シチュエーション
![]() 夕暮れの住宅街。人気のないこの場所を、わたしは一人、手ブラで歩いている。どうしてこんなことになってしまったのか。 話は二日ほど前にさかのぼる。 高校の終業式。先生の「夏休みの過ごし方」をなおざりに聞き(あれ? おざなりだっけ?)、 たっぷり出た課題のプリントをカバンの奥底に封印して、ようやく私たちは解放された。 友達とおしゃべりをしながらの道すがら、私はちゃんと聞いていたのだ。「すそもぎ様」の話を。 「すそもぎ様」は、江戸時代からいる古いどうそじん(なにそれ?)の一種で、なんでもこの辺りがその発祥らしい。 和服の裾をつかんで、もいでいってしまうことから「すそもぎ様」。もがれると、ミニのように足が丸見えになってしまう。 当時の女の人の貞操観念からすれば、きっとそれは恥ずかしいことだったのだろう。 でも、今の私たちは超ミニのスカートに紺のハイソックス。この装備なら向かうところ敵なしだろう。 すそもぎ様の、何する者ぞ! そんな話をしてたら、友達が乳を寄せながら言う。あんたの敵はいっぱいいるでしょ?って。 うう、うるさいわー! 確かに私は貧乳だけど、でも寄せればBはあるもんね! そんなノリで、きゃいきゃいはしゃぎながらカラオケに行ったのだ。 ああ、まるで昨日のことのよう・・・って一昨日なんだけどね。 そして今日、わたしは繁華街に出かけ、ひとしきり友達と遊んだあと、夕方ごろ帰ってきた。 そこでまあ、大方の予想通りだと思うんだけど、すそもぎ様にあっちゃった、というわけ。 それで何で手ブラで歩かなきゃいけなくなったか、というと、私の今日の服装が問題だったの。 今日の私の服装は、可愛いプリントのついたチューブトップのミニワンピース。 チューブトップだから、当然紐のついたブラはつけられないわけで。ちょうどヌーブラも切らしてて、今日はノーブラ。 さあ、想像してみて。寄せればB、今は絶賛Aカップの私、つまりチューブトップのひっかかりの少ない私。 全身一枚布のワンピース。そのすそを掴んで、引っ張られたら、どうなっちゃうのか・・・・・・。 突然だった。何か記念碑みたいな岩のある四つ角にさしかかった途端。 着ていたワンピースが 「すっぽーん!」 って勢いよく下に落ちたの! 誰にも見せたことのないおっぱいが、突然路上で晒されるのよ!? このショック! 歩いてたら突然パンツ一枚になった私、しかも今日に限ってなぜか気合の入った食い込みパンツ! あまりに突然だから、おもわず一瞬立ち尽くして、それから悲鳴を上げてしゃがみ込んだわ! 幸いにも辺りに人気はなくて、それはよかったんだけど。 慌ててずり落ちた服を着直そうと思って地面を探しても、服がどこにも見つからないの! もうパニック! 変な声を上げながら辺りをきょろきょろして、ようやく気がついたの。ここがすそもぎ様の「どうそじん」の場所だって。 見つからない服はもうどうしようもないから、パンツの食い込んだおしりをカバンで隠して、おっぱいは手で隠して。 まさに手ブラよ、手ブラ! こんなうちの近所で誰かに見つかったら、そのまま私の人生は露出狂として終わりを告げちゃう。 私の人生をかけた、一大メタルギアソリッド大会の始まりだったの。段ボールがあったら入りたいわ。 角に差し掛かるたびきょろきょろして、電信柱の陰に隠れて、時には人の家の庭に入り込んで。 どうにかこうにか家にたどり着いたときには、もうヘロヘロだったわ。 鍵をカバンから出して、這う這うの体で家に逃げ込んだの。全身汗びっしょり。パンツまでぐっしょり。 まあ、パンツしか着てないんだけど。でも、少し感じちゃった。ちょっとこれ、癖になっちゃうかも。 今度はスカートの下に何も履かずに行ってみようかしら、そんなことを考えちゃう、はしたない私なのでした。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |