石原×山田奈緒子
山田奈緒子がわしンところに来るたぁ正直思うていなかった。 兄ぃ差し置いて、わし。なんでわしなんじゃろう? そもそも兄ぃとのコンビは随分前に解消されてしもうたし、こいつとの繋がりももうのぅなった筈やのに。 ともかく、事の発端は上田教授大せんせと大喧嘩したっちゅうことじゃった。 わしとしちゃぁ普段あがぁにも回数をこなしとるんにたいがいなれんのか、とも思うところじゃ。 顔も見とぉない、言うとった。 おれの狭いアパートまで来る言いよったけぇ、流石にそれは困るけぇ急遽手配したレンタカー(日産社)にこのワンレン馬鹿を乗せた。 「 い、石原。…お、お前、変なことはするなよ。」 「 あほか!誰がわれなんかにセクハラするか!真剣な顔して「相談があるんですぅ〜」じゃゆぅから付き合うちゃっとるんに何じゃ、その言いようは。」 「 そ、そ、そんな言い方はしてない!分りにくいから標準語でお願いします。」 田舎道をぐるぐる回ってもう一時間にもなるじゃろうか。中々山田は話を始めん。 呼び出された時にゃぁ夕方の五時ごろじゃったのが色々有ってすっかりとっぷり12時を回っとる。悩みがあるっちゅうのに食欲ばっかし旺盛で、 牛角じゃぁ人の金で大盛りライス三杯おかわりしよった。 こうして夜道をぐるぐる徘徊しゃぁじめてから、核心を何も言わん山田に流石にとさかに来て、 わしは脱色でパリパリのオールバックの垂れ下がった前髪を片手でいじりながらつらつら文句を言うた。 「 お前な、たいがい上田先生と何が有って、わしにどうして欲しいか言え!もうこんな時間じゃ、おれも一応男じゃ。ムラムラせんわけでもなぁで。 か言ぅてわれなんかに手を出すんは癪なんじゃ!早ぉ言え!そんで帰れ!!」 「 そのー・・・ 」 「 何じゃ!」 「 …やっぱり良い。 」 そーゆやぁきょうび警察による強姦事件が二、三件在ったなあ。車の中ゆうんは、結構危ない。 どこへでも連れてゆけるし、ある意味一番の密室じゃけ。 「 もう、ええ。降りろや。家の近ぉまでは送ってったるから 」 現職の警察なら尚更、そんな事はできん。それ以前にこんな姿、誰かに見られでもしたら何ゆわれるか。 ハンドル切りを間違えそうじゃ。 「 フェラ、だ 」 「 あ? 」 「 フェラチオを教えろと言ってるんだ! 」 「 は?はぁ?はぁああ??! 」 頭をしたたかにハンドルへぶつけて、ファーーー、と、クラクションが間抜けに鳴り響く。 「 フェ、フェラチオってわれ・・・そがなこと教えられるか! 」 何を言い出すかて思やぁ。こいつはほんもんの阿呆じゃ! 「 まさかわれ、兄ぃにもそがなこと頼んだんじゃなかろうな? 」 「 頼んで、断られました 」 ファーーーーーーー 「 近所迷惑だぞ、石原!」 「 誰のせいじゃ呆け!! 」 狭い路を迂回し、人気の無い小さな公園の路肩へハザードを着けて車を停める。本来じゃったら職質対象の不審車両ばりばりじゃが 其処はイザとなりゃぁ国家権力、職権乱用じゃ。 「 ・・・教えてくれるんですか!?くれないんですか!?」 「 ・・・なんでわれにわしがそがなことを教えにゃいけんのだ?・・・そこらへんの男に頼めや。」 すると山田は自信満々の笑みでこちらを指す。 「 そうそうそこらへんの・・・わしかい! 」 「 頼むっ!一生のお願いだ!このまま上田にお子様言われて引き下がるわけにはいかんのだ! 」 「 な・・・」 ――結局、センセか。何じゃ、痴話げんかかしょーもない。 それでも、何か、胸んとこがチクッとしよった。何じゃ、この年で。 「 まぁ、ええが、わしゃやる時はスパルタじゃけぇな、後で泣きを見てもしらんぞ!」 「 合点承知。どーんとこーい!! 」 とことん、色気の無い女じゃのう、コイツは・・・・。 運転席のシートを後部座席のぎりぎりまで倒して、そこへ寝そべる。 「 潜れや。」 「 ――ン?ど、何処に? 」 「 察し悪いのォ、足元じゃ、足元。 」 「 ああ、成る程。そこへ潜ってこう、・・・こーする訳か。」 手で、男のブツをしごく真似を無表情にしくさる。――これじゃ、センセも堪らんな。そもそもわしはコイツで勃つかどうか・・・。 ――胸もいっつもいっっっつも貧乳貧乳言われてる位じゃけ、寄せて上げてもA´って所かも分らんなぁ・・・。 そがなことを思うとると、山田はいつン間にかわしの足元できしゃっと体勢を整えとった。 然しこうして、暗がりで見る女は中々好きじゃ。長くてしっとりしてそな黒髪がサラサラ肌の出とるとこへ掛るのがぞくぞくして来よった。 「 開けぇや、チャック。」 「 ――えっ、わ、私が? 」 「 早ぅ。・・・はい、ごー、よォん、さぁん、にぃ・・・ 」 「 あー、はいはいはいはい 」 安値で買っただけ在って質の悪いジッパーに手間取って上田は情け無ぅ眉を寄せとる。フックを外し、意地悪なチャックが漸く開いて、 草臥れた豹柄のトランクスが現れると、山田は開口一番、 「 趣味わるっ 」 「 じゃかましィ。・・・それも下せ。 」 今度はじっくりと待っちゃる。戸惑った表情があどけのうて、中々可愛い。――いかん、勃ってきよった。 「 うわっ 」 下した途端に飛び出すけえ無理も無い。また暫く固まって、やけにまじめげな顔してわしのモンを摘んでくる。 「 センセと比べたらそりゃ違うかもしれんが、中々じゃろ。――ほら、咥え。 」 躊躇いがちに近付いてきよる唇の赤さが、これ以上無く猥らに見えた。 裏筋へ親指が宛がわれ、亀頭に人差し指の腹が少し当って――こんなにやわく握られただけで、もう、いかん。 見下ろすと、薄紅色のブラウスの隙間からこじんまりした谷間が丁度見えて、これがまたいかん。 唇が、一物のすんでのところで、ぴたりと止まる。 「 ――なん? 」 「 こ、これから如何すれば良いんだ? 」 「 何じゃ、しごき方もしらんのんか。まさかお前先生に遣らせてばっかでマグロになっとるんと違うんか?可哀想じゃのーセンセ。 ま――…付き合うとる女がコレじゃあのぉ。」 「 上田と付き合ってなんかいないぞ!それに―― 」 「 おんなじ事じゃ。 」 付き合っても居らんのに情事に耽っとるんじゃろか。淫らな妄想が頭を擡げて、サオに拍車を掛けてきよる。だけど相変わらずセンセの名前が出ると、 変に胃の辺りがむず痒い。何じゃ、わしは。 「 ゆっくり、カリ――その、窪んどるとこに指掛けて、しごいて。 」 「 うむ。 」 わしは、どうやら浮かれとるんか、妙な浮遊感に苛まれよる。考えないかん事と、考えとる事が別個になって、都合のええ方に合わせて、 体は酒に酔うたみたいに高揚する。 山田の頭を掴んで、少し引き寄せる。触れた髪は、ゾクッとするほど柔らかくて、滑らかで、ええ匂いがした。 細い指が段々大胆になって、扱く速さが増してきた。もう、慣れよったのかと思って、快感に堪え性無く瞑りかけた眼を開くと、 既に先走りが垂れたとこへ口を着けるのを躊躇って、真っ赤に染めよった顔が在った。 ――脳味噌に、電流が走る。 「 ――ええい、教えろ言うたんはお前じゃろがい、こうじゃ、こう 」 絡む事を知らん黒髪の房を掴んで、卑猥に勃起した自分のモンを含ませる。動揺したんか、ぬるっ、と口の中を蠢いた小さな舌の動きが、 不意打ちに裏筋を撫ぜていくけぇ、爆発寸前のサオが、危うくぶちまけそうになった。そう何発も往けるほど雄雄しい自信なんぞ無い。 「 んーッ、んーっ、んーっ!! 」 「 何じゃ、噛むなよ。…全く。――ちいと、動くぞ。」 苦しそうな顔をして固まっとる山田を見かねて、ゆっくり腰を動かす。勢い余って喉の奥へ行かんように、浅く、浅く。 白い肌の、頬と耳がどんどん赤らんで、額には薄ら汗をかき始めるそんで、綺麗なカーブを描いた眉が寄って――深い色の瞳孔が、潤む。 黒と白とのモノトーンの中に、唇が紅く――。 「 あ――く、…ええぞ、山田 」 「 ひょ、ひょっほ、まっへ…―― 」 「 ちょっと、待ってって――気持ちいいのんを、待てるか 」 「 ――苦し―― 」 汗ばんで着たシャツのボタンを片手で開けて、降りて来た己の堅い金髪を掻き上げて、その間も両目でしっかり、この女の顔を眺めてやる。 綺麗なもんを穢すっちゅうのは、男の浪漫や、と兄ぃが言うとったのを思い出す。 こいつのクチん中を初めて侵すのがわしのモンやと思うと、たまらずぞくぞくする。 こんな綺麗な顔に、わしのモンが掛かるのか。 ――上田センセかて、こがな顔、見たこと無いんじゃもんの… 口元が笑う。恍惚感と罪悪感が、先へ先へとわしの背中を押して、急き立てる。疼きが酷い。このまま、この女を、抱いてしまおうか 「 はむ、…うう、――んっ、ん… 」 飲み込むのをためらっとるのか、唾液と体液が入り混じって、綺麗な顔を汚していく。頭とモノが繋がったみたいに、ぼおっとして、 自分が何をされとるんかも分らん位に痺れて気持ちがいい。 もう掛かると痒うなる前髪を掻き上げる余裕すらも無ぉて、汗が流れるままに乱れてゆく。 「 ――ん、んっ?! 」 襟の隙間から両手を差し込んで、ブラの上からちいさい胸を揉みしだく。掴む先から弾力の在る肉は零れて、 揉むたびに嬌声は熱を帯びて、口内から顔から、味わっとる全てが火照る。 布越しでも、はっきり乳首が浮き立ってくるんが解る。そこを突付くと、また、甘い声を零す。耳から伝わる快感に、眼が眩む。 ピリピリ太股が震えて、白濁液が根元まで一気に、込み上げてくる―― 「 だ、…駄目だ、出そうじゃ――く…っ… 」 此処のところずっと女気が無く、久々に色香に中てらりゃあ当然、我慢は利く筈も無く、ビクッ、と、大きく震えて、山田の口内へ どくどくと精液を注ぎこんだ。 「 ――ん…ぐ、」 ティッシュか何かを取り出そうとして、口内へ出されたモノを含んだまま、山田が慌てる。漸く見つかった足元のティッシュに手を伸ばそうとするんを、 先に拾い上げて、後部座席へぽいと放り捨てる。山田の顔が、泣きそうに引き攣って、こっちを睨む。 「 飲むんじゃ。――遠足はお家帰るまでが遠足。フェラは、精液飲むまでがフェラじゃ。」 「 ふぁい… 」 泣きそうな顔の侭、ごくりと音を立てて、口の中のモンを全て喉へ流し込む。――直ぐに、一層眉を顰めて何度もゴホゴホと色気無く咳き込むものの、 自らの出したものを飲ませた征服感が、背中を駆けた――。 「 ――生、臭い――苦い、喉が、焼ける… 」 「 ……唾のめ。少しは、マシんなるぞ。 」 「 飲み物を寄越せ、…アイスティーが飲みたい。500mlのだ! 」 「 おォ、何でも、遣るけぇ――待たんかい。…ちぃと、疲れた。 」 ――この女は、どうやらわしのくされた感情の介入を許さん。いっぺん降りようともせず、後部座席へ身を乗り出して、「にゃっ!」だのといなげな声を上げる。 「 イテテ…おい、石原、くっさ…後ろ、くっさぁ… 」 「 そりゃわしの匂いじゃ無いけぇの、レンタカー屋に文句言え!あ、後、そのティッシュ持ちいのうとすんなよ。」 懐へ無理やり仕舞おうとする仕草を見逃さんとぉに指摘すると、チッ、と舌打ちが聞こえてきた。 まるで、なぁんも無かった様に、山田は明るい。其れが、物凄くわしには口惜しかった。 後部座席からもっぺん戻ってきて、助手席へ座る。山田は口の周りを忙しゅう拭きもって、こっちをちらちらと伺いよる。 「 何じゃ。早ぅ、コンビ二行けってか。もうちぃと休ませ――」 「 …良かったか?」 「 ――ん?何?」 「 良かったかって聞いてんだ! 」 ゴツッ、と額へ目掛けて手刀が飛んできた。 「 ありが――……だぁっ、違う。……き、気持ちよかったかって、聞いてんのんか?」 「 それ以外に何を聞くんだ!匂いの元か!足の匂いがしたぞ!嗅げ、お前も―― 」 「 誰が嗅ぐか! ――き、気持ちようなかったら射精せんわ、ボケ」 「 そうか。じゃあ、奥義を伝授してもらったご褒美だ!眼を瞑って歯を食いしばれーー!! 」 「 な。何じゃぁ!何で殴られんといかんのじゃ!?…くそ、男は度胸、来いやァ!! 」 ――眼を瞑って、歯を食いしばって、でも――頬にはなんも痛みは無ぅて、只、柔らかい感触が在って、そして、直ぐに其れは無ぅなった。 「 じゃあな。紅茶はまたの機会に奢らせてやる。ここから私の家は近いんだ! 」 山田が、少し扉の鉤を開けるのんに苦戦した後、ひらひら掌を振りながら、住宅街の明かりの見えるほうへ、帰っていった。 わしは、仁侠映画の受け売りの、演じた言葉でしか、アイツと向き合えはしない。気付いてしまった感情は、姿が見えなくなった頃に、胸を焦がす。 「 ――クソ、好きに、なっちまった。」 ハンドルにうつ伏せて、願わくばこの鼓動が早く消えますように、と、叶わん願いを馳せた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |