シチュエーション
とある中学校、クラブ活動中の体育館にて 私に声をかけてきた長い黒髪の少女は、ニコニコ笑いのまま首をかしげた。 この場にそぐわないはずのセーラー服姿も、彼女にはあつらえたように似合っている。 タオルで汗をぬぐいながら、ボーイッシュすぎてセーラー服がまったく似合わない私は少し嫉妬を感じた。 「で、家庭科室の話だっけ?」 彼女が尋ねてきたのは、家庭科室の怪談。うちの学校は3年の女子しか調理実習がないので、必然的に3年の間でのみ 話題となることが多い怪談だ。まあ、存在くらいは全校生徒が知っているのだろうけど。 ちなみに、3年男子は技術室で技術の授業をしている。女子の私としては、技術の授業というのは全く未知の領域だ。 男子が一体あそこで何をしているのか、少し気になってはいる。それで男子に問いただすほどではないが。 おっと、わき道にそれた。雑念を振り払い黒髪の少女に向き合うと、話を続けた。 「怪談っていうより、不思議な話って感じだよ。実際わたしにもよくわからないんだ。それでもいいなら。 うん、わかった。じゃあ話すね。3年は、、女子は1クラス18人か17人。家庭科の授業は、どこも 女子が35人になるよう2クラス合同で行われてる。家庭科室には調理台が6つあるから、必然的に6人班6つで 授業が行われるんだ。班編成は家庭科のF先生が全部やるんだけど、これが不思議でさ。」 F先生の笑顔が頭をよぎった。私たちのお母さんより少し若いくらいの年齢の、女性の先生。優しいけど怒るときは怒る、 いいお母さんって印象。体つきはふくよか・・・・・・を通り越してムチムチ、スポーツ少女体型の私としちゃ憎いくらいだ。 短く切りそろえた髪を掻き毟りながら、F先生のふくよかすぎる笑顔を頭から追い払った。 「35人しかいないから、必ず5人班が1つ出来なきゃおかしいだろ?でも、なぜかどこの班も6人。 何度数えても35人で、見たことない人は1人もいないはずなのに、6人班が6つ出来るんだ。 これが家庭科室の不思議、『増える班員』。F先生の授業はいつもそうらしいよ。不思議な話だよね。」 話を終え、私はドリンクのボトルを一気に煽った。冷えたスポーツドリンクが喉に心地よい。 今日は少し動きすぎたかな、これじゃまた胸が控えめな感じに・・・・・・またも関係のない雑念が私の頭を支配しはじめた。 黒髪の少女の礼を軽く聞き流しながら、私は日課の豊胸体操のノルマを増やすべきか考えていた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |