叶わぬ願い
鳴海洸至×鳴海遼子


水族館の水槽のように壁一面にそびえる窓の前で、遼子が笑いながら洸至に口づけた。
窓の外にはなだらかに拡がる光の海。
夜ともなれば東京の薄汚れた部分は全て闇に隠され、光の点描で美しく浮かびあがる。

洸至が遼子の為にとった部屋だった。
東京でも屈指の高級ホテルの高層階だ。夜景は美しく、シンプルだが贅沢さの漂う調度品が
置かれた部屋に二人はいた。

遼子はその眺めに目を移すこともなく洸至の唇を貪っている。
その遼子の細い躰を抱き寄せると、洸至が遼子をベッドへと誘った。
ふたりで横になるには余りある程の大きなベッドの上に、遼子の髪が波のように拡がる。
洸至は遼子を自分の下に組み敷くと、遼子の頬から首筋へとキスを降らせていた。
くすぐったそうに子供のような笑い声をたてながら遼子が洸至のシャツのボタンをはずしていく。
無邪気に見えるのは、子供のように自分の欲望を隠さずにいるからかもしれない。
洸至のシャツのボタンを全て外すと、遼子が洸至の胸に指を這わせる。
愛撫しているようにも品定めしているようにも感じられる動きだった。

これが遼子なのか。

眠らせるつもりで酒に仕込んだ薬で遼子が乱れた夜があった。
あの時、その恩恵にあずかったのは鷹藤だった。

「天然由来の薬だからね。体には害はないはずだけどさ、体質によってはちょっとおかしな
作用も出るのかもしれないね」

闇で商売する薬屋はそう言って洸至にまたその薬を渡した。

「話からすると、その人、この薬に耐性がついてきたんじゃないの。だとしたらこの
薬で意識飛ばせるのは最後かもしれないよ」

受け取った薬を、またいつものバーテンに頼んで遼子の酒へと落した。
鷹藤の酒には強力な睡眠薬。
朝まで夢を見ることなく眠り続けるだろう。

遼子の指先が洸至の肌の上を滑る。
胸から首へ、首から胸へ。背へと回された手で洸至を抱き寄せると、遼子から口づけて来た。
唇を重ねると、すぐに洸至の全てを味わおうと舌を滑り込ませる。
渇望し続けた遼子の唇。
夢にまで見た妹との夜。
だが、さざ波のように違和感と戸惑いが洸至の中に拡がる。

俺が求めてるのはこれなんだろうか。
こんなことを求めていたのか。
…違う。こんな遼子を俺は抱きたいのじゃない。
妹から身をひきはがすと、遼子の両手を抑えつけた。

その様子を見て妹が蟲誘的にクスリと笑った。

「どうして止めるの?」
「遼子、すまない。違う…違うんだ」
「違ってもいいじゃない。愉しくないの?」

遼子が洸至の唇を求めて身を起すが、洸至はその唇を避けようとする。

「私のことが嫌い?」
「違う」
「じゃ、抱いて」

遼子が腰から下をくねらせ、洸至の太ももに擦りつける。

「…駄目だ」
「寂しくないの?」
「…」
「自分の前から大事な人がいなくなったことない?私は寂しいの。そのせいですごく寂しいのよ」

追い詰められたように遼子は言った。
遼子の目から涙が溢れ出て、シーツの上へこぼれ落ちた。

「誰に抱かれるのかわかってるのか」
「お兄ちゃん、に似た人…。お兄ちゃんは死んじゃったのよ。わたしを置いて」

酔いと薬で甘くなった認識には、今起きていることは夢の中の景色のように見えているようだ。
そんな中でも、兄の死だけはしっかりと自覚しているようだった。

「それにお兄ちゃんは、わたしにこんなことしないもの」

胸を突かれたように洸至が押し黙る。
遼子は続けた。

「あなたが誰が知らないけど…お願い。今だけでもひとりにしないで」

涙でぼかされたようになった瞳で洸至を見る。

薬が解放したのは遼子の欲望ではなく、心の奥底にしまっていた遼子の想いだったのか。

たったひとりの肉親を亡くしても、寂しいとも会いたいともいえずにずっと胸にしまってきたのだろう。
それもそうだ。
俺は遼子の両親を殺害し、遼子の上司も殺した。関係のない人間の命もたくさん奪った。
その上罪のない子供まで殺そうとした。
そんな罪人の死を悲しむ言葉など言えるはずもない。
その想いに蓋をし、殺人犯の妹として謗られながら、素知らぬ顔をして毎日を送ってきた遼子の
心の内を垣間見て洸至の胸が痛んだ。

指の背で洸至が遼子の涙を拭いた。

「…全部俺のせいなんだよな」

遼子が洸至の言っていることがわからないようで、首を傾け訝しげに見上げている。
…せめてもの罪滅ぼしに、今だけ寂しさを忘れさせよう。
今更純情ぶって何になる。
薬なんて姑息な手を使ってまで俺だって遼子に会いたかったのだから。
そして抱きたかったのだから。

自嘲気味に洸至は笑うと、酒の香りがする遼子の息を胸に吸い込みながら、酔ったように深く口づけた。
溶け合う程に深く。
妹の吐息の甘さに脳髄まで痺れそうだ。
舌の柔らかさと、絡みあう動きの艶めかしさが洸至を誘う。
遼子の首筋に置いた手を、下へ動かし乳房を掴む。
遼子の体が軽く跳ねた。服の上からでも十分感じているようだった。
貪る様にキスをしながら、お互いの体を探り合っていた。
幼いころから知っている遼子の胸を、くびれたその細い腰を、
指で手で洸至はその形を確かめていた。

洸至は遼子の肌に触れたくて、シャツのボタンを外すとブラの下の乳房に手を這わせる。
遼子の手も、洸至の胸から下へと降りズボンの上から膨らみを撫でた。
その形を手で確かめると、洸至の肩を押し、ベッドに寝かせると洸至の上に馬乗りになった。

「遼子…何を」
「この間教えてもらったの」

顔に乱れた髪が幾筋かかかっているが、遼子はそれを気にすることなく艶然と微笑んで洸至を見た。
遼子の顔の少し下では、ずらされたブラに抑えつけられて歪んだ乳房と、その頂にある桜色の蕾がはだけたシャツの間から誘うように覗いている。
洸至から見ても不器用な妹が、魔法のように素早く洸至のベルトを外しその下から洸至自身を引き出した。

「すっかり硬くなってる」

指先で裏筋をひと撫ですると、洸至が制止する間もなくそれを口に含んだ。

「ふっ…」

全身を襲う快美感。
妹を跳ねのけようと、妹に目をやると、眼を閉じせつなそうに洸至自身のものを頬張りながら上下に頭を動かしていた。
そこから拡がる快感と、その光景のおぞましいまでの淫らさに洸至は遼子を跳ねのける手を止めていた。

「んんっ」

眉をひそめて、洸至を味わっている遼子の方が感じているように吐息を漏らす。
唇をすぼめながら、舌で裏筋を撫で上げる。
音を立てながら洸至のものを啜りあげる姿は現実感を伴わない光景に見えた。
だがまぎれもない現実で、洸至は背筋が粟立つような快感に襲われていた。
口で刺激するだけでなく、洸至の睾丸を手で包むと、そこも優しく刺激し始めた。

「りょ、遼子もうやめろ。このままだと」

その言葉を聞いて、遼子が洸至をさらに強く啜りあげ、スパートをかけるように頭を上下に動かすスピードを上げる。
それでいて舌を艶めかしく蠢かしては、男の快楽を刺激し続けた。
洸至は腰から駈け上がる快感に、終わりを感じて腰を引こうとするが、遼子は引きはがされまいと抑えつけながら、
洸至を吸いあげる動きを止めなかった。

「止め…」

腰を引く間もなく、洸至は遼子の口内に出していた。
しかも、洸至の意に反して、それはいつも以上の長さで遼子の口内へ撃ちこみ続けていた。

「おいしい…」

陶然とした顔で、洸至の方を遼子が流し見た。
射精後の虚脱状態にあった洸至をかき立てるような、誘うような眼だった。
喉をごくりと鳴らして、遼子が飲み込んだ。
口から一筋白いしずくが零れ落ちる。


「気持ち良かった?」
「ああ…」

萎れたままの洸至自身の上に遼子がまたがった。

「これもね、教わったのよ」

挑戦的に笑うと、髪が乱れたまま、今度は腰を滑らすように動かし始めた。
半裸のまま、男に跨りくねらせ揺れるその姿はまるで別人だ。
熱く潤みきった遼子の亀裂が、洸至自身を刺激する。
一度出したばかりなのに、その刺激ですぐに目を醒ましたものが姿を変え始めた。

「ふふっ…。また…。…んっ」

硬くなり始めたそれが、遼子のクリトリスを刺激するのだろう、時折甘い声が交る様になってきた。

「もう、元気になったんだ」

反りかえるほどに回復した洸至自身に手を添えると、遼子が自分の中へ差し入れた。

「きゃあああんっ」

のけぞりながらも腰を沈めていく。

洸至は茫然としていた。
止める間もなく口の中で果てた後、すぐにこうして妹に呑み込まれていることが
信じられなかった。
だが洸至が茫然としている間にも、遼子は腰を振り、草むらと草むらが
深く絡みつくほど深く根元を合わせ、クリトリスを刺激させながらよがり狂っていた。

鷹藤、お前は一体何を遼子に教えたんだ…?

頭の芯が熱くなるような怒りが、逆に洸至自身をたぎらせた。
遼子の腰を抱えると、下から猛然と突きたてる。

「あっ」

つぶれるような水音を立てた後、遼子の体が固まる。
奥まで突きあげられてあまりの快感に身動きがとれなくなっているようだった。
それを見て洸至が突きあげる速度を上げる。

「どうした遼子?教えられた通りに動いてみせろって」
「きゃっ、あっ、んっ、いいっ」

のけぞっていた遼子が苦しげに洸至の胸に手を着き、動くのを止めた。
洸至は遼子の髪が揺れるほど強く下から揺らし続けた。

「鷹藤とだってこうしたんだろ?」
「あっ、んっ、うんっ、でもこんなに奥まで…あっんっ」

音が、あまりに激しい水音が部屋に響く。

「教えてもらったのに、活かせないんじゃ意味ないだろ」

洸至は遼子を挑発しているようで、いまは昏睡にも似た深い眠りの中に居る
鷹藤へ向けた言葉を吐いていた。

「んっ、だって、気持ち、いい、から」
「もっとやってみせろって」

何を俺は。
これじゃまるで嫉妬に狂った男の台詞だ。
だが、遼子を激しく突き上げる腰も、いたぶる言葉も止まらなかった。

「いじ…めないで…んっ」
「いじめてないさ。最後まで知りたいだけだ。お前が何を教えられたのか」
「もう…駄目…、なの」

洸至の胸に手を突いてなんとか上体を支えながら、遼子は襲いくる快感に耐えているようだった。
先ほどまで遼子にあった自信は露と消えている。

「何が」
「いっ、いきそう…」

その言葉で洸至は腰を止めた。

「あ、えっ…」

快楽に没頭していた遼子が、慌てたように顔を上げ洸至を見る。

「いっちゃうとわからないからな。ほら、教えてくれよ、どんなことをしたのか」

啜り泣くような声を出した後、遼子がゆっくりと腰を動かし始めた。
だがいくら動かしても思うような快楽を得られないせいで、もどかしそうに眉をひそめている。

「どうしたんだよ」
「お願い…」

泣きそうな声で遼子が言った。

「お願い、もっとして…」
「もっとどうされたいんだよ」
「滅茶苦茶にして…」

答えの代わりに、繋がったまま洸至は遼子を抱きしめると、そのまま反転して自分が上になった。
期待のこもった目で、遼子が洸至を見上げる。

その遼子に洸至が口づけようとすると、遼子が顔を背けた。

「駄目よ、さっき…私あなたのもの飲んだのよ…」
「だから?」

洸至は鼻で笑うと、そのまま口づけた。遼子が吸いあげた自分自身の精の味がした。
ただ自分のものを口にすると思えばおぞましいが、それが遼子の中にあればおぞましさも
消え、気にならなくなっていた。
血を分けた兄妹で汚濁にまみれた行為をすればするほど、遼子の中でたぎる自分を感じていた。

口づけたまま、また遼子をゆする。
はじめはゆっくりと。
待ちかねたように遼子も腰を揺らしてきた。
兄妹で揺れるリズムが重なり連なる。
徐々にリズムを上げる。
遼子の足もリズミカルに揺れる。

これだけ深く繋がっていても、まだ足りなくて舌を絡ませお互いを味わい続ける。

妹の喉の奥からの甘い息が洸至の脳を刺す。
遼子の息が上がり始めると、洸至はまたリズムを落した。
今度は押し付けるほど深く差し込んだ後、緩慢に引き抜く。
緩慢にまた差し込み、深く押しつけた時、遼子の喉から悲鳴にも近い声が上がる。
奥の方まで感じているようだった。

だが貪欲に快楽をもとめて、洸至の腰に自分の腰を擦りつけていた。
洸至が唇を離すと、遼子との唾液が糸を引く。
遼子の耳元に口を寄せると囁いた。

「望み通り、滅茶苦茶にしてやるよ」

腕の中で、遼子が微笑んだように見えた。

洸至は遼子の肩の上に手を置くと、それまでの動きが嘘のように激しく叩きつける。

「きゃっ」

濡れたタオルを打ち付けるような湿った音と、激しくベッドが軋む音が響く。

「やぁっ、あっ、あふっ」

腕の下の遼子がずり上がるほど強く腰を動かす。

「すごいっ、あっ、いい、っんん」

鷹藤のことも、寂しさも、全部忘れてくれ。
今だけは全てを忘れてくれ。

なあ、遼子、だけどお前はいま誰に抱かれているんだ。
俺を失った寂しさを俺がいま忘れさせているのに、だけどお前は俺に抱かれていると思ってないんだよな。

「やっ…あっ…」
「遼子…」

終わりが近い。

「あっ…い、いい、いくっんんんっ」

洸至の背筋を快感が走る。

「きゃあああんんっ」

叫ぶように乱れた声を上げると、遼子は意識を手放した。
肩で息をしながら、洸至が窓の外に眼をやった。
眼下に拡がるのは眩いばかりの光の海だが、東京の空はまだ闇に支配されていた。
朝までは時間がありそうだ。

心ゆくまで遼子を味わった後、自分の服装を整えベッドで眠る遼子の頬と唇にキスをしてから、
洸至はバスルームに行くと灯りをつけた。
バスタブには胎児のような姿勢をとり眠る鷹藤がいた。
鷹藤を遼子の隣に引き摺って横たえると、洸至は部屋を後にした。

ハンドルを握りながら洸至は笑っていた。

まったく傑作だ。
二人とも起きたら驚くだろう。
覚えがないまま高級ホテルの一室で目を醒ますのだ。
遼子は失った記憶と気だるい躰を、鷹藤は記憶のない一夜への戸惑いを抱えて。
しかもあのホテルの支払いは鷹藤のカードになるはずだ。

「一ヶ月分の給料が吹っ飛ぶな」

慌てふためく鷹藤の様子を想像して、洸至はしばらく笑いが止まらなかった。

ひとしきり笑った後、曙光がさす街に目を移す。

―――俺が求めていたのはこれだったのか。
薬を使って遼子を抱くのも、きっとこれ一回きりで終わりだろう。

たぶん、本当に求めていたのは、二人で過ごしたリビングでの他愛もない会話。
レトルト料理の夕食。二人で暮らしたあの平穏な日々。
だがそれだけはもう手が届かない。
騙しても薬を飲ませてもそれだけは手にすることができない。
それはもう俺の手を離れて、鷹藤の元へ行ってしまった。
名前があったころ俺は強欲過ぎた。
破壊も、安寧も、遼子のすべてを手にできると思ったから全てを失った。

締め付けられるように洸至の胸が痛む。
だったらこのまま潰れてしまえ。
叶わぬ願いを抱えて生きながらえるのなら、もう何も感じたくなかった。
だが、それもきっと叶わぬ願い。
それが強欲すぎる男への罰。






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