猿の手
シチュエーション


その男がどうやってそれを入手したか、そんな些末なことはどうでもよいことだ。
黒スーツのせぇるすまんからもらったのかもしれないし、遊戯王みたいな緑髪の外界のお姉さんがくれたのかもしれない。
ひょっとしたら、猫だけにしか見えない占い師がはんぺんと交換してくれたのかもしれない。
とにかく、男は手に入れたのだ。どんな願いも三つだけかなえてくれるという、「猿の手」を。

「手に入れたはいいが・・・・・・本物なのかな、これ」

当然の疑問を男は抱いた。端から信じず捨てない程度には信じているが、さりとて頭から信じ込むほど呑気でもない。
こんな怪しいものを手に入れていきなり信じ込む者は、呑気というよりやや空想が過ぎているだろう。

「まあ、本物じゃなくても願う分には損はしないしな」
どうやら頭の中で折り合いをつけたらしい男は、猿の手を左手で握りしめ、祈り始めた。

「・・・・・・可愛い女の子と知り合いたい、可愛い女の子と知り合いたい・・・
背が高くてちょっと強気、美人系で髪はセミロング、目はパッチリ二重、鼻筋は通ってあまり化粧が厚くなくて、
積極的でスーツが似合って、割とお酒も飲めて、あ、タバコは吸ってないほうがいいな・・・・・・」

信じていない割にはやたら願望が具体的ではあるが、とにかく男はその夜のかなり長い時間を祈りに費やした。


翌朝。男のアパートのドアをけたたましく叩く音で、男は目を覚ました。

「いったい誰だ、まだ8時だぜ・・・」

会社勤めではない男は、普段は9時ころ目覚める。彼にとっては早朝に等しい時間だ。

「はいはい、今出ますよっと。」

男が扉を開けると、そこにいたのは。
背が高くてちょっと強気、美人系で髪はセミロング、目はパッチリ二重、鼻筋は通ってあまり化粧が厚くなくて、
積極的でスーツが似合って、見るからにお酒も飲めそう、ヤニの臭いは一切しない。そんな女性だった。

ポカンと口を開け言葉も出ない男を見たスーツの女性は、ニヤリと笑って口を開いた。

「今日からこのアパートの所有者になったものだ。早速だけど、ここ、マンションにするから。
すぐ荷物畳んで、出ていく準備をしな。」
「え、いや、あの、継続して住みたいなって・・・・・・」
「へぇ、あんたマンションの家賃払えるの。今の家賃のざっと20倍の高級マンションだけど?」
「にじゅ・・・!?」
「さ、今日中に出ていく準備しな。明日にはこのアパートはつぶすんだから。文句があるならここに電話して。」

積極的で強気な美人系の女につめよられ、男はあれよあれよという間に着の身着のまま部屋を追い出された。
手元に残ったのはいくらかの退去金と女の名刺、それに「猿の手」だけだった。

とりあえず入った喫茶店で、男は猿の手を見ながら考えていた。

「この猿の手は間違いなくホンモノみたいだ・・・あんな理想の女と知り合えたわけだし。
じゃあ、次に願うのは、脱童貞!」

男は再び猿の手を握り、願い始めた。

「あの女で童貞を捨てたい、あの女で童貞を捨てたい、あの女で童貞を捨てたい・・・・・・」



喫茶店を出た男は早速携帯電話を取り出すと、先ほどもらった名刺の番号に電話をかけた。
何度かの呼び出し音の後、先ほどの強気な女の声が聞こえる。

「ハイ?」
「もしもし、さっきの部屋に住んでたものだけど」
「ああ、アンタ。何? 法的手段に訴えても、100%アンタが負けるわよ? 根回しは万端だから」
「そんなことはどうでもいいんだ。いや、寝るとこが無くなったのはどうでもよくないけど、まあどうでもいいんだ」
「何言ってるのかさっぱりわからないんだけど」
「つまり、俺と一晩寝てくれないかってことさ」
「・・・なにそれ、脅しのつもりなの?」
「いやいや、猿の手に願ったからには、キミは断れないだろうってね」
「意味がさっぱりわからないけど、まあいいわ。今日の20時、○○ホテルの×号室にきなさい。誰にも言うんじゃないよ」

そう言い残すと、電話はあっさりと切られた。

20時。男はうきうきした足取りで、指定されたホテルの部屋の前に立っていた。
エチケットとして歯も磨き、口臭スプレーもした。爪も切り、シャワーも浴びた。栄養ドリンクも飲み、既に臨戦態勢だ。
ポケットには極薄コンドームと、念のため用意した強壮剤。肩掛けバッグにはローションのボトル。

いざ、童貞を捨てに! 男は部屋をノックした。

「どうぞ、入って。鍵はあいてるわ」

中から声が聞こえ、男は部屋の中に入る。中にいた女はシャワーを浴びた後なのか、バスローブに着替えていた。
スーツの時とは違い、濡れた髪が色気をさらに増す。軽く紅を引いた唇を開き、女は言う。

「ここに来たこと、誰にも言ってないわね?」
「もちろんだ」

男は胸を張って頷いた。

「そ。じゃ、ズボンとパンツを脱いでこの椅子に座りなさい。」

破裂しそうなほどビンビンに勃起した股間は服を脱ぐ際に苦労したが、それでも男は捨てるように服を脱ぎ、椅子に座った。

「うふ、アナタ童貞でしょ? 童貞臭いちんちんしてるわ。私が童貞を捨ててあげる。」

ついにこの時が来たのだ。感激のあまり泣きそうになった男は、つい目をこすった。
次の瞬間、ベッドに隠されていた女のナイフが閃いた。男の肉棒は、痛みを感じる間もなく下腹部と離れ、床に落ちた。

「あははははははは、これで童貞ともお別れねぇ! うふ、あははははははははははははは!!
あたしと寝ようだなんて100年早いわよ、おバカさぁん!あははははははは!!」

男は悲鳴をあげようとするが、喉が渇ききったようにひりつき、上手く声が出せない。
床に落ちた、先ほどまで自分の一部だった肉片を見て口をパクパクさせることしかできない。
そのうち大量の出血のせいか、男の視界がぼやけていく。

「あら、ゴミが落ちてるわぁ? 新品のくせに臭くて汚ないゴミねぇ。こうしてあ・げ・る!」

床に落ちた男の局部を、女のヒールが無惨に踏み砕く。ばちゅん。弾けるような水音とともに、床に血液が飛び散る。
その凄惨な光景に、男はついに意識を失った。女の笑い声だけがいつまでも耳に残っていた。


次に男が目を覚ましたのは、病院のベッドだった。目を開いた男を見て、看護婦が医師を呼び寄せる。
医師は男に、ホテルで局部を血まみれにして倒れていたこと、出血多量で危なかったがなんとか持ち直したこと、
切断された局部は踏みつぶされもとには戻せないことを伝えた。

医師が病室を去ったのち、男は猿の手を握り、涙ながらに最後の願いを唱えた。

「ちんこが欲しい、童貞でも構わない、ちんこが欲しい・・・」

その日の晩、男が眠っている病室に、数人の侵入者があった。
侵入者たちは男の口にさるぐつわを噛ませると、変わるがわる男の尻の穴を犯した。
夜が明けると、ベッドの上には凄惨な凌辱により傷口が開いた男の死体があったという。
犯人は近隣の中学生数名で、隣の病室に入院していた美人アナウンサーと間違えたということだった。






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