俺の気持ち
上田次郎×山田奈緒子


もうすぐ1時か……

タクシーの後部座席にぐったりと身を沈めながら、車内のデジタル時計に目を遣る。
今夜の上田次郎は優雅な午前様だ。
そうだよ。何しろテレビに雑誌に引っ張りだこの俺なんだ。そろそろ専用の送迎付けてくれなきゃな。

――まあ、テレビに呼ばれたのも三ヶ月振りではあるが。

今日は「徹底検証! 今そこにある超常現象」なんて陳腐なタイトルの特番の収録だった。
上田はゲストとして一席を与えられたのだが、何しろ、2時間番組の収録だというのに
4時間近くもスタジオ詰めだったのだ。
この番組、司会者はその道じゃかなりの場数を踏んでいる有名タレントが起用されていたが、
その補佐で進行を務める女子アナウンサーというのが曲者で、ろくに原稿を読んで来ていないのか
度々トチる。それが何度も続くと、ゲストのバラエティータレント達も突っ込んで笑いを取る気も失せて
ダレた空気が蔓延する。そんな調子で延々とカメラを回し続けた収録だった。

そして、やっとスタジオから解放されたと思いきや、すかさず番組スタッフが擦り寄ってきて
「先生お疲れ様でした。ぜひこの後……」などと誘導され車に乗せられ、赤坂のレストランに連れ込まれる。
美味い料理なら一人でじっくり味わいたいというのに、スタッフが二人がかかりで機関銃のように喋りまくり、

「先生、今日の番組の数字次第じゃシリーズ化も計画されてますんで是非!」

などと口説きにかかった。バラエティー専門タレントならいくらでも確保できるのだろうが、
ある程度の肩書きと知名度のある識者を繋ぎとめておくのは難しいのかもしれない。
上田のように仕事を選ばず、どんな空気の現場にも対応できそうなタイプは重宝せねばという算段だろう。
とにかく高いワインが次々と注がれ、よく分からないうちにカラオケにも連れていかれ、
すっかりハイな状態で最後、タクシーに乗せられたのであった。

しかし疲れたな。

テレビの現場なんてつまらんもんだ。司会の女子アナと若い女性タレントが露出の高い服を着てくれてるから
まだ耐えられる……て、おい、飲ませすぎだよあいつら……

しかし、最近の若い女性というのは、よくあんな下着みたいな服で人前に出られるもんだ。
髪も真っ赤や金に染めたりグルグル巻きにしたり、化粧も間近で見るとありゃ化けモンだよな。
いや俺も二年くらい前までは、海外の金髪ギャルが出演するビデオをよく取り寄せていたものだが……ておい、
今夜はアルコールによって俺の優秀な頭脳が冒されているようだ。
そのせいで、今日のケバケバしい女性タレント達の姿じゃなく、なぜか真っ直ぐな黒髪が艶めいて瞼に浮かんでくる。
シャンプーのCMみたいに、サラリとその髪をなびかせて振り向いた姿は――

あいつはどうしてるだろうか。

いよいよあのボロアパートから完全に撤退命令が下され、あいつはヘラヘラ笑いながら
荷物を抱えて俺のマンションに現れた。
しかし俺は、一晩だけ泊めてやった後に、金を渡してあいつを追い出したのだった。
大家と再度交渉するか、新しい住居をなんとか探させるつもりだ。
とても耐えられん。あの無防備な寝顔には。

助手であり相棒とも呼べる間柄であったが、俺の中でその関係がどんどん変化してきた。
妹では決してない。ペットとも違う。
あの容姿に女を感じたことはほぼ皆無だ。どこに魅力があるのか、どう検証しても答えが導き出せない。
ただ、傍にいてほしいというだけだ。
それだけ認めたら少し気が楽になったような気がする。

しかし、だ。

あいつは一体どういうつもりで俺のマンションに来た?
俺も男だ。一つ屋根の下に女がいて平静でいられると思うのか。
いくら温厚で器の大きい俺だからと言って、あまり簡単に懐に飛び込んでこられても困る。
これまで一緒にあれこれやってきた仲間を傷付けたくはない。
だが、いくら冷静かつ怜悧な頭脳を持ってしても、生理現象を司るのは全く別の感情のようで……
それを表に出さないうちに手を打つことにしたのだった。

渋滞でなかなか進まないタクシーの座席で、数日前の展開を振り返りながら上田は目を閉じた。
瞼の裏には、普段の3割増しほど美しくなっている奈緒子が笑顔を向けている。
今度はいつ俺の前に現れるだろうか?
奈緒子がどこに住むことになるのか検討もつかないが、以前みたいに気楽に訪ねて行けるのか、
とても想像がつかなかった。

やっとマンションに到着した。静かに霧雨が降っている。
なんとか真っ直ぐに歩けるし、だいぶ頭もハッキリしてきた。これならちゃんと身繕いしてベッドに入れるだろう。

そして、エレベーターから降りると――

「おい、You!」

俺の部屋の前に、あいつがしゃがみ込んでいたのだ。
慌てて駆け寄ると、ゆっくり目を上げた。僅かに濡れた髪がしっとりと顔を覆っている。

「上田さん…今日はずいぶん遅いじゃないですか」

膝を抱えたまま、微かに笑って呟く。なんか、いつもより随分おとなしいじゃないか。

「何やってんだ? 濡れてるじゃないか。とりあえず入れ」

まだ9月だし、肩や髪が少し雨をくぐった程度の濡れ方だったが、何だかひどく寒そうに見えて
何も考えずに部屋に通した。あいつ、山田は黙ってリビングの真ん中に立っている。
いつもの調子なら勝手にズカズカと入ってソファに転がりそうなものだが、まさか遠慮してるのか?
とりあえずタオルを渡して座らせる。山田は湿ったカーディガンを脱ぎ、
ノースリーブのワンピースの肩にタオルを掛けた。

「で、その荷物を見ると、やっぱりダメだったんだな」

数日前と全く同じ状況だ。あの時はもっと堂々とやって来たのだが。

「すみません。せっかく上田さんがカンパしてくれたのに」
「おい、くれてやった訳じゃないぞ。ちゃんと返してもらうからな」
「わかってますよ…」

クスリと笑う。しかしさっきと同じで、いつもの元気というか図々しさがない。
山田は肩に掛けたタオルの端をギュッと握り、座り直した。

「私、長野に帰りますから」
「ほう……」

一瞬、胸に何かが刺さったような気分になった。しかし頭は冷静に働いている。

「奇術師なんてヤクザな仕事で食ってける訳ないよな。それで、尻尾巻いて逃げる事にしたのか」
「何とでも言ってください」

すかさず言い返してきたが、視線は斜め下に落ちたままだ。
何かあったのか? とりあえず、口を開くのを待った。

「私、もう疲れちゃったんですよ。奇術師とか、適当なバイトで何とか食べていく生活の事じゃなくて。
今まで色んなゴタゴタに巻き込まれて、それはそれで結構楽しかったけど……」

山田はタオルを肩から外し、膝の上で再び握り直すと、真っすぐ俺に目を向けた。
「もう、上田さんを黒門島に関わらせるわけにはいきません」

「黒門島って…、何だそれ、もう解決したことじゃないのか」
「私がこうして生きている限りは、きっとまた奴らが現れるはずです。あの島が完全に絶えるまで。
だから、東京にいるわけにはいかないんです」
「何だよ、ちょっと前までここに居座るつもりだったんだろうが」

山田はまた目を逸らした。膝のタオルは最早グチャグチャに弄ばれている。

「だって、同居なんて、やっぱり変じゃないですか……」

ようやくそこに気付いたのか。俺も男だってことに。まあいい。

「長野に帰ったって奴らは追って来るだろう? Youみたいなのでも働こうと思えば何とかなるだろうし、
住む場所さえ確保できれば東京のほうが…いや、別に止めるわけじゃないが」

酔いは醒めてきたのに、また脈拍数が増加してきたようだ。おかしい。

「だから! 上田さんはもう関係ないんです。――でも、近くにいたらやっぱり……
そういうことですから、今夜だけ泊めてください。明日の朝、長野に出発しますから」

また普段の突っかかるような調子が出てきたと思ったら、ソファの上で膝を抱えて丸くなった。

このままじゃ埒があかないな。
俺を危険な目に遭わせたくはないということか。だが、それは単なる義理なのか?
確かめておかなくてはならない。

数日前には出なかった、何か説明のつかない力が沸々と身体に湧いてきた。
アルコールがもたらす作用だな。――まあいい。今夜はなんていうか、特別だ。

上田は座っていたソファから立ち上がると、ふいに奈緒子のすぐ傍に腰掛けた。
腕を回し、思わずビクリとして姿勢を崩した奈緒子の肩を抱いた。
ノースリーブの肩は思った以上に華奢で、掌にすっぽりと収まってしまう。

「上田さ…?!」

驚いて顔を上げた奈緒子の唇に、上田は自分のそれを重ねた。

――よし。俺だってこの位は軽いんだぞ。

一気に心拍数が跳ね上がった心臓を落ち着かせるために、精一杯、平静を装ってみる。

駄目だ。

上田は唇を離すと、そのまま奈緒子を両腕の中にすっぽりと収めた。

「ちょ……な、何する…!」

もがく奈緒子を更にギュッと抱き締めると、腕の中で段々とおとなしくなってきた。
静かに腕を外し、奈緒子の目を覗き込む。二人とも顔が紅潮していた。

「…わかってました。ホントはここから離れられない、いや、離れたくないってことが」

ポツリと呟く。上田の心臓はサンバの如く踊り始めている。

「でもこの間、上田さんを怒らせちゃったみたいだし、やっぱり…」
「誰も怒ってなどいない!」

再び、上田はガバリと抱き締めた。

「Youがあまりにもその、無神経というか……お、俺の気持ちを分かっていないからだ!」

今や真っ赤になり、動揺しきった顔を見られないように、奈緒子の頭を自分の胸にうずめた。

「ちょ、苦しい!」

今度はしっかりと抵抗して身体を離し、奈緒子は上田に向き合って座り直した。

「だって、うちの親のプロポーズの台詞を使うなんて、からかってるだけだと思うじゃないですか」

な…? あの時、かなり真面目に伝えたはずなんだが……
そうか、こいつの女としての鈍さを甘く見ていたな。
いや、今はそんな事も全てが愛おしく思える。実に不思議だ。

上田は徐々に鼓動が落ち着いてくるのを感じた。ふっと笑みを漏らす。

「You、あの黒門島での最後に、お互い言いたいことを書いて交換したよな。せっかくだ。
今夜はお互い、相手に向けて書いた言葉に応えようじゃないか。で、俺の言葉には応えてくれるか?」
「え……」
「君が俺に書いた言葉は覚えているか?」
「…何だっけ?」
「なぜ、ベストを尽くさないのか。まあ意味も無かったんだろうが、今夜はこういう事にしておこう」

上田はサッと立ち上がり、あっという間に奈緒子を抱えて歩き出した。

「な…おい、意味が分からない!」

慌てる奈緒子を無視し、そのままリビングを横切り寝室に入ると、ベッドの上に静かに下ろした。

「俺は君に対してベストを尽くす。――奈緒子、こういうことだ」

上田はジャケットをサッと脱ぎ捨て、静かに奈緒子の上に覆い被さった。

奈緒子の長い髪を掻きあげる。絹みたいで気持ちがいい。
こんなに間近で見つめるのは初めてだが、これは化粧しているんだろうか? 
透き通るように白い肌が赤く染まり、普段は二重のくっきりした瞳が、今は軽く充血して潤んでいる。

「上田さん……」

微かに震える声が俺を誘う。こっちも初めてで不安だが、なに、予習は重ねてきている。
いやいや、そんな事はもうどうでもいいんだ。
幸い、ワンピースは前でボタンを留めるデザインなので、簡単に上から一つずつ外していく。
淡いブルーの服に合わせたのか、青い小花をあしらったブラジャーが顔を覗かせた。

奈緒子は何か言いたげに目を見開いていたが、やがてふーっと大きく息をついた。

覚悟を決めたのか。

上田はボタンを丁寧に全部外すと、ワンピースを奈緒子の身体から抜き取り、ベッドの脇に落とした。
ブラとショーツだけの姿になり、一瞬怯えた表情を浮かべた奈緒子を両手一杯に抱き締める。

キスをする。今度は舌を入れてみた。
奈緒子も抵抗せず、おずおずと舌で応えようとするので、何とか絡ませるのに成功した。
そのまま、ブラの上からゆっくりと胸を揉み始める。
そしてブラの中に手を滑らせ、既に固くなった突起に触れた。

「あっ……いや…」

それまで、力んで強張っていた奈緒子の身体がビクンと跳ねた。
その反応が何だか嬉しくて、小さいが張りのある膨らみを掌で包み込みつつ、何度も指で突起をいじった。

「あっ、ああっ……」

こんなに可愛い声が出せるのか。もっと聞いていたい。

最初に肌に触れた時には、まるで陶器のように少しひんやりとした身体であったが、
上田に胸を弄られ、身を捩っているうちにしっとりと汗ばみ、上気してきた。
少しでも身を離すのが惜しい気持ちで、上田は急いでシャツと下を全部脱ぎ、再び奈緒子を包み込んだ。
なめらかな肌が直に吸い付いてくるようだ。

「ああ……奈緒子…」

名前で呼ぶのも初めてだが、最早、恥ずかしいなどと余計な事は頭にない。
左腕で奈緒子の背中を掻き抱き、胸の膨らみに顔を埋めて舌を使ってみた。
すかさず、右手をショーツの中に差し入れる。
中指で茂みを辿ると、一層高い声をあげ、身体が小刻みに揺れた。

「やっぱり、こんなに濡れてるんだな…」
「な……余計なこと言わないでください!」

まっかっかの顔を上げて抗議する。いつもの奈緒子の調子を取り戻そうとしているのか、
逆に、今までは考えられもしなかった姿の生々しさが引き立つ。
上田は奈緒子の両足首を掴み、ゆっくりと開いた。
片方の膝を抱え込み、顔は胸に埋めて舌で乳首を転がし、空いた手で中心部に指を這わせる。

「あふぅ……!」

熱くなった花弁からは、とろりとした液体が次々と溢れてくる。
シーツがびしょ濡れだなこれは。次からはバスタオルでも敷いておかなくては。
ふいに、そんなどうでもいい事が頭を過ぎった。

そうだ。きっと「次」があるはず。俺は今、幸せだ――

いつも奈緒子の前では「天才物理学者」としての顔を保つよう心掛けている上田であるが、
実はかなり純情なロマンチストというか、早い話がいい年齢こいての童貞男だ。
長い時間をかけて少しずつ惹かれてきた女が、いま自分の前にすべてをさらけ出しているという状況。
奈緒子を丸ごと食べてしまいたいほどの心境である。
したがって、もう前戯にかける余裕も消えた。

「よし、行くぞ…!」

急に体勢を整えた上田に、奈緒子はギクリとした。
そりゃ、セックスとはドコにナニを入れるかという位の知識はあるものの、ここまでハッキリ
「突入宣言」をされると急に不安な思いが湧いてくる。

「う、上田さん…そんな大きいの……あり得ないっての…」

奈緒子の両股の間に入り、今や全て脱ぎ去った上田の「大きな根っこ」が天井に向かってそそり立っている。
あれだけネタにされてきた実物を初めて目の前に突きつけられ、先程までの蕩けるような快感も引きそうになった。
上田はがっしりと奈緒子の上半身を抱き、その巨根を花弁の入り口に当てた。
思わず、固く目を瞑った奈緒子に再び深い口付けをする。

「You……奈緒子。これから一緒に暮らそう。ずっと一緒だ」
「えっ……」

目を見開いた瞬間、張り裂けるような衝撃が走った。

「はあぁぁっ…!」

息も出来ない。覆い被さっている背中にギュッと指を食い込ませる。
上田の頭の中も今や真っ白である。
茂みの奥は堪らないほど窮屈で、懸命に進入を試みる矛先に絡みつく。今すぐ果ててもいいと思うほど
強い快感にノックアウトされそうだ。

「い…痛いか? まだ奥まで行ってないが、これでもいいかもしれん…」
「ど、どうせ痛いんだから…さっさとやっちゃって下さい…」

喘ぐ奈緒子を力を込めて抱き締める。そうか、ピークを超えれば少し楽になるかもな。

ベストを尽くせ!!

一気に腰を進ませ、膣の一番奥に先端が届いた。

「ああぁぁぁっっ!」

奈緒子は歯を食いしばる。上田はそのままの状態で奈緒子の上半身を包み込んだ。
二人とも大きく息をつき、少しずつ強張った身体の力が抜けてきた。
やがて上田は上体を起こすと、ゆっくり腰を動かし始める。

「あぁ……あぁん!」

最初は苦痛で歪んでいた奈緒子の表情が変化してきた。固く瞑った瞼が開かれ、瞳がこぼれそうなほど潤んでいる。
上気した頬に半開きの唇から、悩ましく艶のある喘ぎ声が漏れ続けた。
上田の腰の動きがどんどん速くなるにつれて、奈緒子の声も高くかすれてくる。
巨根が何度も何度も子宮を突き上げ、痛みの中から何ともいえない疼きが奈緒子を襲い、翻弄されつつあった。

「……!!!」

声にならない叫びで上田が果てる。奈緒子の白い裸体も大きく弓なりに反った。

目が覚めた。
いつものベッドに横たわっている自分……まさか…まさか?!

ガバッと起き上がったものの、思考回路はまだ起動しないようだ。
ふいにドアがパッと開く。

「おっはようございます! 朝はコレッ!!」

両手に缶コーヒーを1本ずつ掲げ、奈緒子が満面の笑みを浮かべて立っていた。

……夢じゃなかったんだ……。

何だあいつ、人より先にサッサと起きやがって。
えらくサッパリと――可愛い顔しやがって。

「そういや、お前にちょっと似てる女優が宣伝やってるよな」
「知ってますよー。だから冷蔵庫に一杯買い置きしてあるんでしょ?」






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