シチュエーション
「あら?あなたB組の転校生ね?全く、版画のデッサンなんて面倒よね。雑談の時間だわ。」 A、B組の合同授業。うちの中学は私立で芸術の授業が選択制のため、複数のクラスが合同で授業をするのだ。 私は芸術には興味がないが、親しい友人には残念がっている娘も多い。まあ、3年も学校にいれば今更だが。 美術の授業は、たいていはつまらない作業だが、自由に立ち歩いて喋っていい雰囲気もあり、嫌いではない。 単調な作業に飽き飽きしていたところに、ちょうど話しかけてきたのは、長い黒髪の少女だった。 「え?人面犬の話?変なこと聞いてくるのね。確かに知ってるけど、もっと面白い話にしましょうよ。 どうしてもその話、続けるの?・・・・・・仕方ないわね。いいわ、知ってること教えてあげる。」 妙な話題を振られたものだ。この娘、オカルト好きなのだろうか。まあ、人面犬の話は割と真新しい噂だから、 聞きたがることもあるのかもしれない。 「人面犬っていうのは、私のママが私くらいのときに流行ったお化けなの。日本中で目撃されたらしいわ。 でも最近、その人面犬がうちの学校の校庭に出るらしいの。」 からかい半分、面白半分。つまり全部お遊びだ。この手の話は、おちゃらけて話すに限る。 ・・・・・・だって、真面目に話したら怖いじゃないの。 「当時目撃された人面犬は、おっさんの顔に犬の身体、言葉を話すんだって。T大学で生み出されたって話もあるの。 うちの学校の人面犬は随分違って、目撃者によると大型犬で、喋りはしないけど女の顔をしてたって話よ。 話の出所はよくわからないけど、どうやら守衛さんが夜回り中校庭で見かけたらしいわ。 まあ、しょせん噂は噂だし、どこまでホントか知らないけどね。」 出来るだけ怖くならないように怖くならないように、他人事のように話を終えた。どっと疲労感が出る。 彼女はニコニコ笑って話を聞き終えると、礼を言って席へと戻っていった。全く気分転換にならなかった・・・・・・。 少し、いやかなり残念な気分で、またつまらない版画の下描きに向き合う私なのであった。 SS一覧に戻る メインページに戻る |