電話にさえ出なければ
上田次郎×山田奈緒子


「あ…あっ、あ……こら、やめろってば。…深いの、厭…」
「奈緒子……」
「あんっ…」
「感じてるのか」
「…あん…ああ…っ…えっ?…か、感じて、なんか…ない」
「……ない?」
「ない!なんなんだ、部屋入るなりいきなり!」
「飛行機には個室がない。トイレは狭すぎる。俺はyouの寝顔を見ながらずっと悶々としてたんだよ!」
「でも床って…ベッド!せめてベッド!」
「じゃあ、youのここはどうしてこんなにヌルヌルでヒクヒクしてるんだ…」
「んん…っあ……やだ、指、動かすな…」
「深いとこは厭なんだろ」
「だからって…あっ、そこは…」
「奈緒子」
「んふぁ…あ…」
「いい声だ」
「はぁん」
「可愛いな」
「あ、あっ…あ、いや、だめ、そこ」
「本当にイヤなのか」
「あん、あ…あ……え?」
「厭か…?ここは…」
「んっ。バ、バカ上田っ。やめろって」
「……だろ?ハハハッ、思った通りだ」
「なんですか…そ、その嬉しそうな顔」
「ここ、気持ちいいんだろ?」
「ふぁっ……んん…そんな、事…」
「バーカ。バレバレだ」
「……ん…にゃあぁ」
「Gスポット。有名な性感帯のひとつだ」
「あ、ああん、あぁ、あん…っう、ああ…やだぁ」
「くくっ…ほらな!youの場合、ここだ、ここ。わかるか?」
「ひ、にゃっ、やぁん!」
「どうだ、どうなんだ?…いいのか。良くないのか、どっちだ、you」
「ばかぁっ!き、嫌いだ、上田、お前なんかっ…あ、あああっ…!」
「おっと…」
「あ、ひ…っ……」
「……」
「んん」
「……」
「……う、上田?」
「ん」
「……どうしたの」
「何が」
「何って…」
「ああ。もっと刺激して欲しいのか?断る」
「…こ、ことわ…る?」
「新婚初夜だぞ。さくさくと進行させてたまるか、じっくりしっぽりねっとりとだな…」
「初夜って。ちょっと待て。お前、まだ昼間…」
「日本時間では夜だ。そうだ、初夜なんだからな。youもまだ開発されてない新妻らしく振る舞うんだ……バカめ。おねだりなんてするんじゃない!」
「か、開発したのお前だろっ!この……」

「…問題出してくれないか?」
「問題?」
「ほら、あれ。四桁の四則演算」
「なんでそんな事っ」
「冷静にならなきゃな。ほら、you」
「………こんなのやだっ!変人!巨根!自己中!」
「なに怒ってるんだよ」
「新婚旅行で暗算とかしてる新婚さんなんていないぞ!」
「そうか?」
「当然じゃないか」
「そうかな」
「だって、こんな……あっ」
「ふふ」
「…!…お、お前っ!わざとやってるんだな?そうなんだなっ?」
「可愛いな…」
「…上…んっ…」
「……」
「……ふ…」
「……」
「……んぁ」
「……」
「………うう」
「ふっ。ふっ、ふっふっふ…」
「…な、に…?」
「さっきから、きゅうきゅうって。凄く締まってる。床、好きか?」
「…バカっ!バカ、バカっ!!」
「愛してるよ」
「…………」
「何固まってるんだ」
「………う、うえだ。いきなりそういう事言うのやめろ」
「どうして。状況に相応しい言葉じゃないか」
「本心で言わなきゃ、意味ない…」
「本心だよ」
「………………」
「……だから、どうして固まるんだ、そこで。youは!」
「……だって」
「愛してちゃいけないのか。悪いか?」
「そんな…こと、ない…です」
「………」
「でも、…は、恥ずかしい…じゃないか…床だし」
「ベッドならいいのか。じゃあ潤んだ目で見るなよ。そういう目で訴えられたら言いたくなっちゃうだろ。我慢しろ」
「なにも…訴えてないんですけど」
「嘘つけ」
「……やん…あ、上田…」
「………」
「…んん…あ」
「可愛いよ……なあ、奈緒子」
「……」
「youは言ってくれないのか」
「…え…」
「愛してるって」
「…あ、あい…?」

「それにな、もう『上田』ってのはおかしいぞ。youだってもう山田じゃない」
「…そういえば、そうですね」
「上田同士で上田と呼び合うのは不合理じゃないか」
「…ですね」
「他の呼び方がいい」
「……ジロ…とか?」
「犬か、俺は!ここはやっぱり、『次郎さん』だろ」
「…次郎、さん…?」
「………エヘヘヘ!」
「…な、なに?」
「もう一度。今度はゆっくり発音してくれないか……」
「………恥ずかしい。ゆ、床でこんな事するのやめよう!な、上田」
「いいから、ほら」
「…次郎…さん」
「続けて言うんだよ。スムーズに、ほら、練習だ」
「次郎さん次郎さん」
「違う!さっきのようにだな、ほら、もっと情感をこめて!」
「……うるさい奴だな…」
「照れるな!こうだよ。いいか、リスン…『次郎さぁん』…」
「そ、そんな声出すな!くねくねするなっ!」
「アンドリピート!忠実にな!」
「……じ………次郎…さ…ぁ…ん」
「………奈緒子っ!!」
「あ、ああっ…!や、やあ、やめろっ!苦しい、死ぬっ」
「可愛いぞ、可愛いぞ、you!」
「いやだ、やだ、ああっ、突くな!」
「駄目だ、もう我慢できない」
「やあんっ…!そんな、強過ぎ…!だめ、だめっ、あっ、あ」
「奈緒子。奈緒子」
「んあ、あふ、あっ、あっ…ゆ、床でイくのは、厭っ!」

RRRRRRRRR

「はあっ、はあっ……………ハロー」
「で、電話…こんな時に、とるなあっ…!」
「静かにしてろよ!……もしもし?国際コレクト?OK」

『こんばんはー。センセ、矢部です』

「矢部さん?」
「や、矢部っ?なんで!」
「シーッ。すぐに切る…待ってろよ、そこで」

『上田センセ?』

「矢部さん。何か?…おいっ!こっそり足を閉じるんじゃない!俺が戻るまで待てって!!」
「なに言ってるんですか!床で一人で足広げてたら間抜けじゃん」
「くそっ……もしもし、矢部さん!何の用なんですか」

『いやー、新婚旅行先にお電話するのは気が引けたんですけどね、どーしても!どーしてもと、この、石原が…何じゃい。自分は言うてない?黙れっ。……あー、失礼しました。実は今我々、センセたちのご結婚を祝って二次会というか、飲み会してましてね』

「はあ。…おい、you。何起きあがってるんだよ。待てってば」
「なんで床で寝転がってなくちゃいけないんですか?恥ずかしいじゃないですか!」
「もしもし。矢部さんっ!それで?」

『センセとご一緒させていただいた懐かしいあれこれの事件の思い出話しとりましたんですがぁ、絶対センセもあの女、
いや、失礼、奈緒子さんも、どっちも相当の奥手、まああの小娘の場合奥手というよりはセンセのような物好きがおらんかったとまあ、あ、失礼。
まあ、そういうわけで肝心のアレの首尾はどうなるんやろ?いう話になりましてね』

「矢部さん、酔ってますね」
「ああっ!すごい、テレビで時代劇やってる!見ろ、上田!」
「おいっ!youっ!」

『いや、ワシは酔ってません。酔ってま、せんっ! 酔ってませんけどね、この、で、つい賭けたわけです』

「……何をですか。こら!you、真剣に見るんじゃない!」
「上田さん、だってこれ変ですよ。字幕出てますよ、英語で。邪道ですね」

『巨根貧乳の新婚さんが、今ヤってるかどうか…何邪魔しとんじゃい、石原ぁっ!放せ、放さんかい!』
『兄ィ!いくらなんでも本人に訊くのは失礼じゃけえ!…!ありがとうございますっ』
『矢部さん、あの、いくらなんでも深夜にご迷惑かもしれないしもうそのへんでやめといたほうがいいかなー?なんてですね、僕は』
『じゃかしいわ秋葉っ!時差、っちゅうもんがあるの知らんのかお前。今あっちは朝やぞ、ええか、ハワイいうたら憧れの超メジャー観光地やからな、オプショナルツアーが山のように組んであるに違いないわ。
いっくら初夜でがっついとってもセンセは理屈捏ねで物見高いええ格好しいの童貞やからな。こんな時間からあの貧乳をベッドに連れ込んどる余裕があるはずが、ないっ!』
『あー、矢部君。じゃあ何故今現在上田先生がお部屋で電話に出てらっしゃるのか、そのあたりを冷静に考えてみたまえよ。理性教養溢れる優秀な学者でも下半身に人格などないという単純な事実が凡人の君には理解できないのかな』
『なんじゃあ菊池!大体なんでお前がここにおるんや。ワシ呼んでへんぞ。お前らか』
『矢部さん、あの、僕は呼んでませんよ!違います』
「ワシでもないけえの、兄ィ!」
『僕にはわかるんだよ、同じエリートとして上田先生のお気持ちが。先生、聞こえますか。遠慮なくどんどん励んでくださいね、お土産はマカダミアンナッツがいいな」
『ええですかセンセ!とにかく今ヤったらいけません、わかりますか。ワシの千円がこいつにとられるかどうかの境目ですから!ええですね、夜まで待ってください!ええですね?いっくらハネムーンや言うてもよりによってあんな貧乳相手にですね」
『やっぱまずいけえ、兄ィ〜〜〜〜っ!』

ブツ。ツーーーーーーー。

「あいつら、何失礼な賭けしてるんだ!丸聞こえだっての!無礼千万な奴らだなっ。なあ、上田!」
「………ふーっ」
「…上田?」
「……さ、気を取り直して…おい。上田じゃないだろ」
「あ」
「ほら、次郎さん」
「じ、次郎さん…」
「……可愛いなぁ…you…」
「………おい」
「………」
「無理に気分盛り上げようとしてないか?」
「…………」
「潔くやめましょうよ」
「やめるだと……?」
「ほら、なんか…その…その気がすっかりなくなったし」
「………」
「上田さんも…、ほら、小さく…はないけど、さっきよりは…」
「………」
「だから、また後で」
「……………」
「ね。だからズボンはけ」
「……………やだよ」
「上田」
「ほんの少し挿れただけじゃないか。このままじゃ生殺しなんだよ!youは平気なのか!?疼いてるんじゃないのか!?」
「平気です。なんかこう、あいつらの声で根こそぎ醒めたっていうか」
「……」
「それとも菊池に儲けさせてやりたいのか?」
「……………」
「…ねえ、後で…ね?」
「矢部さんが儲かるだけじゃないか」
「申告しなきゃわかりませんよ」
「…じゃあ今やっても同じだろ?なあ、you」
「駄目!」
「…………」
「さ、上田さん。さっきガイドの人が言ってたじゃないですか。ここのホテルのバイキング、結構いけるって。行きます?」
「………」
「上田?」
「………」
「…泣いてるのか」
「………」
「………」
「違う」
「あ。泣いてる」






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