山倉真一×弥生
![]() 「下村君、とうとう結婚するんだって?」 山倉が先輩に声をかけられたのは、梅子の結婚話を聞いて数日たったときだった。 「ええ。そうみたいです。なんでも相手は幼馴染みたいですよ。」 「幼馴染か。そりゃあいいかもしれないな。」 「・・・そうなんですか?」 既婚の先輩の言葉に、山倉は首をかしげた。 「そのあたりが僕にはどうも・・・・子どものころから知ってる人間相手に、いまさら恋愛感情なんてわくんですかね?」 「惚れっぽいわりに、浅いなオマエ・・・」 「そうでしょうか」 「いいか山倉、結婚ってのはイコール一緒に生活することだ」 「はぁ」 「結婚すると、相手の嫌なところやダメな点が嫌でも目に入る。しかしそれはお互い様だ。人間は誰しも良い部分と悪い部分を持っているもんだからな。それを許せないと、夫婦関係は冷たいものになってしまう」 「なるほど」 「いいか山倉、相手の欠点をいくつも言えて、なおかつそばにいたい、好きだと思える・・・それこそが本当の愛だ」 「・・・・!!」 「その点では、幼馴染ってのは強いよな・・・って、山倉、どこいくんだ?おい、廊下は走るな!」 「弥生さんっ!!!」 「あら、山倉さん。どうしたの?」 「弥生さんって、気が強いですよね!」 「・・・は?何よ、いきなり」 「無愛想だし、いつもシニカルで冷たい目線をしているし」 「・・・・・・あんた、ケンカ売ってんの?」 「ひねくれもので妙にお堅いし、そのくせ簡単に坂田先生にはメロメロになっちゃうし」 「・・・・・・・・・・・売ってるなら、買うわよ・・・」 「とくに美人でもないし色気もなっ・・・・ふごぉ!!!」 「・・・お買い得ね。たあいもない・・・・・」 「おお、見事なアッパーカットだ」 「さすがは澤田君。小柄な体を生かした、すばらしいパンチだ」 「まさに蝶のように舞い蜂のように刺す。」 「山倉、1メートルくらい飛んだんじゃないか」 「あいつアゴが隙だらけなんだよ」 「つーか、何もかもがズレてんだよ山倉は。あんな言い方で伝わるかっての」 「しかし澤田君、振り向きもしないで去ってゆくな」 「まぁ、まわり医者だらけだし。手加減もしてるんだろ」 「あのクールっぷり、たまらんね〜。いちど踏まれてみたいぜ」 「おい、コラ」 「・・・や、弥生さん・・・それでも、そんなアナタが・・・」 外野の声など耳に入らない山倉の目に、去ってゆく弥生の姿がぼやけて消えた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |