ディナーの後には 遼子編
鳴海洸至×鳴海遼子


遼子の枕元に置いていた携帯電話が震え、メールの着信を知らせるライトが光った。
布団に入っていた遼子がすぐに手を伸ばし、その内容を確認する。

『寝てた?』

鷹藤からだった。

『布団に入ってるけどまだ寝てなかったよ。鷹藤君は何してるの?』

遼子が返信すると、すぐに返信が来た。

『俺もベッドに入ってるけど眠れなくてさ。晩飯何食べた?』
『お兄ちゃんがカレー作ってくれたの。すごくおいしかった』
『あんたの兄さんって料理するんだ。器用なんだな。俺は牛鍋丼。本当はあんたの声が聞きたい。電話できないか?』
『お兄ちゃんが起きちゃうからだめ。また明日会えるから。おやすみ』

―――そっけなかったかな。

だが、こうして終わらせないと夜通しメールをすることになってしまう。
遼子も鷹藤の声が聞きたかった。
いま遼子は兄の部屋に居候している身だ。だから深夜に電話をすることははばかられた。

遼子は手の中の携帯電話を見つめた。

こんな風にメールするなんて、まるで中高生の恋愛だ。そう思うと少しおかしかった。
青臭くて、まるで明日がないかのようにお互いの声を聞きたがって。
日中だってずっと一緒なのに、こうして夜離れるだけでもたまらなく寂しく感じている。
鷹藤の温もりを知ったあの夜から、遼子が彼のことを考えない夜は無い。
眼を閉じれば鷹藤のことばかりだ。
黒く長い睫毛に縁取られた深みのある瞳が自分を見つめていた時のこと、車の助手席に座った時にふっと香った
鷹藤の匂い。
遼子を求めた唇、キスをした時の髭の感触、遼子を乱した指とそして鷹藤の-―――。

気付くと遼子はパジャマの胸元に手を入れていた。
鷹藤のことを思い出すといつもそうだ。
あの時火をつけられた躰が、また快楽を催促する。
遼子が耳を澄ました。
先ほどまで兄の部屋から聞こえていた物音がしなくなったところを見ると、今日珍しく非番だった兄も寝たの
だろう。

さっきまでメールを送りあった携帯電話の中に、鷹藤の名残りがあるような気がして遼子はそっとそれを頬に寄せる。
そしてもう片方の手でパジャマの胸元のボタンを外し、自分の乳房に手を這わせた。
あの時に鷹藤が触れたように下から上へ、揉みあげる。人差し指でまだ柔らかい乳房の蕾に触れた。
指先で少し撫でまわすだけで、すぐにそこが硬さを増した。
自分で触れているのに、思わず吐息が漏れ出る。
鷹藤と一夜を過ごすまでは自分に触れたことなど無かった。
なのにいまは、夜毎鷹藤のことを思い出し、鷹藤のぬくもりが無い夜に自分を慰めていた。

あの夜、鷹藤が教えてくれたのだ。
遼子の躰のどこをどう触れば快楽を引き出せるかを。
あれ以来鷹藤の優秀な生徒となった遼子は鷹藤の指や舌が教えたその場所を自分の指で触り、あの夜の快楽
を反芻している。

胸をもみしだきながら、太股の合わせ目に指を這わせる。下着の中に手を入れた。
既に下着に貼りつくほど蜜が溢れていた。

くちゅ…。

布団越しで聞えないはずなのに、ぬかるむ自分の秘所の音が聞こえるような気がした。
中指で少し充血し始めた花芯を撫でる。

「ふ…」

そっと触れただけで全身が粟立つような快楽が走る。
堪え切れなくなった遼子は秘裂の中に指を潜り込ませた。熱く潤むそこは遼子の細い指でいっぱいになる。
こんな狭い所に鷹藤のものが入ったなんていまだに信じられない。
遼子は眼を閉じた。瞼の向こうにあの夜の鷹藤の姿が浮かんだ。
汗を光らせ、切実な欲望に満ちた視線で遼子を射ぬきながら責め立てた鷹藤の姿が。
鷹藤の幻影と同調するように遼子は指の付け根で秘裂の上の粒を押しつぶすようにしながら抜き差ししはじめた。

「んっ…」

声を立てないように唇を噛んだ。
閉じられていた太ももは大きく開かれ、自然と鷹藤を受け入れる時のような姿勢になっていた。

「はぁ…、ふ…」

鷹藤の唇が恋しかった。責め立てられながら、激しく口づけを交わしたかった。
その想いが募れば募る程遼子の指は激しく動き、掛け布団が乱れ遼子の上からずり落ちようとしていた。
遼子が立てる水音で部屋が満たされる。
秘所からせり上がってくる快楽に、瞼を震わせながら遼子が愛しい男の名を呼んだ。

「鷹藤君…」

部屋にふっとあの時の鷹藤から感じた匂いがした。

「遼子、変な声聞えたぞ」

その声に驚き、遼子は動きを止めた。
目を見開くと部屋の入り口に兄の姿があった。足音も襖を開ける音もしなかった。
遼子は驚いて跳ね起き、掛け布団で身を隠した。
暗がりなので、兄の表情はうかがえない。
ただ長身の兄のシルエットが遼子の部屋の入り口に浮かんでいた。

遼子の全身から汗が噴き出す。

「具合でも悪いのか?」

心配げに言う口調からすると、兄はさっきまでの自分の姿を見ていないようだ。
遼子の枕元に兄がやってきた。

「だ、大丈夫。ちょっと疲れて、マ、マッサージ…そうよマッサージしてただけなの」
「どこのマッサージしてたんだ、遼子?」

そう言った兄の口元が緩んだ。

「えっ?」

布団の下に隠されていた遼子の右手の手首を抑え二人の間に掲げさせた。
人差し指と中指が暗闇の中、わずかな光を受け艶めかしく光っている。

「これは…?」

兄が首を傾げて遼子に聞いた。

「いやっ、ね、えっと、あの」

うろたえる遼子を尻目に、洸至がその指を口に含む。
兄が音を立てて遼子の指に残された蜜を啜る。

「やっ駄目!」

遼子が手を引こうとするが、兄のたくましい手が締めつけて離さない。
指を根元まで舐めまわし、それだけでは飽き足らずに指の股にまでじっくりと舌を這わせはじめた。
その光景に遼子が思わず息を飲んだ。
自分の恥ずべき秘密を知られてすっかりすくんでいたはずなのに、兄の舌先の感触が遼子の欲望をまたかき立てる。

遼子の吐息が上がる。兄の舌が遼子を乱す。
服の下で遼子の乳房の頂きが硬さを増してきたせいか、乳房の先端とパジャマの生地がこすれあっていた。

「ここまで濡れてたよ」

兄が蟲惑的に微笑む。今までの洸至から感じたことのなかった雄の匂いが微かにした。
その香りに遼子は囚われ、嫌悪すべき状況なのに何故か遼子の心は洸至に惹きつけられていく。
遼子が肉欲の味を知ったせいなのだろうか。
今は眼の前の兄が欲しくてたまらなくなっていた。

――――どうしよう。わたし、これじゃ誰でもいいことになっちゃう…。だけど。

「お前さえ良ければ…、俺がもっと教えてやろうか。マッサージをさ」

兄が言ったのは、あまりに異様な申し出だった。
すぐにでも否定し、拒絶しなければ。遼子の脳髄のどこかで理性がそう叫んでいる。
しかし遼子は渇望から唇を嘗め、兄にじっと熱い視線を注いでいた。

「返事がないな…でもその様子は…」

洸至が抗う力を失った妹の右手を引いて抱き寄せた。

「だめ…」

口先だけの抵抗であるのは遼子にもわかっていた。
遼子の意識は、ジャージの下にある、兄の引き締まった躰に吸い寄せられている。
この躰が欲しくてたまらない。

「何が知りたい?なんでも教えてやるよ」

洸至が妹の耳元で楽しげに囁いた。






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