ラブエクササイズ
上田次郎×山田奈緒子


私の名前は山田奈緒子。
実力派の天才美人マジシャンだ。

今夜は各国の著名人が集まるパーティーでマジックを披露した後、上田と二人で食事をすることになった。
特に珍しいことじゃない。
なぜならこいつには友達がいないからだ!
うひゃひゃ!
しかたなく甘味処でデザートまで付き合ってやった後、上田の提案で、テレビでも見ながらお茶を飲もうということになった。
場所は、上田のマンション。の、…なんでわざわざ寝室なんだ。

テレビはベッドの前に設置されている。
必然的にベッドに並んで腰掛けることになった。

…なんとも思ってません。
私は、ね。

今日の上田はやけに大人しい。
会話らしい会話もなく、私はテレビを見続けていた。
ちなみに上田はテレビを見ずに、ずっと私を見ている。
ギラギラしたねちっこい視線と激しい鼻息が気持ち悪い。
今日の上田、なにか変じゃないだろうか。
落ち着かなかったり、ニヤニヤしたり…いつものことか。
でもなんだか嫌な予感がする。さっさと帰ろう!

「じゃあ上田さん、私明日も大事なマジックショーがあるんでそろそろ…」
「ウエイト!!」

立ち上がって玄関に向かおうとすると、上田のでかい図体が立ちはだかった。
避けようとすると無駄に軽いフットワークで邪魔される。

「…上田!」
「今日はYOUにいい知らせがあってね、それで特別にプライベートルームに招待したんだよ。
さぁ!なんだと思う?」

いつも以上に気持ち悪い笑顔だ。
自然と上田を睨んでしまう。
こういうときはあれだ、また私に助けを求めるつもりだろう。

「いい知らせ…って…
上田さんが私に全財産を渡して消えるとか。
…どろん!」

えへへへへっ!と言い放ってやった。
上田が眉をしかめて鼻で笑う。

「答えはNOだ。実はな…」

きた!やっぱりな!

どうせまた変な謎解きだか調査だか研究だか取材だかに付き合わされるんだ。
断っても結局、脅迫されてついていく、もしくは拉致されることになる。
初めて会ったときから、お決まりのパターンだ。

「おとこわりだ!」
「なんだ嫌なのか。せっかくその貧しい胸が育つ方法を教えてやろうと思ったのに、残念だな」
「…はい?」

裏があるに決まってる。
こいつは自分にメリットがないことはしないからだ。

上田はズボンの中から一冊の分厚い本を取り出し、私に突き付けた。

「どこに入れてんだ!」
「ふふふ…アメリカの有名な学者が考えたエクササイズが最近日本に上陸してね、通信教育で修得したんだよ。
このテキストの1ページ目を読んでみなさい。
じっくりと、ぶっつりと」

本を開くと、胡散臭い笑顔の男女が並んでいる。
ピンク色の文字と怪しい書体で書かれた文章を読み上げた。

「…『私たちが推奨するラブエキサイティングワンダーエクササイズとは!
ラブエクササイズ、つまり俗にいうセックスを、一段と有意義に』…?ってこれ!!」

顔を上げるやいなや、上田の無駄にでかい図体が目の前に迫っていた。
驚く間もなくベッドに追いやられ、押し倒されてしまう。
両腕を押さえ付けられ、身動きがとれない。

「何のつもりだ!上田!」
「エクササイズだよ…YOUぅ…ゆ〜ぅ…」
「近い近い顔が!」

上田の息が鼻と口に激しく吹き付けてきて苦しい。
でも上田さん…いい匂いがする…。
ってこれはさっき食べた焼肉の匂いだ!
しっかり奈緒子!

顔を必死に背けながら蹴りを入れようとした。
が、足が上がらない。
上田の片足が私の両足のあいだにあるせいで、スカートが押さえ付けられている。

「うう上田!放せ!」
「知識を得ただけでは身につけたことにならないからな…実践だよ。実践」

変態学者に何か反論したい。
でもおかしい、頭が回らない。
気になっているのは、わざとか偶然かしらないが、上田の膝が微妙に私の股間に触れていることだ。
もがけばもがくほど、変な刺激が体に走って落ち着かない。

「上田、とりあえず足をどけろ。話はそれからだ」
「Why?どうした?」

上田は足を退けなかった。
それどころか僅かな振動を与え始める。
体がむず痒い、奇妙な感覚。

「ちょっ…上田?」
「YOUは教材より反応が鈍いな…テキスト12ページのカズヨさんはもう少し目をとろんとさせていたはずだ」

その一言でカチンときた。
頭がすっかり覚醒する。
…この馬鹿上田め。教材どおりにいくと思っていたら大間違いだ!

「そう確か12頁の6行目だ…羞恥心を煽り、抵抗を…」
「んーにゃーっ!!!」

上田がブツブツ言っている隙をついて、思い切り頭突きしてやった。

「おおうっ!」

ベッドから転げ落ちた上田を見下ろし、乱れたスカートを整えた。
うまく当たったのだろうか、口を切ったらしく涙目で震えている。
形勢逆転だ。

「上田…泣いているのか」
「うっ…ふっ…ふっふっふ…YOUに常識は通じないんだったな…」

上田がよろよろと立ち上がり、口端に滲んだ血をぬぐった。

「なんで上田さんと私がこんなことしなきゃならないんですか。
このテキストにも書いてありますよ。
セックスは、愛し合う二人が愛を確かめ合う行為だって。ほらここ…に」

不意にテキストをめくる手を掴まれた。
なんでこいつは一々触りたがるんだ。
振りほどこうと腕を振り回すと、テキストを奪われる。

「君は俺を愛してるだろう?
見てればわかるんだよ」
「…………はい?」

なんでこうなるんだ!
…不覚だ、一生の不覚だ。
認めてやらない、絶対絶対絶対絶対…

「YOUなんとか言ったらどうなんだ?」
「う…上田さんはずるい、いつも!」
「なに?」
「…知らない!馬鹿上田!」

悔しくてしかたない。
上田はずるい。
『俺を愛してはいけない』とか、『好きなのか?俺が』とか…『ジュヴゼーム』とか。
いつもいつもいつもいつもはっきり言わない。
でも、私だって『好きなら好きってわかりやすく言え』なんて言いたくないんだ。

「わ…わかったYOU、な、こうしよう。
何も言わなくていいから、嫌ならまた拒めばいい。な?」
「全っ然よくないんですけど」

上田がぎこちない手つきで私の顔の角度を固定し、唇を近づけてくる。

…べつにこの行為が嫌なわけじゃない。
素直にならない上田と、意地っ張りな自分に腹がたつだけだ。

唇が触れそうになると同時に、体が再びベッドに倒された。
見つめ合ったまま、沈黙の中に吐息だけが響く。

「ちょっと…キスしたいなら早くしてくださいよ、恥ずかしいじゃないですか」
「拒まれると思っていたんだ…予定と違う」
「…馬鹿上田」

上田の体に両腕を回し、引き寄せる。
上田と密着するのも、こんなに近くで顔を見るのも、なんだかんだでけっこうある。
初めてじゃない。
それなのに、上田の心臓はひどくうるさく鳴っている。

「はい上田さん、どうぞ?」
「…YOUの扱いはいつもマニュアル通りにいかない」
「いまさら何照れてるんだ」
「照れてるのはYOUだ」
「………もういい!」

この変な体勢のまま押し問答してても仕方ない。
弱虫上田は、私から動かないと何もできないんだから。

「上田、私がいいと言うまで目を閉じていなさい!」
「は、はい」

まったく、しょうがない上田だな。

上田の顔に手を添えて、ゆっくり近付けた。。
目を閉じ、息を整えて。
上田の唇に、私の唇を重ねた。

頭は固いくせに、唇は柔らかいんだな。

上田が確かめるように、何度も私の唇を啄む。
テレビで見るような長いキスじゃなく、唇がほんの少し触れるだけのキスが何度も続いた。

少し口を開けてみると、驚いたように一瞬キスが止み、しばらくして再び唇が触れた。
薄く開いた口に、上田さんの柔らかな舌が入ってくる。

「ふ…は…」

ゆっくり動く上田さんの舌を、自然と追い掛けていた。
熱くて、でも優しい動き。

ふと目を開けてみると、上田さんと目が合った。

「!?っ、ふんん…ぅ…!」

何度か上田の体を殴ると、唇が離れた。
離れる瞬間に唇に糸が引いたのがとてつもなく恥ずかしい。

「なっなんだYOU!空気を読め!」
「なんで目を開けたんですか!」
「YOUが急に口を開けたから…この期に及んで寝たのかと思って反射的に開いたんだよ」

んなわけないだろ!と突っ込みたかった。
が、突っ込まれたのはこっちのほうだった。
…上田さんの指が、私の口の中に。

「う…ぅえら…ひゃん?」
「…いい顔じゃないか、YOU」

上田の声が優しくて恥ずかしい。

口内を掻き回す指先を舌でなぞった。
ピチャ、と音がたつ度、上田が嬉しそうに笑う。
…単純な奴だ。

「…ん…?」

何か硬いものが足に当たった。
視線を巡らすと、上田の股間のこん棒がズボンを破りそうな勢いで立ち上がっている。

私は不覚にも、嬉しくなってしまった。
以前はおかずの足しにもならないと言われた私の体で、上田が喜んでいるのだから。

上田は嘘をつけない。
目を見れば上田の気持ちはすぐにわかる。

口の中から上田の指を抜き取り、ぺろっと嘗めてやった。

「上田さん…、いいですよ、脱がせても」
「お、おおう」

そっと抱き起こされ、上田が指先を震わせながら、ゆっくり服に手をかけたと思うと…私は全裸だった。

「早っ!!!」
「なるほど…長い髪で貧乳を隠すことができるんだな。
YOUなかなか策士だな」
「…お前ほんとに変態だな」

露になった胸にさらさらと触れている自分の髪を、上田に見せ付けるように掻き上げた。
上田がこっちを見て固まる。

…私は…何をしてるんだ。

顔が熱くなり、枕で胸を隠して俯いた。

「それは…挑発か?」
「…いえ、これはべつに…」

言い切る前に上田が枕を放り投げ、胸に手を延ばしてきた。
鼻息を荒げ、楽しそうに両手で撫で廻している。

「んにゃっ!ぅにゃー…!上田さんっ!」
「心配はいらないぞYOU、俺は貧乳向けのエクササイズを学んでおいたからな…
俺は天才かつ心優しい人間だ。
YOUのような貧乳の処女を扱った資料を探しに探し、忙しい合間を縫って研究を重ね…ついにここまできた。
今こうして俺は、物理の知識を駆使して痛みを和らげるようにYOUの貧乳を、この平らな貧乳を、谷間が見当たらない貧乳を」
「上田。少し黙れ」

物理学と関係があるのかわからないが、痛むことも少なく心地いい感覚が続く。
さすが、通信教育で空手を学んだ変人だ。
上田の指先が肌に触れるたび、喉がきゅっと苦しくなる。

「で。どうなんだ?」
「…どうだっ…て言われても…ん、んっ」

わかってるくせに。
上田が手を止め、ニヤニヤ笑いながら唇を舐めた。

キスするのかと重いきや、唇は耳元を捉らえる。
吐息や舌の感触がが直接脳まで届く気がして、頭が痺れる。

「ん、くっ…ふんんっ」

舌先が耳と首筋をはい回り、指先は足の付け根をそろそろと撫で回している。
なんだか体の奥が熱い。
もどかしくなって、上田さんの腕を掴んだ。

「なんだ…言えよYOU」
「…っ…んん…」

くらくらする白い世界に、上田の低い声が響く。
足を小さく擦り合わせると、上田はでかい目をさらに大きく見開いた。

「ちょっと待ってなさい、いろいろと準備があるから」

上田が慌ただしく部屋を出ていった。
…準備ってなんだろう?
今更シャワーでも浴びるっていうのか。

数分後、服を脱ぎ散らかしながら寝室に飛び込んできた上田は、手の平ほどの大きさの袋を私に差し出した。

「なんだ…これ」
「見たことないのか?避妊具、コンドームだよ」
「コンドーム!?…ってこんなに大きいか?」
「俺に合うサイズがなくてな…取り寄せに苦労したぜ!ハッハッハ」

そうだ。
セックスって最終的には、この巨根が私の体の中に入るってことじゃないのか。
今まで何度も死にかけたけど、本格的に死を覚悟するべきかもしれない。

「おっ…かなり濡れてるじゃないか、処女のくせに。
シーツがこんなにぐっしょり…」
「それは上田の汗だ」

気まずそうに咳ばらいをし、上田は避妊具を装着しはじめた。
あまり見たくはない光景だが、ついその大きさが気になってしまう。
一言で言えば、でかい。巨根とかいうレベルじゃない。
ちょっと逃げたくなった。

「装着完了…YOUはどんな具合になってるんだ?」

上田が私の両足を掴み、がばっと開いた。
恥ずかしがる暇もない。
上田は躊躇もなく私のあの場所を弄り回してきた。
くちゅくちゅと音が響き、変な声が勝手に出てしまう。

「ちょっと!待…いたっ…ぁ…ふっ、あ…ぁん」
「おもしろい…ふふふ」

なんだか敏感な場所があるらしく、そこばかり執拗に撫でられる。
痛いような苦しいような感触で、体が勝手に跳ねた。

「ぁ、あっ…やぁ…んぁっ!」

見られていることが恥ずかしく、目をきつくつむった。
私が声をあげるたびに、上田が笑うのが聞こえて腹立たしい。

「ふぁ、あぁ…っ…や…中…が、変…っ」

中のほうが熱くてむず痒くて、液体が溢れてくるのがわかる。

上田が指先を中に入れようとしている。
ぬるぬると入口で焦らされ、もどかしい。

「んっ、ん、やだぁっ…」

無意識に腰を浮かせ、指先を受け入れようと動いた。

体がおかしくなるのは、全部上田のせいだ。

「ん、入れてほしいか…ほら、どうだ」

ズブズブと指が入ってくる。
体は快楽を求めるのに、いざ入れられると痛かった。
上田さんの指が、私の中でうごめく。
痛いのに、嬉しい。

「…痛…い…んん…あぁ…」
「…ハハハ…指がぐちゃぐちゃだ」
「ん…んーっ…」

指が抜かれ、何か別のものが当てられた。

まさか、まさかこの感触は。

そっと目を開くと、上田の巨根が入口に添えられている。
体の準備はいい具合らしいが、まだ心の準備ができていない。

「…やだ…待ってください…私…」
「怖いか。
力を抜けば大丈夫だ…この角度なら、つるっと…するっと…スリット…だ」

力を抜けって言われても無理だ。
歯を食いしばり、シーツにしがみつく。

上田さんのモノが中に入ろうとするたび、滑って敏感な部分を擦った。

「……ぁ…う、あぅんっ…」
「よしここだな!スリット!裂けてー!」
「さ、裂くなっ…ふぁっ…ん!」

体の力が一瞬抜けた隙に、押し広げられたそこに異物感を覚えた。
どうやら、入ったらしい。
意外と大丈夫じゃないか。
これくらいの痛みならなんとかなりそうだ。

「…おっおおう…見ろ、先端が入った…今のはYOUの体の緊張をほぐすためのっ…呪文、だ」
「うっ、嘘…これだけじゃないのか…あっ、痛いいいっ」

これ以上入らないと思ったのに、巨根はじわじわと侵入する。
セックスってこんなもんなのか。
もう気持ちよくない。
ただひたすら…痛い。
痛い痛いと呻く私を見る上田は、笑顔だった。
このサド…。

「…ふぬっ…ふんっ!こうやって!少しずつな!」
「いっ…たい!も…上田、ストップ…死ぬっ」

上田の耳には届いていないらしい。
角度とか湿度とか言いながら、遠慮なしにずんずん突いてくる。
この自己中!人で無し!巨根ー!

「YOU頑張ったじゃないか、あと少しだ!」
「…ん…う…」

あぁ、私はもう死ぬのか。
三途の川が見えた気がする。

上田が一瞬腰を引き、力強く打ち付けてきた。
体をこれまで以上の激痛が走り、涙が溢れる。

「……ひっ…ぃやあぁあ!!!」

がくんと高いところから落ちたような感覚になった。
頭が真っ白になっていく。

「よ…し、全部入っ…た!…YOU?
どうした、まさか気絶したのか?
おい!YOUーーーーー!!」

体を揺すられていることしか感じない。
遠退いていく意識の中、上田の絶叫が部屋にこだましていた。


翌日。
陽射しの眩しさに目が覚めると、上田が隣で寝息を立てていた。

「あれ?…あれからどうしたんだっけ?
う……痛ぁ…」

体が…特にあのあたりが、激しく痛い。
私、柄にもなく気絶したのか。
どうなったのか覚えていないが、シーツの赤い染みやごみ箱のティッシュの山を見て何となく事態を察した。
無事に…とは言えないが、事を終えたのだろう。
恥ずかしくなってベッドに潜ろうとすると、いつの間にか起きていた上田と目が合う。
上田はベッドから体を起こし、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「おはよう、奈緒子。体の調子はどうだ!」
「体?最悪です。…名前で呼ばないでください」
「照れるなって、奈緒子!」
「やめい!」
「嫌だね。俺は嫌がるYOUが一番好きだからな」

え。
…今、好きって言った?

上田も自分の言ったことに気付いたのか、眼鏡をかけようとしていた手が止まっている。

「…上田さん、今」
「YOUの嫌がるところを見たり嫌がることを言ったり…そういった行為が好きだと言ったんだよ。
風呂を沸かしてくる」

上田はぎくしゃくと部屋を出ていった。
やっぱりサド男だ。

「まぁ…、いいか」

寝返りをうつと、あのテキストが落ちていた。
よく見れば、『貧乳』の項目には赤いマーカーで書き込みがぎっしり書いてある。
私のために勉強したって、嘘じゃなかったんだな。

「ほんとに…馬鹿だよなぁ…私も上田も…」

告白もセックスも、順番はどうだっていいか。
この腐れ縁が切れることは、絶対にないのだろうから。

私たちらしく、変なペースでいい。
いつかお前から好きって言わせてやる。
覚悟してくださいね、大好きな上田さん。






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