秘密の遊び
上田次郎×山田奈緒子


少し前から始まった、上田さんと私の秘密の遊び。
矢部も知らない、もちろん部下のナントカって刑事だって知るはずもない。



いつもどおりの辺鄙な村での事件の誘い。
財宝だなんだとまんまと丸め込まれて、2週間もの長逗留。
霊能力者を名乗るインチキ野郎が戻ってくるのを村長の家の離れで待っている。

事件のとき、私と上田さんはいつも同じ部屋に泊まる。
もちろん真ん中にちゃんと仕切りを(上田が)作っているからプライバシーは保たれる。
今回も、次郎号のドアで作った急ごしらえの衝立を、二つの布団の間に置いてある。

夜中、違和感を感じて目が覚めた。
ちょっと寝相が悪い私は、次郎号のドアを押しのけ乗り越え、上田さんの布団の中に潜り込んでいた。
一夜村でも似たようなことがあったから、さすがにバツが悪くてそうっと自分の布団に戻ろうとした。
そうしたら、いきなり。
上田さんは寝ぼけて私を毛布ごと包むように抱きしめた。

その時はそれだけだった。
夜明け前、腕が緩んだところを見計らって私は自分の布団に慌てて転げ戻った。
頬が熱い。心臓がどきどきする。
うとうとまどろんで、朝起きたら、上田さんはいつもの自信過剰で嫌味な上田さんのままだった。

そしていつも通り。
事件の捜査をして、ボケたり突っ込んだりして、村の珍味を食べて、温泉に入って、夜が来る。

次郎号のドアは倒れたまま。
私は上田さんの布団の中にゴロゴロと転がっていく。
もちろん、寝相が悪いせい。
上田さんが私を優しく抱きしめる。
今日は二人の間に毛布はない。
眠っているはずの私たち二人の心臓の鼓動は、同じくらい速い。

霊能力者を名乗る人物はまだやって来ない。
昼間は上田さんが超常現象の突飛な解釈をして私に馬鹿にされたり、
私はインチキ霊能力者が見せたトリックを鮮やかに村人に明かしてみせたりしている。

月明かりは思いの外明るい。
ささやかな後ろめたさを隠すように障子戸を閉め、電気を消し、床に延べられた布団に入る。
柱のボンボン時計がひとつ打つ、それが遊びの開始の合図。
私が上田さんの布団へ行く。
上田さんは私に触れる。
しんしんと深い夜の音がする。

大きな上田さんの身体。
暖かくていい匂いがする。
暗いから、何もわからない。
唇が触れ合ってもわからない。
優しく上田さんの指が私の素肌を辿る。
でも、私は気づかない。
だって私は眠っているし、上田さんは寝ぼけているだけ。
朝起きれば、いつもどおりの私たち。
貧乳、巨根と罵り合い、矢部たちが呆れてツッコミを入れる。

本当は私が起きているのを知っている上田さん。
本当は上田さんが寝ぼけてないのを知っている私。
ずるくて、臆病な私たち。



夜ごとエスカレートする行為、それでも一線を超えることはない。
きっともうすぐこの遊びは終わる。
事件が解決すればまたお互い、普段どおりの生活に戻っていく。
きっと今夜も漏れる吐息を押し殺し、慈しむような愛撫に喜ぶ身体を戒める。


私の閉じた瞼から一筋伝う雫を、上田さんの舌が優しくなぞる。
私と上田さんだけの、誰も知らない、秘密の遊び。






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