ある中学校の七つの伝承「音楽室」 Bパート
シチュエーション


同じ日、放課後の音楽室にて

少女は、後悔と興奮が混ざった複雑な表情を浮かべ、ピアノの前で立っていた。
傍らに置かれた学校指定のカバンの中には、開いた口から3冊の水滸伝が見える。すでに1冊は読了していた。
少女の後悔は、中休みについ『肖像画の怪』を話してしまったことに起因する。
これでこの部屋に、いつ誰が入ってくるかわからなくなってしまったからだ。
少女の興奮もまた、中休みについ『肖像画の怪』を話してしまったことに起因する。
これで自分は、いつ誰に見られてしまうかわからなくなってしまったからだ。

初まりは、一冊の本だった。少女は、露出することで性的快感を見出す性質を知った。
口下手であまり人としゃべることはないが性に対する好奇心は人一倍強い、いわゆるむっつりスケベだった彼女は、
人と関わることなく性欲を満たすことができるその性質に飛びついた。
まずはこっそりスカート丈を上げた。普段より太ももが多く出て、別な自分になったような気分だった。
次に、ブラウスの下のブラを外した。もちろん乳首が浮かないよう、セーターを着たまま。
ブラウスと乳首が擦れる度、彼女は刺激に腰を浮かせた。
続いて彼女は、ショーツを着けずに登校した。満員電車の中、澄まし顔で読書していた彼女の股間はびしょびしょだった。
階段を上がるたび、あらぬ視線を感じて顔が火照った。ああ、私って変態なんだ・・・・・・。自覚が彼女をさらに狂わせる。
若干14歳にして、彼女は間違った方向に開花していた。ノーパンのまま友達と会話する。ノーパンのまま昼食をとる。
授業中ボールペンを股間にこすりつけてみたり、ノーブラのまま落とした鉛筆を拾ってみたり。
図書室では、わざと大股開きで座った。今向かいに座ってる人が顔を上げたら、スカートの奥まで見えちゃう・・・・・。
ぞくぞくした感覚が背中を走る。興奮をさらに増し、彼女はますますエスカレートしていく。

次なる快感を求めた彼女は、放課後の音楽室に目を付けた。音楽に力を入れているとは言い難いこの学校の音楽室は、
防音設備などあってないが如く。教えるのは雇われ講師で、放課後まで音楽室に来るものは一人もいない。
うらびれた誰も来ない教室で、彼女はついに全裸になった。窓から校庭を覗くと、部活中の生徒が大勢見える。
あのうち誰かがこちらを見れば、顔もおっぱいも、わたしの全部が見えちゃう・・・・・・。
彼女の狂気はさらに増していく。ピアノ用の長椅子を持ち出し窓際に設置すると、その上でM字開脚をした。

ああ、見て。わたしを見て! 奥の奥まで見て! まだ誰も触れたことのない膜を、見て!!

そんな彼女の変態行為も、数日もすると物足りなくなってきた。そこで彼女は、ピアノを弾くようになった。
音が鳴っていれば、誰かが興味を持つかもしれない。音楽室のドアが開くかもしれない。ああ、そうしたら。
破滅的な欲望が彼女を包む。真っ当な人生など、この快楽に比べれば取るに足らないものだ。
彼女は全裸でピアノを弾く。目をつむれば、脳裏には大観衆が彼女を見つめる。空想上の観衆は、あるいは好奇の目で、
あるいは侮蔑の目で、彼女の痴態を射抜く。彼女は息を荒げ、打鍵しながら妄想だけで絶頂を迎えた。

翌日。彼女は『肖像画の怪』を創り上げた。これでもうこの音楽室は、誰も来ないうらびれた場所ではない。
うわさが学校に広まれば、一番ホットで一番熱い、誰が来てもおかしくない場所になる。
さあ、私を見て。そして蔑んで。見られて悦ぶ、この変態を罵って!
少女は服を脱ぎ、カバンの水滸伝の上に畳んで重ねた。火照った肌に、風がひんやりと心地よい。
―――もう後戻りは出来ない。

音楽準備室へ続くドアは、透明なガラスが1枚嵌っている。ガラスの向こうには、黒髪の少女が佇んでいた。
黒髪の少女は、音楽室で暗くなるまで火照った体を慰め続ける少女を確認すると、微笑みを浮かべて準備室からいなくなった。






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