池田荘にて
上田次郎×山田奈緒子


クーラーの存在しないアパートに戻ってくると部屋にはいつものように日本科技大学の教授が座っていた。
ほとんど乾いた下着類が押しやられた洗濯紐には万国旗が翻り、窓際には紙で作った花がいくつもとめられている。
上田は頭には赤と緑の厚紙製のとんがり帽子、首にはこの暑い最中に金ぴかのモールを幾重にも巻いていた。

「ハッピ〜〜ッ、バ〜〜スデ〜〜〜!」

手にしたクラッカーの紐を引き、彼は白く輝く歯を見せた。

奈緒子は今更もう驚いた表情などみじんも見せなかった。
疲れた風情で足元に本日ゲットのパンの耳の袋を置く。

「なにやってるんですか上田さん」

上田は新しいクラッカーをとりあげ、またぽんとはじかせた。

「見ればわかるだろう。ハッピーバースデー」
「どう見てもクリスマスだ。やめろ暑くるしい」

上田の前にはケーキの箱や大きな鳥腿の照り焼き、シャンメリーなどが並んでいる。

それらをちらちらと気にしながら奈緒子は座った。

「何企んでるのか知らないけど、私の誕生日は今日じゃないですよ」
「なぜ貧乳、かつ水虫、かつ魚の目のyouの誕生日などを祝ってやる必要がある?そんな呪われた日なんかじゃない!今日はな、俺の誕生日だ」
「そうだっけ?」
「知らないのか。なんという認識不足だ」

上田は偉そうにとんがり帽子を揺らせた。

「ノーベル賞獲得の暁には、この上田次郎の生まれた日が国民の祝日に制定される可能性は非常に高いというのに」
「絶対にされませんから」

上田はまたクラッカーを取り上げて鳴らした。

「はははっ。誕生パーティーは楽しいなぁ」
「ちょっと待て。なんで私の部屋でやる?」
「you!」

びしっと上田は奈緒子の鼻先を指差した。

「余計な事を考えるな。常在餓鬼道のyouの前に食パン以外の高カロリーの食べ物が存在する、その奇跡だけに目を向けるんだ」
「つまり祝ってくれる友達がただの一人もいないんだな。まあいい、仕方ないから祝ってやる」

奈緒子は照りも美しく輝く腿肉に熱い視線を向けた。

「…でかい!奮発したな、上田。……誕生パーティーは楽しいなぁ、えへへへっ!」
「よし乾杯だ!」

上田はシャンメリーをグラスに注ぎ、奈緒子に渡した。

「上田次郎次期名誉教授のますますのご発展とご活躍を祈って!」
「明日にでも上田とのこの腐れ縁がさくっと切れますように」

二人はグラスを干した。

奈緒子は急いでグラスを置き、腿肉に手を延ばした。
上田のことである。いつ気が変わらないとも限らない。

「じゃ、遠慮なく!」
「待て!」

上田がその指先をクラッカーで抑えつけた。

「その前に、出してもらおうか」
「何をですか」

奈緒子の視線は一直線に腿肉だけに向かっている。
上田はにんまりと眼鏡の奥のつぶらな目を細めた。

「誕生パーティーで要求するものといえば、誕生日のプレゼントと相場は決まっているだろう」
「せこっ。いつも世話をしてやっているこの私から貢ぎ物をとるというのか、上田?水臭い奴だ……なっ、私たちの仲じゃないか」
「我々の間にそんな仲など存在しない!」

上田は腿肉を押しやり、奈緒子の指をつかみあげた。

「youがプレゼントはおろか普段二百円以上の持ち合わせすらない事は百も承知だ。大丈夫だ、今回は持ち合わせているもので勘弁してやる」
「亀とハムスターは譲らないぞ!」
「誰があんな生き物など!俺の狙いはな、山田」

上田は奈緒子の目の前にぐいと顔を近づけた。
聞き取りにくい低音が鼓膜をくすぐった。

「youだ」

「え?」

眉間に皺を寄せた奈緒子はまじまじと間近の上田の顔を眺めた。
その間にせこせこと膝で移動した上田は卓をおしやって腿肉を遠ざけてしまった。

「you……わかっているんだ、最初に出会った瞬間からyouが俺の事を密かに慕い、貧乳、いや、胸をいためているという事はな」

声は言いくるめるような騙くらかすような甘い響きを帯びている。

「う、上田。何を言っているんだ。何か悪いものでも食ったのか……にゃっ!?」

大きな手がそっと胸に這い上がってきたことに気付き、奈緒子は頬を赤らめた。

「さ、ささ触るなっ」
「恥ずかしがる事などあるものか。youの救いのない貧乳ぶりに関しては熟知しているから隠す必要もない。しかも男女間の行為のあらゆる資
料を予習済みのこの俺だ。処女を捧げるにこれ以上の相手はいないぞ、山田奈緒子!」

「誰が処女だっ」

奈緒子は急いで身を捩ろうとしたが相手は通信教育で空手を極めるという非常識を体現する上田次郎である。
素早く腕を捻られてあっさり畳面に押し伏せられてしまった。

「ん〜〜〜、いい匂いだ……you……リンスは何を使っている…?」

頬に乱れた黒髪の匂いをうっとりと嗅いでいる上田の表情と台詞に、奈緒子は不吉な既視感を覚えた。

「はっ……う、上田っ!?まさか、お前は例の怪し気なあれを服んで…」
「うむ、例のポ○モン島の媚薬成分をちょっとな。youのような貧乳を襲うにはやはりクスリの力が必要だ」
「ポ○モンじゃない。黒門島だ!」
「ふっふっふ……」

上田が笑い出した。

「ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっ」
「意味もなく長々と笑うなっ」
「長く笑いたくもなるじゃないか……さっき、youも媚薬を服んだんだぞ。油断したな…」
「え」

奈緒子の顔から血の気がひく。
今しがた乾杯したシャンメリーに違いない。楽しい誕生パーティーにかこつけて、なんという卑劣漢か。

「上田!放せ、そこからおりろ」
「超即効性の媚薬だ。どうだ〜、ドキドキしてきただろう…?」
「う」

上田の指がやけに不器用に奈緒子のブラウスの胸元を探った。釦をうまく外せないようだった。

「……うむ、急いではずすんだ、山田!」
「なんで私が?」
「強がるな……ほ〜ら、youも、すっかり…目が潤んでいるじゃないか」

それはお前だろうと言いかけて、奈緒子は頬が熱い事に気がついた。
それどころかやたらでかい上田の重い躯がぴったり密着した部分も熱い。特に股間のあたりが熱い。

「い、いやだ。やめろ、上田」
「こうして間近で見ると…いや…わかっはていたが、よく見ると……可愛いぞ、 you」

奈緒子は耳を疑い、自分の正気を疑い、最後にはやはり上田の狂気に烙印を押す事にした。

それにしてもおかしい。いつもならこのあたりでツッコミが入るのだ。
ハルかジャーミーあたりが乱入してきてくれないだろうか。
いや、今日は愛のハイキングに行くとかで池田荘の大家達は朝早く出かけたっきりだ。
なんという事だろう。

奈緒子が混乱している間に上田はブラウスの前面突破に成功し、ブラから豊胸パッドを抜き始めた。

「いちま〜い……にま〜〜い……なんだ、今日は控えめだな」
「うるさいっ!!!……しっかりしてくださいよ上田さん!こんな事して、あとで後悔するぞっ」
「あとで悔やむから後悔と書く…はじめから後悔など、したくてもできないぞ、山田奈緒子」
「ううっ」

へらず口に正直に怯んだすきに上田の顔が迫って来た。このままでは唇を奪われる。

「やめ」

唇に重くて熱い感触。キスされてしまった。
しかも台詞の途中で開けていた口に、あっというまに上田が舌を入れて来た。

「んんっ、ん……」

絡んでくる舌を避け、奈緒子は必死の力で首を振り、上田の顎を押し上げた。

「…き、キスする時にはとんがり帽子や眼鏡は外せと学校で習わなかったのかぼけ男っ」
「わかった」

上田は実に素直に帽子と眼鏡を外し、部屋の彼方に力一杯放り投げた。
かちゃんという音がしたから水槽にでも当たって大破したらしかった。

「さあ、これで何の障害もないぞ、you!」

言うがはやいか上田は馬鹿力で奈緒子の躯を締め上げた。
実はまだモールが首にかかっているのだが二人とも忘れている。

「もう逃げられないぞ、男なら潔く諦めろ」
「女だ!」
「ん〜〜〜、やわらかい…youは華奢だな……ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふ」
「それはもういいから、上田……あの、そういえば矢部さんが今すぐ交番に来るようにって言ってましたよ!」
「なにを見え透いた。今の俺たちの間に警察が介入するような問題などないだろう」
「このままじゃ矢部さんがこなくちゃいけない事態になるんですよ!お、お前、この股間は一体……」

奈緒子はもじもじと脚を動かしてなんとか上田の腰から離れようとしたがあまりにもぴったりとくっついているのでそれは不可能だった。
脚が少なくとも三本はあるような感触である。

「そんな凶器で私を突くというのか上田。立派な人殺しになってしまうぞ」
「……そ、そのための媚薬じゃないか」

上田は怯んだが、気を取り直したように首を振った。

「きっとメイビー大丈夫だ……youのふるさと、ポケモン島の植物を信じよう!」
「上田、伏せ字を忘れ…」

再び唇を塞がれ、無念ながらも奈緒子は言葉をやめざるを得なかった。

一人でこまめに練習を積んで来ただけあってかどうかはわからないが、上田のキスは巧かった。
性急というわけではなくゆるゆると焦らすように唾液を送り込みながら口腔内を舐め回す。
がっちり押さえ込まれているから身動きできない。
舌の輪郭をなぞるように上田の舌が行き来し、初めて味わう感触なのにその柔らかさに思わずうっとりしてしまって奈緒子は赤面した。
彼女はじたばたと上田の長身の下で身を揉んだ。

「ん、ん〜〜、ん〜〜〜〜っ」

現在進行中の行為の即時中止と発言の許可を訴えたが上田は顔を離さなかった。
とろとろと混ざった熱い液体と共に上田の口の中に舌をとられ、奈緒子も唸ることすらできなくなった。
上も下も縁も余さず舐め回されてしまった。もう彼女の舌は上田の味と動きしか感じない。

ようやく顔が離れ、奈緒子は喘ぎながら酸素を貪った。

「はあっ、はっ、はっ……!」
「どうだ……“ナポレオン”の茎を一分間に一ダース結べる俺の舌技は」
「そ、そんな練習を地道にしてたのか、一人で?」

妙に早い鼓動に奈緒子は不安を覚える。媚薬が効いてきたのかもしれない。
眼鏡を外した上田の顔が優しく、しかも精悍にみえるのだ。理由はそれしかなかろう。

「あ」

開いたブラウスとブラの紐を肩からむしりとり、上田が顔を伏せてきた。

「やっ、やめろ!……あっ、あん…!」

ブラ本体を押し上げ、ぺろりとむきだしの乳首を舐められて奈緒子は悲鳴をあげた。
悲鳴の中にかすかに嬌声のおもむきが滲んでいることに気付く。
本人は真っ赤になり、上田は喜んだようだった。

「ふっふっふ……効いてきた……効いてきたな」
「いやぁ…やめ、あっ、あっ!さ、触るなぁ……!」

奈緒子の豊かでない膨らみは上田の掌にすっぽりと収まり、おとなしく自在に捏ねられている。

「素敵だ、貧乳とはいえど…柔らかくて滑らかだ……おおぅ、感動だ……」

奈緒子は急いで腕をつっぱろうとしたがやはり力では叶わない。
背を仰け反らせて肩を竦めるていると上田は勘違いし、乳房を優しく揉みつつ奈緒子の耳朶に囁いて来た。

「そう腰を押し付けずとも。急ぐな…こうしてゆっくりとyouをほぐして…」
「違うっ!!!!あっ、あん、だめっ、ばか上田…!きゃっ!?」

奈緒子は上田のもう片方の手が長いスカートを捲り上げて膝を割った事に気付いた。

「その反応、その表情、その喘ぎ。可愛い、可愛いぞ山田!……辛抱たまらん…い、いざ…!!」
「今急ぐなって言ったじゃん!?いやっ!上田のそれ、それって無理だから!絶対無理!!」
「無理ではない!無理を通せば道理が引っ込むものだっ」
「や、やっぱり無理なんじゃないかぁ!!!」

上田はもじもじと身を揺らし、ズボンとブリーフをおろした。
鼻息荒く奈緒子にのしかかり、大きな手で奈緒子の下着を引き下ろす。

「やめろっ!この巨根!強姦魔!おまわりさあ〜ん!!」
「黙るんだ、力を抜いて…」

元々人の言うことをきかない男だが一層頭に(いや股間に)血が集まっているためか更に聞く耳をもっていない様子である。

「力を抜いていないと、下手をすると少なくとも全治二週間以上の怪我をするぞ…」

びくっとして奈緒子は急いで力を抜いた。
確かに、脚に感じるこの大きさのものを無理にねじ込まれては大怪我をしかねない気がした。

上田は優しい微笑を唇に浮かべた。

「協力する気になったんだな、you」

違います、自衛のためだと言いかけ、奈緒子は喘いで上田の腕にしがみついた。
さっきからの刺激でささやかに自分のそこが濡れている事に気付いて彼女はまた赤面したが、それよりなにより、上田がぐいと直に押し付けてきたものの大きさに度肝を抜かれている。

「う、うそだ……!」

散々上田を苛めるネタにしてきた巨根ではあるが、実際に挿入される立場になると、どう考えても凶器である。

「なにが?」

上田は気もそぞろに該当箇所に男根の先端をおしあて、潜らせようとしている。
その先端がうまく潜らない。
上田がやたら押し付けているのもあるが、奈緒子がそれを受け入れるほどにたっぷりとは濡れていないからである。

「ま、待って!いきなり巨根じゃなくて、せめて指、そう、上田、指でしっかり馴らしてから…!」
「you…好きものだな…」
「断じて違うっ!は、はじめてなんだ…無理だ、そんなの。お願い、上田さん…」

最後はほとんど泣き声になっていたが、奈緒子は恥ずかしいと思う余裕などどこにも持ち合わせてはいなかった。
死ぬか生きるかの境目である。

上田はかすかに赤くなったようだった。

「はじめて……そ、そうか。やはりな。そうか…前戯が足りないという事か…」
「前戯とか言うな!」
「しかし…こちらはもう…うっ…」

上田は奈緒子の秘所に先端を押しつけ、必死の形相でむやみと腰を揺らした。

「そんな余裕は、もうどこにも」
「やめろってばっ!裂ける!」
「や、山田っ…ここは、す、スリッと我慢、してくれっ」
「いやだ!」

奈緒子は上田を避けようとできるだけ膝を曲げ、おもいきりその躯を挟んだ腿を締め付けた。
ただでさえ大きな巨根の先端が、奈緒子の滑らかな腿できゅっと挟まれ、みっちりと締め上げられた。

上田は叫んだ。

「おおぅっっ!」
「きゃあっ」

開いたままの奈緒子の股間を熱く濡らして、巨根の先端から大量の白濁液が迸った。

「なっ、なんという事を!上田、とめろっ」
「と、とまらんっ、とまらんのだっ……おぅおぉ…」

それは力強く脈打ちながら何度も何度もどくどくと出て、奈緒子の股間どころか腿や畳面や下腹を覆ったままのスカートまでしとどに濡らしたあげく、徐々に勢いを失い、しばらくしてからようやく止まった。

「………はあっ、はあっ、はあっ。……きっ…気持ちよかった…!」
「いやだああ。ばか上田!間抜け!巨根!い、いれてなくてもこういう事すると妊娠したりするんだぞ!」
「男女間のどんな性行為にもその可能性はあるが…」

上田は気怠気などんよりとした目つきで奈緒子を眺めた。

「you…良かったぞ」
「なにが良かっただ、勝手に盛り上がって一人でイったくせに。お上に訴えてやるからな、覚悟しろ上田!」

奈緒子は急いで力の抜けた上田の手をはねのけた。
這うようにしてタンスまでいき、タオルを取り出してあたふたと身についた精液を拭う。

「ああ、気持ち悪い!スカートのクリーニング代出してくださいよ、上田さん!」
「訴えるって、なにを?」

呑気な事を言っている上田に奈緒子はタオルを投げつけた。

「わ、私を強姦したじゃないか」
「入れてない」
「入れなくても同じ事だ、このばか!未遂でも立派な犯罪行為だぞ!媚薬飲ませたじゃないか」
「媚薬?」

上田は首をかしげてタオルを手にした。

「なにをもってそんな誹謗中傷を」
「え」

奈緒子は動きをとめた。

「あの時の植物はとっくに枯れてしまったし、もう手元にはない。当然だろ」
「で、でもあんなにドキドキ…」
「それはきっと」

上田はにやっとした。下半身丸出しなので間抜けな笑顔である。

「俺に抱かれるのが嬉しかったからじゃないのか。目が完全に潤んでいたぞ……素直になれよ、you」

奈緒子は上田を睨みつけ、頬を染めると唇を噛んだ。

「……さっさとズボンはいてくださいよ」

上田は下半身を拭き、ブリーフをはき、ズボンに足を通しながらまだ喋っている。

「さっきのyouの要求だが…」
「えっ、なに?」

奈緒子はびくっとして長い黒髪に縁取られた顔をあげた。畳を拭いている最中だ。

「上田次郎のこの長い指で、youの躯に、前戯を。もっとたっぷり、ねっちり、溢れるほどにして欲しいと」
「い、いやらしい言い方をするな、上田!あれは、ただ…」
「考慮すべき改善点だ。今度…旨い郷土料理が食べ放題の温泉に連れていってやろうか」
「温泉?」

奈緒子の手からタオルを奪い取り、上田は鳥の照り焼きを握らせた。

「そうだ…『豊乳の湯』という秘湯のある村の収入役と、先日、ふとしたことで知り合ってな…」

いやな予感がして眉をよせた奈緒子に、上田はさらにケーキの箱を押し付けた。

「これもやる。なあ、一緒に行こうじゃないか」

奈緒子は肉とケーキの箱だけはしっかと抱えて立ち上がった。

「まさか、また変な事件に私を巻き込む気ですか!?」
「変な事件だなどと人聞きの悪い。ただな、収入役の言うことには」

「言うな語るな!」

奈緒子は急いで室内の万国旗や紙の花をむしり取った。

「今思い出したけど、お、お前の誕生日は11月だったはずだ。まだ8月だぞ」

上田は壊れた眼鏡をひろいあげながら呟いた。

「やっと気付くとは。愚かな」
「ええい黙らっしゃい。私を、た、食べ放題と豊乳の秘湯で釣ろうたって、そ、そうはいかないぞ!」
「それにくわえて不世出の天才物理学者上田次郎とのめくるめく夜」
「め、めくるめかなくてもいい!絶対に行かない!行かないったら行かない!!」

「仕方ないな」

上田は亀の水槽を持ち上げた。

「あっ!」
「この生き物の命が惜しくば、明日の正午に日本科技大の裏の駐車場まで来い!次郎号で待ってるぞ!」
「ゆ、誘拐だ!おまわりさ〜ん!!」
「ふははっ、あいにく亀には誘拐罪は適用されない!ではっ」

そのまま上田はびよ〜んと長い手足を振り回して奈緒子の妨害をかいくぐり、部屋の外に飛び出していってしまった。
あとには奈緒子の叫びが虚しく響くのみである。

「待て、上田!!スカートのクリーニング代置いていけーーーーー!!」



ところであの男にいわゆる素股プレイをされた事に彼女が気付くのはいつの日だろうか。






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