キス
矢部謙三×山田奈緒子


「お前の鬘の下は全部まるっとお見通しだっ」
「こ、これは鬘じゃなくてなぁ
ちゃぁんと地肌から生えてるもんだからな
おい、聞いてんのかぁ」

奈緒子は構わずに矢部の頭を触ってくる。
矢部はふいに真面目な目をすると奈緒子を固く抱きしめ乱暴とも言えるほど無理やり口づけた

「にゃーっ!!
何をする矢部っ!」
「何をするって、これはキスと言いましてなぁ、男が好いた女にするもんやがな」

そういいながら、奈緒子のうなじ辺りや腰を優しく撫でながら彼女の上唇の表面から裏側、歯の付け根を舐めあげてゆく

余りの突然の事に奈緒子は身動きする事も出来なかった
矢部は一度唇を放すと、奈緒子の耳元に寄せた

「お前、先生と結婚するんか?
そんなに先生がええんか」

矢部の抱きしめる腕に力がこもる
自分の頬に触れた液体に奈緒子は身を固くした

「矢部、泣いてい…」

全てを言い終える前に再び唇が重なる
今度は舌が乱暴に歯の間に割り込んできた
奈緒子の体から力が抜け、思わずその場にへたりこみそうになるのを支える、矢部の意外な力強さに何かが突き動かされた

奈緒子は無意識に矢部の首筋に手を回し、抱きつくような形になった

男に対して不慣れな舌も、巧みな矢部の動きに誘導されるようにチロチロと不器用に反応を始めた。矢部の手はそれを合図に愛撫を始める
片手はしっかり奈緒子の体を支え、もう片方で彼女の太ももの表面をなぞってゆく
奈緒子は顔を薔薇色に染めて微かに震えていた。細い腰、白い指が強気を装った彼女の内面の繊細さを現しているようだ

「ふっ、ん、んんぅっ…」

ただそれだけの愛撫に息を荒らした奈緒子をたまらなく愛しいと思った
その瞬間、矢部は衝動的な自分の行動を後悔し、奈緒子から身を放した

「や、矢部…?」
「悪かったな、先生と幸せにな」

矢部は優しく奈緒子の頭を撫でた
彼女から離れ、去ろうとする男の髪を奈緒子は必死で掴んだ

「お、おい、山田奈緒子っ!!」

必死で取り返そうとする男をからかうように鬘を振り回し、隙をついて素早く一瞬唇を奪う

「な、何するんや…全く」

「これはキスと言って女が好きな男にするもので〜す!」

奈緒子は満面の笑みでそう言うと鬘を振りながら走り出した

「好きって、そんな…」

一瞬放心したようにに呟くが、次の瞬間正気を取り戻すと涙と鼻水で顔をクシャクシャにさせながら走って奈緒子を追いかけていく…






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