上田次郎×山田奈緒子
![]() ――日本科技大の一角の研究室。上田の部屋。相変わらず散らかっている。何故か呼び出された私は、 以前遭遇したようなシチュエーションでオレンジジュースを飲み、何だか、火照っている。 「 上田さん…オレンジジュースに何入れたんです!」 「 YOU。"カリボネ"だよ。――ほら、前に君のお母さんの故郷…ポケ門島で…」 「 黒門島!!」 「 そう、その黒門島の、媚薬効果のある植物だよ。エキスだがね。」 「 い、一体どうやって飲ませたんですか!!」 ――上田がにやっと笑って、事務椅子のキャスターを転がし、私の脇へ来る。 「 YOU――君は以前、僕のグラスと君のグラスを交換することにより、まんまと媚薬を逃れたな。だが今度は違う。 あらかじめ君がこっそりグラスを入れ替えることを予想し、僕は前もって僕のほうのグラスに媚薬を入れておいた…ふふ、 どうだこの応用力!!正に君は、僕がオレンジジュースを出せば入れ替えなければいけないという、パブロフの犬的な行動を 取ってしまったと言うわけだよ!ふふ、ふふふ!!」 上田は例のごとく勝ち誇ったような笑顔を浮かべている。懲りない巨根だ。 「 はあ、それで?どういう目的で私に媚薬を飲ませたんです。まさか――」 「 勘違いするな?僕ぁ決して君目当てという訳じゃない…只、あれは男性にしか今のところ試してない。つまり、 あの媚薬が女性に効くかどうか、ちゃんと立証しなければ、イザというときに失敗に終るかもしれない… 」 「 上田さん。犯罪です。」 眉を顰めてそう言い切ってやると、上田は次の言い訳に苦しんで、ああ、だのううんだの言って宙を見ている。 「 …ま、と、とりあえず効果を、き、聞こうじゃないか。今度こそどうだい。その…俺を見て、胸がどきどきしたり、 息が苦しかったり、肌が上気するかい?」 「 はあ、まあ 」 「 よしっ!成功だ!!」 上田は、イエス!とガッツポーズを取る。この野郎、本当に犯罪者だ。 「 矢部さん呼びますよ。」 上田の携帯を机上からスると、上田が素早く私の手首を捉える。 「 YOU――お前、不特定多数にヤられたいのか?そう言う趣味か?」 「 馬鹿いうな!お前をしょっぴいて貰うんだ!御用だ!こいつめこいつめ!」 手当たり次第にバッグの中身を投げつけてやる。最近何故か送られてきた『桂』印の文鎮も投げつける。 ――ごつっ。 「 ――おうっ 」 「 あ、『桂』文鎮がヒット。」 「 ところで、…お前も飲んだだろ!上田!」 「 何故解る。…まさかYOU、…やっぱり俺の心が読 」 「 違います。…上田さん、多分、二分の一の確立に賭けるの厭だったんじゃないですか?万が一私がすり替えなかったら、 上田さんが飲むことになりますもんね?上田さんは必ず私にすり替えるチャンスを与える――その間、私の行動は見えない。 だからすり替えられても替えられなくても、私がオレンジジュースを飲むという選択をしたら確実に媚薬入りを選ぶよう、 入れておいた… 」 上田は、一瞬例の度肝を抜かれた顔になり、直ぐにまた薄っぺらい笑顔を浮かべる。 「 当りだ。中々やるな。その通り…だが確立論以前に、君がジュースを飲まないわけがない!」 「 ――チッ。でも…後で吐き出したら上田さんは飲まずに済むじゃないですか。なんで飲み込んだんです。 」 「 勿体無いことをするとな、家のお婆ちゃまもお母様も怒るんだよ!!」 「 マザコン。」 口を金魚みたくもぐもぐさせて、上田が言葉に詰っている。私の勝ちだ。 「 ――では、帰ります。」 「 …ま、待ってくれ。」 手首を掴まれた。以前よりも強い力だ。鍛えたな、上田。――と、そんな悠長にここに居ると、こやつの暴走に負けて 巨根にヤられてしまう。それは非常にまずい。なぜなら私は処―― いや、そういえば『世田谷の母』の一件で、ちょっと疑わしくなっていたんだった。うっ、不味い。もうそろそろ 足が動かなくなってきた。何だか上田から、逃げたくなくなってくる… 「 YOUだってもうその気なんだろう?――なあ、ヤらないか?どうせ、もうお互い処女でも童貞でも無いし…」 「 やっぱりあの時私のこと犯しただろう!!おーまわーりさ―― んぐっ!!」 「 馬鹿!…う、うっかり人が来たらどうするんだ。…ああ、そういう趣味なのか。ふふふ…それならそれで」 ち、違う違う!必死で首を震うのだが、何故か私よりも多くオレンジジュースを飲んでいた、というか飲み干していた 馬鹿な上田は、どうやら完全に媚薬が回ってしまったようで、…ああ、そこが、あんなになって… 「 そうだよ。YOUと俺とは、既に通じ合った仲じゃないか。何度同じ夜を共にした?え? ――ああほら、既にお母さんの認可も頂いてる。前にも言ったと思うがこの優ぅーー秀ぅーーな遺伝子を後世に残さない手は無いぞ。 ほーらほら、こんなに胸が高鳴ってるじゃないか。――矢張りYOUも女だな…貧乳だが。」 口を塞いでいたでかい掌が、ワンピースの肩を撫でてくる。私は、触れてきた掌に咄嗟にびくっと震えた。 「 う、うるさい――貧乳は…余計、だ 」 「 な、…な、何をやっとるねん、センセェは…」 「 こ、これは踏みこまないかんのじゃないけぇのぉ、兄ぃ… 」 ショックで矢部のズラが落ちかかっているのを気付くことなく、どこか口惜しそうに石原は櫛を噛んでいる。 事件の調査にと訪れたのが、研究室の扉の前へ立った途端、中からはいかがわしい会話が聞こえてきて、 矢部は石原に思い切り倒れこみ、その拍子にズラもずれたという訳である。 「 何や、常軌を逸してへんか?――石原君、君、見て来て。」 「 わ、わしですかぃ?そ、それはちょっと…」 「 はよ行かんかい!犯されてまうぞ!…お前、ちょっと好きやろ。あの女の事。」 「 何言うとるんじゃ兄ぃぃ…い、行けんけぇの、わし。行けんけぇの。無理じゃて、わし、行ったら、わしも、わしも――混ざってしまいそうじゃけぇのv」 どこかお茶目に石原が言うと――矢部の怒りの鉄拳が、石原の顔にぶち当たった。 「 とりあえず様子、見守っとこ。」 矢部は昂ぶる自分を押さえつつ、倒れた石原を椅子に中の様子の覗き見を始めた――― 「 おおぅ、…こ、これは、うっ…凄い、物凄い、効果だ… 」 ――由々しき事態だ。エントロピーの法則だ。エントロピーの法則とは、つまり、熱は発生源a点から到達点b点の一方にしか流れ得ない事を表わしている… ――簡単に言えば、今俺の生命の素は、睾丸から尿道を経て、亀頭に達さんとしているという訳だ… ――こんなことはあっても、併し俺は学者だ、こんなまやかしには負けたりはしない!! ――そう、断じて…!!断じて、今ここで山田…奈緒子さんを抱くのは、過ちでは、無く…うっ、いかんいかん!何て罪作りな! 俺のファロス――男根は、今や天を突かん勢いでエネルギーの膨張を始めてゆく。宇宙物理学で例えるならば… 大質量星は俺のこの、ナニ。、さしずめ今の状態と云うのは、超新星爆発の過程――その寿命を終えた恒星、および惑星が 自らの重力を支えきれずに崩壊し、爆発――ブラックホールとなり、周りの全てを飲み込む… 「 全部、うっ、聞こえて…あんっ、ますよ…うっ…上田、さん 」 「 ブラックホールは寧ろ、うっ――…君の、方か。ふっ、ふふふ、くくくく…。縛ろうか?君が僕の戒めを解けないようにする アルゴリズムは既に僕の脳内で叩き出されている…君には無理だろう。」 「 アルゴリズム…体操?…いつもここから…?」 俺はいつもは着けないスーツのネクタイをポケットから取り出し、先ず、山田の手首上にネクタイをバッテン型に重ねる。 下のネクタイの端を上のネクタイの端に巻き付けて引っ張る。ネクタイの端を持つ手が左右変わる。 そのまま、こま結びの要領で余った端の部分をバッテン型に重ねて、今度も下になったネクタイの端。ここは左手の端を上の端に巻き付ける。 これで引っ張れば、引っ張るほど硬く締まる結び方になる――。偶数回交わったからだ。 立て結びで少々不恰好だがこれでいい。これは消防隊員がカーテン脱出の際によく使う結び方だ。 山田は必死に引っ張る。馬鹿め。 「 す、隙間が、無い…。馬鹿上田!!貴様のやっている事は全てごりっとお見通しなんだ――!!」 「 お見通しって、見通した所で何の問題解決になる?ふっ、ぶわーぁかぁ! 」 「 なっ…ば、バンナソカナ…!上田さん。逃げないから、ね?これ、外してください…v 」 「 脱出マジックでもしてみればどうだ?YOU…腐っても美人マジシャンだろう。」 「 エヘヘへ!」 ――媚薬の効果でなんとなく褒めてしまった。さて、この先はどうしたものか…まあ収まるべきところに収まるのが物理学の常、 いや、延いては人生の常という物だが、媚薬だけの熱膨大では少し寂しい気もする。 「 ――前戯。ふふ、文化的な男女の営みには不可欠だ!」 「 口に出てるぞ、上田!」 「 そんなことより、YOU、そろそろ…我慢の限界じゃないか?ん?」 貧しい乳と書いて貧乳に手を伸ばす。――ウェイト!!ちょっと待て。大きくなってないか?これも媚薬の効果か… 艶々とキューティクルが照り、平安貴族の様な直毛の黒髪が、金木犀の様な甘い香をふわりと漂わせる。 見下ろした唇は薔薇の様に赤く色めき、象牙のような肌は何処までも艶やか…これが、山田だと――…? もう辛抱堪らん!リビドーが…ジームクント・フロイトよ、リビドーを昇華させたまえ…! 「 あっ…や、やめろ上田…ち、乳を揉むな…!」 「 おおう…図らずも俺が君に投与した媚薬は、興奮によって血行の促進を促し、性的な興奮により女性ホルモンを活発にし、 君の乳房を膨張させているぞ…OH、グレイト… 」 視覚・聴覚・嗅覚・触覚――五感のうち四つが興奮に拍車を掛け、視床下部の命令により自律神経、副交感神経の働きが起こる――海綿体の欠陥は拡張と収縮を繰り返し、 さらに熱の移動を激しくさせる。後は熱をb点からc点へ移動させてやらなければならない。すなわち、放出か、自然消沈か… 「 何と柔らかい胸か!――く、君も中々好き物だな、え?おい。カマトトぶりやがって!」 「 竈…?竈馬?別に虫ぶったつもりは無いぞ!い…言いがかりだ!」 「 はん…素直じゃない。どうだ…俺の掌はな、日々の鍛錬により非常に、緩急をつける、という行動において特に優秀に働く。――ふふ、まあそれが 図らずも性戯に一役買ってしまった。…天才はこれだから困る。」 指先の末端神経までもが脈々と波打ち、軟い胸肉が掌の作用により伸縮するその度に、電光石火のスピードで情報を脳という複雑なコンピュータで解析し、 それを俺の快感に置き換えて、マイ・サンに作用する。 「 う――…ん…やめ、て…上田さ… 」 甘い声も然り――こんな声は未だ聞いたことが無い。俺が常日頃練習として使っている教材の女優などとは比較にならん。艶かしい。艶かしすぎて犯罪だ…!! 乳腺の刺激により山田の乳首は勃起し、薄いワンピースの生地から垣間見え――ん?まさか… 「 YOU…ノーブラ… 」 「 えっ…どうして解ったんですか。」 「 ――ふふふっ…君、胸元を見てみろ。…立ってるじゃないか… 」 矢張りか。俺が囁くと、山田は胸元を見下ろし、驚愕の表情で再び俺を見上げる。腕を戒められている状態で隠せるわけも無く、 もがもがと陸上へ打ち上げられ哀れに空気を求める魚のごとく俺の腕の中で暴れる。 「 かわいいやつめ…最初からそのつもりだったのか。強情っぱり! 」 突起にそっと指先を触れてやる。途端、山田は身をくねらせる。気持ちいいのか。気持ちいいんだきっと。健気に首を震っているのを見ると、 また俺は考えていることが口に出ているらしい。 一挙一動全て可愛らしく思えて仕様が無い。俺は、椅子と山田を引っ張り、二つの椅子を連結させたところへ彼女を横たえる。 ―― 一方外では、石原が眼を覚まし、隙間から矢部と聞き耳と覗き見を交代していた。 「 うおおお!…た、大変じゃけぇの兄ぃ…!! 」 「 何だ。何だ石原君。伝えなさい!すべからく明確に伝えなさい! 」 興奮した矢部と石原の顔はすっかり紅潮し、文字通りの出歯亀と化している。 「 報告しますけぇのぉ、…ねぇちゃんが、先生に…ああ…あがな事や、ああああ…こがな事を、さ、されちょるんじゃのぅ。 …ああ。あああ!!ああああああ!! 」 石原は嬉し口惜し、夢路いとし君恋しといった状態で最早正確な報告どころではなく、スーツの袖口を噛んでむせび泣いている。 「 見せなさい!交代しなさい!石原君!!上司命令や石原君!! 」 結局どかぬ石原の顎の下から、矢部は中の様子を引き続き見る。上田が、山田を椅子へ押し倒し、にやにやとスケベ顔をひけらかして 彼女の細い足の間に割り込んでいる。 「 あ、あはぁあああ!!な、なんちゅう…話の流れを聞いとると、これは強姦じゃよ、兄ぃ 」 「 石原。…お前、口は堅いな?…堅いよな。」 「 兄ぃ、だまっとったらわしらも犯罪者じゃけぇのぉ!わしゃあやっぱり助けに行くけぇの!わしゃあ、人の道に『はずれる』ようなこと… 」 「 ――どわりゃァ!! 」 石原の腹部に、今度は肘が入り、うっと呻いて崩れ落ちた。 「 先生、あんた…その貧乳にナニをす…んんん?! 」 矢部はわが目を疑った。上田が、山田のワンピースの肩を、ゆっくりと下してゆく。すると、とても貧乳とはいえない、豊かなバストラインが、 遠目から明らかになっていく。 「 う、嘘やろ…お、おい石原。石原? 」 石原はすっかり伸びていた。 「 おお、おおぅ。――YOU中々、良〜い身体だ…。ふぅ、暑い…。俺も脱ぐか…」 上田は私のワンピースの上を中途半端に脱がして置いたまま、眼鏡を外して汗だくの顔を拭う。そして、 いつも着崩しているシャツの前を全て外して前を開け、恐らく自宅マンションの筋トレマシーンで鍛えられた肉体を披露する。 「 見ろ。…これが肉体美というヤツだ。」 上田は少々露出狂の気があるのではないのか。しかし不思議に、只その裸体は恥ずかしいだけでなく、割れた腹筋とか、盛り上がった胸筋とか、 男性的な部分にどうしても眼が行ってしまう。――なんだろう、凄く魅力的に、感じてしまってる。 「 み、見たくありません――うん?…こ、この甘い匂い…上田さん、から…?」 爽やかな匂いだが、次には息の詰るような――甘い毒の様な香りが上田の肌から匂い立つ。私は厭な予感がして、なるべく呼吸を穏やかに保つ。 「 ああ。女性だけに効く匂いらしくてね…俺には全く分らないんだが。西洋薄荷――つまりペパーミントと、ローズマリー。それに、 カリボネをほんのちょっと調合してねェ…そうかそうか、そんなに効果が…ふふふ 」 ――姑息な上田の笑顔。こういう時は自慢話じゃなきゃウソを吐いている。 「 どうせ…しっかり、調べてんだろうが…お前っ 」 「 はっ、まあ良いじゃないか…ところでどうした〜山田奈緒子。語調に覇気が無いぞ?」 「 うるさい…ほどけ、ネクタイ。――私は…帰るんだぁあ! 」 ――ぎしっと椅子が軋みを上げて、上田の体重を乗せる。 「 やだね!――現に君は無抵抗に俺に捕まってるじゃないか。あっさり縛られたり…本当はこういうのが趣味だという明白な証拠だ!いい加減素直に認めないと、 本来なら余り気が進まないが君の後生のため少々乱暴な行動も止むを得ない。まったく君は何度も言うように論理的に物を考えたまえよ。今無駄な抵抗をしたところで 君に助けが入らない限り君は俺の思うが侭だ。俺の言うことを素直に聞いて、大人しくしていた方が身の為だと俺は思うがねうっ――…」 私の力を振り絞った見事な蹴りが、いきり立った上田の巨根に見事にヒット。やりぃ!――少し可哀想な気もするが、仕方ない。 「 これぞ、奈緒子キック。 」 上田は悶絶している。チャンス、奈緒子。動け!立ち上がれ!! 『 技名先に言えや! 』 『 あ、兄ィ。突入前にバレますけぇの…』 『 せやかて、普通ヒーローとかヒロインっちゅうもんは、先に技の名前言ってから繰り出せへんか?』 『 ゲームとかや、ないですけぇのぉ 』 こ、この声は、矢部石原コンビじゃないか!呼ぶまでも無く。あいつ等は一体何をしてるんだこんなとこで!そう言えばいつから聞かれてるんだろう… 助け――否、今となってはこんな格好だし、助けを呼びたくないナンバー1と2だ…!! 足が動いた。地面に靴の爪先がついた、後はふんばって起き上がるだけだ…!!がんばれ奈緒子!ファイトだ奈緒子! 「 ――貴っ様…もう、許さん。」 上田が臨戦態勢に戻った。目がヤバイ。…こ、これは間違いなく犯られる。体面など構ってられない! 「 う、うわああああっ…!助けろ!矢部!石原!」 『 あ、バレた。兄ィ、今じゃ!突撃じゃ!先生ーー!!開けてくれんかいのぉーーー!』 『 せやかてお前…ここ、これ以上開けられへんで?ちょ、先生ぇ〜、開けてください〜。それ以上は犯罪ですよ〜。 思いとどまってください〜。現行犯逮捕ですよ〜。』 扉はぎしぎしと鳴り、矢部コンビの侵入を許さない。 「 上田さん…一体、何を…?」 「 あいつ等なら入ってこられないさ。…この天才物理学者の俺が、扉に錠を掛けずに君を此処へ呼び寄せたと思うか?前もって ここに少々特殊な鍵を取り付けておいたのさ。内からも外からも、俺の持つたった一本の鍵以外では明けられないようにな。」 「 なぬ!? 」 「 愛し合う男女の邪魔は、誰にも許さないと、こういう訳だな。ふふふ。」 「 愛し合ってないって…!」 致命的だ。完璧に気付かなかった。上田を睨むと、眼鏡を取りさった双眸は、鋭く、まるで肉食動物のようだ。 「 さーて…YOU。よくもやってくれたな。――君には拷問を与えよう。」 「 ごう、もん?水戸黄門… 」 上田は馬鹿にしたように笑うと、ズボンのポケットから歯磨き粉のような白いチューブを取り出して、キャップを外し始めた。 「 これはね、卵胞ホルモンの『エチニルエストラジオール』を配合したジェルでな…ま、簡単に言えばね、膣内の圧縮性を高める、という効果を生み出すんだ。 これがどういうことか分るか?山田。」 「 ――…只でさえ巨根のお前に突かれて苦しいのを、さらに、苦しめって事か。――うう、くっ…こんなの、いやっ――」 「 大丈夫。もうYOUの膣内は開発済みの上、媚薬の効果で圧迫による痛みなど麻痺した筈。無くなったも同然…ほら、足をもっと開いて。 」 上田は私の足を割って、スカートを捲り上げ、下着の中へ強引にチューブを突っ込ませる。 「 うっ、冷た… 」 「 直ぐに熱くなるさ――…ほら、そろそろ。」 「 ひ、…イヤッ…やだ、やだ、上田さ… 」 チューブの先を直接孔の周りに塗りつけてくる――最初は冷たいのが、段々、段々、じわじわと温かみを帯びてきて、 やがてぴりぴりと粘膜を責めて来る。 「 弄って欲しくなってきたんだろ。分ってるんだぜ?YOU。」 「 何がですか――別に、な、んとも… 」 ――もう、もう、駄目だ。色んな感覚が交錯して、もう、何が何だか分らない。 ――上田の声がゾクゾクする、もう何をされても構わない。 「 YOUはな、嘘を吐く時、俺の顔から眼を逸らすんだ…瞳孔が揺れるのを見せないためだろう。それは特に、恥ずかしかったり、好意を覚えたときには 凄く分り易いんだ。今も、そうだ。感じていないなんて、嘘を、吐くな――」 「 本当です!こんなの、嘘!媚薬で与えられた快感なんてにせものです!最低!馬鹿巨根!脳味噌の所在地は股間!! 」 上田が、冷たく笑う。 「 本当に馬鹿だなYOUは――そもそも性的快感こそが、脳味噌の作り出した偽りの感覚なんだよ… 文化を手に入れた我々は、生殖本能というよりも寧ろ快楽目的でセックスを行うようになった…――いいかい?視床下部自律神経系副交感神経が出す 恐怖をつかさどる物質、アドレナリン。怒りをつかさどる物質、ノルアドレナリン――恋愛感情も大抵これらの微妙な量の違いで起こるんだ。 シナプス次第だよ!いいかい、脳内麻薬の作用なんだ。我々の興奮や怒りや悲しみなんかはな―― つまりYOUのこの感覚だって本物――気にせずこの感覚を、本物だと、思えば良い…」 腰をくねらせて抵抗しても、上田の強靭な腕が、私を安々と押さえつける。下着が、ビリビリと裂かれて、恐怖の余りに叫ぼうと開けた口へ、 下着の布がぐいぐいと押し込まれる。 「 ふえらはん!ひゃめへ!!―――!!!」 ――お願い…入ってこないで…! 「 そこまでじゃああコルァ!! 」 「 よっしゃあコラァお前!いくらせんせでも今回ばかりは黙っちゃおれんぞぉ!!」 バキッ!と、扉の破れる音とともに、刑事二人が割り込んでくる。 「 …あ。…それ、それは、反則でしょうお二人… 」 ――ん?確かあの媚薬。上田さんのほうがより多く飲んだはずじゃ。男にも、反応する筈が…ああ、矢部相変わらず 髪型がおかしいな。石原、時代遅れの仁侠映画みたい…―― 「 センセ、お縄です。いくらなんでもちょおコレは。我々も、ケーサツですし。」 「 ま、まっふぇくらはい! 」 「 うおっ!ねー、ねーちゃん、胸出てる!! 」 私は、口に詰め込まれていたパンツをぷっと吐き出して、上田を見る。 「 お前、飲んでなかったのか!!だ、だましたな! 」 「 ふ…それどころかYOUのジュースにも、言ってきたりとも媚薬など入ってはいない。つまり、お前と俺とは同意の上のセックス。 ああ、矢部刑事。疑うならこの女の血液を抜いて調べてもらってもいいですが?」 「 そ、其処までおっしゃるなら疑いませんが… 」 ――何?じゃあ私のこの高揚感は何だ?しかも、上田だけに。 「 …え、じゃあ、乳がこう、ちょっと大きゅうなったんは、どういう事なんじゃけぇのぉ?」 石原が胸の前でボイン、の動作をやってみせると、矢部の鉄拳が再び飛んだ。 「 じゃ、せんせ、しっつれいしますわ〜」 本日三回目にノびた石原の足を掴んで、矢部はとっとと退散していった。本当に何の用だったんだろう。 二人の刑事が帰った後、私は何故かそのままの格好で縛られたまま、椅子に横たわっていた。 「 山田、YOUが反応したのは俺のコロンだよ。――あと、YOUの其処に塗ったのは本物だ。だから、血液検査じゃ出ない。」 勝利の二文字を顔に浮かべて、上田がにんまりと笑む。あ、悪党め…!! 「 ぶわぁーかぁ!へへへ、ざまあみろ。其処でずーっともじもじしているが良い。気が向いたら、シてやってもいい。」 「 煩い煩い!!犯罪者!!マッドサイエンスティスト!!」 「 俺は天才物理学教授。――英語力の無いやつめ。それを言うならジーニアスファイジシストだ。」 「 ――くっそぉ…この、ボサボサ頭の臆病で泣き虫なマザコンの巨根の…んっ… 」 「 …見守ってやろうじゃねェか。お前が堕ちるまで? 」 この上なく助平な顔のはずが、やがて暮れて行く夕暮れの中で、この男が妙に――― どうやら私の舵は完全に、この男に握られてしまったようだ。 後日談 「 いやー、兄ィ…わし、いかん。このまま帰られへん。」 「 お前もかー?いやー、俺もやねん。…このままじゃぁよう帰れん。」 「 ほんなら、あの店、どうじゃろうのぉ!ほら、駅前に出来たあの店! 」 『”大奥、蜜の乱”』 如何わしい店に向かう二人の刑事は、どこか前かがみに駐車場へ向かうのであった… ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |