上田次郎×山田奈緒子
![]() 奈緒子は生意気である。 上田教授は最近しみじみそう思う。 最初何がなんだかわからなかったらしい奈緒子は、この頃とても生意気になった。 いや、もともと生意気なのがそれに輪をかけて生意気になった。 どう生意気になったか──その例が、たとえばこれだ。 * 「やめろバカ上田っ!」 腕を強く押しのけられた上田は抗議の鼻息を漏らした。 「…you」 「そんなに触っちゃだめって言ってるだろ」 奈緒子はさらさらした髪を流した肩をひねり、上田から身を離す。 大きめのパジャマの胸元が緩み、なめらかな肌が覗いている。 男の膝に乗った尻は薄い布一枚のみで覆われている。 密着した太腿の裏の感触がただそれだけで悩ましい。 上田は喉を鳴らし、低い声で囁いた。 「どうして」 「どうしてもだ」 奈緒子は腕を伸ばし、傍らのシーツの上から雑誌を取り上げた。 「お前が見せたんじゃん、これ。ちゃんとその通りにしなきゃ」 上田はちらりとその紙面に視線を流す。 『スローセックスの勧め』だの『極上の癒し』だの、大きな見出しが踊っている。 奈緒子はその一節を読み上げた。 「男性は、じっと女性を抱き、行動せずに抱き締めます。ほら」 「もっとちゃんと読め、you」 上田は奈緒子の手から雑誌を奪い、その前の段を指差した。 「挿入後、って書いてあるだろ。まだ俺は挿れさせてもらってない」 「え、そうですか?」 「そうだよ!」 「……仕方ないな」 奈緒子は眉を寄せ、男の広い肩に指を置いた。 そのまま膝立ちになるとはらりとパジャマの前がはだけ、小さめの胸が上田の鎖骨に当たった。 小さめとはいえ、その柔らかな感触は流石に異性の躯にしか有り得ない心地よさだ。 「…おぉう」 くびれた腰を抱き締めた上田の耳元に、奈緒子が囁く。 「挿れさせてあげるだけですから。まだ、余計なとこ、触るなよ」 「……」 渋々手を離すと、奈緒子は微笑した。 「そう」 大体、上田としてはこの行為の主導権を奈緒子に譲った覚えは無いのである。 なのになんでか奈緒子が上田を思うまま操っているというこの一点だけですでに生意気だ。 白い躯が大きく揺れて、奈緒子と共に上田は呻いた。 「ん、あぁ…」 細身を上田の胸や腹に密着させながら、奈緒子はゆっくり沈み込んでいく。 腰を支えようとすると、奈緒子が口早に叱った。 「こらっ」 「いいじゃないか、このくらい」 汗の滲んだ彼女の喉に吸い付きたい思いで一杯で、上田はせわしく返した。 「駄目ですよ。だって上田さん、いつも…」 奈緒子はやや落ち着いたのか、また腰を落とした。 「あ。……勝手に、動くし」 「不満だったのか、you」 「あ…あぁ…や…ん…」 躯のコントロールだけで手一杯らしい奈緒子はそれ以上聞く耳持たなかった。 とりあえず気持ちいいので上田も口を噤んで集中する。 時間をかけて首尾よく納まった巨根は嬉し気に屹立の度を増した。 「……な、なんかおっきくない? いつもより、もっと」 奈緒子が囁き、上田はその言葉に余計に興奮した。 思いきり抱きすくめようとして今度は背中を叩かれる。 「…駄目」 時折呻いてわずかに腰を揺らしつつ、奈緒子がかすれた声で囁いた。 「さ、触るなって、…言ってんじゃん」 「生殺しかyou。我慢できるわけないだろ、こんなの」 「何勝手な事、言ってんだっ」 奈緒子は唇を尖らせ、辛うじて上田の膝にひっかかっていた雑誌をつかみあげた。 「ほら、これ。スローセックス、したいんだろ。だいたいそっちがこれ見せたから、私は──」 上田は雑誌を奪うと寝室の果てに放り投げた。 奈緒子の腿を抱え込み、身を乗り出す。 「あっ!ちょ、ちょっと!」 「生意気言うな。……you」 「youじゃなくて…あっ…ああ、こ、こらっ…んっ」 唇を塞がれ、腰を浮かせるような勢いで動き出した男の腕を掴んだ。 「you。気持ちいいよ、you」 「……お前な、上田」 奈緒子はやがて悶えはじめ、抗議の言葉も忘れてしまった。 * 最初何がなんだかわからなかったらしい上田は、この頃とても我侭になった。 いや、もともと我侭なのがそれに輪をかけて我侭になった。 どう我侭になったか──その例がこれだ。 上田は我侭である。 奈緒子はしみじみそう思う。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |