60 Miles an Hour 鷹藤編
鷹藤俊一×鳴海遼子


鷹藤の躰が宙を舞った。

ナース服姿の遼子が開いたドアから鷹藤を見つめていた。最後に何か遼子は言ったようだった。
だが、鷹藤は遼子の声を聞くことなくワゴン車の外に放り出された。
鷹藤を放りだした後、開いたままの側面のスライドドアから、黒いニット帽の男が驚いた表情を浮かべ鷹藤を
見ていた。
身を切るように冷たい冬の風を感じた次の瞬間、鷹藤はガムテープで後ろ手に縛られた状態でできることが
少ないながらも頭をすくめた。

次の瞬間、アスファルトに左肩が触れた。鷹藤の躰の中で鈍い音が響く。道路で鷹藤の躰が軽くバウンドする。
そして道路を何度かわからないほど転がり、鷹藤はやがて止まった。
どこが痛むかわからぬほど躰中が痛んでいた。その痛みに襲われながら顔を上げ、走り去るワゴン車を見ようとした。
だが額の上を切ったらしく、とめどなく流れる血が眼に入り鷹藤の視界が赤く染まる。
見えない目で周りを見回す。スピードを上げ走り去るエンジン音が遠くに聞こえた。
立ち上がろうとする。躰じゅうが痛んで動けなかった。
強い光を感じて振り返る。後続車のライトか。
大きな摩擦音を立て、止まる音。
タイヤの焦げる匂い。開くドアの音。駈けてくる足音。
大きな手が鷹藤を掴んだ。口に張られたガムテープを、鷹藤の唇が痛むのも構わず一気に取る。

「動けるか」

聞き覚えのある声だった。だが、いまの衝撃のせいで誰の声か思い出せない。

「俺の車に乗れ」
「あいつが、俺の彼女が攫われたんだ…。助けないと」

男の肩を借り、よろめきながら歩く。足は折れていないようだ。ただ肩が、左肩がひどく痛んだ。

「彼女か…。手伝おう。乗れ」

鷹藤が身をかがめ、男の車の助手席に座った。
グローブボックスから男が万能ナイフを取りだし、鷹藤を縛るガムテープを切った。
運転席に座った男が鷹藤の額の傷に触れた。それから何か布をあてる。

「そこは切れただけのようだな。さあ、行くぞ鷹藤くん」

男が鷹藤の名を呼んだ。鷹藤が驚いて眼の周りの血を拭う。
見覚えのある横顔。
そこにいるのは遼子の死んだはずの兄、鳴海洸至だった。
鷹藤の躰がシートにめりこむ。
猛獣の唸り声にも似た音をタイヤがたて、車が急加速で走り出した。


街灯に照らしだされる洸至の横顔を鷹藤は茫然と見ていた。
遼子と溶け合う程に躰を重ねあわせていた、ほんの30分前。
こうして遼子の兄、名無しの権兵衛こと鳴海洸至と再会することになるとは思いもよらなかった。

「で、結局そっちかよ」

ナース服に身を包んだ遼子が、ドレッサーの前で制帽をピンで留めていた。

「セーラー服はね…。あの事件のあと、卒業式で着たのが最後なんだけど、見ちゃうと思い出しちゃって」

遼子の横顔に翳が過ぎる。
あの事件。遼子の兄が両親と自宅を吹き飛ばした事件。全てのはじまりだった。

「でもね、お兄ちゃんがわたしの卒業式に出席したら、わたしのこと馬鹿にしていた子とか、殆ど話したことの
ない子までわたしとお兄ちゃんのところにやってきて、一緒に写真撮ろうって頼んだのよ。お兄ちゃん、
かっこよかったから」
「へえ」

遼子の兄。名無しの権兵衛。数多の人を殺し、関わったものの人生を変えた男だった。
だが、やはり遼子にとっては犯罪者というよりは、家族としての記憶の中に兄はいるようだった。

「ごめんね、鷹藤くんの前でこんな話しちゃって」
「いいよ」

遼子の兄、鳴海洸至は自分の両親だけでなく鷹藤の家族も吹き飛ばした。父と母と兄と。
許せない…と思う時もある。
だが、洸至を名無しの権兵衛と知るまでは、もし兄が生きていたらこんな感じだったろうかと、その背に兄の
背中を重ね合わせたりした。
そのせいか事件の後も単純には憎めなかった。
洸至に対する恨みの気持ちよりは、裏切られた悲しみの方が強かった気がする。

「俺もあんたの兄さんに世話になったし、嫌いじゃないよ」

遼子の後ろからその細い躰を抱きしめた。
そのうなじに唇を落とす。

「ん…」
「で、看護婦さん、俺に何してくれんの?」
「何って…あ…」

鷹藤が遼子の顎に手を添え、顔だけ後ろを向かせると唇を重ねた。
すぐに舌が絡まり合う。
鷹藤の顎から耳の下へと蔦のように遼子の手がのび、髪の中へ差し入れられた。

「んん…」

遼子の喉の奥から甘い声が響く。鷹藤が唇を離した。

「これじゃ俺がやってることになっちまうな。あんたはどうしたい…」

遼子が顔を赤らめ下を向いた。

「こんな格好なんて初めてだし…。やっぱり恥ずかしいよ、鷹藤くん」
「じゃあ、また俺の好きにしていいんだな、看護婦さん」

遼子ナース服だが、鷹藤は先ほど躰を重ねたときからまだ服を脱がず、ほどけたネクタイとワイシャツ、
下はスラックスのままだった。
鷹藤がネクタイを外す。
遼子の手首を重ねさせると、緩く縛る。

「いたずらするときに邪魔だからな」

鷹藤が遼子の戒められた両手に頭をくぐらせると、恋人の腕の中に来た。二人の躰が密着する。

「これだけ近いと、看護婦さんになんでもできるぜ」
「もう…」

あまりの顔の近さに遼子が眼をそらした。
鷹藤が眼の前にきた遼子の耳たぶを口に含むと、それだけで遼子の腰が震える。
遼子の腰に手を廻し逃げられないようにすると、鷹藤は制服の下に手を入れた。

「あれ…。あんたあれから下着はいてないのか」
「だって…」

遼子が言い淀む。

「そうだよな、あれだけ濡れちゃはけないよな。ナース服の下がノーパンって、やってくれってこと?」

滑らかな太ももを撫で上げると、鷹藤は遼子の亀裂にいきなり指を挿れた。

「ひゃんっ…」

湿った音が波の音のように部屋に響く。

「ねえ、あんたが風呂上がってから俺触ってもいないのに、なんでこんなに濡れてんの」
「んんっ」
「声、堪えるなって。ラブホだったらいくらでも出していいから」

立ったまま鷹藤の指が中を掻き立て、指の付け根がリズミカルに遼子のクリトリスを押しつぶす。

「きゃ、あ、あ、あ、ああんっ」
「すげえいやらしい声。鏡見てみろって。自分から片足上げてよがってる看護婦姿のあんたが映ってる」

遼子がドレッサーに目を遣り、また顔を赤らめた。
鏡の中には、ナース服を着たまま内奥に指を突きたてられ、紅潮し快感に眉をひそめながらこちらを見る
自分がいた。

「いやっ」
「こんなやらしい看護婦がいたら入院も楽しいかもな」

腰から這い上がる感覚に、遼子の膝の力が抜ける。だが戒められた両手が鷹藤の首に廻されており、鷹藤から
躰を離すことも敵わず、たた快楽に震えるしかない。

「や、ああ、ああん」

鷹藤が叩きつける指の音、潰れる様な水音。

「だめ、立ったまま、あんっ、いっちゃう」
「じゃ、いけって。俺の眼の前でいけって」

鷹藤が指を送りだす速度を上げる。水音のリズムが上がる。遼子の息が切れ切れになる。

「恥ずか…いや、きゃあ、あああ、ああんっ」

遼子の膝から力が完全に抜けるが、戒められた両手が支えとなり床の上に膝立ちなった。

鷹藤も床の上に座る。鷹藤自身を引き出すと、遼子の腰を抱え自分の腰の上に座らせた。
ゆっくりと遼子の中に突きいれる。

「あ、ああああんんっ」

指とは違う太さ、質量が遼子の中を埋めていく。遼子が痺れるような感覚に腰を逃がそうとする。
それはまた遼子に次の快楽を送りこむだけだった。

「ひゃああああんんっ」

その快楽のせいで遼子の膝から力が抜け、一気に根元まで受け入れてしまった。
激烈な快楽に遼子がのけぞった。

「んっ」

鷹藤も包まれた感覚にうめく。

「…看護婦さん、今度はあんたが動く番だろ」
「ん…気持ちいい…ですか?」

乱れつつ遼子が少し芝居っ気を出してきた。鷹藤がほくそ笑む。

「看護婦さん、俺、疲れて動けないみたいなんだ。あんたが動いて気持ち良くしてくれよ」
「は…はい…」

眉をひそめながら、遼子が鷹藤に腰をこすりつけ、リズミカルに動き始める。

「あんっ…」
「よがってばっかりいないで、もっと気持ち良くしてくれよ」

制服姿の遼子が必死に腰を振る。制帽からほつれた髪が額から垂れ、それも一緒に揺れる。
鷹藤が遼子の襟元のボタンを片手ではずしていく。
ボタンを外すと襟元から差し入れ、掌で押し包むと遼子の柔らかな肉を揉む。

「ふぅっ…」

「このままだといけないぜ、お互い」

もちろんそんなことはない。
鷹藤が激しく動かす時とは違う、まろやかな快楽が二人のつながった部分から拡がっている。
その快楽に呼応するように、鷹藤の精を呑み尽くそうと遼子の中が蠢いて、鷹藤を追い詰めていた。

「どう…ですか」
「もっと…もっとしてくれ…」

言葉で追い立てていた鷹藤にも余裕はなくなっていた。

「はい…」

遼子が激しく腰を振る。

「きゃあ、あ…あああ。いい、ああ…」

遼子も襲い来る快楽に悶え喘ぐだけになっている。
目を閉じ、快楽に耐えかね眉間に皺を浮かべながら、絶え間なく甘い吐息を漏らす遼子の顔を間近に見ていて、
鷹藤ももう律動を堪えることができなくなっていた。
下から遼子を激しく突き上げる。

「きゃあああああああんっ」

遼子の髪が乱れ、制帽から髪が幾筋もこぼれ落ちる。
のけぞり白い喉をさらす遼子の頭に手を添えると、鷹藤は深く口づけた。

「んっ、んんっ」

背筋に射精の予感が駈ける。

「中に…出すぞ」
「あああああんっ」

押しつけるように何度か強く突き上げると、鷹藤は遼子の中に精を放った。


「おい…」

意識を手放した遼子の頬をぺちぺちと鷹藤が叩く。

「ん…」

結局床の上でまた躰を重ねてしまった。遼子は猫足のドレッサーの足元にしどけなく横たわっていた。

「せっかくでっかいベッドあるのに、2度も床の上でやっちまったな」

片肘をつき、遼子の傍らに添い寝しながら鷹藤が苦笑した。

「鷹藤くんが2回もするから、動けない…」

遼子の手首を縛るネクタイもそのままだった。それを鷹藤が外してやる。

「あんたも頑張ったもんな」

鷹藤が遼子を抱き上げ、ベッドに運ぼうとした。

「ちょ、ちょっと待って鷹藤くん!」

遼子が何かを見たのか、ドレッサーの下に眼を遣ったまま、鷹藤の腕の中で暴れた。

「なんだよ、いきなり。別にベッドですぐにもう一回やろうってわけじゃ…」
「そうじゃないの、わたしのこと降ろして。ドレッサーの引き出しの下に何かあるのよ」
「動けないんじゃなかったのかよ」

さっきまでの蕩け切った声ではなく、仕事中の相棒の顔になっていた。その勢いに押され、鷹藤が遼子を降ろす。
遼子の眼が、猫足のドレッサーに据えられた。白の何の変哲もないドレッサーだ。
中央に抽斗がひとつ、右側に3段の引き出しがある。
猫足のドレッサーの中央の抽斗の下に遼子が頭を入れ、見上げた。

「鷹藤くん…これ」

テープをはがす音が聞こえた。
抽斗の裏に何かがテープで留められていたらしい。遼子の手の中に、鍵があった。

「鍵…。コインロッカーの鍵だな、これ」

駅のコインロッカーによくある、黄色いプラスチックの楕円型のキーホルダーがついた鍵だ。
ふたりでキーホルダーの文字を読む。

「新・東口・356」

遼子の眼に記者としての光が宿る。

「あんた、何かやる気だろ…。ほっとけって」
「ねえ鷹藤くん、事件の匂いよ!開けて普通のものだったら警察に届ければいいし」
「ラブホのドレッサーの下に貼りつけてあった鍵でロッカーを勝手に開けましたって言うのかよ」
「そんなの編集部に垂れこみがあったことにすればいいじゃない」

遼子はもう、このいわくありげな鍵に夢中になっているようだ。

「待てよ、じゃ、シャワーだけでも浴びてから行こうぜ」
「早くしてね」

遼子がナース服を脱ごうとボタンに手をかけた時。
控えめにドアをノックする音が響いた。二人が顔を見合わせる。

「何かしら…」

鷹藤がドアへ脇に立ち、ドアの向こうの相手に声をかけた。

「誰だ」
「フロントです。入室時のサービスドリンクの提供を忘れてまして、いまお持ちしたのですが」
「いや、ドリンクはいいよ。もう出るから」
「そうですか」

鍵穴の中を何かが這いまわる音がした。
次の瞬間、猛烈な勢いでドアが開き、鷹藤は額を強かに打った。

「な…」

どう見てもカタギには見えない男が3人押し入ってきた。
スキンヘッドとニット帽の男はレスラーのように大きな躰と太い腕を誇示するように胸を張り先を歩き、
その後ろを細身で短髪の男が歩いてくる。
スキンヘッドの男が叫び声を上げようとした遼子の口を押さえつける。
その手を遼子がすかさず噛んだ。男は舌うちをすると躊躇なく遼子を撲り、腹に当て身をくらわせると肩に
担ぎあげた。
鷹藤が叫び声を上げようとした時。

後頭部を殴られ、視界が暗転した。






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