鳴海洸至×鳴海遼子
![]() べたべたと体についたチョコを拭って、再び菓子作りに挑戦した。 完成したものは、形は少しだけいびつだったが作った本人は満足したようで、にんまりと口角を上げた。 「よしっ、今度はうまくできたー!」 「へぇ、どれどれ」 「あっ、だめ、お兄ちゃん!」 つまみ食いしようとした兄の手をぱっと掴み防ぐ。頬を膨らませて上目で兄を見た。 「もう、さっきたくさん舐めたじゃない。お兄ちゃんの分、ちゃんとラッピングして明日あげるから」 「遼子、遼子が読んでた『モテる女のバレンタイン特集』って本に、ケチな女はモテないって書いてあったぞ」 「えぇっ!お、お兄ちゃん読んだの!?って、あ、あれは私のじゃないから!」 「ははは」 一瞬にして顔を赤く染めた遼子に小さく笑い、その隙に掴まれていない方の手でチョコを取り口に放った。 「あー!!」 大きな目を丸くして、いましがた出来たばかりのチョコを咀嚼する兄を見る。さすがというべきか、素早い行動に唖然とするしかなかった。 「ん、美味い美味い」 「あ、本当?ってそうじゃなくて!」 「ほら、遼子も食べてみろって」 「ん、む…!」 いつのまにとっていたのやら、二つ目のチョコを遼子の口に押しやる。突然のことに驚いたものの、舌の上に広がる甘い味と目の前の笑顔の兄にほだされてしまい怒ることを忘れた。 「おいしいか?」 「…うん…」 「それはよかった」 「…って、作ったの私じゃない」 「ははは」 「もう」 笑ってごまかす兄に、ぷいと目を逸らす。 ふと差し出されたままの兄の指に、微かに溶けたチョコがついていることに気付き、ちろりと舌で舐めた。 「!!」 「…?お兄ちゃん?どうかした?」 「………いや…」 一瞬体が強張ったように感じ、兄を見ると驚いたような、困ったような少し赤くなったような表情をしていた。指を舐める舌を凝視しているようにも見える。 不思議に思いながらも、チョコの出来に満足する遼子だった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |