長い夜
上田次郎×山田奈緒子


私の名前は上田次郎。
日本科学技術大学教授にして、次期ノーベル物理学賞候補最有力者である。
ただ単に頭脳明晰なだけではない。最近は慈善活動も積極的に行っている。
胸も財布も貧しい909番助手の山田がついに宿無しになって私のマンションに押しかけてきたとき、
受け入れたのも当然そんな活動の一環だ。
そして、その山田を半年以上も同居させているのも、私の海よりも深い慈悲の心ゆえである。

断じて、一緒に暮らしたことで情がわいたとか、ひょんなことから懇ろな仲になってしまったからとか、
あの艶やかな髪や細い身体を愛でたいからとか、これまで目にすることのなかった可愛さに魅了されて離れられないとか、
そんな理由では――ない。

***

「はぁ・・・っ、上田・・・さん」

唇を離すと、奈緒子が大きく息をついた。
その反応から、つい長く口づけていたことを自覚する。

「息は止めなくていいと言ってるだろ・・・まだ慣れないのか」

わざとそんな言い方をすると、奈緒子は面白いように予想通りの反応を返してくる。

「う、うるさいバカ!」

赤面した頬に手を添えて、生意気な口をまたキスでふさぐ。
柔らかな舌をとらえ、絡ませ、ゆっくりと味わう。

・・・最初の頃はこんな余裕すらなかった。

もっと必死でいっぱいいっぱいで、ただ熱情にまかせてつき動いていた。
それは奈緒子も同じだっただろう。


Tシャツの裾から手を入れると、奈緒子がびくんと背中を震わせた。

「あっ・・・、ちょっと、上田さん」
「なんだ」
「こ、ここで?」
「そうだ・・・何か問題でもあるのか」
「でも、あの、こーいうことは、ベッドでしたほうが」
「フッ、そうか、youはベッドでしたいのか・・・。しかしな、SEXにも変化が必要だ・・・
マンネリズムに陥るのは嫌だろ?たまに場所を変えて行為に及ぶことによって、新鮮な悦びが見いだせるはずだ・・・
大体、せっかくいい雰囲気になったのにベッドまで移動してたらその短い間に君の気が変わってしまうかもしれないじゃないか、
たまにはほら、こうやってリビングのソファでやるというのも一興だろ・・・まあ俺としては今後は
バスルームとか台所とか階段とか屋外とか」
「もうそのへんで黙れ上田」

・・・つい普段頭の中で考えていたことが口に出てしまったらしい・・・
つぐんだ口に、今度は奈緒子のほうからキスをしてきた。

「ほんとバカですよね・・・上田さんって」

憎まれ口をたたきながらも、頬は紅く染まっている。
素直なのか、そうじゃないのか――

***

ぴちゃぴちゃといやらしい音がリビングに響く。
ソファーに座り、膝の上には裸の奈緒子を横向きに抱えている。
左手は細い腰に。右手は既に濡れそぼった秘部に。

「ん・・・ふ、ン・・・、あ・・・ッ」

快感に耐え、首元にすがりついてくる奈緒子が可愛くて、額や耳元に何度も口づける。
ぬるぬるした感触を愉しむように指を動かすと、奈緒子は些細な刺激にも敏感に反応した。

「あぁッ・・・あん、上田さ・・・ん」
「よしよし・・・いい子だな、こんなに感じて」
「・・・っ、バカ」
「ほら、もっと脚・・・開け」

膝を軽く立たせ、熱く蕩けたそこに再び触れる。

――じゅぷ。ぐちゅ

指を出し入れすると、卑猥な音が更に大きく響いた。

「あっ、や、やだ・・・、あん」

それが恥ずかしいのか、奈緒子はいやいやをするように首を振って悶える。

「やだ?・・・こんなに濡れてるのにか?」

わざと意地悪な言い方をして興奮させる。
いやよいやよも好きのうち。
最初はそれすらもわからず、奈緒子が嫌だとかやめろとか言うのにいちいち動揺していた。
今ではちゃんと、NOの裏に隠されたYES、あるいはMORE――を見極められている、はずだ。

「あっ・・・あ・・・ん」

奈緒子が汗ばんだ身体をくねらせ、おしつける。
肌に直接触れる、やわらかく小さな乳房の感触に感情が高ぶる。

「う、えださ・・・ん、私・・・もう」

瞳を潤ませて見上げる表情。
こんな顔、俺しか見たことないんだな――

「ん?・・・もう、欲しいのか?」

こくんと素直に頷く。

「よ・・・よしよし・・・」

押し倒したくなる衝動を抑えて、冷静にふるまう。

「よし、じゃあほら、腰をあげて・・・このまま」

向かい合い、膝立ちになった奈緒子の腰に手を添えて支える。
痛いほどに屹立した巨根の先端に、柔らかな濡れた感触。
ゆっくりと、沈みこむ。

「・・・・・・ん」

奈緒子が眉根を寄せて小さく呻いた。

「・・・痛いか」
「あ・・・だいじょうぶ・・・です」

そう言って更に深く挿入する。その蕩けるような感触に恍惚となりながらも、まだ理性の灯は消さない。

「you・・・、無理、するなよ」
「大丈夫だって、ば・・・」

いくら慣れてきたとはいえ、この瞬間は慎重になる。

「はぁっ・・・、上田、さん・・・」

時間をかけて挿入すると、奈緒子が大きく息をついてもたれかかってきた。

「・・・奈緒子」

すぐに突き上げることはせず、小さな子供をあやすように背中を撫でさする。
長い髪の隙間から覗く耳にキスをしながら、徐々に腰を揺らしていく。

***

「んッ、ああ、あっあっあっあんっ、あぁッ」

激しい突き上げのリズムに合わせて奈緒子が切なげに鳴く。

汗ばみ、上気した肌。ささやかながらふるふると揺れる乳房。快楽に歪む表情。
そのすべてが更なる興奮をかき立てる。

――いい。実に、いい。

「あ、ああっ、やあっ!」

奈緒子が一際大きな声をあげた。
一旦動きを止め、抱きすくめる。

「・・・もう、イッた・・・か?」

はあはあと大きく息をしながらも、奈緒子は首を横に振る。
良かった。まだ終わるには早すぎる。
激しいだけでは駄目だ。なるべく、長く、じっくりぶっつり、二人で愉しみたい。

汗で湿った小さな二つのふくらみをやわらかく揉みあげる。

「ふ・・・、ン」

立ちあがった先端を指先で捏ねると、奈緒子は身をよじって反応した。

しばらく上半身だけの愛撫を続けていたが、やがて奈緒子が微かに腰を揺らしはじめた。

「ん・・・、んん」

ぎこちなく、遠慮がちな動き。

「う・・・上田さん」

懇願するような表情から、奈緒子が再び強い刺激を求めているのがわかる。
・・・いつからこんな扇情的な顔するようになったんだ。

心と身体の奥が熱くなる。

いつの間にか、こんなにも虜になっている。
誰よりも、どんな女よりも、感情を揺さぶられる。

奈緒子の腰を掴み、前後に優しく揺する。

「あっ・・・上田さ・・・」
「you・・・もっと動いてみろ」
「でも」
「好きなように動いていいんだ」
「・・・っ」

促してやると、奈緒子の動きは徐々に大きくなってきた。
激しい出し入れではないが、前後に、左右に、こすりつけるように腰を回してくる。

「おぉう・・・、い、いいぞ、奈緒子」
「あぁ・・・ん・・・うえださ・・・」

上半身もぴったり密着させ、絡み合うように抱き合ってキスをする。
濃厚な快楽に頭がぼうっとする。
このまま溶け合って、ひとつになってしまいそうだ。


密着していた上半身をそっと離し、繋がった部分に注目する。
自分の巨根をくわえこんだ秘裂は痛々しく、・・・しかし最高にいやらしい。

SEX、してるんだな。
この、俺が。
他の誰でもない、奈緒子と。
わかりきったことなのに、それを思うだけでどうしようもなく高揚した。

その視線に気づいたのか、奈緒子もつられて下に目をやる。

「・・・ん?やらしいだろ?」

そう言うとはっとしたように顔を上げ、あわてて首を横に振る。

「あっ・・・ば、ばか・・・そんなとこ、見ないでくださ」
「youも今見てたじゃないか」
「ちが・・・」
「ココ見ると感じるだろ?ん?」

奈緒子の恥じらう表情を見ているうちに意地悪な感情が湧きあがってくる。

「こんな大きいもの挿れて喘ぎやがって・・・やらしいなぁ、youは」

言いながら再び突き上げを開始する。

「あっ!あっ、あっあんっ・・・あぁ、ばかぁっ」

突然再開した激しい突き上げに奈緒子の身体が跳ねた。
抗議を口にしながらも、抑えきれない嬌声が部屋に響く。

「馬鹿なんて言いながら、感じてる、じゃないか」
「ああ、あぁん」
「こういうの、好きなのか?言葉攻めで、感じるのか、youは。ん?どうなんだ、ほら、ほらほら」
「あん、あっ!う、うえだ、あっ、おまえあとで、ぁあ・・・お、おぼえてろ、ぁあ・・・ん!」

こんなときにまで言い争いか。 興奮の裏でちらりと冷静な考えがよぎる。
しかし、同時に奈緒子の秘部から更に熱いものが溢れてくるのを感じる。
やっぱり感じてるじゃないか。 思わず口の端に笑みが浮かんだ。

「あぁ、あぁん、うえださ・・・うえださん」

奈緒子が倒れこむようにすがりついてくる。
汗で額にはりついた髪をはらうこともせず、必死ですがってくる様子が可愛い。

「奈緒子」

感情にまかせ、乱暴なくらいに抱きしめて揺さぶる。

「き、気持ちいいか」
「あっあっああ、き、気持ちぃ、んぁあ、うえださん、死んじゃう、死んじゃう、あぁ」
「奈緒子。・・・奈緒子・・・ッ」

壊してしまうのではないか。
そんな考えが脳裏をよぎったがもう止められない。
ただ激情のままにつき動く。

肌と肌がぶつかる音。

粘液の湿った音。

奈緒子の喘ぐ声。

自分の呻く声。

なにもかもがいやらしく、自分たちを絶頂へと導いていく。

「あっ、ああ、ぁあん、いや、いやあっ!あ――あぁ・・・あ――!」
「・・・っ!・・・く、あ・・・あッ!」

絶頂の快感にびくびくとふるえる奈緒子の身体を抱き、締め付けに誘導されるまま、欲望を放出しきった――









***

「泣くほど良かったか」
「・・・え?」

行為のあとのけだるい空気の中、ソファーに横になって奈緒子を抱いてまどろむ。
二人で寝るには明らかに狭すぎるが、それは好都合でもある。

「最後。イク時・・・涙出てたじゃないか」
「嘘!」
「嘘じゃない」

奈緒子の焦った顔、赤面した表情はどうしてこうも可愛いのか。

「い・・・いい加減なことばっかり言うなバカ上田・・・」

昼間ほどの勢いがないところも、また可愛い。

ちゅ。と軽くキスをする。
至近距離で見つめてくるその瞳はうっとりと潤んで――

・・・もう俺に骨抜きじゃないか。

次の瞬間、そっと頭を押さえられてまた口づけられた。
奈緒子のほうから、やわらかく舐め、ゆっくりと舌を探ってくる。

「・・・・・・」

くすぐったいような、もどかしいようなキス。

顔を離して見つめ合う。

・・・もしかして、俺のほうか。骨抜きなのは。


どちらからともなく、また唇を合わせた。

まだ、長い夜は終わらない。






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