鳴海洸至×鳴海遼子
![]() 「お兄ちゃん…寝た…よね?」 遼子はこっそりと自室から出てきて、すでに電気が消えた兄の部屋の様子を伺う。 そして足音を殺してキッチンへ到着した遼子は、大事に胸に抱えていた袋を取り出す。 それは昨日、城之内が取材の関係でもらった発売前の限定のインスタントラーメン。 早速夜食で食べたらしい中原や鷹藤が「美味い!」というので、1袋貰って帰ってきたのだ。 『名無しの権兵衛』について、家に帰ってきてからもあれこれネットなどで情報を調べていたら 小腹が空いてしまった。 「食事は済ませた」といって寝てしまった兄には内緒で、一人で夜中に美味しいラーメンを食べる…。 そんな行為にちょっとした背徳感を感じながら、遼子は水を入れたやかんを火にかける。 次に、丼にラーメンをあけ、卵を割り、準備を整える。 「ごめんね、お兄ちゃん。お兄ちゃんの分もらって来れなかったから…」 お湯が沸くのを待ちながら、遼子は一応、聞こえてはいないだろうが兄への謝罪の言葉を呟く。 しばらくすると、、やかんの水はお湯へと変わり湯気をあげ始め、遼子はコンロの火を消す。 これであとはお湯を注いで『3分きっかり!』待つだけだ。 と、やかんからお湯を注ごうとしたその時… 「りょーうーこー」 「きゃぁぁぁぁ!!!」 不意をついて背後から聞こえてきた自分を呼ぶ声。 時間はちょうど深夜2時。草木も眠る丑三つ時。 遼子は、あまりの恐怖に飛び上がった。 真後ろで覗き込む兄の姿を確認しても、喉の引き攣りは収まらない。 「お、お、お」 「こそこそと夜中に何しているのかと思えば…」 「あ、あ、あの!」 「お、ラーメンか、美味そうだな」 遼子の横から腕を伸ばし、洸至はやかんの柄を持つと、テーブルへと移動する。 「ちょっと待って!」 遼子が慌てて洸至を追う。 「お兄ちゃん!それ、私の夜食!!」 「お前の?俺のは?」 右手にやかんを持ち、まさに丼に湯を注ごうしながら、洸至は頭を傾げる。 「ないわよ。これ一個しかないの。お兄ちゃんは、夕飯食べてきたんでしょ?」 と言いながら、遼子はやかんを奪い返す。 「おいおい、コレは夜食だろ?俺だって小腹へったんだがなぁ〜」 恨めしそうに兄に見つめられると、さすがに兄を無下にするわけにもいかない。 「う…一口ぐらいならあげてもいいけど…。絶対に一口だからね!」 「わかった、わかった。」 兄妹の間で何とか交渉が成立し、遼子は漸く丼にお湯を注ぎ始めた。 やかんをコンロの上へと戻すと、洸至と向かい合う形に座り、丼に蓋をする。 湯気の筋が蓋の隙間から立ち昇る。 「こういう時の3分間って、意外と持て余すよね…」 「あっ?」 頬杖をついて、テーブルの上の丼を見つめながら、遼子がポツリと呟く。 「長いようで短いし、短いようで長いし…。3分後に『食べる』って目的が待ってるから 何か他のこともしづらいし…」 「別に、何もしないで大人しく待っていればいいじゃないか。」 「だから、それを『持て余す』って言うんじゃないの?」 遼子は「何か3分の有効は利用法はないのかなぁ…」とブツブツと呟き続けている。 「わかったよ。3分だな。」 遼子の嘆きを聞いていた洸至は、真面目な顔で頷くと何故か遼子の隣に移動する。 「遼子、3分計れて、しかも有効に3分を使える方法があるぞ。」 「え?なになに?お兄ちゃん。」 すると、自分の顔が上へと向けられ、洸至の顔が近づいてきたのに気付いた遼子は、慌てて体を反らせて叫ぶ。 「えっ!なにっ!?」 「3分間、退屈しなければいいんだろ?」 「そう……だけど…。」 「2人じゃないとできない事なんだ。」 「だから、なに?」 洸至は意味ありげに笑った後、遼子の顔を両手で挟んで、触れ合う瞬間を味わうようにゆっくりと唇をあわせていった。 「んんん!!」 突然の兄の行為に、遼子の瞳は驚きで大きく見開かれ、とにかく逃れようと体をひねり、手は兄の体を押し返そうとする。 しかし、しっかりと顔は兄の手で固定されてしまい、口付けから逃れることはできない。 その間にも、最初はただ触れるだけだった洸至の唇が、徐々に遼子の唇を吸ったり、甘噛みしたりし始める。 「んっ!ううん!」 時折舌先で遼子の唇をなぞりながらキスが繰り返されると、遼子から声にならない吐息が漏れる。 やがて洸至の舌先が遼子の唇をつつき、唇を開けるように促す。 促されるまま、遼子が思わずわずかに唇を開くと、洸至の舌が遼子の口内に入り込みゆっくりと遼子の舌を絡め取る。 「ん…ふっ」 洸至の舌が口内を探る感触と、次々と襲ってくる甘い刺激に、遼子は次第に頭がくらくらしてくる。 様子が変わった遼子に、洸至の行為も貪るように激しくなっていく。 しばらくして、急に洸至が遼子の唇を離し、甘い時は終わりを告げる。 遼子は息苦しさから漸く解放され、大きく息を吸う。 「…っはぁ…」 「さぁ、3分経ったぞ」 「ふぅ…っ」 「な、退屈しなかっただろう?」 思考が散り散りになって全然纏まっていない遼子に、洸至はまるで何事も無かったかのように話しかける。 「ほら、早く食べないとラーメンがのびるぞ?」 「…ら…ない」 「ん?」 「お兄ちゃん…食べていいよ」 遼子が赤くなって俯いたまま、兄の問いかけに答える。 「いらないのか?じゃあ、遠慮なくいただくよ。」 そう言って洸至が丼の蓋を開けると、湯気が立ちのぼる。 洸至は、まだ俯いたままの妹の耳元に近づきそっと囁いた。 「遼子、これからラーメン作るときは、いつでも声かけてくれたら3分はかってやるぞ?」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |