 黒門島の一件から、半年以上が過ぎた。 上田は、むやみに返事も聞いてこない。事件を解決しに行ったり、 喧嘩したりは今までと同じ。 この関係が一番いいんだな、きっと――― 自分でそう思ってた。 ただ… 「もう食ったのか?」 「え、ああ…お昼おごってくれてありがとうございます。…ごちそうさま」 「…にしても相変わらずよく食うな…。3人前でギリギリかよ…」 「…上田さん」 「なんだ?」 「………嫌いですか?」 「ん?」 急にトーンの下がった奈緒子の声に、上田は不思議がる。 「…やっぱり嫌ですか…?私の、あつかましくて大食いなところ…とか・・・」 弱々しい声。上田から横に目をそらし、うつ向いている。 静まり返る部屋。冷房の音と、上田がうちわで扇ぐ音を除いて。 奈緒子をじっと見つめながら、上田が椅子から立ち上がった。 奈緒子の座っている方へ向かい、横を向いて座っている奈緒子に対して、正面にしゃが みこんだ。 彼女は、なおも目をそらそうとしている。 「………」 手に持っていたうちわが、床に落ちた。 「嫌いなわけないだろ。好きに決まってるじゃないか」 「上田…さん…」 上田の大きな身体が、奈緒子を包みこんだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |