飲み会帰り
鷹藤俊一×鳴海遼子


「ねえ、鷹藤君」

まどろんでいた鷹藤が眼を醒ますと、男もののTシャツを着た遼子が覗きこんでいた。

「先、起きたんだ」

鷹藤が遼子を抱き寄せ、キスしようとすると、遼子が身を固くし、その手から逃れた。
鷹藤が怪訝そうにそれを見る。

「ねえ…わたしたち、もしかして………?」
「もしかしてって、あんたもちろん…」

遼子が困ったような顔をして鷹藤を見ている。

「…おぼえてない?」

遼子の眼が泳いだ。

「おぼえてないのか?昨日あんだけやったのに!」
「えっ!やっぱりしたの!!」
「これ見ろ!」

鷹藤の視線の先にはコンドームの袋がある。しかも開いたものが2袋。

「なんで憶えてないんだよ」

眉間に深い皺を刻んだ鷹藤が、隣の遼子を横目でにらんだ。

「き、昨日ね、二人で飲んでいたじゃない。それで、こう、二人の距離が縮まる様な会話になって、
いよいよだって思ったら景気づけなきゃと思って、鷹藤君がトイレに行ったときに、
テキーラ3杯を店員さんに頼んで、大急ぎで飲んだのよ。あまり男の人とこういうことしたことがないから、
緊張してたとか、ちょっと怖かったから飲んだ訳じゃないのよ。
鷹藤君にもリラックスしてもらおうと思って、その為には私がリラックスしなきゃと思ったから飲んだのよ。そしたら…」

「あんた記憶は?」
「…えへっ」

首をかしげて遼子が笑った。

「えへっじゃねえぞ。前もいい雰囲気になったのに、あんたが酔いすぎて駄目になったんだよな。
今度はできたのに…」

鷹藤が眼を細めて、遼子を見た。

「やっぱりした…よね。体もだるいし」
「思いっきりしたに決まってるだろ!あんたの方がすごくって…。俺たち付き合って
初めてがこれかよ…」

鷹藤ががっかりしたように、頭を抱える。

「つ、次からお酒飲みすぎないようにするわよ」
「当たり前だろ…。ちくしょう、初めてのこと、憶えられてないなんてな。あんだけやったのに」

最後のあたりは敗北感に満ち溢れ、傷ついたような声で鷹藤は言った。
暫く下を向いたのち、頭を上げた鷹藤の眼に昏い光が浮かんだ。

「いま、何時」
「まだ、4時。もうひと眠りできるわね」

遼子がそそくさと毛布の中に潜り込む。

「まだ夜だよな」
「そうね。冬だから、夜明けは7時近くになるんじゃない」
「じゃあ、朝までに想い出させてやるよ」
「…何を」

毛布から顔だけ出した遼子が、横目で鷹藤を見た。

「初めての夜だ。忘れて欲しくないからさ。いまから寝る前にしたことするぞ」

毛布の下で鷹藤が遼子を抱き寄せると、二人の体が密着する。
鷹藤の胸から微かに男の汗の匂いが漂う。
二人の間にある熱と、その匂いで、意識下にある動物的な記憶が呼び覚まされたのか
遼子の体が一瞬熱くなった。

「ま、待ってよ」
「あんたが忘れたのが悪い」
「そうだけど」
「それを俺が思い出させてやるんだから、親切な話だと思わないか。2度もしたのに、
あんたのために3度目もしてやるんだ」

「そう…かしら」
「そうだって」

鷹藤が無邪気な顔で笑う。
その笑顔で、今度は遼子の頬が熱くなった。
顔が近づく。胸がどうしようもなくせつなくなりそうで、遼子は思わず眼を閉じた。
遼子の唇にそっと鷹藤の唇が触れた。

「憶えてる?」

唇を外すと、鷹藤が遼子の頬を両手で挟みこむように、眼を覗きこんでいた。

「ううん…でも…もっと」

言い終わらないうちに、また鷹藤の唇で塞がれる。
遼子の頭を抱えるようにして、上になった鷹藤が舌を侵入させる。
自分の領土であるかのように、遼子の口内を鷹藤の舌はくまなく動き回り、遼子の舌を
挑発する。遼子の舌を捉えると、急くようにして絡め、舌を吸った。

遼子がキスだけで陶然としていた時、不意に胸を鷹藤の手で包まれ、くすぐったいような、恥ずかしいような感覚に体が跳ねた。
優しく掌で包むようにしながら、指先で遼子の胸の蕾をそそのかすことを忘れない。

「あん…」

思わず出た声に、遼子は首まで赤くなった。

「なんだよ、その顔」
「べ、別に…あぅんっ」

乳首を親指と人差し指でつまむように刺激されつづけ、思わず体がくねる。

「自分の声で感じてんの?」

遼子の耳元に鷹藤が口を寄せる囁く。耳に感じる息で遼子の体温がまた上がる。
鷹藤はそれから耳に首に、肩に、鎖骨に唇を落とし、舌で遼子の肌を味わう。


「鷹藤君のせい…いゃっ」

いきなり蕾を吸われ、上擦った声が出た。

「ここ、こうして吸ったんだ」

片方の胸をやさしく揉みしだき、人差し指で固くなった蕾を弄ぶ。
そしてもう片方は、鷹藤の唇と舌に嬲られる。


「あっ、んんっ」
堪え切れなくなるような心地よさと、もっと触れてほしいもどかしさから、
鷹藤に操られているかのように、遼子は身をくねらせていた。

「ここはもう思い出したみたいだけど」

鷹藤が脚の付け根に指を這わせ、そこに滴る蜜を指に採ると、遼子に指を見せた。
暗がりでもわかるほど、てらてらと鷹藤の指は濡れていた。

「…やだ」
「でもすごいよ、ここ。これから起こることわかってるんだな」

鷹藤が中指でそこを叩くようにすると、水音が跳ねまわり、遼子の耳を打つ。

「すぐ入っちゃいそうなくらいだ。誘ってるよ。あんたの体は」

初めてのことを憶えてもらえなかったせいなのか、鷹藤は言葉でも遼子を責め立てる。

「違うの。鷹藤君が」

いきなり自分の体に指が侵入してきた感覚に、遼子の体がのけぞった。

「あぁぁあんっ」

鷹藤は指を抜き差ししながら、親指で遼子の最も敏感な部分を軽く撫でる。
もう反駁の声をあげることもできない。
息苦しいくらいの快感に遼子は襲われながら、鷹藤の舌が徐々に、遼子のへその方へと
動いていくのも感じていた。

「鷹藤君…!」

鷹藤が遼子の草むらに口づける。
遼子の左足を抱えると、鷹藤は自分の肩に乗せた。

「駄目、こんなところ駄目よ」

鷹藤は遼子の哀願を無言で拒否した。
片手で遼子太ももを押さえつけながら、鷹藤が口を近づけようとした時、遼子の両手が
その部分を覆い隠そうとする。
その手をひとつひとつを鷹藤が手に取り、外した。

「駄目じゃない。現にあんたはさっき俺にさせた。それですごく悶えてた。ただあんたが憶えてないだけ」
「…嘘。わたし、こんな恥ずかしいことさせたりしないわよ」
「酒飲んでするのも悪くないのかもな。少なくとも、今の数倍はいやらしい女だったから」

遼子の両手を太ももの横でベッドに沈めるようにして抑え込むと、遼子の脚の付け根に
顔を近づけた。
こんなところに鷹藤の、息を熱を舌を感じていることが信じられなかった。

当惑と羞恥に遼子が襲われた時、鷹藤の唇が遼子の敏感な部分を覆い、その形をつまびらかに
するように舌が這い始めた。
襞の一枚一枚を押し開き、なぞり、吸いあげる。

「鷹…藤君…だ…め、んっ」

淫らな水音が部屋に充ち、耳を犯すその音のあまりの恥ずかしさに、遼子は消えたくなっていた。
だが消えることを許さぬ程の快楽が、まさにそこから遼子の全身へと拡がっている。
水音が、はしたなく啜りあげるような音に変わった時、遼子が出す声の質も、ひときわ甲高い泣き声めいたものに変わっていた。

「こうして」
「ぁあんっ」

鷹藤の声が耳に入らないように、遼子は悶え続けている。

「ここも」
「…あ…いやっ」

太ももにキスをすると、鷹藤が遼子の中へ舌を押しこむ。

「それからここも。俺が触ったんだ」

暫くなぶった後、それからまた強く舐めあげる。


「あ…あ…、んんんんっ」

手を離しても、遼子はもうそこを隠すことはしなかった。
汗によりなまめかしく光らせた体をくねらせながら、我を忘れて鷹藤との行為に没頭していた。
鷹藤はそこに指を入れると、それから最も敏感な部分を啜りながら激しく抜き差しさせ始めた。

「あ、やぁあああんっ」

遼子はシーツを握りしめ、ただその感覚の虜となっていた。
その様子を見た鷹藤が遼子を追いこむ。
走る様な水音が部屋を支配する。

「あ、あぁ、あぁ、あぁああんっ」

遼子が叫び声をあげ、形の整った脚をぴんと張り、体を反らせた。
それから静かになった。

「どう」

荒い息をしてぼんやりとしていた遼子が、その声でようやく我に帰ったようだった。

「すごく…気持ち良かった…」

潤みきった遼子の眼が鷹藤を捉えた。

「いいよ、もう思い出さなくても」

遼子の細い体を抱きしめ囁いた。

「だから今からすること、全部憶えててくれよな」

鷹藤は遼子の首に、頬にキスを降らせる。

「あっ、忘れないっ…ごめんねさっき」
「これからあんたとたくさんする予定だから。これからずっと…」
「うん…」

鷹藤が遼子を横向きにさせ、その片足を肩に乗せると、そのまま遼子に押し入っていった。

「…っぅん」

先ほどあまりに声を出し過ぎたのが恥ずかしいのか、遼子は唇を噛んで、堪えていた。
しかし喉の奥から甘い声が漏れ出るのまでは隠せない。
恥じらう様子が可愛くて、鷹藤は微笑んだ。
そのまま腰を送ると、お互いの足の付け根を押し当てるように密着した。

「わかる…?全部入ってるの」

遼子が微かにうなずいた。

鷹藤が体を動かし始めると、遼子が恥じらっても体は正直に反応していた。
腰を沈めながら、先ほど舌で散々弄んだ、遼子の最も敏感な部分も指で責め立てる。

「駄目…そこ触ったら…いやっ」

白い喉をさらし、二人で揺れ重なるリズムに溺れているように見える遼子が、せつなそうに鷹藤を見た。

「鷹藤君、怖いの、鷹藤君が見えないと怖いの」

鷹藤へ向け遼子が中空に手を伸ばす。
鷹藤がその手を掴み抱き寄せた。

「くぅっ…」

つながったまま位置が変わることがまた違う快感を引き起こすのか、遼子は眼を閉じ
眉をひそめてそれに耐えていた。

その遼子に鷹藤がキスをした。
遼子が眼を開け、鷹藤を見る。

「好き…」
「うん」

正常位と呼ばれる形になると、鷹藤がまたゆっくりと動き始めた。
その顔を、遼子の手が包む。

「鷹藤君の顔見ていたいの…」
「うん…」
「好きなの。見えないと怖いの…」
「ああ…。俺も好きだ」

繋がったまま、鷹藤はまた貪るようにキスをする。

「お願い離れないで。ひとりにしないで」
「大丈夫。離れないし、離さない」

鷹藤も終わりが近くなったのか、腰を叩きつける速度が上がっていた。

「た、たかふじくっ、んんっ」

もうそれから言葉にならなかった。
ただ、吐息と二人の体が立てる淫らな音だけが部屋に響き渡る。

「やんっ、あっ、いきそうっ、あああああぁん」

鷹藤の体が震えると、遼子は体でその重みを受け止めた。

しばらく後。
鷹藤の腕の中の遼子が、鷹藤を睨みながら言った。

「…憶えてようが、憶えてなかろうが、もう一回するつもりだったんでしょ」
「何が。2回やった上にあんなによがっておいて良く言うよ」
「そ、それは鷹藤君のせいよ」
「疲れてんのに、思い出させた俺によく言うな。こんなにやったのはあんたのせいだって」

鷹藤が怪訝そうな顔で遼子を見た。

「…おっかしいなあ」
「何よ」

「さっきまでと、今の俺らの雰囲気、違うよな?」
「そ、そりゃそうよ。さっきまでは…あの、そのあんなことしてたから…」

鷹藤、首をかしげている。

「俺はさっきみたいなあんたも悪くないと思う」
「そ、そう」

遼子は眼をそらすと、毛布に中に逃げ込んだ。

「じゃ、またすれば、さっきみたいな、あんたが見れるんだ」

遼子は鷹藤に背を向けると、聞えないふりをして無言を貫いた。
だが、鷹藤の手が遼子の乳房を撫でると、またも反射的に甘い声が出てしまう。
遼子が咎めるように鷹藤を見ると、鷹藤の笑顔が待っていた。

「今日は休みだろ、お互い」
「無理すると、腰、悪くしちゃうわよ。ねえ、そ、そうなったら仕事に障るわ!だから…」
「俺、そんなに歳じゃねえし。大丈夫、今度はあんたが上に」
「えええええええええええっ!!」
「駄目…?」

鷹藤が甘い声で囁いた。
柔らかな視線に胸の奥がまた疼く。

「だって…」
「大丈夫、俺が教えるから」

鷹藤が遼子の手をとると、また抱き寄せた。


おまけ

洸至の手の中でボールペンが折れていた。
その隣にも折れたペンが2本。
だが本人はそんなことに気付くこともなく、虚空を睨んでいる。
誤算だった。
二人が飲んでいる店のバーテンに金を握らせ頼み、テキーラに仕込んだ薬で遼子は爆睡するはずだった。
それで何度か、二人がそうなることを先延ばしにすることに成功したのだが。
それがまさか、まさかあんなことになるとは。
あの店を出た途端、遼子から鷹藤の唇を奪っていた。
鷹藤はそんな遼子の様子に慌て、タクシーを止めると、大急ぎで自分の部屋へと遼子を連れていった。
タクシーの車内でも遼子の方が積極的に鷹藤に仕掛けていたようだった。
だから、鷹藤の部屋に入ってからの様子は、恐ろしくて想像したくもなかった。

洸至が眼を瞑った。
遼子、眼を覚ませと言ってやりたい。
お前を一番大切に思っているのが誰か教えてやりたい。
お前が会いたい思っている俺が生きていると教えてやりたい。

だが、この悪夢のような展開をもたらしたのが自分のせいだと思うと自分への怒りで
洸至の眼の前が赤くなった。

まったく、薬のせいで。
…薬。
どう考えても、あの状態の遼子に通常の意識があるように思えなかった。
まるで普段の自分から解放されたようなあの振舞い。
つまり、それを使えば…。

一瞬自分を捉えた甘い毒を含んだ妄想から、洸至は己をひきはがした。
だが、その妄想はしばらく洸至を離してくれそうになかった。
越えてはならぬ一線を越えろと、その妄想は妖しく誘う。

兄としての自分と、妄想の誘惑にかられる自分とを行きつ戻りつしながら、夜明けまで、
いや夜が明けても尚、洸至は苦しんでいた。






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