上田次郎×山田奈緒子
![]() 「youくらい寸胴なら、ハハ、収まるかと思って。」 最近中年女性をターゲットにして流行っているというオカマ占い師 「世田谷の母」の調査の為にチープホテルを手配した上田。 ところが。 「同室?それもこんな狭いベッドが一つ?た、耐えられん!!ヒジョーに厳しい!!」 「ふ。相変わらずお前の発する言葉は古い。古いぞ山田」 「煩い!巨根!!」 そうだ。私はこの巨根とよりにもよってこの巨根と朝まですごさねばならないのだ。 今日の持参金は―――?がま口を開ける。 「…じゅ、13円」 リアルに無い。覗き込んだ上田がニヒルに笑っている。 「情けない。」 「黙れ!」 上田は口端を片方だけ吊上げたむかつく顔でベッドへ腰を下ろした。 そこに画鋲があればいいのに。もってたらしかけてやる。 「あ、そうだ」 「…な、何ですか上田さん」 上田は徐に枕の真上に掛かっている安っぽい水彩画をひっくり返す。 そこに、御札。 「話によるとだな、ここは自殺者が多いそうだ。フン、だからどうしたという話だが… 天井から血まみれの女や男がうじゃうじゃ沸くそうだぞ。奴さんのお払い済みだそうだ。どうだ剥がして見るか?」 「やや、やめろ馬鹿!!」 「あのオカマはインチキだ。依って此処に霊等は存在しないし、ましてや端からそんなもの 存在せん。接がしても問題無し、イザ!」 「ぎゃあああ!!」 上田にしがみついて筋肉質な腕にぶらさがる。へらへら笑いながら上田は無駄に長い腕を上へ掲げる。 「小学生か!!ばかたれ!!」 私が叫んだと同時に、不可抗力で絵は落下、私は上田へ覆いかぶさってしまった。 「な、何だ…ご、強姦はやめろ、犯罪だ。」 「違う馬鹿!!絵が落ちたはずみで…ああ、御札が」 見るも無残に御札は真っ二つ。素材が悪かったのか。 「youどけ!ヘビー過ぎる…軽く、米俵が二…」 「失敬な!…ん?んん?」 掌をまさぐらせてみると、そこに堅くて大きい物が当たる。 「な、なんだこれはぁああ!!」 まさしく、例のブツだ。 「おうっ、…せ、生体反応に一々関心を示すな。まあたしかにだ、お前の指摘する通り ここ一週間ほどコレの調子がおかしくてな」 「だ、だからどうした!」 シーツがくしゃくしゃに乱れる。 「少々ばかり見境が無いというわけだ」 飛び退いて、後ずさりした私に、上田が、膝をすって近付いてくるような気がする。 「 やめろ!止めて下さい!!上田さん!!! 」 喰らわせた心算の膝蹴りは、あっさりと避けられて宙を切った。 今まで見せられた事の無いぎらついた目と、薄く笑んだ唇に全身が本能的に慄く。冷や汗がブラウスの中を伝う 感覚が酷く、気持ちが悪い。 「 貧乳でも構いはしないと言っているのに。それッ。」 「 うわッ!?」 まずい、と思った次の瞬間足首を獲られ、其の侭引き摺り寄せられる。流石普段から出所不明の拳法を操っているだけは 有るな、と感心している場合ではない。 このままでは寄りによってこんな偏屈男に守り通した女の操を奪われてしまう。 「 どーした山田。縄抜けマジックならぬ天才抜けマジックを見せてみたまえ。さもなくば――」 無骨な手が、ワゴンセールのスカートを捲り上げてゆく。じわじわと、侵食される気分だ。 「 色気の無いパンツが見える事になるぞ?」 「 と、とり憑かれてでもいるのかっ!!正気に戻れ!!」 「 下らん。生物学的見地から見れば、この天才は動物的本能に駆り立てられ、こうして目の前の貧乳の雌山田を 致し方なく襲っているというわけだな。何、万が一受精したところでこの優秀な遺伝子だ。文句無かろう。」 「 こ、この詭弁は間違いなく上田!この阿呆!大有りだ!!」 強がっては見ても、負けは決定的だ。身体の震えは絡みついた掌から確り伝わっているに違いない。 上田の指が、”そこ”に触れた時に、それは決定的になった。 「 ――やっ…!!」 脳髄に烈しい刺激が襲い、太股から力が抜けて行く。一番敏感な部分を擦られて、続く嬌声を噛み殺しても、 最早遅かった。痺れる様な低音の、絶望的な勝利宣言が、頭上に――響く。 「 チェックメイト 」 上田の手が、心臓の鼓動を速くさせる。 男特有のゴツゴツした、それでいて見事に長い指が私の体温を高めて行く。 もうやめてくれ――発熱しそうだ。 「 て、て、手慣れ!!」 「 れ、レ、レイプ?」 「 ええい!――し、しりとりじゃ、ない!!」 惚けた声の調子は変わらないが、指先は厭くまで的確で残酷だ。脱がせないのは上田の趣味なのか、 サイドから中指で下着の薄い布地を捲り上げて、中指の先で執拗に刺激してくる。 時折、最も敏感な中央を、わざと突付いてくる。 「 YOU、レースの黒とは!ブラックとは!!中々卑猥な下着を履いているな。まさか、こうなる事を計算済みか?」 「 う、上田さんの、か、勝手な思い込みです!!」 「 その割には、オレの一言で随分濡らしてくれるな。」 ヌルヌルと体液で濡れそぼった指を目の前へ突きつけられて、思わず顔に血が上った。 「 タコ。まるでタコだ 」 「 オレの手にやけに絡み付いてくる”この部分”も、独立した生き物に思えるな 」 「 なぁ、何か応えたまえ、山田。」 「 ――ンッ…ううう…」 応じられる訳が無い。 ずるっ、と湿った音を立てて、膣内に太い指がいきなり侵入してきたのだ。 「 オイオイ。…お前は、…」 「 あ、うう… 」 「 どこまで無意識に、…誘うんだ 」 指が、ゆっくりと往復し始める。体温はヒートアップする。 鏡台に映し出された自分の姿を、初めて確認すると、上田が意図的にこの位置へ自分を持って来たと認識した。 鏡の中の上田が、ゆるりと笑った。 「 山田、今、締まったぞ。」 ぬぷり、と、太い指が抜かれる。 局部が何時になくじりじりと痺れている。熱の冷め遣らぬ其処へ、もう一つの異質な熱が押し当てられる。 脈打つのが手に取るように分かる、怖い、こんなに怖いのは初めてだ。 荒い息遣いが頭の後ろで聞こえる。 「 狭そうだな、ここは 」 鏡面世界に、間抜けな上田に良く似た悪魔が映る。 悪魔は私の中へぬるぬると這入って来る。 私の薄っぺらな膜は、脆く儚く鮮血を伴ってぶつぶつと音を立てて崩れた。 痛い、痛い、痛い、痛い。 上田の体温が介入してくる。熱い。何て熱いんだろう。 引き裂かれるような痛みと、自分のうめき声と、上田のうめき声で 悪夢でも見ているような感覚に陥る。 上田が私の髪をくしゃくしゃに掴む。汗が顔に滴り落ちてきて、鬱陶しい。 気が遠くなるぐらい、痛い、でも、その倍以上に、気持ちいい―――― 「 空だ、とも書くように、体内は、狭そうに思えても、案外、入れる、物だな 」 苦しそうに上田が何か言っている。テノールの心地良い響きが、ずくずくと深奥に響く。 「 しかしながら、YOUの中はキツ過ぎる…。そんなに、オレのモノが好きか?食い千切られんばかりだ… 」 「 君は狡い。いつも何かの形でオレを虐める。だから今夜はオレが虐めてやろう」 「 虐めるという目的下において、YOUが処女で良かった。山田 」 獰猛な光を、眼鏡越しの瞳が湛える。私は腰をしっかりと固定されて、背面座位の体勢で貫かれ続ける。 湿った音がやけに響く室内で反響して、私の耳に鮮明に届くのを上田は知っている。 知っていて、こんなにも加虐的な微笑を浮べているのだ。普段は直ぐ気絶するくせに、こんな時は、見た目通りだ…。 「 うあっ、あうっ、うっ、うっ、」 ずっ、ずっ、と力強く突かれる度に、勝手に声が漏れてしまう。上田は恍惚とした表情で、尚も私をえぐる。 私の中にある みだらななにか が引きずり出されてしまいそうだ。それ以上、水音を立てるな。 「 感じているのなら素直にそう、言え、山田、奈緒子。 」 「 な、まえ、よぶ、なぁっ… 」 「 ああ、明白だったな。――ココはふしだら過ぎる。」 上田の声の刹那後、ずぶっ、と、自分でも分からない部分に先端が食い込んだ時、頭が真っ白になった。 「 ひ――んん、んああッ…!! 」 何時だったか、ブランコから放り出されたあの落下感に酷く似た感覚だった。 「 山田。気絶か?まったく根性の無い。」「 おい起きろ。まだオレはイッていないんだ。ベストをつくせ!」 「 ダメだ、すっかり気を失っている。遣りすぎたか。」「 こりゃ明日の調査は望めないな…。」 ――上田の胸の下で、果てた。 上田自身は私のナカにいまだ居座り、ダイレクトに血流をどくどくと伝えてくる。 私は突き放す気力もなく、グッタリと弛緩した。 「 YOU、おい、山田奈緒子、しっかりしろ。」 「 うう、一体、なんのつもりだ…処女、かえせ… 」 「 おうっ。」 「 もう上田さんになんか協力しません…世田谷のオカマなんかさくっと無視して帰ってやる!」 ぐすぐすとみっともなく、引き寄せたブラウスで顔を拭う。 「 悪かった。 」 上田の真剣な声が、胸につまる。 大きな腕が、抱き締めてきた。この手は、腕はいつだって、私の身心をがんじがらめにしてしまう。 「 ――お化けがそんなに怖いですか。…ホテトルでも呼べば良いじゃなかったですか。」 息を大きく吸い込んで一気に吐き出した言葉は、甘い余韻にまだすこし震えている。 「 誰でもいい訳じゃない、YOUの―― 」 「 ―私、好きなんです、」 「 え 」 「 上田さんが」 「 だから、あまり期待させないで 」 嗚呼、涙がまた。 嗚呼、触れられた黒髪を切ってしまいたい。 この声はとても卑怯だ、と常々思っていた。そして今も思っている。 低く、錆を含んでなおかつ甘い声には、それだけで殺される思いだ。 ――コレはトリックだ。 でなかったらここに縫い付けられ、玩具にされ続ける事等無いはずなんだ。 「 どうして、上田さんが、怒ってるんです 」 痛いほど抱きしめられて、ゴツゴツと角張った上田の骨が当る部分がきりきりと軋む。 何故か私を叱責した唇が、優しく、肌蹴た肌に触れていく。首筋に、胸に――それでいてどうして、唇には触れてくれない。 赤鬼みたいな真っ赤な顔で俯いたまま、私の目を見据えては呉れない。 私の黒髪を時々指で梳いて、頻りに胸元へ顔を埋める。 響く水音が恥ずかしくて、耳を塞ごうとする腕をがっちりと捉えられる。 大きな容積が胎内を穿っては抜かれ、悉く毒を以って侵食していく。 ぬるぬると体液同士が混ざり合い、潤滑剤の役目を果たして、もう私の入り口は痛まない。 その代わりに貪欲な熱を帯びて震えている。行き来される度に、吐息が漏れて、 考えた台詞が考えた先から霧散してゆく。 喘いでも喘いでも、懇願しても上田は止まってくれない。触れ合った肉体がどうしようもなく熱くて、朦朧と夢の様なのに、 唾を嚥下しても癒されないカラカラの喉の痛みが、確かに現実だと思わせる。 「 山田 ―――― 」 上田の顔が歪んで、――破裂音を伴って私の理性が裂かれる。白い閃光が、辺りを包む。 気を失う瞬間、上田が何か言った気がした。 「 ハッ。大方それはYOUの欲求不満が生み出した幻覚だ。YOUは昨日の夜人の奢りでビールジョッキとカルビの皿を山ほど重ねて、 それからホテルについたなり一人でベッドを占領し、寝た。それはもう聞くに堪えない鼾と寝言を伴ってな! お陰で視ろ!このオレの隈を!! 」 次郎号をゆさゆさ揺らして、『世田谷の母』のおわすビルへ向かう道程、延々と上田は喋っている。 確かに、目覚めてみれば、ホテルについて水彩画の裏の御札の話題に触れた辺りから記憶は曖昧だ。 確認をしてみたが、お札は破れてさえいなかった。 ただほんの少し、位置が変わっていたのだが、寝相が寝相だから蹴ってしまったとか。言及しないことにした。 「 …うーん。…でも凄くリアルだったんですよ。本当に、本当ですか? 」 「 だからオレは貧乳はお断りだと前々から言っているだろう、この馬鹿め 」 「 ば、馬鹿って何ですか。だいたいシングルベットってところがそもそも誤解を生むんですよっ! 」 「 にゃっ! 」 次郎号が急停車して、運転手は暫く驚いたような顔でこっちを見詰める。それから、何だか少し紅くなって ふん、とだけ言った。 上田はその日しきりにポケットの中で何かの紙をくしゃくしゃやっていたのだが、どうやらスーツのズボンと 一緒にガムの包み紙を洗ってしまったらしい。 まったく、粗忽者だ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |