熱血貫通編
上田次郎×山田奈緒子


「さて、この上田次郎の大活躍で今回も無事に事件が解決したわけだが…」
「ふざけるな!私が全部解いたんだ。いつものように気絶し続けだったくせに」

鄙びた温泉郷である。
川沿いの小道を湯上がりの男女が歩いていた。
ぼさぼさ頭でのっぽの日本科技大教授物理学者上田次郎、そして自称超天才美人マジシャン山田奈緒子の凸凹コンビだ。
上田は眼鏡が新品で浴衣姿だという事以外はいつもと変わらないが、奈緒子のほうは風情がかなり違う。
いつもは垂らしたままの長い黒髪は珍しくも巻き上げ、襟首に覗くうなじが白く初々しい。
浴衣だから貧乳も目立たず、そこはかとない無作為の色気などが珍しくも醸し出されているのである。
さっきから上田が高い位置からちらちらと覗き込んだり並ぶ角度を変えたりしたりしているが無理もなかろう。

「……あれは気絶じゃないっ。天才の頭脳にはこまめかつ断続的な休息が必要なんだと何度言えばyouは……」
「それより、上田さん」

奈緒子はきっと上田の顔を見上げた。

「ここに私を連れて来た、その条件を忘れてるんじゃないでしょうね?」
「ちゃんと亀は返したはずだ…」

彼女はぶんぶんと首を振った。

「当然ですよ!そうじゃなくて……」
「温泉には今浸かっただろう」

上田はちらりと奈緒子の胸もとに疑惑の視線をやった。

「果たして豊乳効果が現れているのかどうか、君の場合はなはだ疑問だがな…」
「う、うるさいうるさい!そうじゃない、事件解決の暁には豪華絢爛美味絶佳のご馳走の食べ放題って…」
「それは宿屋が用意してくれる」

上田の眼鏡越しの目がにやりと笑った。

「もう一つの条件も忘れてはいないぞ、you。『めくるめく夜』………。楽しみにしていたまえ」
「なっ」

奈緒子は立ちすくみ、真っ赤になった。

上田はデリカシーの片鱗も見せず喋り続けた。

「you…ここへ着いてから三日たつが、その間俺が何も手出ししなかったので随分気を揉んでいたようだな」
「ち、ちがっ」
「この上田次郎が依頼も果たさずしてただれた夜に溺れるなどと、そんな不誠実なことをするわけがないだろう。この日を待っていたんだよ、はっはっは」

奈緒子が綺麗な顔をうつむけ、微妙に口角をあげて呟いた。

「そりゃ、夜な夜な気絶してるんだから手は出せませんよね?」
「おほん!おほん!」

上田は大きな咳払いをし、奈緒子を睨みつけた。

「気絶じゃないと言っただろう」
「ふん」

奈緒子は鼻を鳴らしてさっさと足を速めようとした。浴衣の裾がふくらはぎに絡む。

「もうっ、歩きにくい…」

浴衣の裾をひきあげようとしてふと気付き、上目遣いにみると案の定上田が踝のあたりを凝視している。

「……you、そういえば素足は珍しいな」

鼻の下がのびていた。
奈緒子は赤くなると裾から手をはなし、現状で可能な限り足を速めた。

「待てよ、おいっ!」

後から上田が追いかけてくる。



宿屋の用意した夕食はこれまた珍しくもまっとうなものだった。
よくよくみるとお約束のように虫料理とかトルティーヤとか珍味とか怪し気なメニューが紛れ込んではいたのだがそれを除くと田舎旅館の典型的なお食事である。
奈緒子は食べた。上田の前の皿まで奪い取って食べた。
上田が(間違いのないように言っておくが、上田が、だ)やたら楽しみにしている『そのあとの事』に不安を覚えていないわけではないが目の前に豪華げな食べ物が置かれるとつい何もかもを忘れ、手が勝手に動いてしまうのである。
貧乏とは悲しいものだ。
逆に、上田は心ここにあらずといった様子だった。
次々に強奪されていくご馳走に気付かず、奈緒子をみながらご飯ばかりを食べている。
程せずして全ての皿と大きなおひつが空になり、やがて入って来た仲居が膳を下げ、机を移動し始めた。
ふっくらとした布団が二組並べて延べられた。

挨拶をして出て行く仲居。
静まり返った部屋には布団を横に奈緒子と上田。

上田はついと立っていき、埃を追い出すために仲居が開けていた窓を念入りに閉めた。
応接セットとの間の障子もぴっちりと閉じ、ぎくしゃくと振り向いた。

「さ、さあ。じゃあ……もう夜も遅いし…」
「上田さん」

奈緒子が口を開いた。
ぱっと立ち上がる。

「私、冷えちゃったんで……もう一度温泉行ってきます!」

奈緒子の後ろ姿に上田はタックルをかけた。

「待てっ」

その勢いにもんどりうって奈緒子は転び、上田の重みに引きずられて布団の端っこを潰した。

「やめろ上田っ、ま、まだ、私……そ、そう!歯磨き、歯磨きをしてないんだ、虫歯になったら困る!」
「そ、そうか。それもそうだな」

上田は急いで身を退き、奈緒子を立ち上がらせた。

部屋には備え付けの洗面所がある。
二人は並んで歯磨きをし、うがいをし、タオルで口元をふいた。
上田は眼鏡を外して台に置いた。
鏡の中の奈緒子に視線をあわせ、言った。

「……ほかに何かしておきたいことは?」
「………」

奈緒子は顔を歪めた。
それは、亀を人質にとられたとはいうものの結局ついてきてしまったのだし今更逃げるわけにもいかないのだろうが、それでもあれだ。
奈緒子としては上田とそういう事をするのは気が進まないのである。

率直に言えば怖い。
上田はひどい巨根なのだ。
普通に「ご立派」とかいうレベルじゃないのは先日の一件でよくよくわかっている。

「ひとつ聞きたいことがあるんですけど」

奈緒子は思い切って切り出した。

「何だ?」

上田は狭い洗面所で向き直った。

「あの……」

奈緒子は言い渋り、上田が喉の奥で唸ったので仕方なく続けた。

「……ほかに、誰か、いい相手はいないんですか?」
「何?」
「相手ですよ、相手。……どうして私が、上田さんの相手をしてあげなくちゃいけないんですか?」
「…………それは」

上田は視線を逸らした。

「上田さんいつも私のことめちゃくちゃに言ってるじゃないですか。貧乳だとかインチキだとか貧乏だとかジャジャ馬だとか。上田さんって教
授でエリートで優秀なんでしょ、私とじゃ釣り合いが……」
奈緒子は必死にそう言った。

「それに、私は……その……くっ………。しょ、処女……なんですよ、処女。絶対に無理ですよ。頼むから他を当たってくれ」

「ふ、ふん。やはり処女か……youのほうこそ、俺に相手をしてもらわない限り処女を捨てる機会なんか二度とこないぞ」
「こなくても全然困りません」
「負け惜しみを」

上田はゆらりと奈緒子ににじり寄った。

「大丈夫だ……この前のようにすぐ果てずにすむよう、食事の前にトイレで……処理しておいた。youは何も心配しないで俺に任せていればいいんだ……」
「処理………」

眉を寄せて奈緒子は考え込み、やっと思い当たったのか真っ赤になった。

「バカ!バカ上田!何してたんだ、寄るなっ」
「さあ、目を閉じて……」
「うっ、……こ、こうしましょう!上田さん!」

奈緒子は上田に肩を掴まれ、引き寄せられながら忙しく考えを巡らせた。

「私がいつか処女じゃなくなって、こ、こどもとかたくさん産んで、上田さんでも大丈夫なサイズになった時にお情けで一回だけ、相手してあげます!ね?これなら大丈夫かもしれませんよ?」
「バカか、youは!」

上田の怒号が耳元に轟き、奈緒子は重低音の衝撃に目を閉じた。

「単純なサイズの問題じゃない!別の男に抱かれた後だと?そんなの耐えられるか」
「いや、この際、単純にサイズって重要…んん…っ」

上田の台詞の後半に奈緒子が気付いたのは問答無用で唇を塞がれてからだった。

(他の男の後は耐えられないって……??え……)

奈緒子は赤くなった。
どういう事だ。

歯磨き粉の味と匂いは別として上田はキスだけはやっぱり上手だった。
くにゅくにゅと奈緒子の舌を柔らかくこね回し、官能的に舐めながら熱い息を押し込んでくる。

「……ん……」

喉の奥に唾液を流し込まれてぴくんとした奈緒子の躯を上田は抱え直した。
頭を指先でほぐす。
まとめてあった素直な黒髪が流れ落ちた。
いつもの奈緒子の匂いとは違う香り(つまり温泉備え付けのリンスだろう)が広がっていく。

「you」

上田は奈緒子の耳元に囁いた。

「言わないとわからないのか……やっぱりバカだな」
「お、お前にバカなんて言われる……筋合いはない……」

上田の指が浴衣の紐を探っている。
奈緒子は唇の端に溢れた上田の(か自分のか、それとも混ざっているのかわからない)唾液を、辛うじてあげた指で拭った。
いつの間にか自分の瞼がかなり下がっているのに気付く。
きっととろんとした目になっているに違いない。奈緒子は恥ずかしさに頬を上気させた。

「拭くな」

上田が片目をすがめて睨んだ。

「だって」
「拭かなくても可愛い」

「上田さん……?」

抱きすくめられて奈緒子はもじもじと腰をよじった。浴衣越しのおなかの中央に硬いものが堂々と当たっている。

「あの、あの……痛いじゃないか。離れて」
「素直じゃない君にはどうせ言葉で言ったってわからない」

上田は奈緒子の頼みを無視した。

「犬のしつけと同じだ。直にその場で躯に教えてやるしかないんだ」
「な、何を教えるって……」
「どうして俺が、本来の好みとは正反対のyouのような貧乳で強情で愚かで貧乏な女をこの行為の相手に選んだか、その理由をだ。……知りたいだろう?」
「………」

思わず奈緒子は頷いていた。

「はっはっは……だろう?そうだろう」

上田は無精髭を歪ませ、唇の端に、ひどく癪に障る笑みを浮かべた。

「じゃあ、戻るぞ」
「え」
「せっかく仲居さんが親切に布団を用意してくださっているんだ。使わなければ申し訳ないじゃないか!」
「……………」



せっかく仲居さんが親切に用意してくださった布団を圧し潰し、上田は奈緒子を放り出すとすぐにのしかかってきた。

「上田!重い、どけろ……!」
「少しは我慢しようとか、この重みが嬉しいとか思わないのか?youは」

上田が案外真面目な顔で呟いた。

「思うもんか。本当に、どこまでも無駄に大きいんだから。……このウドの大木め」

顔を赤くして奈緒子が罵ると、上田はまた奇妙な笑みを浮かべた。

「どこまでも素直じゃないな…」

そのまま顔が迫ってくる。
奈緒子が先日気付かざるを得なかった、ぎょろぎょろだけど澄んだ綺麗な目。ひきしまった頬。
真剣な目。

「う、上田さん。キスはだめ」

奈緒子の抵抗は役に立たなかった。

「だめか。じゃあしてやる」

上田は呟き、奈緒子の後頭部を布団に沈めた。

奈緒子は慌てて目を閉じた。
キスされると心が乱れるのがいやなのだと訴えたいのだが、言えばすぐに心が乱れるその理由を教えろと理屈っぽい上田は追求してくるだろう。
気持ちいいから、と正直に言えば常日頃から無意味なまでに自信過剰なこの巨根男がどれだけつけあがる事か。
想像するだに恐ろしい事態である。
奈緒子は唇もしっかと閉じた。

問題は舌だ、と彼女はこれまで数度交わした(奪われた?)上田とのキスから得た教訓を思い返した。
唇だけの接触ならばおそらく亀とするのと同じ事。
サクランボの茎を一分間に何本だか、結べるのだと自慢している上田の舌技さえ封印すればキスに夢中になって流される事はないだろう。

唇が触れた。触れるか触れないかの温もりが小さな唇の輪郭を辿って移動した。
男の肺深くからの吐息があたたかく表面を潤し、微細な湿気の感触にほぐれた下唇を優しく挟まれた。

「……ン」

震えた肩を宥めるように掌が包む。顔の角度を刻み、上田は肘を奈緒子の躯の両側につき直した。

(…なんで)

奈緒子はそっと瞼をあげかけ、慌てて閉じ直した。
同様に瞼を閉じた上田の顔が覆い被さっている。
でかいだけに存在感は凄まじいが、実際にはそんなに体重をかけられてはいないようだった。
唇の圧力も押し付けがましくはない。
どちらかというと軽くて、淡くて、優しい感触…ぞくっとして奈緒子は喘いだ。
唇を塞がれているために、喘ぎはこもって消えた。

(なんで……な、中を舐められてないのに気持ちいいんだ…っ)

湿度どころではない潤沢な水気が敏感になった唇を撫でる。
舌先が触れている。二度、三度と窺うように唇の狭間をつつかれた。
じれったいほど微細な快感がそのたびに唇の表面にぴりぴりとはしった。

(…あ…)

思わずほどいた唇の隙間から、奈緒子は抵抗なく上田の舌を受け入れてしまった。



開いてしまうともはや自分自身への言い訳がきかなかった。

(上田なのに……こ、こいつは上田……バカ上田……!!)

奈緒子は自分の腕が勝手に伸び上がろうとするのを見た。
ほの暗い場所から光を求めるツタのように、上にいる男の脇腹に絡み付いていく。
上田の肩を脇の下から抱いて、奈緒子はようやく解放された口を大きく開いた。
酸素を貪りながら相手を見上げる。

「う、…うえ、だ…」

上田は薄く目を開き、組み敷いた彼女を見下ろした。
その頭の後ろ、天井の照明が煌煌と輝いていることに奈緒子は気付いた。
潤みかけていた目がわずかに見開いた。

「でんき…電気、点いてる。恥ずかしい」

上田は面倒くさそうに大きな目を細めた。威圧するように奈緒子を見据える。
奈緒子の腕を絡ませたまま、上田の躯が少し離れた。
温もりが消えた事に寂しさを感じた奈緒子は動揺し、動揺したことにさらに動揺して赤くなった。

敷布の上に黒髪を散らせて息を弾ませている奈緒子の浴衣の襟を、上田はそっと掴んだ。

「見られても困らないだろう…………………………………今さら」

奈緒子は上田を睨んだ。
上田は言い訳のように呟いた。

「ああ、なんだ、その。俺は一概に貧しい乳がどうしても絶対に憎いというわけじゃないんだぞ。…まあ、その、youの胸に限っては」
「やっぱり小さいって今思ったろ」

襟をひっぱり、はだけさせながら上田は頬をゆるめて笑った。

「そっちこそ。……やっぱりでかいと思ってるだろ」

奈緒子はぷいと横を向いた。腿に問題の例のものがあたっている。

奈緒子は囁いた。
声は真剣な緊張をまとっていた。

「…本当にできると思いますか、上田さん」
「黙ってろよ……奈緒子」

奈緒子はびくりとわなないて上田をまっすぐ見上げた。

「な、なおこ?」
「………奈緒子。奈緒子奈緒子なおこなおこなおこなおこ、奈緒子」
「いやがらせか?やめろっ」

顔を真っ赤にした奈緒子は悲鳴のような音をたてて大きく息を吸い込んだ。
するするとくびれを辿り、裾を割って入り込んだ掌が彼女の下着の上から腰の曲線を撫で擦っている。

「ンッ、あ、ちょっと…!」

身をくねらせ、奈緒子は上田の躯を両の掌で掴んだ。

「どこ触って…あっ……」
「触らなくちゃ濡らせないじゃないか」
「!」

がくんと一瞬のけぞり、奈緒子は上田の肩にしがみついた。
下着の前に上田が手をいれ、密やかにおさまっている茂みを撫ではじめた。

「んにゃっ…」
「………」



眉をひそめ、唇から押し殺した喘ぎを漏らした奈緒子の表情に色気を感じたらしい。
上田は彼女の横顔を覗き込んだ。
奈緒子は気付いていない。
茂みを梳くように立ち入ってくる指先に集中力を奪われている。

撫でられただけでも腰から力が抜けそうだった。
特に、上田の指先が最後に軽く通り過ぎる場所への感触が躯の芯に直接響く。
彼女は唇を歪め、息をこぼした。
甘いその響きは普段の奈緒子には全く似つかわしくなく、耳元にそれを聞いた上田は口を薄く開いた。
顔を見直す。やっぱり奈緒子である。
だが、どこかが違っていた。

猫の喉を撫でる要領で彼女の茂みを再び撫でた。

「んっ…」

はっきりと反応を返し、奈緒子の細い肩が浴衣の影で震えた。
それに勇気を得た上田はどんどん掌を先に押し込んでいく。
茂みの下ですんなりとはじまっている狭間。
そのやわらかな感触の中に上田は指先を沈めた。
できるだけそっとしたつもりだったが、奈緒子の躯が胸の下で跳ねた。

「ああっ!上田さん…」
「大丈夫だ、you…ん、これかな…」

(ええと、このふっくらしたあたりが大陰唇、この内側が小陰唇…してみるときっとこのあたりにクリトリスが…いや、もっと上か…?)

虚しく一人溜め込んできた女性器に関する基礎知識を脳内で総動員する上田だったが、実際に奈緒子を抱いて敏感に反応を返す躯を探っていると各部の正しい名称などはどうでもよくなってきた。

やわらかい茂みをかきわけ、撫で擦り、割れ目に指を潜らせ、ぷくりと小さく感じる粒を優しく優しくそそのかしていく。
奈緒子はさっきからろくな言葉も口にせず、上田に抱きついて上気した顔を耐えるように小さく振っていた。
そんな彼女が可愛くてしかたない。

つぷ、と不思議な感触が指先に伝わった。
肌とは全く違う。濡れた襞が指先を包み込み、待っていたように蠢いた。
奥に吸い込まれるようである。

「いや、いやっ、あ、はぁっ…!」
「おおぅ…」

指先にぬるりと温かい粘液が絡んだ。うろたえたのか、奈緒子が腰を一瞬押し付けてきた。

「ゃん!」

すぐに慌てて飛び退こうとした奈緒子は悲鳴に近い喘ぎをあげた。
上田が中指の第一関節まで押し込んでさらにゆっくりと肉壁を撫で始めたからだ。

「う、っ、上田さん…上田さんっ」
「おうっ」

上田は力強く応え、奈緒子の細い胴をもう片腕で抱きしめた。

「任せておけ、you!とてもいい反応だ…性交…いや、成功間違いなしだ!」
「い、今、何を言い直し……あはあん…っ」

往復するように指を動かされ、奈緒子は未だに浴衣に包まれたままの腰をかすかに振った。
処女のぎこちなさ満載にしても相当に悩ましい風情だった。

「いやあ、だ、め…な、なか…触らないで…」
「奈緒子」

上田は片腕を彼女の谷間に沿わせたまま上半身を押し付けた。
潤んだ目で見返した奈緒子に一瞬視線を絡めると顔を伏せ、襟の奥の肌に吸い付いた。
ちいさなおわんを伏せたようなそのささやかな膨らみの頂点には、淡紅色の突起が尖っていた。

「!」

奈緒子はのけぞり、深まった上田の指の感触にまたびくりと腰を波打たせた。

「んっ、はん、はっ……う、あ…!」

中指に添えて、人差し指を増援に送り込む。拒もうと緊張する膣口をほぐしながら優しくなぞる。
指先を重ねるように、慎重に奈緒子を刺激する。
もっと蕩けさせるよう。
自分を無事に最後まで受け入れてくれるよう。



くちゅ、ちゅ。
ちゅぶっ……。

二本の指先を交差させるように彼女の内側をかき混ぜて擦り立てる。
隙をみて三本目の指先も潜り込ませた。

「んー!」

奈緒子がびくりとしたが耳元で「可愛い、可愛い」と囁くと潤んだ目を向けて頬を染めた。

「こわい」
「大丈夫」

奥はもっとキツいのだろうしほんの入り口だけの感触だが、ここまではすっかり蕩けているようだ。
上田はゆっくり円を描くように束ねた指を動かした。あまり奥には突き入れないように注意している。

「やだ、やっ…あん、あぁっ、はん!」

奈緒子は拒否めいた声を発しながら上田の肩やら首筋に腕を廻してすがりついてきた。
熱い粘液と隙間なく絡み付いてくる襞の柔らかさに包まれた上田の指先は溶けそうだ。

上田は奈緒子を肩で布団に押しつけ、顔をあげた。
露に上気しつくした顔の中に半ば閉じかけている目が上田の視線を捕えた。
反対に、こちらは開いたままの唇が甘い吐息をついた。

「はあ、はっ……えだ…さん…」

上田はその目の前に、彼女の下着から引き抜いた手をゆっくり掲げた。
まとわりついて光を弾くとろみが付け根を越えて掌まで輝いている指を見た瞬間、奈緒子が呻いて顔を背けた。

「ふっ……ほぉら、こんなにどろどろでぬるぬるでぐちゃぐちゃだっ。なんていやらしくて淫らなんだ!この、you!」
「こっ…この、…はあっ…、へ、変態っ!どすけべっ!!」

奈緒子は普段の片鱗を取り戻しかけて喘いだ。

「どすけべか……」

上田は妙に安心した。

「この際、否定はしない」

なめらかな尻と湿った下着の間に掌を差し入れる。果物の皮でも剥くようにするりと脱がせた。

「あ……」

奈緒子は絶句した。
上田が膝をこじ開けるのを、そむけた顔を真っ赤にして辛抱している。

いい加減皺だらけになった敷布の上で上田はじっくりと奈緒子のその場所を観察した。
そこはけなげに濡れ、上田の指を確かになんとか三本受け入れたはずだが、こうして見てみると指とは全く別ものの男根が収まるとはどうも思えなかった。常人のならばともかく。

「…………」

眉を寄せて思案している上田に、奈緒子がおずおずと小さな声をかけた。

「……上田…さん?……」
「ん?」
「なに見てるんだ。恥ずかしいから、あまり…」
「おう………なあ、you」
「…?」
「こんな目にあってもいいくらい……俺のことを好きなのか?」
「……………黙れっ!…く、くるなら早く来い、上田!」

彼女は真っ赤を通り越した深紅色に頬を染め上げ、叫んだ。
なぜかその目には潤みだけでない涙の輝きがみえたような気がして、上田は慌てた。
細い腰を両手で掴み、彼女の太腿を躯で押し広げた。

「お、おう!じゃあ、これから挿入するぞ。力を抜け、いいか…深呼吸するんだ……十…九…」
「だ、黙って来い」

奈緒子は小さく囁き、両腕を広げ、指先が白くなるほど強く敷布団を握った。

「八…七……だから、力抜いとけって。どうせなら俺にしがみつくとか…六…」
「ぬ、抜いてます。そのカウントダウン、やめてくださいってば、緊張する!」

上田は苦笑した。

「おう」

奈緒子の腰を持ち上げ、とうに準備のできていた先端を押しあてる。
溢れるほどに濡れそぼっている谷間に、男根の先がつるりと収まった。
奈緒子は驚いたように目を見開いて肩を竦めた。

「って、えっ、そんな、あ、ちょっと待……!!!」
「……い、いけそうか……?」

亀頭の鰓周辺までをなんとか濡れた場所に押し込み、上田は感動に喘いだ。

「ゆ、you。入ってる。入ってるぞ」
「は、入っているんですか?もう?」

奈緒子の顔がぱっと明るくなった。

「なんだ、ちょっと…きついけど…これなら楽勝ですよ、上田さん!脅かしといて、いやだな、もう!」
「そうか!楽勝か!」

上田も目を輝かせた。

「じゃあ、もうちょっと…いくぞ…」

腰にゆっくりと力を込めた。奈緒子の腰を布団にじりじりと沈めていく。

「って、ええっ!?」

奈緒子の声が緊張で裏返った。

「あの、今ので全部じゃ」
「全部?はっ!ちょっと手を貸せ」

上田は片手を離し、奈緒子の手首をとった。
繋がろうとしている場所に引き寄せ、興奮で筋が浮き上がっている竿を触らせる。

「これが、ほとんど入る(はずだ)」
「うそっ」
「何が嘘だ…大丈夫、大丈夫だ…」
「さ、さっきから言ってる『大丈夫』の根拠ってどこですか!?」
「愛だ!」

角度よし。ペースよし。上田は奈緒子の腰を揺すり上げた。

「待…」

逃げられないよう彼女の片方の腿に体重をかけ、ゆっくりと押し込んでいく。
ぬめぬめとした、だがとてもきつい彼女の中に。

耳元で奈緒子が息を呑んだ。

「ふ…っ……は、……あ、あっ、ああ、………あああああああああああぁぁっ!!!!!」

最後は絶叫に近かった。

「い、痛いか……」

上田は侵入の快感の続行をなんとか諦め、腰を止めた。
永遠と思えるくらいの間をおいて、奈緒子の限界まで仰向いていた喉がようやく少し戻った。

「……はっ、……上田…!……いっ、……今、腰がっ、『みしっ』て……きしんで」
「大丈夫だ!それはな、you、処女膜が……」
「で、でも、ほんとに……!」

上田は掴んでいる掌で奈緒子の腰を撫でた。
かなり細いが、まさか巨根の挿入で壊れるなどという事は。

「………やめるか」

上田は呟いた。
奈緒子はその言葉に衝撃を受けたようだった。

「えっ。や、やめるんですか?」
「だって、youが壊れてしまってはもともこもないじゃないか」
「大丈夫、大丈夫だから…今の、気のせいだと思うから…」

奈緒子が涙声になっている事に上田は気付いた。泣きたいのは上田のほうだ。

「いや、そんな、youにだけ無理をさせるわけには…また後日、改めて少しずつ……」
「う、上田の弱虫。すけべのくせに。少しずつなんて……何度もこんな思いさせるつもりか」

「………」

上田は涙をいっぱいにためた奈緒子の瞳を覗き込んだ。

「……死にそうになる前に、言えよ」

奈緒子はこくんと頷いた。布団から手を離し、上田の首に腕を巻き付けた。

「あの……こうしてて、……いいですか」
「おう」

上田も彼女の腰から手を離し、すんなりした背中を抱きしめた。
奈緒子の腿に足を絡ませ、わずかに腰をすすめる。

う…、と奈緒子が喉の奥でうめく。

暴力的な質量に驚いた彼女の躯が自分を押し返そうとするかたい感触を味わいながら、上田はさらに力をじっくりと込めた。

「あふっ……」

奈緒子が押し殺した声を漏らす。その頬をとらえ、唇を吸う。
なめらかな素肌を撫で、彼女の全身を宥めながら腰をさらに沈ませる。

「ん………っ……ふ、あ……んく……」

こんなゆっくりとした挿入は珍しいのではなかろうか。
上田は興奮となにがしかの切なさとの裏側でそう思った。
動いていないのに気持ちいい。ただ、挿れているだけなのに。
奈緒子の中は熱くて蕩けていて、ひどくキツくて上田を拒むようでいながらまとわりついてもっと奥に誘っているようだった。男根の造形のあらゆる箇所に絡み付く襞、隙間なくまといつく肉の壁。
たぶん、彼女の女の場所は初めて迎えた男をこうして記憶しているのだろう。

ゆっくりと進む。
抱いた彼女の胸が浅い呼吸でせわしない。
上田は奈緒子の太腿を少し引き上げた。
白いはずの奈緒子の肌が、どこもかしこもほんのりと染まっていた。

「あ…」

かすかにのけぞる背中を抱き、もっと奥に進んだ。奥に、奥に。行き着けるところまで。
自分の形だけを、奈緒子に覚えていてもらいたいと思った。

もうどうしても動けない、という場所まで到達し、上田は満足して大きな吐息を落とした。

「……もういいぞ、you」
「………ああぁ…」

奈緒子が全身の力を抜いた。あれほど言ったのにひどく緊張していたらしい。

「上田さん……」

力つきたような息を漏らした。

「すごく…くっついちゃいましたね」
「そうだな」

上田はぴったりと密着した腰を確かめるように揺らした。

「……動くなって」

奈緒子が呻く。

「おう」

急いで上田は頷いた。脈打つ場所から、可能な限り意識を逸らす。
なかなか難しいが、奈緒子の負担を思うと当分は動けまい。

繋がったまま、しばらく上田は黙っていた。
一人きりの修練ならば重ねてきた上田だが、刺激的な摩擦がない行為でもこれほど気持ちいいとは。
やはり実際に経験してみないとわからない事も世の中には多々あるという事か。
動かなくても、奈緒子の鼓動と温もりだけで満足と幸福感がふつふつと沸いてくる。

「……上田さん」

奈緒子が艶かしい口調で呼んだ。

「なんだ?……奈緒…」

上田は顔をあげた。その額をぺちっ!と叩かれた。

「…いつまでのっかってるんですか…?…すっごく重いんですけど……」
「……情緒のない女だな、youは!」

口を尖らせた上田の頬を奈緒子が両手で挟んだ。
柔らかい唇が触れ、それはすぐに触れ合いに発展し、上田は奈緒子の手を掴むと布団に押し付けた。

「…余計な事をするんじゃない。我慢できなくなるだろう」
「だから……」

奈緒子が早口に言った。

「早く……終わらせればいいじゃないですか。我慢なんて、上田には似合わないぞ」
「youはこうしていたくないのか?」
「………さっきから……」

奈緒子は目を伏せた。

「ずっと、腰、…微妙に揺らしてるぞ、上田。痛いし」

「………おぅ……」

上田も気付いた。
どうもひどく気持ちいいと思ったら姑息にも躯が自分勝手に快楽を追求しようとしていたとは。

「誤解しないで欲しい。これは俺の理性と慈愛の司っている現象じゃない。本能が勝手に…!」
「でもそうしたいんだな?」

奈緒子は頬を染めた。

「…したいようにしていいぞ。どうせここまできたんだから、同じ事だ」
「えっ…だが…」

上田が目を見開くと奈緒子はますます頬の色を濃くした。

「バカ。う、上田さんがそうやって遠慮とかしてると………気持ち悪いんですよ」
「気持ち悪いって…」
「……上田さんに……」

奈緒子は居場所がないような様子で身を縮めた。

「……私とするととっても気持ちいいって……思って欲しいんですよ。…言わせるな、このタコが」
「……奈緒子」
「呼ぶな」
「奈緒子」
「やめろって」
「奈緒子…!」
「あっ……!」

滑らかには動けなかった。
奈緒子のほうは破瓜直後でもあり、いくら直前に『処理』していたとしても上田もまともな性交は初めてで、しかも並外れた巨根である。
スムーズな行為になるはずもなく、ぎくしゃくとした喘ぎと呻きと吐息との混乱した時間が過ぎた。

「奈緒子」

汗びっしょりになった上田が顔をあげると、奈緒子は歪ませていた唇をなんとか微笑の形に整えてくれた。

「上田さん……い、いい、ですか……っ…?」

あまりにも彼女が愛しくて上田は泣きそうになった。

「お、おう!い、いい。すごくいいよ」
「良かった…あ、上田…っ」

奈緒子は骨を砕かれんばかりの力で抱きすくめられた。
上田の体重のほとんどが奈緒子を圧し潰し、布団に腰を押し付けられる。

「あああっ」

奈緒子は細い悲鳴をあげた。
もの凄い勢いで狭い場所から上田の男根が無理矢理に引き抜かれるのがわかった。
破瓜とたび重なる往復に耐えていた奈緒子の躯にその負担はかなりのもので、彼女は苦しさにのけぞった。
もがいた腕を引き寄せられた。しっかりと上田が抱きしめてくれた。
嬉しさにすがりつくと、密着した下腹部で何かが大きく振動した。

「…んんっ…」

臍の上あたりまで噴き上がってきた熱湯のようなものに熱さに驚きながら、奈緒子は上田にさらに抱きついた。

「……上田さんっ」
「おおぉう……!んっ、…はあっ、は……ああ…!」

彼が達した事は独特の臭いからも明らかだった。
そっと彼の躯に手を伸ばすと脈打つたびに欲望をまだ吐き出している男根が触れ、精液だけではなく濡れそぼったそのつるりとした感触に奈緒子は真っ赤になった。

「………」

荒い息を整えていた上田がふと顔をあげた。
大きな目が心配そうに光っている。

「う、あーーー……だ、大丈夫か、you………」

奈緒子は腰を慎重にくねらせてみた。
下腹部をおさえてもみる。
内部が鈍く重く痛むけど、壊れているという感覚ではない。

「………大丈夫……か?」

奈緒子は笑った。
一番怖れていたところを辛うじて無事に通過できたという開放感が胸にこみあげてくる。

「そうか…」

上田が心底ほっとしたように呟いた。

 「じゃあちょっと休めば……あと一度くらいは……大丈夫だな」
 「今日はもう無理だけど、またいつか…しても…いいですよ」

二人同時に囁き、一緒に黙り込んだ。
それぞれ、だんだん頬が赤くなっていく。

 「………今日はもう無理?」
 「あと一度って今からか」

まだ黙り込んだ。

 「でも君はどんなひどい目にあってもいいくらい俺を愛しているんじゃ」
 「お前はやっぱりそういう奴だ、上田っ」

奈緒子は上田の体液が飛び散った敷布を掴んで憤然と立ち上がった。
足元がよろけてふらりとしたのを見て急いで伸ばした上田の腕を振り払う。

「これだって、早く洗っておかなきゃ綺麗にとれないんだぞ!あっ、そういえば…!」

奈緒子は乱れた滑らかな髪の間から上田を睨んだ。

「こ、この間のスカート。上田さんがあんな事したからしみになってもう捨てなきゃいけなくなっちゃったんですよ。どうしてくれるんですか。これもクリーニング代を出さなかったお前が悪い」

上田は眉を寄せて真剣に考え込んだ。

「スカート………?…なんのことだ」
「もう忘れたのか!」

奈緒子は色っぽい姿のまま地団駄を踏んだ。

「you。腿に血が伝わっ…はっ!それは」
「言うなっ」

奈緒子は急いで上田の精液付き敷布を躯に巻き付けた。

「急いで洗濯しなきゃ!」
「洗濯なんかあとでいいじゃないか。それより、you、……こっちにおいで」

上田は布団に寝転がって両腕を開いた。
人の話を聞いていないにも程がある。
奈緒子は苛々し、がらっと洗面所へのふすまを開いた。

「お、お前なんか、いつまでもいつまでも一人で練習していれば良かったんだ!今夜私にまた触ろうとしたら殺すからな」
「you……さっきまであんなに優しかったのに…」

上田は傷付いたような表情を作った。

「やはり君の狙いは……俺の躯だけだったのか………?」
「それはお前だ!」
「愛されていると思ったのに」
「それは私の台詞だ!」
「はっはっは。……いいから飛び込んで来い!この胸に!」
「人の話を聞けっ!!!」



温泉郷の夜がしんしんと更けていく。
奈緒子と上田の不毛な痴話漫才は鄙びた和風旅館に延々と響き渡るのであった。

…迷惑な話である。






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