2010/12/31-2011/1/1(非エロ)
鷹藤俊一×鳴海遼子


まるで祭りのようだ。普段は車が行きかう道路は封鎖され、そこには大勢の人間が居た。
群衆の合間には警備に当たる警察官の姿がある。
交差点そばにあるビルの電光掲示板を見つめるものも、携帯電話を見るもの、隣合わせに立つ者と談笑するもの、
その全ての顔がほころんでいた。
電光掲示板には11:58と数字が浮かんでいる。
新年まであと2分。
見上げた遼子の背を誰かが押した。身動きがとれない程の人ごみだった。
群衆の中ではぐれるのが怖くて、遼子は隣に立つ鷹藤の手を握った。

大手のソーシャルネットワーク運営会社が、日本でもNYのタイムズスクエアのカウントダウンイベント
並みのイベントを行おうと、その加入者に呼びかけた。
イベント内容も、繁華街の道路を封鎖し、真夜中に花火を打ち上げるなど、欧米のイベントそのままのものだ。
ここまで大規模で本格的な街頭でのカウントダウンイベントは日本初だった。
そのせいか、当初予想されていたよりも大勢の人間が押しかけていた。

「すごい人ね」

遼子が隣に居る鷹藤に言った。

「あんたみたいな暇人が来てるんだろ」

鷹藤があきれ顔でまわりを見回していた。

「なあ、向こうっぽいカウントダウンイベントってことはさ」

鷹藤が言い終わらないうちに、電光掲示板に30の数字が浮かんだ。

「29!28!27!」

周りの人間がカウントダウンを始めた。声が束になり真冬の夜風の中響き渡る。

「5・4・3・2・1…」

電光掲示板に2011の文字が大きく映し出された。
群衆がいる道路の周りのビルの屋上から大量の紙吹雪がまかれ、まるで本当の雪のように新年を喜ぶ人々の
上に降り注ぐ。

ビルの向こうから、花火が大輪の華を空に描くのが見えた。
それから、打ち上げ花火が連射される。腹に響く打ち上げ音が轟く。
だがそれも群衆のあげる歓声にかき消されていた。
花火を見あげる遼子を鷹藤が抱き寄せた。
そして白い紙吹雪が舞い降りるなか、鷹藤は遼子にキスをした。

「ハッピーニューイヤー!」

どこかしこからそう言う声が聞こえた。
遼子の周りの人々も、欧米のカウントダウンイベントのように、恋人や友人であろうとなかろうと、近くに居合わ
せた者同士キスをしていた。

空で瞬く花火がお互いの顔を照らすなか、二人は唇を離した。

「鷹藤君、おめでとう」
「ああ。今年もいい年にしようぜ、お互い」
「うん…」

二人だけの静かな語らいの時間はすぐに絶たれた。

鷹藤の後ろから数人の派手な格好をした若い女がやってくると、遼子と隔てるように鷹藤を囲んだ。

「ちょっとお、お兄さんもその人ばっかりじゃなくて、こっちおいでよ!」

「なんだよ、おい!」

鷹藤も抵抗するが、若い女たちに取り囲まれ姿が見えなくなった。

「た、鷹藤君…」

鷹藤の元へ行こうとした遼子を後ろから誰かが抱きしめた。

「きゃっ…。な、何!」

いきなりのことに遼子が軽くパニックになった時だった。

「ハッピーニューイヤー、遼子」

忘れもしない声が遼子の耳をくすぐる。懐かしい温もりが遼子を包んでいた。
そして遼子の頬にそっと唇が触れた。

「もしかして…お兄ちゃん?」

遼子を抱きしめていた手が離れた。

遼子が振り返る。長身の男の背中が遠のいていく。
遼子が兄の方へ手を伸ばすが、人ごみに阻まれた。
紙吹雪が舞い落ちる中、抱き合う男女や肩を組み騒ぐ若い男たちの姿の向こうに、見覚えのある背中が消えていく。

「お兄ちゃん!お願い!待って!行かないで!」

人をかき分けて進もうとする遼子の腕を、顔じゅうにリップグロスたっぷりのキスマークをつけた鷹藤が掴んだ。

「どうしたんだよ?」
「お兄ちゃんが…」
「あんたの兄さんが?」

遼子の視線の方向へ鷹藤も眼を向けた。
兄の背中はもう見えなくなっていた。

「居たの、私の傍に居たの」
「…そうか」
「…次は、次こそはわたしお兄ちゃんの手、離さない」
「…」

鷹藤は遼子にその手を掴んでどうするかを聞いてこなかった。

きっと鷹藤もわかっているのだろう。その手を掴んで警察に行かせるべきだと思っていたとしても、
遼子がそうできるかどうか逡巡していることを。
遼子の人生全てを狂わせておきながら、己の人生をかけて遼子を守ろうとした相手の手を手放せるか迷っていることを。

「捜しに行くぞ。きっとまだ遠くに行ってないはずだ」

人ごみをかき分けながら鷹藤が歩きだした。

「警察だってたくさんいる中にやってくるんだから、逃げ切る自信あるんだろうな。だけど、あんたの前に姿を
現したのは追いかけて来いってことだろ」

鷹藤が遼子の手を強く握った。

「じゃ、追いかけてやろうぜ。あんたの兄さんがまた何かを始める前に。今度こそ止めてやろう。な?
今度のあんたはひとりじゃない。きっと止められるさ」
「そうね…きっとそう」

遼子は鷹藤と離れないように、きつくその手を握り返すと二人で人波をかき分け,兄の姿を求め歩いて行った。






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