シチュエーション
とある中学校、グラウンドの水飲み場にて 「プールのお化け?」 うちの中学は私立の進学校だからか、部活は弱小。サッカー部もその例にもれず、 今日もみんなダラダラと身のない練習に形ばかりはいそしんでいた。 完全年功序列制。2年の俺がレギュラーを取るのは、3年が引退する今年の10月だろう。 真面目に練習できるわけもなく、練習を途中で抜け出し、今は水飲み場で頭から水浴びをしているところだ。 そんなところに、突然長い黒髪の少女から声をかけられた。見覚えのある女の子だ。同じ2年だと思う。 女の子のいうプールのお化けとは、2年の間で最近話題になっている、第4コースの幽霊のことだろう。 「第4コースの幽霊のことでしょ?水泳部の顧問の先生が溺れた、有名な話だよ。聞きたいの?」 黒髪の少女はニコニコと笑いながら、頷いた。部活をサボる言い訳が出来るのは好都合だ。俺は喜んで話を始めた。 「この話、ほかのいい加減な与太話と違って、かなり信憑性のある話なんだ。何せ、被害者の先生が言ってるんだから。 今月の頭、水泳部が活動を始めた時なんだけど。水泳部の顧問のE先生が溺れる事故があったんだ。 放課後だったから、部活をやってた人間しか知らないんだけど、保健の先生が人口呼吸して、救急車も来たんだ。 うん、俺も救急車は見たよ。何事が起こったかと思った。」 そこで一度話を区切り、出しっぱなしの水道の水を止め、話を続ける。 「E先生は命に別状はなく、翌々日から普通に部活の指導も始めたらしい。でも、その時の事故報告が異常だったんだ。 校長に報告した話だと、部活中の生徒が全員プールから上がった後、第4コースに児童が一人うつぶせで浮いてたのを E先生が見つけて、あわてて助けに向かったところ、突然水中から足を引っ張られて、溺れたって話だ。 でも、水泳部の部員はみんな、溺れている生徒は見てない、って言ってるんだ。これは確実に幽霊だろ? まあ、そうでもない限り先生が一人だけ溺れる、なんて事態には普通ならないよな。」 学年中の噂を、まるで自分の意見のように自信満々に言ってのけた俺。あとでバレたら、ちょっと恥ずかしいな。 「水泳部の面々はガラの悪いスケベな男子ばっかりで、今じゃ女子部員は誰もいないくらいだけど、 わざわざ口裏合わせて見てない、なんて言わないだろうし。 E先生も可愛くて人気あるから、お化けに脅かされて可哀そう、なんて意見のほうが多いくらいだ。あはは。」 笑い声をあげていると、監督がこちらを睨み付けながら、何か大きな声で叫び始めた。やべ、抜けたのがバレたみたいだ。 あわててコートに戻る俺を、黒髪の少女はニコニコ顔のまま見送ってくれた。ああ、この子マネやってくれないかな。 SS一覧に戻る メインページに戻る |