上田次郎×山田奈緒子
![]() あぁ、またやってしまった。 机の上には飲みかけの湯飲みが二つ。 私のと、さっきまでそこにいた上田の。 性懲りもなくまた怪しげな依頼を引き受けてきた上田は いつもの様に私を巻き込もうとして。 空腹のせいかイライラしてた私は 巨根だの単細胞だの思いつく限りの悪口を並べて追い返してしまったのだ。 困ってる女性は放っておけない、なんて本当にバカなんじゃないのか。 いつも痛い目見るのに、すぐに鼻の下のばして。 第一、一番身近にいる美人はいつも困らせてる癖に… って事はやっぱり私は女として見られてないんだろうな。 そこまで思考を巡らせると、思わず大きなため息が出た。 別に恋人になりたいという訳ではないのだけど。 今の関係は楽で心地良いから。 でも、何か足りない。 「んにゃー…」 行き場のないもやもやが思わず口に出てしまう。 「わからない事考えてもしょうがない、か」 さっさと寝て忘れるしかない。 そうだ、上田が持ってきたわらび餅でも食べて寝… 「…あいつ、ちゃっかり持って帰ったな…」 翌日。 私はパンの耳を手に入れるべくいつものパン屋を覗いていた。 あ、店長が振り向く。よし、道具を用意して―― 「you?」 「おぅ!?」 不意打ちだったので思わず手品の小道具を落としてしまった。 「な、何で上田さんいるんですか?依頼で出かけたんじゃ…」 「いや、何か解決したらしくてな。今朝キャンセルの電話が入ったんだ」 「そうなんですか…って妙に嬉しそうだな。 楽しみにしてたみたいだったのに」 「いや、私程の人気教授になると授業以外にも仕事は尽きないからな。 雑事にかまける時間はできるだけ少ない方がいい」 「あ、一人で行くの怖かったんだ。えへへ!」 「違う!」 いつものやり取りだけど、やっぱりどこか上田は嬉しそうだ。 「…やっぱり上田さん変じゃないですか?」 「至って普通だが?」 「嘘。…あ、そうだ。 さっき上田さんが脅かしたからトランプ飛んでっちゃったんですよ。 という訳で弁償しろ。あと迷惑料として豪華な昼食も」 「それなら丁度有名焼肉店の弁当があるから、youの部屋にでも行って食べるか」 「…やけに素直ですね。気持ち悪い」 「失礼な。じゃあ弁当いらないんだな?」 「いえ、焼肉は私の物です。お前は帰っていいから弁当だけ寄越せ」 「何でそうなるんだよ」 「また変な村に連れて行かれそうな気がするんで」 「昨日の今日だぞ。さすがに依頼はない」 「…本当ですか?」 そう言って顔を見てみたがどうやら本当らしい。 昨日あれだけ色々言ったのに部屋に来ようとするなんて物好きなやつだ。 この時私は上田の真意なんて少しもわかってなかった。 * 池田荘に着き、上田は慣れた手つきでお茶を入れる。 「youは待つって事を知らないのか?」 「なんのほほへふか?」 「…何でもない」 数分後。 「あー食った食ったっ」 「やはりyouは食べると機嫌がいいな」 「美味しい食べ物は人の心を豊かにしますよね」 「それはyouが普段まともな物食ってないからだ」 「贅沢せず質素な食生活を送ってるんです」 ふー、と息をつきながら私は仰向けに寝っ転がった。 「やっぱり事件がないと平和でいいですね」 「バイトも長続きせず暇を持て余してるようにしか見えないが」 「おだまりっ」 他愛もないやり取りが心地良い。 こんな穏やかな時間が欲しかったのかもしれない、とぼんやり思った。 上田さんも、少しでも同じ様に感じてたりするんだろうか。 そんな事を考えながら、私はいつの間にか眠ってしまった。 * 「んー…カルビー…」 目が覚めたら既に辺りは薄暗かった。 「結構寝ちゃったな…」 そして起き上がろうとして感じる違和感。 動けない。 …え、抱き締められてる? 上田が後ろから手を回したまま寝ているらしい。 な、何やってるんだこいつは。 「う…上田、ちょっと…起きろ!」 「ん…あぁyou、起きたか」 「起きたか、じゃなくて!何やってるんだ!」 「いや、youの寝顔が可愛かったからな」 「はい?…お前変な物でも食べたんじゃないのか?そうか、またカリボネか?」 顔が、熱い。 耳の近くで聞こえる声と背中に伝わる感覚が、どんどん体温を上げていく。 「俺が一人でカリボネ飲んでどうするんだよ。 昨日からyouが可愛すぎるからだ。こうして貰いたかったんだろ?」 抱き締める腕がきつくなる。 「な、な…?」 「昨日youは焼きもちを焼いてただろ?」 「はい?な、何の話ですか」 「あんな顔で普段の数割増しの悪態をついて。 思った以上の反応だったな。試した甲斐があったよ。ハッハッハッ」 「え、試したって…」 「依頼があったのも全部嘘だ。 最近youがよく切なそうな目をするのが気になってな。 好きなんだろ?この天才物理学者上田次郎の事が」 そんなにわかりやすかったのか?私は。 このどうしようなく鈍感な上田が気付くくらい。 あぁそういえばこいつは変な所で鋭いんだったっけ… それにしても耳元で言わないで欲しい。 何も考えられなくなる… 「こうしても抵抗しないのが何よりの証拠だ。何とか言ったらどうなんだ?you」 抱き締めて欲しいなんて思ってた訳ではないけれど。 でも、しっかりとした腕の中は居心地が良かった。 …上田の言う通りなんて悔しいのに。 「お、お前の事なんて嫌いに決まってるだろこのタコ」 かろうじて残っている理性で悪態をついてみたものの、普段の勢いはなかった。 「ふっ、本当にわかりやすいな、youは」 「…いじめて楽しいですか?」 「そりゃあもう。今のyouの顔が見れないのがとても残念だよ」 「…このサド…勝手にこんな事したら犯罪だぞ」 「youの想いを確認した上での行為だから問題ないだろう」 「そんな、こんな事していいなんて言って…ふぁっ!?」 首筋がくすぐったい。 「何…やって……やぁっ…」 思わず出てしまった私の声を聞いて 調子に乗ったらしい上田は更に舌を這わせてくる。 「そんな可愛い声も出せるんじゃないか。そうか、こういう趣味か?」 そう耳元で言いながらそのまま甘噛みする。 「そんなんじゃ…うぁっ…っ」 「感じやすいな、youは」 見えなくても、後ろで上田が笑みを浮かべたのがわかった。 そして服のボタンにのびてくる手。 …嫌。やめて。ずるい。 「上田の…バカっ…単細胞っ…うぅっ…」 「お、おいyou泣くな!悪かった、もうやめるから…」 そうは言ったけど、抱き締めた腕はそのままだった。 気まずい間。 「上田さんは…過ちは嫌いなんですよね?」 「あぁ、嫌いだ」 「これは…過ちじゃないんですか?」 「……違う」 「……妙な間があるな。っていうか違うのか?それって」 「何回言ったと思ってるんだ。ジュ、ジュヴゼームって」 「へ…?」 「な、何なんだその間の抜けた反応は」 「え、だって…女として見られてないと思って…本気ですか?」 「冗談だと思ってたのか?俺がどれだけ勇気を出して言ったと思ってるんだ。 でもいきなりプロポーズは重いだろうからな、 バナナボートなどの言葉も取り入れてもっと軽い感じを表現し」 「意味のわからない気遣いをするな!」 「ま、まぁ…そういう事だ。」 「あれじゃふざけてるとしか思えませんよ。」 「でも言った事は言ったんだ。youも言えよ、ちゃんと」 「はい?だ、だから私は上田さんの事なんて何とも」 「奈緒子、素直になれよ」 名前を呼ばれただけで固まってしまう自分が情けない。 「…き、嫌いじゃないですよ」 「本当に素直じゃないな」 「う、うるさい!」 「まぁ、youにしては素直になった方か」 そう言って、上田は身体を反対側に移動して私と向き合う形になった。 あぁ、キスされるんだな、とわかってた気もするけど、 そう思うより唇が触れる方が先だったかもしれない。 けど、そんな事はどうでもよかった。 背中には腕が回されて、何度も何度も口付けて。 どれ程の時間が経っただろうか。 息苦しさで我に帰って、何とか上田を押しやった。 「はぁっ…苦し…お前もうちょっと考えて、んっ!」 隙ありと言わんばかりに口に舌が入ってきて口内を撫で回す。 優しく舌を絡め取られて、また私の頭は簡単に思考を手放す。 もう、どうなってもいいかな…なんて朧気に思った頃、上田はやっと唇を離した。 「you…可愛いな」 「な、気持ち悪い事言うな」 やっぱり普段の勢いがないのが言いながらわかった。 上田は笑いが抑えられないといった様子で返してくる。 「ふっ、そんな真っ赤な顔して言っても可愛いだけだ」 何でこんな時だけ余裕があるんだこいつは。 「…上田さんも顔赤いですよ」 「嘘だろ!?」 「あ、赤くなった」 「…こいつ」 ふっ、やっぱり私の方が一枚上手だな。 「それくらいで優位に立ったつもりか? いいか、俺はyouとは決定的に知識の量が違うんだよ。 今までどれだけ練習してきたと思ってるんだ」 「そんな事自慢するか普通…っていうか、普通こんなに雰囲気ぶち壊しにするか?」 「それはyouのせいだろ」 「……」 「………」 もう、何でこうなってしまうんだろう。 知識が豊富だとか自慢してた目の前の男もこんな時の対処法はわからないらしく、 目が泳いでいて私なんて目に入ってないみたいだ。 やっぱり肝心な所は私が動かないといけないのか。 しょうがないなぁ、もう。 心の中で小さく決意を固めて、私はそっと上田の頬に手を伸ばした。 驚いた上田が向けた視線に思わず止まりかけたが、勢いのままにそっと唇を重ねた。 おずおずと食むように唇を動かすと、すぐに上田はさっきの調子に戻って あとはもう、上田のペース。 気付けば押し倒されるような体勢になっていて、お互いの息も荒くなっていた。 もっと触れて欲しい。 そんな想いが浮かんだ事がたまらなく恥ずかしかったけど、 でも、どうしようもない。 気持ちを悟られたくなくてそっと視線を外すと、上田は小さく笑った。 「…何で笑うんですか」 「もう何も言うな。さっきみたいになるのは嫌だからな」 「嫌です」 「おいyou」 私はそっと腕を首に回して抱き寄せて耳元で囁いた。 「あの…私も…好きですから。だから…」 優しくしてくださいね、という言葉はキスの嵐で押し込められた。 至る所に唇をつけながら、上田は器用にボタンを外していく。 あっと言う間に服は脱がされ、とうとうブラも外された。 身につけているのは下着一枚のみ。 「そんなに見るなぁ…っ」 恥ずかしくない訳がない。 視線のやり場に困って思わず目をつむってしまう。 「気にするなyou。小さいが…綺麗だよ」 そう言って上田は胸に顔を埋めて、また至る所にキスしてくる。 ゾクゾクして思わず足を擦り合わせていると、一際強い刺激に襲われた。 「やぁっ…」 「やはり感度はいいみたいだな」 恐る恐る見てみると、上田は胸を揉みしだきながら先端に口付けていた。 「んっ…あぁっ…」 顔が、いや顔だけじゃない。 身体中が熱くて、身体の奥が疼いてしょうがない。 何なんだろうこの感覚。 上田の顔はどんどん下に下がっていき、 気付けば太腿に舌を這わせていた。 口から出るのは自分の物とは思えない喘ぎ声ばかり。 足を開かれても恥ずかしいとも思わなかった。 考えられるのは、早くどうにかして欲しいという事だけ。 「you、随分濡らしてるじゃないか」 上田は笑みを浮かべてこっちを見てくる。 「うっ、うるさい…もう一思いにやってくださいよ」 「一気にいきたいのは山々だがな、 俺は紳士だから初めてのyouを気遣って徐々に慣らしてやってるんだ。 まずはじっくり愛撫しないとな…」 「やるなら黙ってさっさとやれ、この変態」 「変態ならyouもだろ。あんなに喘いじゃって更に更にこんなに濡らして」 「あーもうわかったから言うなっ」 上田はあの余裕たっぷりな笑みを浮かべて、顔を足の間に戻した。 ムカつく。でも… その先を考える間もなく、また強い刺激が身体中を駆け巡る。 「んあぁっ…はぁっ…」 気持ち良い。気が遠くなる位に。 でも、何か足りない。 「んっ…うえださん…」 お願いがあるんですけど。 「どうした?」 強がりな私はなかなか言えないけど。 「あの…起き上がってもいいですか?」 本当に言いたいのはそんなことじゃないのに。 上田は少し悲しそうな顔をした。 「…気持ち良くなかったのか?練習は完璧だったはずなんだが…」 それには答えずに私は身体を起こした。 そして向かい合う形になった上田にそのまま抱きつく。 「…この方がいいです」 多分、私が欲しかったのは快感じゃなくてあなたの温もり。 「you…」 上田が頬に唇をつけたのを合図に、またキスの嵐が始まった。 片方の腕は背中に回されたまま、もう片方の手は下へと伸びていく。 まだ十分に濡れているらしく、上田の指はすんなりと中に入ってきた。 自分の中で自分じゃないものが動いてるなんて変な感じだ。 変なだけじゃなくて、ちょっと気持ち良い。 やっとキスが止んだと思ったら、同じ位息の荒い上田が口を開いた。 「はぁっ…奈緒子、腰浮かせて」 不安じゃないと言えば嘘になる。 けど、今はそんなのがどうでもよくなる位穏やかな気持ちだった。 大丈夫、死ぬ訳じゃないんだし。 私は小さく頷いてそっと腰を上げた。 嫌でも目に入る、冗談だとしか思えない上田の巨根。 「力抜かないと怪我するぞ」 「なるべく痛くなく…って無理ですよね」 「努力するから安心しろ、you」 そして、口付けと同時に上田は侵入してきた。 物凄い圧迫感だったけど、上田は少しずつ入っていく。 「うっ、痛っ…あぁっ」 「はぁっ…you、力を抜かないと…」 だからそうできれば苦労しないんだって。 痛くて痛くて仕方なかったけれど、時間が経つにつれて少しずつ慣れてきた。 「上田さん…ちょっと大丈夫になってきました」 「そうか…動いて大丈夫か?」 「はい…多分…」 「動き出したら止まらなくなるぞ、きっと」 「あの、私が痛がっても気にしないでくださいね。何とかなりますから。ただ…」 私は背中に回した腕に少し力をこめた。 「…何だ」 「いや、やっぱ何でもないです」 「言えよ」 「いいです」 「奈緒子」 あぁもう、言わなきゃよかった。 顔が熱くなるのがわかる。 「あの…離さないでくださいね」 上田は小さくフッと笑った。 「わかったよ」 そして上田はゆっくりと動き始めたが、激しくなるのにそう時間はかからなかった。 肉がぶつかり合う音が耳に響く。 「うえだ…さんっ」 「奈緒子っ…」 理性なんて吹き飛んでるように見えても、上田はちゃんと約束を守ってくれた。 しっかりとした腕の中で繋がって、絡んで、口付けしては抱き合って。 肌が二人を隔ててることすら鬱陶しくて、 このまま溶けてしまえばいいと本気で思った。 「あぁっ、うえださん…もっ…だめぇ…」 そう口に出したのと同時に目の前が真っ白になって 私はそのまま意識を手放した。 * 「ぅん…うえだ…さん?」 目が覚めると上田はいなくて、身体には毛布がかけられていた。 ちゃぶ台に目をやると「夕飯を買ってくる」との置き手紙。 時計を見るともう9時を過ぎていた。 …何時間やってたんだ? 「おぅ、you起きたか」 びっくりして振り返ると、コンビニの袋を持った上田が立っていた。 「人の家なんですからノックするなりしてくださいよ」 「俺が家賃払ってるんだから俺の家だろ」 「あーはいはい。それより早くご飯食べましょうよ」 「食べたら2回戦だからな」 「は?何の話ですか?」 「さっきの続きに決まってるだろ」 「…おとこわりします」 「今ちょっと迷っただろ」 「おとこわりします」 「試してみたい体位とか色々あるんだよ」 「おとこわりしますって言ってるじゃないですか!」 「じゃあ無理矢理やるまでだ」 「だから犯罪ですって」 「どうせ通報なんてしないだろ。俺がいなくなって困るのはyouだからな」 「それは上田さんの方じゃないんですか?」 「さっき離さないでとか泣きそうな顔で言ってたのは何処の誰だよ」 「…空耳じゃないですか?」 結局勝てなかった私は一晩中上田の好きなようにされてしまった。 立ったままだとか後ろからだとか 一体どれだけ試せば気が済むんだ?こいつは。 やっと終わったと思ったら、 今度は道具を用意しておくから楽しみにしてろとか言いながら鼻息荒く去って行った。 何をどうしたらあんな変態が出来上がるんだ? 結局されるがままになってしまうんだろうけど。 あの馬鹿力に敵うはずがない。 でも、絶対に私はハマったりしないように気をつけないと。 …上田にはハマってしまったのかもしれないけど。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |