エピソード2 まるごと消えた村
偽前田×ひとみ


少女にとって彼は、優しい近所のお兄ちゃんだった。
突然母から引き離され、少女は男に、見慣れない小屋へと連れ込まれた。
今、目の前にいるその男に、普段の親しみやすさは微塵もなく、ただ濁った瞳で少女を見下ろすだけだった。

バサリと白い布が宙を舞い、地べたに座る少女の足下に落ちる。

「…儀式用の衣装だ、着ろ」
「ぎ…しき?」

冷たく言い放つ男に尋ねても、返事は返ってこない。
男の痛いほどの視線を感じながら、少女はどうすることもできずに、身に纏うものを脱ぎ捨てていった。

「…村長に言われてんだよ、生け贄は子供じゃなきゃならねぇ」

少女はその言葉で理解した。
昔、母から聞いた、この村の習わし。
かつて子供を殺された女の怒りを静めるため、25年に1度、子供が生け贄に捧げられる。
それが、今年で、その子供は、自分だということを。

「ちゃんと“子供”かどうか…確かめさせてもらうぜ?」

唯一纏う小さな布きれに男の手が伸びるのを、少女は震えながら見届けることしか、できなかった。
少女にとっては強大な力で、足がグイと開かれる。

「…まだ生えてねぇか……あぁ、ちゃんと膜あんな」

兄のように慕っていた男が、自分の足の間で意味の分からない言葉を喋っている。
突き付けられた死より、男の変貌の方が、少女にとっては遙かに恐ろしかった。

「なぁ…ひとみ………死ぬの怖ぇだろ?」

自分を見上げる見知らぬ男に、少女は小さく頷く。

「助けてやろうか?」
「……え?」
「要は…“子供”じゃなくなりゃ良いんだよ」

下卑た笑み。
少女の本能が、危険を知らせる警鐘を鳴らす。

「……い、や…」

強く首を横に振る少女に不満げな視線を送り、男は立ち上がった。

「あっそ……まぁ、いいや……ちょっとじっとしてろ」

目の前に突き付けられた、見慣れぬモノ。
それが男の男性器だと察した瞬間、急な吐き気が少女を襲う。
しかし小さく開いた口は、先端から液体を垂れ流すそのモノによって塞がれた。

「んんっ……!!」

反射的に溢れた涙でいっぱいの瞳で、男を睨む。
男は小さな口には入りきらない部分を、自分の手で激しく擦りあげた。

「うっ!…あっ!」

男の聞き慣れぬ吐息を耳にしながら、少女の口内は臭気のする液体で満たされた。
口にしたことのない味に舌が痺れ、否応無く喉の奥に流れ込んでくる液体に涙が溢れる。

「ふーっ……」

限界まで放出し、足下で噎せる少女を満足げに見下ろす男。

少女は渡された白い衣装で、自分を汚した液体を拭きながら、胸中で母の名を呼び続けた。






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