電話中継
鳴海洸至×鳴海遼子


「久しぶりだな、遼子。」
「やっぱり、最近起きてるテロ未遂事件は、お兄ちゃんの仕業だったんだ。」

都内近郊の廃工場で、遼子は死んだはずの兄、鳴海洸至と対峙していた。

もう2度と会えないと思っていたはずなのに、遼子は再び生きて現れた兄の姿を目の前にしても、不思議と落ち着いていた。

それはどこかで、兄が死んでいないと思っていたのだろうか。
そして、また会いたいと願っていた気持ちがそうさせるのか。

そんな遼子の気持ちを知ってか知らずか、洸至は微笑みさえ浮かべながら、遼子に一歩一歩近づいてくる。

「残念だけど、今回の新興宗教団体を隠れ蓑にしたテロ計画は、もう来週には『アンタッチャブル』で記事になるわ。
だからお兄ちゃんお願い、もうこんな事は…」
「俺がお前に、いや、お前たちに見つかるようなヘマをするわけないだろう?わざとここにたどり着くように
お前と鷹藤くんの周りに、情報を漏らしておいたんだよ。」

遼子の強い意志を持った言葉が洸至の言葉で遮ぎられると、遼子の瞳はその言葉に驚いて見開かれた。

「私をわざとここにおびき寄せたって事?」
「俺がお前に堂々と会いに行く訳には行かないからな。だから、遼子、お前の方から来てもらおうと思ってな。」
「…どうして?」
「わからないのか?遼子、お前を迎えに来たんだよ。もうお前一人にさせたりしない。俺と一緒に生きていこう。」

その間にも、兄妹の間はじりじりと狭まっていた。

「いや…って言ったら?」
「俺たちはこの世でたった2人の兄妹じゃないか。いや、それだけじゃない。遼子、お前ももう気付いているはずだ。俺は、お前を…」

しかしその言葉を無視するように、遼子は兄を見つめ、凜として言い放つ。

「今から、此処に警察を呼ぶから…お兄ちゃん、お願い。自首して」

そういうと、遼子は携帯を取り出して握り締める。

「いや…と言ったら?」

洸至が冷たい口調で、わざと遼子の言葉を真似る。

遼子は、目の前で自分を見つめる兄の瞳の中に、あの時、あのホテルで見た闇を見た気がした
この目は・・・兄の目じゃない。遼子の知らなかった「名無しの権兵衛」の目。

遼子が感じたのはその事実と、微かな恐怖。
自然と携帯を強く握り締め、ゆっくりと距離を取ろうとする。
その時、遼子の手の中の携帯電話が鳴った。

「鷹藤君?!」

遼子がその音に思わず反応し洸至から目を放した隙に、洸至が遼子の手から携帯を奪おうと遼子の手をつかむ。

「やめて!」

腕をつかみあげられ、遼子の手から携帯が床へと落ちる。
慌てて携帯を拾おうとした遼子を、乱暴な手が阻み、ぐいと痛いくらいの力で洸至に引き寄せられ、ふわりと体が宙を浮く。

「お兄ちゃんっ!何するの!!」

あっという間に抱きかかえられ、開放を訴えるように暴れようとしても洸至の眼差しが怖くて碌に手を動かすこともできない。
射抜くような、自分を見つめる眼差しが、遼子には怖かった。

洸至が遼子にこういう目を向けたことなど、今まで一度もなかった。
だから…自分は一番近くにいながら、兄の闇に気づかなかった。そして、兄の闇を知ってからも、どこかでまだ兄を信じている自分がいた。
それなのに、今、ここにいる洸至は明らかに違う。まるで何の感情もないような、そんな目が遼子には堪え難かった。

浮いた体は、あっという間に堅い床に沈められ、床の冷たさに思わず声が漏れる。

「あ…やっ!」

洸至はそれに僅かに笑った。嘲るようにではあったが、そこには表情があった。

…いつもの…お兄ちゃん?

口元に笑みを湛えた洸至に遼子は怒りよりも安心感を覚え、その安心感が、遼子に言葉を紡がせる。

「お兄ちゃん、ふざけないで。」

遼子の四肢はまるで鏡に向かい合っているかのように洸至によって封じられている。
それでも遼子はまだ強気でいられた。言葉と同時に遼子は必死で手足を動かす。

が、まるで動かない。否、動けない。
長く続く攻防も、また洸至の表情のない顔を見ると恐怖へと変わっていく。
じりじりと追い込まれるような感覚に、遼子の額に汗が浮き出ていた。

「携帯、切れたな」

何時の間にか、どれほど時間が経ったのか。携帯の着信音はぴんと張り詰めた空気に消えていた。
暫くの後、洸至は遼子の手足の拘束を解くと、腰のあたりに体重を乗せたまま、まだ床の上にある携帯に手を伸ばした。
そしてゆっくりと画面に目を遣り、着信履歴に残る『鷹藤』の表示を一瞥する。

「鷹藤君、遼子のこと心配しているみたいだな。」

遼子は洸至のその行動の間にも必死に起き上がろうと、両腕を立たせ足に力を入れて、上にずり上がろうとする。
が、洸至の重みでまるで動けない。

「…重いよ…お兄ちゃん。お願い、どいて」

洸至の意図するところがわからない。自分がどうされるのかわからない。不安と恐怖心が思考を塞ぎ、口調にも泣き声が混じる。

そんな遼子の様子に、漸く洸至が遼子の上から体重を移動させた。
軽くなった体に、慌てて遼子が動き出す。が、それもまた洸至によって封じられた。
まるで猫が獲物を弄ぶように、同じ動きを何度も繰り返される。

やがて、疲れて鈍くなった遼子の体は、簡単に反転させられうつ伏せにさせられ、床に這いつくばるような形になる。

「や…何?」

遼子が言った途端、腰が洸至によって持ち上げられ、膝立ちになった姿勢のまま、手と胸は洸至によって床に押さえつけられる。
そして、支えていた足すらも洸至によって簡単に開かれた。
体勢の悪さに、息苦しさが体を走り、顔と胸を圧迫されて大きな声が出ない。
おまけに洸至の顔が見えず、遼子は泣きそうになりながら、必死に洸至に訴えかけた。

「お兄ちゃん…やめて…苦し…い」

遼子が言ったと同時に、手の拘束が解かれた。だけど、きっとまた悪戯に拘束される…そう思うと、遼子の体は恐怖で硬直し動けない。

すると、背中から洸至の冷たい声がした。

「お前が俺を拒むのは…鷹藤…いや、梨野の…弟のせいか?」

声と同時に、洸至の手がスカートを腰の辺りまで上げ、強引にショーツを膝のあたりまで下げ始めた。
空気に触れてひやりとした感触を感じた遼子は、無け無しの力で必死に暴れた。

「いやぁ!何っ!やめてっ!!!」

遼子が言葉を吐き出した途端、剥き出しになった秘裂に何かが触れた。

「ひゃ…っ!」

電流が体を駆け抜け、遼子が小さな声をあげる。ぬるぬると遼子の秘裂を上下したのは、洸至の舌。
動くたびに遼子が短い悲鳴のような声で反応する。手は自由になっても、もう逃げられない。

「お前を、梨野の弟には渡さない…」

すでに鷹藤と恋人同士となり、女として性に慣らされていた遼子の体は、洸至の執拗な舌技によって徐々にその官能の淵へと追い詰められる。
乾いた場所に、唾液以外の音が立ち始める。

「う…っ…いや…やめ…て、おにい…ちゃん」

遼子の口からも、拒否の言葉と共に、疼き出した体から漏れる甘い響きが出始める。
秘裂から菊花までゆっくりと動く舌。そして再び蜜の溢れる場所へ返ってくると、
弾力のある温かな中へと挿し込まれる。

「お願い…こんなの…あ…はぁっ…んんっ」

息をしようとすれば、その口から吐息に混じって甘い声が漏れてしまう。
敏感な体は、確実に洸至によって翻弄させられていった。
抵抗したい理性と、そのまま快楽に流されたい本能。
その狭間で遼子は苦しみながら、しかし身体は洸至の動きに声をあげ、挿し込まれた舌を無意識に締め上げる。

「イヤらしい体だな。無理矢理されていやがってたんじゃなかったのか?腰動いてるぞ」

黙って舌での愛撫を続けていた洸至が、遼子の腰がゆっくりと揺れ始たのに気付いて言葉を紡いだ。

遼子は羞恥に床を握り締めるように指先に力を入れたが、感じ始めた体は、その先を求めてどんどん熱くなる。
必死に堪えようとしても、洸至の動きは激しさをますばかり。
今まで知らなかった兄の闇、いつもとは違う声に、恐怖や違和感がついて行かない。
それを阻むのは、意思とは反対にある体。遼子は葛藤する心と体に混乱しながらも、最後の抵抗の言葉を振り絞った。

「や…めて…っ」

しかし、それは虚しく床へ散っていった。

蜜は重みに耐えられずに足を伝い床へと流れる。それが粘着質のものでなければ、ポタポタと音を立てて落ちるに違いない。
洸至はそんな遼子の従順な体と、相反する哀れな抵抗に笑みを浮かべた。

「そんなんでいやがってるって言えるのか?こんなにイヤらしく涎垂らして、こんなに充血させて。…こうされて本当は悦んでるんだろう?」

「ちがっ…ああっ!」

膝がガクガクと震える。膝の力を解放してやりたいのに、洸至がそれを阻む。

「なんだ、遼子。もうイきそうなのか?」

遼子が首を振って否定すると、今度は洸至の指が濡れた秘裂を往復する。
指に絡みついた蜜を舐めとり、そして再び秘裂を撫で、緩やかな愛撫が再開される。
一本だけ挿れられた指は、中の襞を確認するかのようにゆっくりとしか動かない。

「…やめ…て…お願…い」
「なんだ?聞こえないぞ」

妹の懇願に、洸至が悪戯な笑みを浮かべて聞きかえす。
その間も、指は中と外を執拗に移動し、蜜がイヤらしい音を響かせる。

そのとき、再び、床に放り出した遼子の携帯の着信音が倉庫内に響く。
乱れた息のまま、朦朧とする意識の中で遼子がゆっくりと顔だけをそちらへ向けると、
遼子の視界に洸至の手が入ってきて、携帯を握る。
そして洸至の空いた手はぐちゅぐちゅと淫靡な音を立てて、再び遼子を翻弄し始めた。

止んだ着信音の変わりに、響いてきたのは遠くに聞こえる誰かの声。そして兄の声。

「遼子、電話だ」

遼子は何とか体勢を立て直そうとするが、また洸至の手によって腰を抱えられてしまう。
今度は尻を突き出したような姿勢でうつ伏せにされ、そしてその姿勢のまま、遼子は差し出された携帯を手に取った。

「…は…い」
『オレ、鷹藤だけど。一瞬間違えたかと思ったよ。…今、誰かと一緒か?』
「鷹藤君…」

遼子の体に緊張が走る。

『もしもし?どうかしたのか?さっきも何度鳴らしても出なかったし。』

何も知らない恋人の声。
遼子はどうにかその場を取り繕おうと、震える声を抑えながら必死に絞り出した。
まさか、今、自分が陵辱されているなど、絶対に知られたくない。しかも、血を分けた実の兄に。

「あ…ううん、大…丈夫」

震えこそ電話越しには伝わらなかったようであったが、言葉が途切れ途切れになり声が掠れてしまった。
それは鷹藤に不審さを感じ取らせた。

『おい、何かあったのか?』

優しい恋人の言葉も今は辛いだけ。早く、早く切りたい。遼子は必死で自分を演じる。

「ううん、ホント大丈夫。でも…ごめん…今は」

そこまで振り絞るように言ったとき、いきなり体に激しい熱が走った。
より一層高く持ち上げられ、剥き出しになった秘裂に、洸至の楔が突き刺さったのだ。

「あああっ!」

突然のことに、遼子が悲鳴をあげる。

『遼子!?』

遼子が息を吸い込むと同時に洸至のものが最奥へと射し込まれ、強烈な快感に、遼子の口からは吐き出した息と共に甘い声が漏れる。

「あ…はっ…う…」

手に持っていた携帯が落ちそうになり、必死に僅かな理性でそれを握り締める。
緩やかな抽送が繰り返され、電話越しでも聞き取れそうな水音が響く。

『遼子!』
「…ごめ…ん、鷹藤君・・・ごめ…んね・・・」

鷹藤に聞かれたくない。知られたくない。溺れそうになる自分に、遼子は必死で言葉を返し携帯を切ろうとした。

が、次の瞬間洸至によって、携帯を奪われた。
うつ伏せにさせられている為に、兄が何をするのか、何を考えているのかわからない。
小さく響く鷹藤の自分を呼ぶ声に、遼子は必死でそこから逃れようとするが、その度に洸至自身がねじ込まれる。
痛みにも似た快感を堪える遼子を他所に、洸至がゆっくりと携帯を耳に当てた。

「悪いが遼子は今、手が離せないんだ」
『お前は…』

必死で指を噛んで声を抑えようとする遼子の手を引き剥がし、また緩やかな刺激を与えてくる。
無理矢理響かせられる声は、鷹藤にも届いているのだろうか。

「久しぶりだな、鷹藤君。」
『…遼子に…何をしてるんだ!』
「ああ、聞こえないのか」

洸至はそう言って携帯を持った手を腰に添えると、今度は激しく腰を動かした。

「あ…んっ…いやぁ…やめ・・・て・・・」

淫らな水音と肌のぶつかる音。そしてそれに合わせてくぐもった声が響く。
数秒それを聞かせると、洸至は再び携帯を耳に当てた。

「こういうことだ」
『…貴様…っ!』
「俺がいない間、随分と遼子と親しくなったようだな。」
『おい!アンタ、自分が何してるのかわかってるのか!』
「だが、お前に遼子をやる約束をした憶えはないんでね。遼子は、俺のモノだ、返してもらおう。」
『何云ってるんだ!アイツは…遼子は、お前のモノなんかじゃねぇ!』
「『遼子』呼ばわりか。ふん。随分感じやすいんだな、遼子は。これもお前のおかげか?」
『やめろ!やめてくれ!』
「俺は別にやめても構わないが、今やめたら遼子が辛いだろう?」

洸至の顔が歪む。

激しい行為に、遼子の体に小刻みな痙攣が走り出す。
しかし、もう限界に達しようとしていた遼子からいきなり洸至は自身は引き抜いた。
圧迫感と快感が体から引いていき、遼子が大きく息を吐く。

洸至はそんな遼子の体を持ち上げて仰向けにさせると、遼子が言葉を上げる間もなく、再び楔を打ち込み始める。

「んん…んっ…っ」

体を激しく揺らされて、遼子は口元を手の甲で抑えた。声を堪えるしか遼子にはできない。
だが、そんな遼子の指先に触れた洸至の唇は優しかった。
そして一瞬、洸至の顔に寂しさが浮かび上がる。
辛そうな顔…遼子はそう思った。それだけで何故か遼子の瞳からは涙が溢れる。

洸至はそんな遼子を見ながら頬を撫でると、ゆっくりと携帯越しに鷹藤に話し掛ける。

「聞きたいんなら聞いていろ」

そう言って携帯を近くの床に置くと、洸至は今度はじっくりと遼子への愛撫を始めた。
ブラウスを脱がせ、胸を覆っているブラジャーを取り外す。
そして洸至もシャツを脱ぎさり、汗の浮かんだ白い肌にゆっくりと唇を這わせながら腰を揺り動かしていった。

「んっ…」

洸至の的確な愛撫は、遼子の理性を簡単に突き崩す。

「遼子…」

愛しげに名を呼んで、漸くこの行為が始まってからはじめて洸至の唇が遼子の唇を捉えた。
唇からも二人の交わる音がぴちゃぴちゃと音が響いていく。

「んん…っ…はぁっ、はぁっ」

長い口付けを終えて、遼子が空気を貪るように吸い込むと、洸至は今度は硬く尖った胸の頂へ唇を移動させた。
舌で転がし、甘く噛み、強く長く吸い上げる。遼子はその刺激に眉根を寄せ、必死に堪える。
腰の抽送は徐々に激しさを増し、遼子はそれに上下に揺らされながら、洸至の頭を抱え足を絡ませた。

「おにい…ちゃん」

遼子の言葉に、洸至の動きがますます激しくなる。

「あっ…や…あっ…会いた…かった…っ」
「ああ…」
「寂し…かった…の」
「…知ってる」
「おにい…ちゃん…」
「遼子、お前だけなんだ…お前だけ…」

最後の兄が自分を呼ぶ声が切なくて、遼子は激しく揺さぶられながら必死で洸至を抱きしめた。
体の奥から、意識の遠くから、何かがやってくる。

「あっ……ああっ…イクっ…イッちゃう!あああっ!」
「…っ」

壮絶なエクスタシーの波が遼子を襲い、中を蹂躙していた洸至を締めつける。
熱く痛いくらいに心地よい蜜壷に、洸至は我慢できずに欲望を開放した。
長い射精が続き、その間も遼子は体を痙攣させて大きな波に身を任せ、そして兄に抱かれたまま意識を手放した。

洸至は遼子の中から自身を抜くと、床に置いた携帯電話を手に取った。

まだ電話は繋がっているだろうか。
それとも切れているだろうか。

しかし洸至はそれを確かめる事無く、電源を切った。

「梨野、お前の思い通りにはさせないよ。」






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