不採用通知(非エロ)
鳴海洸至×鳴海遼子


「お兄ちゃん、わたしじゃ駄目なのかな」
「駄目じゃないって」

リビングのこじんまりしたテーブルの上に、不採用の通知書が乗っている。
これで何社目だろう。
簡単にはめげないタイプの遼子でもさすがにここまで続くと堪えるのか、通知書の横には
500mlの発泡酒の缶が5本。そのうち2本は倒れ、あとの2本は中央部分がものの
見事に握りつぶされている。残りの一本は遼子の手の中にあった。
その遼子の隣でジャージ姿の洸至が座って、雑誌をパラパラとめくっていた。

「30近いから」
「年のこと、そんなに気にするなって」
「じゃあろうして、仕事が決まらないのよ。彼氏がいないのよ」

それとこれとは別な問題だと洸至は思ったが、何も言わなかった。
ろれつが回っていないのにも遼子は気づいていない程酔っているようだった。

「飲みすぎだぞ、遼子」

洸至が遼子の手の中にある発泡酒を取る。

「お兄ちゃん、駄目〜。取らないでよ〜」

手を伸ばす遼子を片手で抑えながら、洸至はその缶に口を付け、一気に飲み干した。

「ほら、もうないぞ。今日はそのくらいにしとけって」

洸至が空になった缶を軽く振り言った。

「もう〜」

アルコールで顔を赤らめながら、遼子が洸至を横目でにらんだ。
まったく凄味の無い妹のむくれた顔に、洸至の頬が思わず緩む。

「…お前がさあ、もっと大人になれば、仕事が見つかるんだけどな」
「わたしは大人らって」
「そういう意味じゃないさ。社会に出るってことは、ゴマすったり、正しいことだって
わかっていても、しないまま通り過ぎたりしなきゃいけないこともあるだろ。
それがいいことだとは言えないけどな。でも、遼子はそれができないだろ」

「そうなのよお。悪いことは悪いことで明るみにださなきゃいけないの!」

「俺もそう思っているよ。だから俺も出世できない。遼子はジャーナリストとして
正しいことをしてきたよな。だが、会社からすれば使い難いんだろうな」

「そうなんだ…」

「だけど、俺はお前のそういうところが好きだよ。お、おい、どうした。泣いてんのか、
遼子。ティッシュ、ティッシュ。ほら、鼻、出てるぞ」

ティッシュを手に取ると、洸至は妹の鼻を拭いた。
遼子の頬に手を添え、流れる涙も親指でぬぐう。
ぬぐっても、ぬぐっても、溢れ出てくる妹の涙は真珠のように零れ落ち続けた。

「こんな時に優しい言葉かけられちゃうと、涙出ちゃうよ」
「じゃ、思いっきり泣けって。その方がさっぱりするから」

洸至はそう言うと、妹があげた小さな抗議の声を無視して、抱き寄せた。
親が子供にするような仕草で、やさしく背中をさすってやると、洸至の腕の中でやがて
静かになった。

妹を覗き込むと、洸至の胸に頬をあて、気持ちよさそうに目を閉じている。

「お兄ちゃんの胸、温かくって、気持ちいいから、泣くの忘れちゃった」
「落ち着いたみたいだな」

「うん。ありがとう。でも、もうちょっとこのままでいいかな」

「ああ、いいぞ」

遼子の髪の香りが、洸至の鼻をくすぐる。
洸至はまだ遼子の背中を撫で続けていた。

「そんなに落ち込むなって。会社も周りの男も、見る目のないやつばっかりなんだって。
俺がお前のことちゃんと見ているから」
「嬉しいけど、わかってくれるの、お兄ちゃんだけなんだよね」
「おい、俺じゃ不満か」
「だってお兄ちゃんじゃ彼氏にできないじゃない。他にわかってくれる人出来ないかな」
「俺は遼子がいればいいけどな」
「お兄ちゃんったら、ふざけてばっかりなんだから。お兄ちゃんこそ早く彼女見つけて私を安心させてよ」
「そのうちな」
「…ごめんね、変なこと言っちゃって」
「気にするなって」
「でもお兄ちゃんが味方してくれると思うと、明日からまた、就職活動頑張れる!」
「おう、頑張れ。お前の面倒ならずっと俺が見てやるから」
「お兄ちゃん…」
「ん、何だ」
「お兄ちゃんのTシャツに、鼻水つけちゃった…」






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