シチュエーション
「ふう……」 深く一息。あのまま歩いていたら、そのまま果ててしまっていたかもしれない。水につ かった分、タイムオーバーへの時間は短くなっているのだが、どちらかがましかと言われ れば今復活する方が先だった。 ひとしきり水を浴び、気が戻ったところで装備品を身につけなおす。 足音が聞こえたのはそんなタイミングだった。 「こんな最中で水浴び、ってね。いっそのこと裸になればすっきりしたんじゃないの?」 聞こえてくる声には目を向けず、岩陰に隠れ、AKを握りしめる。 「あらあら、会話ぐらいする余裕はないわけ?もうイク寸前?」 「……こんなゲームで話しかけてくる阿呆に驚いただけだ」 声の聞こえてくる方角のは、歩いてきた方だった。となると、先ほどの銃撃相手ないし は、銃撃相手を倒した敵、となる。どちらにせよ敵であることには変わりない。声の大き さからまだ距離があることを察し、沢の対岸まで小走りに移動する。 「あらあら余裕ぶっちゃって。地面に残ってたわよ?あなたの感じた“痕跡”が」 「っ……!言葉で辱める気かっ!?」 「事実を述べただけよ。気持ちいでしょ、その機械。癖になるんじゃない?」 「なるかっ……」 流れを挟んで反対側に現れたのは、長身長髪の女性だった。切れ長の目が印象深く、ま るで狩りを楽しむ鷹のようだ。 「あら、せっかくあなたを狙ってたスナイパーを“狩って”あげたのに。さらなるカイカ ンがお望みだったかしら?」 「そんなわけあるかっ!」 たまらず、岩陰からAKを2発発砲。ろくに狙いをつけていなかったためか、相手にあた った形跡はない。 「ふふっ、いいわよあなた。手ごたえがありそうで。今回はここまであんまり楽しくなか ったけど、ようやく骨のある子に出会えたわ」 「ちっ、あんまり楽しくないなっ!」 相手が、両足のホルスターから拳銃を2丁取り出したのが合図だった。 「さあ、踊り狂って派手におイキなさい」 「2丁拳銃かっ!?」 一直線に流れを横切って突進してくる敵に対し、私は沢を登りながら2発撃つ。ひるむ ことなく4発撃ち返されてきた玉のうち、1発だけ足を掠める。 「つぅっ!」 弱い刺激。それだけで一度治めた劣情がまたむくむくと身をもたげてくる。 「あはははは!さっきのアレを思い出せたでしょう?よがりなさい、そして乱れなさ い!」 なおも相手はこちらに突進してくる。なおも2発撃ちながら、沢を転がり水しぶきをあげ ながら横切っていく。実弾と違い、水しぶきならレーザーは貫通しないはずだ。 「ああ、やっぱあなたイイわ。初めてにもかかわらず、このゲームで何が必要なのかわか ってるわ!」 「初めてって、おまえは何回も参加してるのかっ!?」 「もちろんよ。最初から皆勤賞よ」 「それはめでたい、なっ!」 最後のフラッシュバンのピンを抜き、投擲。岩の上でバウンドして、派手に閃光をまき 散らすのを背を向けて回避。だが、相手も交わしたようで、振り返ると振りかぶりモーシ ョンが見える。 「くうっ!」 急いで離れようとするが、投げ込まれたそれは空中で爆発し、あたりに黄色い気体がま き散らされる。 「これ、は、ああああぁっ!!!?」 逃げ遅れてその気体を吸ってしまった直後、全身の力が抜けるとともに、身体の奥から 劣情がわきあがる。 イキたい、イキたい、イカせて…… 動くことも叶わず、まだあたりに漂うそれを吸い続けてしまい、私は水の中に倒れこん だ。 「あ、ああ、あああああっ……」 「ゲーム中だと有毒ガスだけど、この場合は媚薬ガスなのよね。しかも他の人よりも“ち ょっとだけ”効果を強めてるわ。股間が、子宮が疼くでしょ?ほら、欲しくなるでしょ?」 全身流れの中に使っていて、体温は下がっていくはずなのに、熱を放つのを止められない。ざぶざぶと流れをかき分けて近寄ってくる影に、反撃することすら叶わない。手が勝 手に刺激を求めて、動きそうになる。 「水の中にバンを投げ入れないあたりはなかなかやるようだけど、“今”はここまでね」 私を見下ろす長身の影。唇の端がくいっと持ち上がる。 「でも、ここでリタイアさせるのはもったいないわね。仕事の手間も省けそうだし」 「なん、の、ことだ……」 「ふふっ、そのうちわかるわ。ねえそれよりも気付いた?今水の中に使っているのにア ノ機械が作動しないのよ。これどういうことかわかる?」 「わかるかっ……」 「なら教えてあげるわ。残念ながら、この機械は濡れた判定をする際にそれが人間の生み 出したものなのか、それともただの水なのかは判別しないのよ。さすがにそこまでは作り こめなかったのよねー。となると、こういう仕掛けがいるのよ」 「……?」 「“全部が水につかっている間は、判定をしない”。まあでも、ちゃーんと作動自体はするのよ」 カチっと劇鉄の上がる音。 「ま、まさか……」 「そ。水の中じゃあどれだけ派手にイっても、決して天国にはいけないのよ」 「あ、ああああ……」 「2丁合わせて、残弾12発。まあこれくらいで勘弁しといてあげましょ。……Let's go to heaven!」 バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ! 「いあああああああああああああああああああ!」 1発1発撃ち込まれる度に、私は絶頂を迎えていた、視界は飛び、乳首とクリトリスから かけのぼる信号は強烈に私の本能を刺激する。自分1人の戯れじゃあたどり着けない、強 制されたオーガズム。見えもしないが、私の花弁はさらなる刺激を求めて、あるいは受け 入れようとひくついているに違いない。銃声とともに、私の股間から水しぶきが飛び散り、 流れにさらわれていく。 バンッ! 「ひぎっ!」 バンッ! 「ヒイッ!」 バンッ! 「ふあぁぁぁぁあっ!」 バンッ! 「いいっっ!」 バンッ! 「やああああっ!」 バンッ! 「ああううぅぅぅぅ」 カチッ、カチッ。 「なーんだ、残念。弾切れよ。お楽しみいただけた……のは丸わかりね」 「あ、あああああ……」 神経回路が焼き切れそうだった。せせらぎの音は遠い世界での出来事のようで、まるで 現実感がない。絶頂の最中に絶頂に連れて行かれるのを繰り返されたのだ。何も考えられ ず、あるのはただひたすらに快楽を得たいという雌の本能だけ。 ややあって、じょぼじょぼと音が漏れだす。 「あら、この黄色いのはおしっこじゃないの?失禁するくらいに気持ち良かったのねえ」 「い、やぁ……」 自然と漏れだすそれに、あがらう術は持ち合わせていなかった。やがて音が小さくなり、 鳴りやんでも、私は放心状態だった。股間に身に付けた例の機械は、あれだけ派手に潮と 小水を受け止めたにもかかわらず、私が脱落したとは判定していない。 「どう、感想は?」 「う、あ」 銃口を股間に突き付けられ、その刺激でまたプシュッと小さく液体が噴き出す。それど こか、銃身を求めて私の腰は自然に浮いてしまう。 「う、ううっ、いひっ……」 「あらあら、まだ足りないわけ?ほら、ほら」 ぐいっと押しこまれ、少しだけ例の機械とミリタリーパンツ越しに銃身が私の中に入ってくる。もっと、もっと。 「あ、あああ……」 「でも残念。楽しみは後で取っておく派なのよねー」 だが、すぐに抜き取られてしまい、私は情けない声をあげてしまう。 「コレが欲しいなら、追ってきなさい。最後に相手してあげるわ」 ざぶっ、ざぶっ、と水をかき分ける足音が遠くなり、そして聞こえなくなった。私の身 体は未だ刺激を求めてやまない。何回も絶頂を迎えたというのに、まだ物足りない。 カメラのことなんかどうでもよかった。左手を胸元に、右手を大事なところに潜りこま せる。 「あ、ああっ……」 例の機械の中にまで割り込ませ、直に乳首を、クリトリスを刺激する。 「あ、はふっ」 なおも余韻の残った状態で、私が昇り詰めるのは簡単だった。胸をもみしだき、乳首を つまみ、秘唇をなぞり、クリトリスに触れるだけで、まるで挿入されているかのような (体験したことはないのだが)感覚に陥る。 「い、ひいっ」 電気信号とは違う、生の刺激。耐えられず、私は指を中に入れ、奥の敏感な部分に触れ て押し込んだ瞬間、 「い、イクぅっ……!」 私はまたも絶頂に達し、手に噴き出す潮の感触を味わいながら、意識を手放した。 私が目を覚ましたのは、失神する前と変わらず水の中だった。体温は大分下がっている ものの、動けなくはない。だが、 「いっ……」 目覚めたきっかけ。もはや憎たらしいとしか思えない例の装置が、規則正しく刺激を与 えてくる。刺激自体は弱いものの、10秒おきにきっちり“愛撫”されたらたまったもので はない。 時計は、開始からすでに30分が経過したことを示していた。恐れていたタイムオーバー に、気絶している最中に達してしまっていたのだ。逆算すると、気を失っていたのは10分 足らず、ということになる。このまま意識を失い続けていれば、低体温症に陥っていた可 能性があったことを思うと、10秒ごとにびくっと身体を震わせてくれるソレには多少の感 謝をしなければならない。 「つぅっ……いやに、うっ、なるな……」 先ほどまでに受けた、暴力的な快感ではない。比較すると、ゆっくり、優しさすら感じ てしまうこのタイムオーバーのペナルティは、私の心の中を徐々に燃やしていく。 遠くで銃声、爆発音が聞こえる。 『No.5 dead.No.19 dead』 そして二名の犠牲者。相撃ちでもしたのか、はたまた股間部のソレにとどめを刺された のか。なんにせよ、残りは気絶中の脱落がいないと仮定すればあと8名。 先ほどの長身長髪の女性の姿を思い浮かべる。 「くっ……」 無駄のない動き、容赦ない攻撃、そして最後に浮かべた残忍な笑み。思い出すだけで腹 立たしいが、奇妙なことも言っていた。 『最初から皆勤賞よ』 すなわち、このくだらないゲームは、何回も開催されているということ。そして。 『しかも他の人よりも“ちょっとだけ”効果を強めてるわ』 あの忌々しいガスについて、こんなことを口走っていた。ということは、彼女は“くだ らない主催者側”の人間なのかもしれない。となると、狩るなどと言っていたことも理解 できてしまう。 「ちっ……1位だけでも、主催者側なら、儲けは倍増、か」 胸部から、下半身からかけのぼる優しい刺激に思考回路を持ってかれないよう、歯を食 いしばりながら事実関係を推理していく。彼女がそういう“チート”を使っているのなら ば、もしかしたらこの機械にも仕掛けがある、もしくは装備すらしていないかもしれない。 はたして、勝ち目はあるのか―― 参加者登録なら、倒さない限りは1000万円を獲得することはできない。おそらく、であ るがこの“ショービジネス”の性格を考えると、多少のチートはあれど、倒せる、すなわ ちイカせられるようにはなってるはずである。絶対に1位になれないゲームにリピーター はやって来ないからだ。 手持ちの装備のうち、先ほど使ってしまったものを除けばなにも減っていなかった。何 も奪っていかなかったということは、余裕の表れなのだろうか。 「絶対、イカせてやる……!」 手にしたAKに集中すると、“目覚まし時計”のことは少しだけ隅に追いやれる。私は歩 みを再開した。 森の中に入り、まず先にキルストリーク報酬を使うことにする。気付かないうちに、ゲ ームでいうとろの8キル相当までため込んでいた。リスポンがない分、たまりやすいのか もしれない。私は事前に選択していた“ブラックバード”を呼びだす。 手持ちのレーダーに敵の位置を教えてくれる効果。3キル時のスパイプレーンより高性 能で、作中なら“迎撃不可”の設定である。実際に上空に飛んでいる姿は見受けられない ので、大方例の機械の発信信号でも拾っているのだろう。 とりあえず、少し離れたところに2人いるのを発見する。交戦中だろうか、銃声も時折 聞こえてくる。小刻みに動き合ってるのもレーダーでわかるが、そのエリアは広くはない。 申し訳ないが、早期に天国に招待することにする。たまっていたキルストリークのうち、 6キル相当の“迫撃砲チーム”を選択。範囲指定にはこの2人のエリアに2発と、丘の頂上付近を選んでおく。こちらも実際には飛んでくるものはないのだが、私のレーダーにはく っきりと弾道が表示され、そして。 『あああああああああっ!』 遠くから、絶叫のユニゾン。フラックジャケットを装備していなければ、即死相当の攻 撃を4発食らったことになる。 AKを構え、レーダーに注意しながら私は駈け出した。足を動かすたびに、そして10秒お きに脳がしびれそうになるが、気合いで堪える。交戦ポイントについたときには、1人は 仰向けに、もう一人はうつ伏せになって、10mもない距離でともに倒れていた。 脱落のアナウンスはまだない。 「別に、恨みはつらみはないんだが……」 戦闘不能状態であることは、日の目を見るより明らかだが、このままでは彼女たちは脱 落とみなされない。ちょっと前の反省を踏まえ、やや遠目からAKの銃弾を数発ずつ撃ち込んでいく。 バンッ、バンッ、バンッ。 「いひいっっ!?」 ブシャァッ。 『NO.2 dead』 バンッ、バンッ、バンッ。 「ああううぅぅぅっ!」 シュワッ……。 『No.17 dead』 それぞれだらしなく弛緩し、股間から潮やら小水やらをまき散らして沈んでいった。ビ クビク痙攣しているのを気にせず、装備品をあさる。片方は幸いなことにAKを選択してい たで、所持限界まで弾丸を補充。それからマカロフをもう1丁とフラッシュバン1つ、ノヴァガス1つ、C41つを手にする。さらに。 「RPG、か……持ち運ぶのは大変だけども」 この火力は魅力的だった。敵に渡るのも癪なので、こそっと木の根もとに隠す。 ここまで約1分半。すでにブラックバードの効果時間は切れていて、レーダーには何も 映っていない。あの女も含めて、6名はいずこにいるのか。 「やってやる……」」 私は、歩みを止めない。 →※←※→※← 「なんなのよ、あの人……」 茂みの中から、戦慄の光景を目の当たりにしてわたしは息をひそめ、“災厄”が去るの を待っていた。冗談じゃない。あんな無慈悲に天国に連れていかれるなんて、死んでもご めんだった。 これで3回目の参加となるわたしだが、あそこまで一等“狂っている”と言えるのは、毎回参加しては1位をかっさらい、主催者側の刺客ともいわれる長身長髪の女以外にはな かなかいない。前回前々回と、かろうじて3位入賞で賞金を獲得してきたわたしの戦法は、 どこかのプロレスラーよろしく「ズルして騙して盗み取れ」であり、隠れ回って背後から、 もしくは交戦中の人たちをまとめて倒す、というものだった。というかほとんどの女性が そうであり、誰しもが見えない銃弾におびえ、痴態を晒すことに恥ずかしさを感じるはず なのだ。ああやってまっすぐ突っ込んでいくことなんて想像もしないし、したくもない。 快楽ジャンキーなのか、戦闘ジャンキーなのか。どちらであってもろくなものじゃない。ないないづくしで反吐が出る。 「ふうっ……」 下腹部は、熱を持ち出していた。前回前々回は、45分経過した時点で残り3名、つまり は賞金を確保できたので、わたしはあっさりとリタイアしたのだ。といっても、勝手なリ タイアは許されないこのゲーム、今動き始めてる機械が液体を規定量感知するまで脱落を 認めてくれないのだが、人様によがり悶える様を見せたくはないので、こっそりと水をす くって服の中に流し込み、後はフラグの即死範囲外でちょっぴり機械を作動させて演技す れば脱落できたのだ。45分の時点で例の機械の刺激は、まるで銃撃を受けたようにきつく なっていたのだ。あんな状態でイカずに堪えるなんて出来そうもなかった。 だが、今回はそれも厳しそうだ。35分を過ぎたというのに、まだアナウンスはわたし以 外に6人の“生存者”がいることを示している。賞金までに、あと4人。さすがにお金をも らえずに帰るのはばかばかしい。 「んっ……なんで、こんななのに、平気なのよ……」 茂みの中、駆け上ってくる刺激にこらえるわたし。同じ刺激を受けているはずなのに、 茂みの向こうでは装備品をあさっている姿がある。鈍感なのか、この程度じゃ満足できい なのか。もし後者なら相当にキている。 10秒おきに規則正しく刻まれる快楽信号。男の欲望を受け入れるそれと似ているようで、 少し違う。生々しい感覚は一切なく、純粋なる快楽のパルスが、とくっ、とくっと注ぎこ まれてくる。今はまだ弱いが、5分刻みで強くなっていくのだ。 →※←※→※← 「はぁ、あっ……」 じわっと、股間が濡れ始めるのがわかる。今回も含め、今まで一度も不意な快感……つ まりは攻撃を受けたことはない。まだ暴力的とは程遠いこの機械がひとたび牙をむけばど うなるのかは、装備をとられ地面に伏したままの二人の股間が雄弁に物語っている。 じっとしないと、こらえられない。だが、じっとしててはお金は手に入らない―― このゲームは、都合のよい収入源なのだ。過去2回、それぞれ100万ずつ。痴態を見せな ければ、アイドル崩れが出ているイメージビデオの類よりも健全で、高収入を得られる。 あんなビデオに出て稼ぐよりよっぽどいいのに、今回はその希望が、薄い。 世の中は金なのだ。少しでも稼いで、親が抱えた借金を返さないと、うちの家は離散し てしまう。だから、イメージビデオに出演して、年の割には大きな額を稼いできたという のに。 『あのねー、もうお前はイメージビデオじゃ設けられないから、AV出ろよAV』 所属していた事務所社長からの非情な宣告。だがわたしは知っていた。別に売れ行きが 悪くなっていたのではなく、社長のお得意先から、たんにわたしが男の物を加えこんでよ がる様を撮影したいという要望があっただけなのだ。事務所を逃げ出したわたしが得られ る高収入の職といえば、身体を売る仕事くらいしかなかった。 そんな中で気晴らしにやっていたFPSを通じての“ゲーム”への招待。渡りに船とはこ のことだ。過去2回で200万。今まで稼いできた分を合わせればあとたった100万、つまりは3位入賞1回で、わたしが、家族が救われるのだ。 「くうっ、お金を、稼がない、と……」 すでに茂みの向こうにあの女はいない。ジャマーを抱えていたわたしはレーダーに映ら なかったのだろう。ジャマーのスイッチを切り、まだピクピク痙攣している二人に近づく。 めぼしい装備はあらかた取られていたが、一個だけ、隠してたものがあったので、それを 手にする。ロケットランチャー。重くておいていったのだろうか。だが、これがわたしの 切り札になる―― 「これで、後4人……」 疼きはやまない。それでもわたしは、あの女を追うように歩き始めた。深い理由はない が、あの女の後なら、少なくとも攻撃されない、そしてもしかしたら“おこぼれ”を頂戴 できるかもしれないからだった。 →※←※→※← 尾行されている、ということに気付いたのは、歩みを再開して割とすぐのことだった。 なんてことはない。自分以外の足音が、自分の歩みとほぼ同じペースで聞こえれば誰だっ てわかる。距離はおよそ100m。振り返って撃ちぬくにはやや距離がある。 さて、どうしようか。40分を迎えたところで、あの機械の作動は一段と強いものに変っ ていた。サブマシンガンでのかすり傷レベルは超えており、おそらくアサルトライフルで 腕を撃ち抜かれたくらいだろうか。どくっ、どくっ、と心臓は大きく動き、股間から液体 が零れていくのを感じる。こんな状態で派手な戦闘は難しい。 撒くか、それとも。 一呼吸をおいて、とっさに前方に走りだし。そして一つ二つと曲がるフェイントを入れ たあと物陰に隠れる。遅れて派手な足音を立てて、まだ高校生くらいの派手な茶髪の女の 子が私の前を通過する。 「しまった、撒かれた……!?」 少し先であたりを見回すその姿は、完全に素人のソレだ。ゆっくりと茂みから抜け、AK を向ける。だが、私もあの感覚に気を取られて油断していたのだろう。彼女は振り返り、 今まさに自身を撃ちぬかんとする私を視認する。 先手必勝、と引き金を引こうとする私に、彼女の叫びが届く。 「待って!わたしはあなたを撃たない!」 両手をあげ、投稿姿勢。それどころか、彼女が手にしていたサブマシンガンも地面に投 げ捨てた。 「……どういうことだ?」 「簡単よ、わたしと共同戦線を組まない?」 共同戦線。いささか聞きなれない言葉。 「……どういうことだ?」 「わたしと一緒に戦わないかってことよ。わたし、ただ100万が欲しいだけなの。こんな ところで負けてられない……!」 その瞳には強い力がともっていた。10秒おきにきっちりと私たちを刺激するソレは、彼 女にも確実に刺激を与えていて、すでに股間の部分は用をなしてないようだった。 「そんな条件、飲めると思うか?」 「飲めると思うわよ。ほら」 くるりとこちらに背を向ける。そこには、隠してきたはずのRPGがくくりつけられてい た。 「あなた1人じゃ持てる量に限りがあるでしょ?わたし、撃つのとかは全然ダメだけど、 これくらいならできるわよ?」 「なるほど」 しばし黙考する。今ここで彼女を脱落させるのは簡単だった。だが、常にRPGが手元に ある、というのは確かに魅力的だった。 「……すぐに撃ちぬくかもしれないぞ?」 「あなたはそんなことしないわ。さっきの戦いの様子を見てたけども、あなたは狂ってる けども、目的のために狂ってるようにしかみえないもの」 「そんな評価か」 「ええ、でも魅力的でしょ?」 「……わかった。勝手についてこい。私に銃口を向けた刹那、天国に連れていく」 「ありがたいボディーガードね」 「ついでに、昇りつめそうなときは、もれなく“背中を押してやる”」 「ありがたすぎて涙が出そうね」 奇妙な共同戦線だった。だが、あの女を倒すには、RPGが必要となりそうなこともあっ て、私は動く弾薬庫を使うことを選択した。 「あまり足音を立てるな」 「無茶、言わないで。重いのよ、これ。それに、あなたとちが、ってわたしは普通、の女の子。さっきから、膝、震えてうまく、歩けないの」 「……私だって一緒だ」 気を抜けば、持って行かれそうな刺激は止んでくれやしない。甘い痺れは徐々に力強さ を増し、私から運動能力、思考能力を奪っていく。 「そうは、みえないけど。もしかして、慣れてる?」 「そんなわけ、あるはずないだろ……交際経験もない」 「ふうん、モテそうな、顔立ちとス、タイルなのに」 「私は、変わってるからな……」 それっきり会話は止まる。そもそも会話していること自体が滑稽なのだ。無駄な音はこ ちらに敵をおびき出す餌でしかない。しかし、足音はもう気にする余裕もない。足をあげ ることが難しくなり、摺り足のような歩き方になってしまう。 早く敵を見つけて、倒さないと。 願いはかなうのか、前方に発砲音。そして。 「ひいっ!!?」 後ろから喘ぎ声が聞こえる。距離と音から察するに、大したダメージではないはずだが、 彼女は立ちどまり、膝が笑っていた。 「伏せろ!」 「無茶、言わないで、わたし、正面切ってはまだ一度も戦ったことないもの……」 「くっ……」 抱きかかえて、どうにか木陰に隠れる。彼女の息は荒く、頬は赤く、そして股間の染みが濃さを増していく。 「耐えろ、でないと3位にすらなれない」 「わかってる、わよ……!」 刹那、彼女は自分で自分の頬を強くつねる。赤く跡が残るくらいに、強く。 「はあっ、はあっ、これでちょっとは、耐えられる……」 「……よくやった。ここで待ってろ」 幹に持たれかけさせ、私はすっかり手になじんできたカラシニコフを構える。 「大丈夫、すぐ終わらせてくる」 「そうだと、嬉しいわ」 飛び出して、銃声方向にあいさつ代わりに連射。遠くに見えた姿が一瞬立ち止まるのが 見える。 「当たった……つうっ!」 だが、別の方向から銃声が三発。一発が腕を掠め、また刺激が駆け上ってくる。だが、 立ち止まったらハチの巣になるのは明らかだった。 「ツーマンセルかっ!?」 銃声と銃声の間を縫うように駆けていく。左右を見ると、先ほど見た女と反対側にもう 1人いるのがわかる。その内右の方から、ピっとピンを抜く音が聞こえ、直後目の前にフラグが投げ込まれる。私はとっさに拾い、左へと投げ捨てる。 破裂音。そして。 「あああっ!」 「ひぎいぃぃぃぃぃぃぃっ!」 自分と、そして左から来てた相手が効果範囲だった。私は即死範囲を免れていたので、 軽い衝撃で済んだ(でも累積がやばく、声は漏らしてしまった)が、左から走ってきた人 物には直撃コースであっただろう。 『No.12 dead』 脱落のアナウンス。だがどうなっているかを確認する余裕はまだない。 「もらったっ!」 「っ……!」 トマホークの投擲を、すんでのところでかわす。アレにあたると即死効果だ。この状態 でたまったらひとたまりもない。 「まだよっ!」 続いて飛びかかってくる人影。手にはナイフ。 「くっ!?」 なんとかかわし、振り向きざまに2発、カラシニコフをお見舞いする。 「あああっ!」 だがどうやら足に当たったようで、絶頂までは持っていけない。振り向かれて撃たれた のを避けきれない。 「いいっっっっ!?」 身体が崩れそうになるほどの、快感。見たくもないが、私のそこは今赤く色づき、ひく ついているに違いない。ぽたぽたと股間から垂れる液体。キル判定を受ける一歩手前なの は明らかだが、動きようがない。 「こ、これで、終わり……」 ナイフをもち、近寄ってくる相手。どうすることもできず、ただひたすら、快楽を感じ ぬよう歯を食いしばった私だったが、攻撃の瞬間が訪れることはなかった。 「終わりなのは、あなたよ」 「んっっっあふうぅぅぅぅっ!!!」 『No.13 dead』 ブシャアッっと、ナイフを持った相手は股間から潮をまき散らし、果てた。その背後には、先ほどまで喘ぎ苦しんでいた“動く弾薬庫”の姿があった。 「大丈夫、か……?」 「大丈夫なわけ、ない、じゃない……それに、どう見ても、あなたの方が、つらそう」 けなげに力強く振舞っているが、膝の笑い具合は相変わらずで、息も荒く、今そのミリ タリーパンツを脱がせれば淫美に濡れた肢体を見ることができたであろう。 「助かっ、た……」 そのまま私は仰向けに倒れる。なおも例の機械が作動するが、“即死効果”に比べれば 幾分ましであろう。10秒ごとに身体が反応してしまうのは致し方ない。 「やっ、ちゃった……」 彼女もその場にへたり込む。そういえばさっき、正面切っての戦いは未経験だと言って いたはずだ。 「今まで、どうやって勝ち残ってきたんだ……」 「あなたみたいな状態のを、さくっと」 「なら私もやるか?」 「いいわ、あなたがいないと私、勝ち残れそうにない、もの。少なくとも、あと1人、なんて、この状態では、無理」 「なるほど……」 とりあえずの窮地を潜り抜けた私たちが再度歩き始めるには、さらに1分ほどの時間を費やすこととなった。 私“達”以外にあと3名。ゴールは見えてきたのだが―― 「つうっ!」 「これ、考え、ひうっ、た人、あく、しゅみ……」 「同感、だ、くっ」 45分を過ぎ、例の機械の作動間隔は、10秒から5秒へと切り替わっていたのだ。 「あ、は、ああっ」 「う、くうっ……」 一歩、一歩と歩くのと同じくして、周期的な快楽が私達をむしばんでいく。声をこらえ るのも難しく、垂れ流しのまま、それでも進んでいく。もうとっくの昔にどうにかなって しまっていたはずなのに、まだ終劇とならないのはただの偶然なのか、それとも必然なの か。一つ言えるのは、私の身体はだらしなく溶けきって、雌の匂いを全身から放っていた。 ミリタリーパンツはずぶ濡れで足にべとついて離れない。その液体のほとんどが、私自身 が生み出したもので、このままだと干からびてしまうんじゃないかとすら思ってしまう。 そういえば始まってから水分を一度も摂取していない。なのに、わき出す泉は枯れ知らず だ。 「後、残りは、どこ?」 「さあ、な」 脱落アナウンスはまだない。ということは、全員が、その刺激によがりながらも、賞金 を求めて未だ彷徨っているのだ。その眺めは好き者にはたまらないことであろう。いくら 反吐が出る行為であっても、私達はその掌の上で転がり痴態をさらけ出しているのだ。大 差あるとは言えない。 快楽を享受することが、当たり前のように思えてくる。刺激を受ける度に飛び跳ねそう な身体。遠くで聞こえるこだまのように、イキたい、イキたいと私ではない私が叫ぶ。手 を伸ばせば、その結果はすぐに得られる。そして欲望から解放され、平和なひと時に戻る ことができるのだ。ただ単純にそれをさせないのは、あの長身長髪の女に負けっぱなしな のが癪に触ること、そして沢の中で人様に無様によがり蜜壺をかき混ぜる様を見せてしま ったことに対する自分への義憤だ。あれだけ嫌だと思ってたのに、人目をはばからずに自 慰行為にふけってしまった。恥ずかしいし、情けない。 いくら後悔したって、全世界にばらまかれた映像を消しきることはできない。なら、あ の女が派手に小水をまき散らす光景を目の当たりにし、ついでに賞金を獲得するくらいし か憂さ晴らしの手段はない。 そのきっかけが、少し遠くで鳴り響く。 「爆発、音……?」 「そのようだ」 方向は、島の中心部。つまりは丘。遮蔽物も何もない、撃つか撃たれるかの戦場。 「行かなきゃ……!} 普段はめったに祈ることもないのに、今回ばかりはくだらない願いを唱えなければならない。神様、もう少しだけ我慢させて、と。 SS一覧に戻る メインページに戻る |