上田次郎×山田奈緒子
![]() 暇だ。 暖簾の向こうの古びたドアを見つめていてもつまらないだけだ。なにも面白くない。 この部屋の主があのドアを開け、暖簾を掻き分けるのはいつなのか。 少し早く来過ぎたか。 この天才物理学者をクソ寒い上に小汚い部屋で待たせるなんてどういう神経をしているんだ、あの貧乳め。 ハムスターや亀に餌をやったり、相手をしてやったりするのにももう飽きた。 こいつらもご主人様がいないと暇なのか、水槽の中でじっとしている。 とりあえず、あまりおいしくないお茶を飲んで貧乳女がバイトから帰ってくるまで時間をつぶす。 ふと畳の上に広がる、さっき取り込んでやった洗濯物が目に入った。 洗濯ばさみにつけたまま放置していたが、どうせ暇だし上田次郎様がたたんでやろう。 幼稚園の頃におばあちゃまから伝授されたあのスペシャルなたたみ方でな。 ふふ、見てろよ山田め。 まああいつは怒るだろうが、怒った顔を見るのもまた楽しいものだ。 しかしまあ、情けないくらいに色気のないブラジャーだ。 あいつは本当に女なのか? くたくたになっているブラジャーを顔の前まで持ってきてまじまじと見つめる。 糸がほつれている。おまけに穴が開きそうだ。 匂いは…匂いはまあ普通だ。心なしかいい匂いがする。 このくたびれたブラジャーを山田奈緒子がつけているのか。 ……あの小さくて細い体に。 あの白く綺麗な指で。 あの貧乳と言いつつもきっと少しは柔らかくて美しい形をしているであろう胸に。 あの雪のように白くてすべらかできめ細やかでしっとりとしていそうな肌に。 見たことも触ったことも揉んだこともないが。 このブラジャーを、山田奈緒子が。 「おおう!?」 なぜか急にちゃぶ台が傾き、湯飲みが勢いよく倒れた。 いれたばかりの熱いお茶が湯気をたててこぼれる。 幸いにも俺にはかからなかったが。 危ないじゃないか。しかしなぜこぼれた? まさか超常現象か?……恐ろしいな。 帰宅するなり、溜息が出た。 暖簾から見え隠れする大きな人影。 「また来てたのか上………上田っ!?」 固まった手から荷物が滑り落ちる。 なんだなんだ。 上田が私の洗濯物を畳んでいる。 ちゃぶ台が傾いてお茶が倒れている。 傾いているのは、何かがちゃぶ台を押し上げているから。 ってことは…つまり上田の巨根が私の下着に反応したということじゃないのか? 「ななっ何してんだ…ひっ人の、下着を!!」 「洗濯物を取り込んで畳んでやってるんだ」 「そうじゃなくて。いやそれも余計なお世話なんだけど、その…何も疑問に思わないのか!」 「こぼれたお茶は今拭こうとしていたんだ」 「ブラジャーで拭く馬鹿がいるか!」 雑巾を手渡すと、いつの間にかちゃぶ台はもとの位置に落ち着いていた。 「YOU…突然ちゃぶ台が傾くという話に興味はないか。 謎解きさせてやるよ」 「もうとっくに解けてます! 帰れ馬鹿上田」 自覚がないのかこの馬鹿は。 変態だ。 でも好きだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |