番外編
「草ちゃん!、ちょっと今日若葉さん借りてくね〜!」 私と草太さんが無事籍を入れた何ヶ月か後、草太さんの元妻のリリカさんがビー太郎君を連れてお祝いに駆けつけてくれた。 偶々日本にてミュージカルのバックダンサーの仕事が入ったらしくて、私達のお祝いもそのついでという事らしい。 ビー太郎君は、おとうよく頑張ったなぁと草太さんの頭を撫でてたのが微笑ましい。 「…ってなんで私が貴女に付き合わなきゃならないんですかっ!!」 「いいじゃん、いいじゃん!あたしこっちじゃあんまり女友達とか居ないからさ〜。 若葉さんに聞きたい事とかも沢山あるしね!」 「私は貴女とお話する事はなんにも御座いませんが? やっとの思いで取ったお休みが、貴女のせいで台無しです!」 「まぁまぁ、たまにはさ?こうやって女同士もいいもんだと思うけどね? それに、ビー太郎と草ちゃん久しぶりに二人水入らずにさせてあげたかったし…。」 「…そうゆう事なら先に仰って下さい! その理由の方が私は素直に納得できます!」 「…若葉さんてやっぱ変わってる、うん、あたしがそう思う程だし。」 「行き当たりばったりな生き方してきた貴女に、変わってる呼ばわりされる筋合いはないんですが? これは草太さんから聞きましたが、 出き婚で振られてバツイチならまだしも、偶々隣人の殿方が良い人だからと我が子を預け、そのまま流れで結婚したかと思えば、我が子より夢が大事と血の繋がりの無い他人に我が子を押し付けて渡米するなんて… 私から言わせれば、貴女も相当な変わり者だと思いますが?」 「…ハッキリ言ってくれるな〜、確かにそうだよね。でも、そうハッキリ私の顔見てその事言ってくれるの、若葉さんくらいだよ。 そんな所ホント変わってるし、あたし、若葉さんのそこんとこ好きだわ。」 「貴女に好かれても全く嬉しくなんかありません!」 そう言いながらリリカさんを睨んでも、相変わらず彼女はその笑顔を私に向ける事に躊躇わなかった。 そして、急にふと苦笑いを浮かべたかと思えば…次はぽつり、ぽつりと語り出すのだ… 「あたしね…、実は今でも草ちゃんの事忘れらんないんだ…。 一緒にやり直そうって言ったの、そりゃビー太郎の為でもあったけど、草ちゃんの事改めて好きだったんだって気付いたからでもあった。 でも草ちゃんにね、親子にはなれるかもしれないけど、夫婦には戻れないってハッキリ言われちゃった。 本気で好きな人が出来た。…自分の気持ちには偽れないって。」 「そんな事が…」 「その時若葉さんさ、別の人と結婚する予定だったみたいで、草ちゃん自暴自棄になっちゃっててさー。 若葉さん忘れる為に好きでも無い人無理して好きになろうとしてて…ってか誰でも良いならあたしでもいいじゃん!って腹立ったのもあるし、草ちゃんには本当に幸せになって欲しくてさ…、 まぁそんな理由で若葉さん、あんたに代理人を頼んだ訳。」 「あの時リリカさん、貴女は納得してアメリカに戻った筈。なのに何故、私にビー太郎君を取り戻す依頼をしてきたのか…その理由が今解った気がします。 でも一つだけ納得出来ない点があります、それは、ビー太郎君を苦しめたかもしれない事を承知で私に代理人を頼んだ事です。 ビー太郎君は一度自身で草太さんの側に居ると答えを出し、ビー太郎君自身もその時点では納得していた筈です、 …5歳の子どもに答えを出させる事が酷と言われるならそれまでですが。」 「あたしあの時…どうでも良い人好きになろうとしてるあの時のぐだっぐだな草ちゃんなら、ビー太郎があたしと一緒に行くってなれば、草ちゃんも一緒にあたしんとこ来てくれるっかもって思っちゃったのかもなぁー…。 でも、草ちゃんがビー太郎を説得して送り出したんだって知った時、草ちゃんは改めて若葉さん、あんたに本気なんだなってわかったんだ。 なのに若葉さん当の本人は素直じゃないわ、草ちゃんも諦めるわで…、 やっと今落ちる所に落ち着いたかっ!って感じだよ…」 「すみません…」 なに謝っちゃってんのー!?らしくないってー!と、私の肩をバシバシ叩くリリカさんの笑顔に、 改めて彼女は懐が広い女性なんだなと思い、ふと何故だか顔も思い出せない自身の母親の事を少しだけ思い出した…。 「あ、ところでリリカさん、今日はどちらに向かう予定なんですか?用事はさっさと片付けるに限りますし、」 「ふっふー!よくぞ聞いてくれました!今日はあたし行き着けのランジェリーショップに付き合って貰おうと思ってね!」 「ランジェリーですか…、なんでまた…」 「大丈夫大丈夫!予めショップ店員にも若葉さんのイメージ伝えといたから、似合いそうなの何着か取り繕っといてくれるって♪」 「…な、なんで私!?」 「こんな色気が全く無い安売り下着着けてるどの口が口答えするかっ!?」 「なっ!?、こんな人目がつく場所で何するんですかっ!?それに、別に見せる予定の無い日は機能性がある下着で十分かと…」 「あーあ、草ちゃんカワイソー!!普通新婚なら何時ナンドキ旦那様となにがあっても良いようにしとくのが新妻の勤めだと思わないの?」 「なっ、なんでそーなるんですかっ!?そもそも、元妻に言われてハイそーですねと返せる現妻が居る訳がないでしょう!?」 「元妻が言うから確かだと思うけどなーってのは、まぁ冗談だけどさ、今は新婚だからまだしも、何年か経つとマンネリ化してホント大変だよー? だから今のうちに対策建てる為にも、行っといて損は無いと思うけどなー?」 「……、そ、ゆ…ことなら…考えなくも…。あ!別に勘違いしないでください!!…見るだけですから!!」 「おっけー!じゃ、すぐそこだし、もう行こっかー!」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「おとうー!おかあと若葉の帰り遅いなー。せっかくおとうがおかあと若葉の為に作ったあんかけ焼そば冷めてしまうぞ…。」 「うん、そーだな。でも大丈夫だ、あんはまた直ぐ火にかければ温まるし、さっきもうすぐ帰るっておかあからメール来てたからな。」 「そっかー!あれ?若葉からの連絡はないのか?」 「うん、それがな…、」 「ただいっまー!ビー太郎!いい子にしてた〜?」 「あ、おかあ!もうおいら小学生だぞ!」 「そっかぁ!そうだよなー!草ちゃん、ビー太郎見ててくれてありがとー!おかげで今日楽しかったよ〜」 「そっか、いや、俺も今日ビー太郎と沢山話出来たし楽しかったよ…って…あれ、若葉さん?リリカ、若葉さんどうかしたのか?」 「あ、草ちゃんごめん、いやぁ…ちょっとあたし若葉さんからかい過ぎちゃったかも…。つい、反応が面白くてさ…」 「からかい過ぎたって何だよ!?…若葉さん?若葉さん大丈夫っすか…?」 「…草太さん、私…草太さんがそんな人間だとは思いませんでした。」 「はいっ!?」 「はいっ!?じゃない!!この変態だんご虫野郎!!!あ、あんな…恥ずかしげも欠片も無いスケスケでヒラヒラな、ましてや布があんなに少ないのが良いなん…、…う…っぎもぢわる…!!」 「…ちょ、若葉さん!?とりあえず一旦席に座ってて下さい、水持ってきますから!!」 「…ごめん草ちゃん、若葉さんがどうしても飲みたいって言うから、つい沢山お酒飲ませちゃった…まさかこんな弱いなんて知らなくてさ…」 「いや、お酒はわかったけど、からかい過ぎたってなんなんだよ!?」 「…それは…ね、早くて今晩解ると思う…。じゃ、あたしそろそろホテル戻るね〜!晩御飯せっかく作って貰ったのに食べれなくてホントごめんね!」 「いや、それは大丈夫だけど…」 「ビー太郎ー!ほら行くよ〜」 「おう!おとうまたな〜」 「おう!ビー太郎またなー!…ってだから、スケスケヒラヒラとか、からかい過ぎたとかって一体なんなんだよ〜!!!」 リリカとビー太郎が帰った後の我が家は、思いの他静かだな…と草太は思った。 とりあえず、リリカと若葉の為に用意しておいた晩御飯を 空いているタッパーに全て入れて冷蔵庫に保存した後、 具合の悪い若葉が横に伏せっているであろう自分達の寝室に繋がる階段を 草太は駆け足で上がっていく。 前にビー太郎と共に住んでいた思い出深い借家を若葉と正式に婚約した際丸ごと買い取った草太は、 まだ平屋のままの古い建物だった我が家を全面リフォームし、 二人のこれからの新しい生活の為に、 つい最近二階に新しい生活空間を増築したばかりであった。 そんな新品の壁紙の部屋に新しく新調した羽毛布団の上で横になる奥さんの寝顔にホッとした草太は、 お酒に呑まれてうなされている若葉の背中をさすりながら、 彼女がいつもキッチリと着こなす白いシャツワンピースの襟元のボタンを、 少しでも楽にさせたいと手慣れた手付きで外していく。 その際ふと、草太が若葉と結婚した後、 草太の記憶の中では一度も見た事が無いであろう白い花柄の刺繍のレースが沢山あしらわれたブラジャーからの胸の谷間に、 つい視線を止めてしまった…。 い、いやいや、今は流石にそれはねーっしょ俺!? 若葉さんが苦しそうだから着替えさせるだけなんだし… そう自身に言い訳じみた言葉を投げかけるも、 ワンピースのボタンを外す度に露わになる彼女の大胆な姿に、 取り繕った理性は脆くも崩れていくのを草太は感じた…。 スケスケのフリフリってこの事かよ!!! 草太は思わず心の中で叫ぶ。 純白刺繍レースのブラジャーを引き立たせるシースルー状のベビードールは、 若葉の細くなめらかなウエストラインに身に付けられたガーターベルトを艶めかしく引き立てる。 太腿に止まるストッキングまでベルトが伸びる様に、 草太は思わず喉を鳴らした。 それらに合わせられた純白のショーツは、クロッチ部分以外はすべて刺繍のみ、 まさかと思い、ふと背中側を覗きこんだら、大胆にもその刺繍は、臀部の谷間でTの字を描いていた…。 ………。 リリカの奴GJ…じゃなくて!! アイツ若葉さん相手に一体何やってんだよ!? 学業と仕事以外は全くの世間知らずな若葉は、 世間擦れしたリリカにいいようにからかわれたのだと 草太は直ぐ様理解し、頭を抱えた。 先程のリリカのからかいすぎたとの 言葉と若葉の罵倒…、 そして若葉らしからぬ大胆な下着姿から、 リリカがあの大胆な下着姿が草太の好みだと 若葉に吹き込んだのは容易に想像出来る。 …確かに…純白なランジェリーでありながらも大胆でセクシーなのは、 草太だけではなく世の男性であれば高確率で好みの部類に入る筈だ。 尚且つ、若葉みたいなおぼこい娘が(と若葉に直接言ったら怒られるが) 慣れないセクシー系下着姿で 恥じらいながらこっち見ないで的な台詞を言われて墜ちない男は、 草食系と周りから評される草太でさえ、男じゃないと思う。 思うのだが… …あー!!だけど一体これどうしてくれんだよ…っ なけなしの理性をフル動員させて若葉に寝間着を着させた後、 草太は自身のジーパン越しに主張する下半身の猛りを感じ、 深い溜め息を尽きながら壁際にズルズルと滑るように座り込んだ。 やっと穏やかな寝息を立て始めた奥さんを 無理に起こして自身の欲望を解消するなど草太的にはもってのほかなのだが、 身体的には容赦無く欲求不満を掻き立てられて仕方が無いのだ。 とりあえずその場しのぎ的に処理をすべく、 よろよろとバスルームに向かう草太の後ろ姿に 幸か不幸か、寝ぼけて眠気眼な若葉から 「草太さん…お腹でも下した?」 などと、ある意味とてつもなく罪深い声掛けを受けて、 草太は今にも跳ね上がるが如く身体をビクつかせてしまった。 「う、うわっ!?…わ、若葉さん起きてたんすかっ!?」 「草太さん…なんで声うわずらせてるんですか…?」 草太の如何にもなビビり具合に、あからさまに眉をひそめた若葉だったが、 自分の現在の居る場所と格好に、ふと若葉は考え込む。 …私、確か…リリカさんとランジェリーショップで… リリカとランジェリーショップに行った後、 近くにあった居酒屋に入って ヤケクソな勢いでお酒を飲んだ事までは若葉の記憶には残っていた。 けれども…自宅にどうやって帰ってきたのか、 何故キチンと寝間着に着替えて布団に入ったかも何も思い出せなく、 若葉は一人困惑していた。 ランジェリー…、そうだ私っ!! 慌てて寝間着の首もとから自身の胸元を覗き込んだ若葉は、 次の瞬間思考もろとも身体まで完璧に硬直したまま、 草太に呟くように言葉を絞り出す…。 「…み、見たんですか!?」 「…な、何を…ですか?」 「…っ、だから!…わたしの下着姿をです!! 寝間着に着替えさせてくれたの草太さんですよね…? 私の服ここまで綺麗に畳む人なんて、草太さんくらいしか思いつきませんし。」 少し躊躇いがちに、頬を真っ赤に染めながら呟く若葉の視線の先には、 先程若葉が着ていたキチンと畳まれたシャツワンピースがあった。 「た、確かに寝間着に着替えさせたのは 俺で…、見ちゃったのも確かで… でも全然大丈夫っす!! 若葉さんにメッチャ似合ってました! …でもなんかちょっと背伸びし過ぎな気はして、 ビックリはしちゃったっていうか…」 先程の若葉の下着姿を思い出し、自身の異変を悟られぬように 慌てて若葉の視線を逸らしながら呟く草太の発言は、 若葉に悪い意味での勘違いをさせる理由には十分だった様で…。 思わず羽毛布団をギュッと握り締め、 顔を伏せわなわなと肩を震わして怒る若葉の姿が草太の視線に入った。 「…背伸び…ですか…、そうですね…どうせ…っ、私にはまだ早すぎたんです。 どうもすみませんでしたっ!!見苦しいモノを見せてしまって!!!」 「ちょ…っ、若葉さん!違うんですっ!!」 「…何が違うんですかっ!? 私はっ!リリカさんみたく胸大きく無いしスタイル良く無いので、 あの下着は背伸びし過ぎたんだと、 草太さんが今そう仰ったんじゃないですかっ!!!」 そう叫ぶように吐き捨てた言葉と 今にも涙がこぼれそうな程揺らぐ瞳で痛い程草太を睨み付ける。 でも何故か何時もの若葉の怒り方とは、何か質が違うのだと草太は感じた。 例えリリカに乗せられたのだとしても、 あの下着は俺の為に若葉さん自身が 選んてくれたものだったとしたなら…。 珍しく此処まで怒りで感情を取り乱した 若葉の言葉の端々からそう感じ取った草太の心は、 一気に歓喜に満たされた。 若葉が自分を想っていてくれているっていう事実に…。 「…若葉さん。」 「何ですかっ!?」 「…いや…、若葉さんすっげぇ可愛いなぁって思って…」 そう呟きながら布団の上に座る若葉に 視線を合わせるように草太は座り、 若葉をギュッと抱き締める。 そんな草太からの不意打ちに 若葉は面食らって、思わず後ずさる。 「な、なななにしてるんですかっ!? 私はまだあなたを許した訳では…っ!」 「はい、わかってます。」 「わかってるならなんで……。って、ええっ!?」 そのままそっと若葉をベッドに押し倒す草太、 痛くならない程度に若葉を強く抱きしめ お互いの身体を密着させたなら、 草太の下半身の異変に気が付いた若葉は 思わずすっとんきょんな声を出してしまう。 そしてお互いに気まずくなり、 暫くの間部屋は静かになった…。 その静寂を壊したのは草太の魂からの叫びだった。 「…若葉さん、…もう俺っ…!!!」 SS一覧に戻る メインページに戻る |