いつもの帰り道2
シチュエーション


風が寒い。
ぶるりと体が震えて、私は重たい瞼をあけました。
薄暗い視界にぼんやりと目を彷徨わせているうちに、いつもの帰り道の路地にいるのだと気付きます。
ダークグレーのスーツにスプリングコート、そしてお気に入りのパンプス。
身につけている物を確認して、私は今日(もう昨日ですね)を認識することができました。

「どうして、こんな所で寝ていたのかしら」

どうやら私は路地の影が濃い一角の電柱にもたれて夜を越してしまったようなのです。
立ちあがってみると、下半身がだるくて、あまり力が入りません。
こんな場所に座り込んで、いつ寝入ったのかも思い出せないなんて、何か病気にでもかかったのでしょうか。

不安と釈然としない気持ちを胸に、私は自宅に向けて歩きだしたのでした。




不可思議な目覚めの朝から2週間が過ぎた土曜日。
今日は久しぶりのショッピング日和でした。
シングルライフを送っている私ですが、こんな日はランジェリーからアクセサリーまで念入りにお洒落をしました。
普段はブローしているだけの髪は「ゆるふわカール」にしています。
服装はオフホワイトの七分丈ティアードワンピに、ぶかぶかの桜色のニットカーディガンです。
足元はヒールが高めのベージュ色の春パンプス、バッグは奮発して買った某ブランド物にしました。
メイクもアクセも少女チックで可愛らしいものです。

おめかしをした私は、朝から大型ショッピングモールに行っていたのですが、すっかり日も暮れた今、一人暮らしのアパートに戻ってきたところです。
私の部屋は小さなコーポの最上階、4階の角部屋です。
エレベータから一番遠い、非常階段から一番近い三号室で、一号室と二号室は現在空き部屋になっています。
廊下は目の前が8階建てのビルなので日当たりが悪いですが、下が誰も通らない路地なので、とても静かです。
人曰く、安全面が赤点の物件だそうです。
私には理由がわからないのですが……

ドアに鍵を差し込んで開けるのは、いつもの動作です。
けれど非常階段からの僅かな足音は違っていました。
この階には私しか住んでいないし、それ以上に何故エレベータを使っていないのか。
嫌な予感がした私は階段口に振りむこうとして--

「ん!? むっ、うむぅんんんッ!!」

いきなり顔に黒い布を被せられ、その上から鼻と口に手を押し当てられました。
咄嗟すぎて固まった私の胸にも手が触れ、むんずとカーディガンの上から左の乳房をつかみます。
鼻と口を覆う手も、胸をがっしりと包んだ手も、どちらも私が手をかけて身をよじったぐらいでは離れません。
布に閉じられた視界はまったく真っ暗です。
あまりの恐ろしさに心臓の鼓動がバクバクになっていました。

「ふむぅっ、んんんーーーーっ」

顔にあてられた布から甘い刺激臭が鼻いっぱいに広がってきます。
吸えば吸うほど頭がぼんやりして、息を止めようとしましたが、長くは持ちませんでした。
男の腕力から逃げることなどできずはずもなく、結局、私は肩を震わせながら深く深く息をしてしまったのでした。

「う……むぅ……」

ぐにゃんと世界がねじ曲がる感覚に意識が沈んでいきます。
男の手が胸をやわやわと揉んでいるのに気づいても、もう憤慨する力さえありませんでした。
瞼が鉛のようの重くて、両腕も指先まで骨がなくなったように弛緩していました。
そして私は鍵がささったままのドアに寄りかかり、胸を弄られながら完全に眠ってしまったのです。

私が気を失ったと確信した男はクロロホルムをしみ込ませた布をポケットに戻し、私の顔から布を外しました。

「こんばんは、悠子さん。お邪魔します」

男はそう言って、私を軽々と肩に担ぎあげると、ドアを開けて中に足を踏み入れました。
カチャリと軽い音をたてて閉まる扉とかけられた鍵。
男は私を担いだまま靴を脱ぎ、几帳面に揃えて置いてから、私のパンプスを脱がせて同じようにしました。

「俺のためにお洒落して待っていてくれたんだねぇ」

可愛らしいパンプスと肩からぶらさがるワンピース姿の下半身を見比べて、男はにやにやとしています。
そして悠々とした足取りで部屋の奥のベッドに直行したのでした。




ぞくぞくと下半身からせりあげる痺れで私は目を覚ましました。
どうやらベッドに横たわっているようですが、瞼が鉛のように重くて、体はこんにゃくみたいに力が入りません。
パンティ以外、服は全部脱がされており、誰かの大きな手が右胸をしきりに揉んでいます。
乳首を指の間に挟まれて胸を揉まれると、きゅんと下腹部に力が入り、僅かな振動音と共に一定の刺激が与えられていることがわかりました。

「ぁ、あん……、ゃん……」

ヴヴヴという音の正体は、桜柄のパンティの上からクリトリスに当てられている小型マッサージ機でした。
私の上に圧し掛かっている男が巧みにそれを押し付けているのです。
朦朧としながらも、意識が戻ったことで快感が募ってきます。
すでに男の指に可愛がられている乳首はピンっと尖っていました。

「まだデートの最中だから、大人しく寝ててね」

男が優しく耳元に囁くのと同時に、柔らかい布で口と鼻を覆われました。
その布からは甘くてツンと鼻につく匂いがしました。

「ん、んん…………」

マッサージ機の角度を変えられて、さらにクリトリスに振動が伝わってきます。
腰が溶けるような快感に喘いでいるうちに、私の意識は再び闇の中へと沈んでいきました。
そしてクロロホルムに完全に屈した後も、私の下半身は絶頂にむけてひくん、ひくんと揺れていました。

男はそんな私の様子を満足げに見ていました。
私の顔からガーゼを外した後は、また乳首を弄り、こねまわしたり時に唇に挟んで吸ったり好き放題しています。

「……ぁ、はぁ……ッ、んっ……」

性感帯を念入りに弄ばれて、私はついに意識がないまま達してしまいました。
顔も体もほんのり赤らみ、腰から下が爪先まで小刻みに震えます。
パンティの中は愛液でとろりと濡れていて、男がマッサージ機を離すと、布に浸透したそれが糸を引くほどでした。
順番に愛でられていた乳首も硬くなっていて、まるで果実のようです。

「イっちゃったねぇ」

男はくすくす笑いながら、パンティの両端に指をかけました。

「次は俺の番。ちゃんと避妊するから心配いらないよ」

悠子さんの処女いただきまーす、と明るい宣言が一人部屋に響きます。
とても重大な宣言でしたが、深い眠りについた私には聞こえませんでした。
するすると最後の一枚を脱がされていく中、私はされるがままにベッドに横たわっていたのでした。






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