小ネタ 社交ダンス(非エロ)
番外編
編集部の面々が全員珍しく出払い、アンタッチャブル編集部には遼子と鷹藤しかいないかった。

遼子の隣のデスクで機材のチェックをしながら、鷹藤が相棒を見た。
遼子は編集部の空いたところで、社交ダンスのステップの練習をしていた。
ひとり背筋を伸ばし、見えない相手の背中に手を添えるようにしてステップを踏んでいる。

「少しは良くなったんじゃねえの」
「きのう自習してきたから、バッチリよ!なんなら試してみる?」
「厭だよ。恥ずかしい」

鷹藤が顔をしかめた。

『社交ダンス婚活』とかいうパーティに潜入取材することになった遼子が、その場に行って踊れなかったら恥ずかしいと言って、
厭がる鷹藤を巻きこんでアンタッチャブル編集部で練習するようになって早や5日。
元来リズム感がない遼子ももう特訓の末、ダンスもようやく形になってきた。

「そうだよね。お兄ちゃんも恥ずかしいって言ってたんだけど、でも昨日の夜にね、踊りの練習手伝ってくれたから
何とかなったのよ」
「あんたのあの兄さんが?踊れるのか?」
「まさか。でもステップ表を何度か見たら憶えたみたい」
「へー。すごいな」
「お兄ちゃん背が高いし、姿勢がいいから意外とああいうダンス似合うんだから。私の腰に手を添える仕草も決まってたし」
「腰…?」
「何か変なこと考えてない?チークダンスじゃないからね。ふたりで社交ダンスの練習してたの」
「あ、ああ、そうだよな。まさかあの兄さんでも妹とチークダンスなんて」
「だからチークダンスじゃないってば。そいうことしか考えられないの」
「いや、あの兄さんならあるかな…」
「何か言った?」

「とにかく、ダンスの練習うまく行って良かったな」

デスクに頬杖をつきながら鷹藤が踊る遼子を眩しそうに見ていた。

「でもね、お兄ちゃんにちょっと怪我させちゃって」

ステップの確認に余念がない遼子は、鷹藤のその視線に気づくことなく踊っている。

「何で」
「お兄ちゃんはステップ間違わないけど、私が何度も間違えて、お兄ちゃんの足を踏んだり、脛を蹴ったりした拍子に
二人で床に倒れ込んじゃって」
「…へえ」
「わたしも床に躰ぶつけそうになったけど、お兄ちゃんが抱きとめてくれたから怪我しないで済んだのよ。だけど、
お兄ちゃんはちょっと躰ぶつけたみたいなの」
「もしかして、倒れた拍子に…」
「何でわかったの?倒れた拍子にちょっと唇が当たっちゃって」
「それってキス…」
「まさか。兄妹同士でキスする訳ないでしょ」
「でも唇が」
「当たっただけだってば!お兄ちゃんもビックリしてたし」
「だから、それってキスだろ」
「そういうことしか考えられない相棒持つと苦労するわ」

遼子が呆れたように言った。

「鈍感過ぎる相棒持つと気苦労が絶えねえよ」

肩を落として鷹藤が言った。






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