愛着
山路哲夫×蓮見杏奈


「頼まれていた資料、できたけど?」

私は、捜査会議室で一人佇む山路に声をかけた。
勿論、人がいないのを確認してから、だ。

雪平は安藤君と外で捜査をしているし、薫ちゃんも特殊任務中。


「……職場でそんな言葉使いすんな、って言ったろ?」
「誰も居ないって確認したわ…」
「…」

私は、山路の手を握り、自分の胸へといざなった。

「…今夜、会えない…?」
「……分かったよ」

…早く、この男から広田の件について聞き出さなくては。
雪平は何を考えているか分からないから。

その為には、大して愛してもない男にも抱かれる……


そんなことを続けてもう何年になるだろう。

都内、某ホテル。
私は、先にシャワーを浴びることにした。
ピンを外し、一度メイクも落とす。
全てをシャワーで洗い流すと、少しだけ心が晴れた。

私に構うことなく流れ続けるシャワーにあたって山路のことを考える。
初めて抱かれたときには、愛なんて全くと言って良いほど無かった。

けれど、今はどうだろう。

………少なくとも、愛着はある。


これ以上、考えるのは止めよう。
虚しさが私の中を行き交うだけだ。

人に愛されもしなければ、憎まれもしない。

雪平には何をしても勝てないのだ。
雪平と私を比べること自体間違っているかもしれないが、比べずにはいられない。
確に雪平は多くの人間から嫌われ、恨まれているだろう。……でも本当に大切な人に、その何倍も愛されている。
安藤君や、薫ちゃん、安本さんに。

私は、考えを振り払いシャワーを止め、バスローブだけを身に付けると髪を軽く束ねた。


そして山路の許へ向かった。

「…、ねぇ」

私は、山路が持っているグラスを奪い、口をつけた。
強い酒が体を暖める。
私がサイドテーブルにグラスを戻すと山路が私に口付けた。

煙草と酒の臭いがする。
その臭いが、何故か私の心を擽った。
酒のせいもあるのかもしれないが、胸が熱くなる。

山路は、私を押し倒した。
このアングルで山路を見るのは、久しぶりだったかもしれない。
そのまま、バスローブの紐を解かれる。

肌が外気に触れ、ヒヤリとし、私は少しだけ息を飲んだ。
山路が服から隠れる場所を選び、強く吸う。

顔を離すと、山路は私の胸に触れた。
そっと辺りを撫で、時々頂点を指で摘み、片方は口に含み、舌で転がす。

私は、体が熱るのが分かった。……段々と頭が白くなる。

「…ん……、はぁっ…」

思わず、吐息を含んだ声が漏れた。

山路は、私の足を大きく開いた。

光のもとに晒されることのないそこが、糸を引くのが感覚で分かる。

……まともに山路を見れずに、外を見た。……紅い東京タワーが私の眼を引く。

山路は開いた足の間に顔を埋めた。…吐息がかかるほど近くにある唇が、半透明の液体に触れる。


中に舌が入ると、腰が浮くような感じに襲われた。

「……もっと、」

私の口から思わず本音が漏れる。
正直、もう耐えられなかった。
本能的に山路を求める。


早く、ほしい

その思いが私の中を行き交った瞬間、山路が私の脚を更に押し開いた。

痺れる様な感覚が身体中を駆け巡る。


「、…ん…ねぇ……」
「…何だよ?」
「…早く、」

私は今、情報を得るためだけの愛人に抱かれようとしている。
自ら進んで求めている

特別な愛情などないのに。

愛情はなくとも、愛着ならあるのか…?


………体の奥底から、笑いが込み上げてきた。

好きでもない男のものを自分から求めているのだ
少し虚しくなる

「…っ、」

山路が中に入ってきたことによって、深い圧力が掛った。

中がえぐられる様な快感で満たされ、二人の水音が私の聴覚を刺激する。

中を深くまで擦られ、私の内壁が熱くなるのを感じた。
山路は、中でぐちゅぐちゅと動きながらその骨張った手で私の肉芽をそっと転がす。
あまり暖かくはない手が熱った体に丁度心地良い。

脚を広げられ、只、快感に溺れる私の姿が、漆黒の夜景とともに窓に写りこんでいた。
その羞恥心までもが快感を呼び込む道具に代わり、更に私の潤滑剤になる。乾いた肌の音がひっそりとしたホテルの部屋に響いた。

呼吸が乱れ、苦しくなる
もう、私は精神的にも肉体的にも、自己嫌悪でいっぱいだった。
早く達して終えたい。
山路に早く達してもらうため、私は腰の動きに合わせて自分のそこをきつく締め付けた。




雪平や警察への復讐が済むまでは、山路との関係も……終りそうにない。
私がゲームに負けるのが先か、山路との関係が終るのが先か…。






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